まだ龍ケ崎市駅が佐貫駅と呼ばれてた時に通ってた人間ですが、懐かしい。たしかにホームがやたらカーブしてました。当時は発車メロディーは普通だったけど、かわりに『マザー牧場の最寄り駅ではありません』との注意書きがあったりしましたが(マザー牧場は佐貫町駅)、今はもうないのかしら。
そして女化町。少し前にテレビで地名に関する紹介されてましたが、まさかここを舞台にした小説が出てくるとは。
女化と龍ケ崎を舞台にした、妖怪たちと主人公の交流が主な話です。女化の狐、蛇沼の蛇など、実在の伝承を下敷きにしつつ、作者の確かな筆致で描く龍ケ崎はまさにリアル。現実と虚構のモザイク模様がたまりません。
それが現れてるのが、まさに序章。
「猫は人差し指を無視できない」というサブタイトルのとおり、主人公がヒロインに猫と仲良くなる方法を伝授されるのですが、さて、その方法とはリアルに通用するのか創作なのか? まあ、もしかしたら猫好きの人には自明なことかもしれませんが、知らない人からすれば魔法のように見える。そのエピソードを、現実と虚構が入り混じるこの物語の冒頭に持ってくるという作者のセンス。文章も読みやすいので、一気読みは必至です。
さらにヒロインとの恋愛模様もいいですね。後半のとある事件を通じて、友達以上恋人未満の関係から発展していく展開は、よかったです。それまでのさりげない描写を伏線にして一気に畳みかけるラブ展開は、もうニヤニヤが止まりません。
これから最終章のようですが、二人の関係がどう転んで、どこに着地するのか。先の事件の中では二人は傍観者の立ち位置でしたが、今度は当事者として、どう展開していくのか。
実際の女化の狐の伝承が悲恋で終わっているわけで、何かしらの障害とその逆転があるのでは――と、勝手に期待して、見守りたいと思います。
突然引っ越しを決めた叔父に勧められ、叔父の住んでいた茨城県龍ヶ崎市の家に代わりに住むことになった椎葉八郎太。なかなか住みやすそうな土地でさっそく気に入った八郎太だが、地元に住んでいる女子高生の栗林夕声からとんでもないことを聞かされる。なんと彼が住むことになった龍ヶ崎市には人間に変身するあやかしが多く残っており、そこでは人間とあやかしの異類婚がごく普通に行われているというのだ! さらにこの夕声もただの人間ではなく……
あやかしが身近に住んでいる土地というのはファンタジーな設定だが、実はこれは実際の土地に紐付いた設定なのである。作中に登場する女化神社というのは実在するし、民間伝承である狐の嫁入りが「女化」という神社の名前の由来になっているという史料も実際に存在しており、一見作者の創作のような部分が現実の龍ヶ崎市としっかり関連しているのである。
また、駅で流れる独特の発車メロディや、コロッケ電車、白鳥が多く訪れる沼など、ファンタジー的な部分以外での身近な日常パートでもしっかり龍ヶ崎市の特徴がアピールされているのも心憎い。そしてあやかしたちに翻弄されつつも、徐々に龍ヶ崎市に馴染んでいく八郎太の日常描写も非常に楽しく、読んでいて実際に龍ヶ崎市に住んでみたくなる完成度の高いご当地小説だ。
(「ご当地小説特集」/文=柿崎 憲)