（新版）覇王の息子は無敵の剣を携えるが日常も楽しむ

第2話 大漁！

　ミケは釣りを継続しつつも釣ったイトーカにナイフを使い鮮やかな手並みで捌き内臓を取り出してアイテムボックスに次々と入れていく。

　ケインが斬り払っているウインドウルフは斃すと魔石や宝石といったドロップアイテムに変化するのだが、イトーカはドロップアイテムにはならない。通常、魔物を斃した場合には『解体』という作業が発生する。一方、ダンジョンで斃された魔物はドロップアイテムになる場合が大半だがイトーカのようにそのまま手に入る場合がある。これについては諸説あるが詳しいことは分かっていない。

　そしてこれが食料になる魔物の場合、外のものより格段に味が良い。ダンジョン産のイトーカは特に味がよいことで人気があった。

　イトーカは釣った直後に素早く魔力の強い内臓を取り出すことが鮮度を保つのに必要であるためミケは素早く対応する。その後の保存についても問題ない。ケインが持参したアイテムボックスは時間経過無効の効果が付与されている。これは当然のごとく魚の運搬などに使用していいような代物ではない。しかし釣りが好きでイトーカ料理も好物なケインにとってそんなことは些細な問題に過ぎない。

「ミケ。何匹釣れた？」

「六十匹くらいかにゃー」

　そう聞いてケインは考える。ララに五匹。これは絶対だ。今日の仕事すべてを彼女に押し付けてきた。激怒しているだろうあの魔術師を鎮めることができるのは美味しい食べ物のみだとケインは心得ている。

　両親含め城の皆にも食べてほしい。四十匹もあれば全員楽しむことができるだろう。その他に屋敷の者たちに十匹。自分に五匹。ミケも家族の分十五匹はほしいと言っていた。ギルドの季節クエストで二十匹を納品するとして、それに加えてあれやこれやで百匹あれば大丈夫との結論に達する。

「百匹を目標にしよう。釣りと解体は任せる。今日のおれはウインドウルフ担当だ！」

「了解だにゃ！」

　結果として百匹のイトーカと斃しまくったウインドウルフのドロップ品である魔石と宝石を合わせて五百個程をゲット。

　イトーカは数が少なくなっていることから一日三匹程度の入手が限界と言われている。それを百匹。通常では考えられない釣果であると言えた。

「ミケさんの実力をみたかなのにゃ！尊敬するのにゃ！今宵の闇を恐れることなく、明日の朝日を拝めるのはミケさんのおかげなのにゃー」

「おみそれしました。さすがはミケさん！！」

「にゃはー」

　などと掛け合いをしながらアイテムボックスに放り込んでウインドウルフを斃しながら地上へともどろうとする。

　途中、魔物に襲われてパニックになっているハンターパーティを助けた。聞けば初めてこの迷宮に潜ったＢ級ハンター達でウインドウルフがこれほどまでに大量にいるとは思っていなかったらしい。

「回復用ポーションがあってよかった。ミケに言われなかったら持ってこなかった」

「にゃー。斥候とは常に最悪を考えるにゃ。ミケはいつも正しいのにゃ」

「それに関しては信頼している。頼りにしているよ」

　ケインはミケの頭をなでる。ミケは嬉しそうだ。しっぽがピンと伸びている。

「にゃにゃにゃ」

　ウインドウルフの群れを事も無げに駆逐し楽しいやりとりを続けている二人組を見ながら助けられたハンターたちは放心状態だ。

「ポーション代に関してだけど、斃した魔物の魔石と宝石で代えておくよ。それでいいかい？」

「は、はい。危ないところをありがとうございました」

　Ｂ級ハンターパーティのリーダーらしき男が答える。

「ハンターのクエストはギルドが受けられるランクを設定するけどダンジョン探索は自己責任だからな。この階層はやっぱり難しいかもしれない」

「ちょっと厳しすぎるかもなのにゃー」

　ほのぼのとした会話をする二人を見てリーダーをしているらしい男は思わず尋ねた。

「お二人は何者なのですか？あの数のウインドウルフをあっさり斃して…、もしかしてＳ級ハンターとか？」

　言ってしまってからはっとする。暗黙のルールとしてハンター間の個人的な詮索は無用というものがあるのだ。ちなみにＳ級ハンターと言えばこの大陸でも数人しかいないと言われ、それぞれが怪物と言われるほどの存在とされている。

「いやいや、おれたちはＢ級ハンターだよ」

「にゃー」

　余裕のケインとミケを前にＢ級ハンターのパーティは言葉を失っていた。そんな助けたパーティと分かれたケインとミケは地上を目指す。

「うーん。やっぱりお日様は最高にゃ」

「ああ。気持ちいいね…」

　地上に戻り春の日差しを一身に浴びてミケが気持ちよさそうに伸びーっとしている。すらりとした肢体が美しい。耳がピコピコ動いている。気持ちよさそうだ。まだ正午といったところだ。早朝から来た甲斐があったというものである。

「これなら早く帰れるな」

「にゃ！」

　百匹のイトーカと大量の魔石と宝石を入手した二人のハンターは帰路に着くのであった。