第3話 ギルド職員の憂鬱
ここは覇国の王都。覇国最大の都市にして中心都市である。覇王を頂く王城を中心に外周が百キロメルトと言われる広大な土地に様々な種族が暮らしている。
王都の入り口から程近い場所に建てられた重厚なつくりの建物がここ王都のハンターズギルド支部である。ちなみに本部は別の国に存在している。いずれ本部もこの物語に絡んでくるだろうが今はまだその時ではないようだ。
この世界においてダンジョン等の未踏の地への挑戦やクエストと呼ばれる様々な依頼をこなすことを生業とする者のことをハンターと呼ぶ。
強大な力を持つものも多くかつての無秩序な状態では無法を働く者も多かった。そのためおよそ百年前、当時最強と謳われたハンターが有無を言わせずハンターズギルドなるものを立ち上げた。ハンターへの依頼を管理し時の権力者達とも繋がることで、ハンターの無法を制限しかつ収入の安定を図ることが目的だったと伝わっている。
全てのハンターはハンターズギルドに所属している。無所属の自称ハンターもいるが例外なく裏の仕事を行う犯罪者だった。しかし無法を制限すると言ってはいるが人間の本質は今も昔もあまりかわらない。
『ハンターなんて無法者の集まりさ』
そういった言葉は今でも時々聞こえてくる。荒くれ者が多いことは否定することができない事実であった。
「はぁー」
昼下がりの午後、そんな荒くれ者のパーティからのしつこいナンパを躱しながらクエスト達成の報告を処理し終わった受付係の新人リーネはため息を漏らした。リーネは二ヵ月前からギルドで働き始めたばかり。王都の王立学院を優秀な成績で卒業したリーネは就職先として迷わずハンターズギルドの事務員を志望した。
ハンターズギルドの職員は事務系の就職先としては高い人気を誇っている。
なんと言ってもまず給料がいい。ハンターのクエスト受託の代行業やダンジョンから得られる素材の販売管理を一手に引き受けることで非常に高い収益を得ているからこそ可能な処遇である。そしてこの世界で暮らす人々がダンジョンから得られる素材の恩恵に与っている状態を考えるとハンターズギルドがなくなることは考えられない。つまりは非常に高給で安定した職業ということになる。性別、種族に限らず人気があり結婚相手としても最高などとも言われている。さらに受付職は高名なハンターから信頼され専属担当にでもなればかなりの個人手当が付くため特に人気があった。
そんな職を手に入れたリーナはまさに期待に胸を膨らませた状態で働き始めた。たまたま新人研修の終了時期と受付職に欠員が出たことが重なった際、新たな試みとして受付を新人にやらせてみようという話があり研修結果が優秀だったリーナが選ばれたのだ。当時の彼女は歓喜した。
当時は…、だが…。
「どーしてこんなにアクの強いやらしい人ばっかりなの?」
リーナは少々きつめの美人といった容姿をしている。ハンターたちが美人の新人を見逃すはずがない。ナンパやお触りは当たり前だ。新人のリーナが担当するのは典型的と形容されるようなハンターだ。荒くれ者のスケベな無法を躱すことばかりしている気がする。
自分も有名なハンターに次のクエストを紹介するような対応がしたいがこればっかりはまだ先の話だった。隣の受付を見てみると先輩たちは見事なまでに相手の無法を軽やかに躱して対応している。これが現実だった。
休憩室に来てもやっぱりため息が出てしまう。
「はあ。どこかに優しくてスマートなハンターっていないものかしら」
独り言である。最近多くなったと自覚している。
「大丈夫?リーネちゃん?」
おもいっきり聞かれたらしい。驚くほど美しい女性が声をかける。ダークブラウンの髪を高い位置でまとめ瞳には優しさを讃えていた。スタイルも抜群だ。
「うう…。先輩。今の言葉は忘れてください」
真っ赤になって弁明する。声をかけたのは休憩室にやってきたシェリー。とても優秀な受付と評判だ。何人もの有名なハンターから専属依頼を受けている。しかしどういう訳か、どのハンターの専属担当にもなっていなかった。さらにその人柄と美貌ゆえに王都における理想の結婚相手ランキングでは間違いなく先頭集団に位置している人物だ。
王都の独身…、かどうかは関係なく多くのハンターと貴族や有力者の跡継ぎたちの半分は彼女を追いかけているとまで言われている。誰が彼女をものにするのかは王都における未解決問題とされていた。
「そうだ。リーナちゃんはまだ会っていないけどそういうハンターさんもいるよ」
「えっ!本当ですか?優しくてスマートでハンサムで独身のハンターさん!」
「なんか二つくらい増えてるけど…。うん、そんな人。ほら今日って『黄昏の迷宮』の解禁日じゃない」
「ええ。私のところにもダンジョンマップを売ってほしいってハンターさんが何人か来ました」
「ここ最近は姿が見えなかったけど解禁日だから今日はきっと来ると思うわ」
「優しくて(あと略)のハンターさんですか?」
そのときギルドのドアが開いた。
「こんなに早く帰ってこれるとは運がよかったな」
「にゃ。ミケ様を敬いたまえにゃ」
二つの陽気な声がギルドのホールに響いた。
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