第4話 大漁の結果

「こんなに早く帰ってこれるとは運がよかったな」

「にゃ。ミケ様を敬いたまえにゃ」

「ああ。ありがとう」

「にゃにゃにゃにゃにゃ」


 楽しそうにじゃれ合う会話と共に二人のハンターが入ってくる。


 一人は短髪の整った顔の黒髪黒目の男性。服装は一般的なハンターだが腰に差した長剣の豪華な拵えが目を引く。もう一人は猫族の女性。美形であり可愛さとともに獣人族特有の飄々とした雰囲気を纏っていた。


 リーネはギルドの空気が一瞬固まったと感じた。しかしそれはほんの一瞬であり今はいつもの喧騒が戻っている。ぽかんとしていると黒髪の青年と猫の獣人がリーネの前へと来ていた。その青年ケイン=ハーヴィが話しかける。


「ダンジョン素材の買い取りをお願いしたい。季節クエストになっているはずなのでその報酬も併せてくれ」


「はい。かしこまりました。素材と取れたダンジョンを教えて頂けますか?それとハンター証の提示と血を一滴お願いします」


「えっとイトーカを二十匹。取れた場所は黄昏の迷宮。イトーカの鑑定はあなたにお願いしていいのかな?それとハンター証は…」


「…はい?」


 イトーカを二十匹。リーネは言われた意味が分からなかった。



 覇国の春を代表する高級魚イトーカ。ハンターズギルドもこの時期になると季節クエストとしてダンジョン産に限らずイトーカを高値で買い取る依頼を恒常的に出している。


 二か月前に職員になったリーネも対応方法について把握している。しかしギルド長からの指導で聞いた話ではイトーカは極めて数が少なくまた獲ることも困難な魚で一日三匹獲れれば素晴らしいといってよいということだった。


「イトーカを二十匹って!本当ですか?」


「ああ。このアイテムボックスに入っている」


「どういうことです?ありえません。どこかから盗んできたとか?」


「ちがうちがう。ちゃんと黄昏の迷宮で獲ってきたんだよ」


「そんな言い訳は通じません。黄昏の迷宮からの素材リストにイトーカは載っていませんから!」


 リーネは新人だが優秀である。有名なダンジョンの素材については頭に入っていた。イトーカは黄昏の迷宮のリストに入ってはいない。当然だ。あのオオカミを払いのけながらイトーカを釣ることは通常は不可能である。通常であればの話だが…。


「え?だって去年も…、そうか気を利かせてくれたのかな?別に気にしないのに…」


 そう呟く妙に納得顔のケイン。


『ハンターが新たに発見または獲得した事物に関して、これが公共の極めて重要な利益に当たらない場合、ギルドはその情報を公開しない』


 ハンターズギルドルールに載っている文言の一つである。要は『ハンターが新たに発見したものであってもギルドが重要と思わなければ公開はされない(そして発見したハンター個人の利益になるのは構わない)』ということだ。


 去年同じ場所でイトーカを釣ったことをケインはシェリーに報告し季節クエストの報酬を得ている。黄昏の迷宮の第二層でイトーカが獲れたことは新発見であったがシェリーは第二層の難易度、イトーカが嗜好品と考えられること、黄昏の迷宮の第三層以下の素材からの利益がイトーカよりも大きいことを総合して公共の重要性とはなり得ないと判断しイトーカを黄昏の迷宮の素材リストに挙げなかったのである。


 しかしそんなことは全く知らないリーネは詰め寄る。


「何を訳の分からないことを言っているのですか。犯罪がらみの素材は引き取り出来ません。騎士団に通報しますのでハンター証を出してください。それと抵抗はしないように。罪が重くなりますよ」


「待って待ってどうしてそうなる?っていうか見ない顔だね。新人さん?」


「リーネです。新人というか二か月前に入ったばかりですけど今は関係ありません」


「おお。ということは優秀だね。でも話を整理しないと…、シェリーはいるかな?対応をお願いしたいんだけど…」


「言うに事欠いてシェリー先輩を呼ぶなんて!先輩は関係ありません私が通報します!!」


 徐々にヒートアップするリーネ。ケインも通報すると言われて些か困惑する。それと同時に優秀だけど職務に頑ななタイプかなと思ったりもしている。


 割と余裕があるケインだった。ミケは黙ったままケインの隣でニヤニヤしている。


「いいから早くハンター証を…、む、む、むーーーーーー!!」


 そう詰め寄ろうとするリーネの口が背後からにゅっと伸びてきた美しい白い手によって塞がれるのだった。

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(新版)覇王の息子は無敵の剣を携えるが日常も楽しむ 酒と食 @winter0_0winter

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