ヤンデレな彼女って聞いてない!
^_^たなはわたは
第1話
突然だが、俺こと坂上輝には好きな人がいる。だが、高校に入学してまだ3ヶ月しか経っていないがその想いに関してはほとんど諦めに近い感情を抱いている。何故なら、その好きな人は清麗高校1学年で学年の二大美姫の一人、白鷺凪沙だからだ。肩で切り揃えられたダークブラウンの髪は綺麗に梳かされ、勉強も出来、スポーツも出来る。親切な性格が人気で、今日も今日とて陽キャに囲まれて談笑している。とても俺みたいなクラスの置物的な人が釣り合うはずもない。実際、話す頻度は事務的な内容を除けば週に一回話すか話さないかというところなので恋愛感情に気づかれることすらなく高校生活が終わってしまいそうだ。
なんてことを思っていると、
「機嫌悪そうだけどどしたの?」誰かに話しかけられた。
誰が話しかけてきたのか声のした方向を向くまでもなく分かるので
「うっせ、睡眠不足なだけだ」と返す。
話しかけてきたのは、親友と言うより悪友の川崎隼斗だ。こいつは運動が出来、勉強していないが地頭もいいし、性格もいいヤツだ。彼女持ちのリア充という点を除けば
「今度は、何だ?アニメ?ゲーム?それともあれか。彼女でも出来たか?あっそれはないか」訂正、性格はそんなに良くないようだ。
そんなことを話していると、
キーンコーンカーンコーン
「ホームルームを始めるぞー 全員いるなー」担任兼数学科の市村先生が入ってきて出欠を取り始める。
「テスト1週間前だから職員室は立ち入り禁止だからなー」
クラスで悲鳴が上がる。主に隼人と隼人と隼人のものだが、
「えっ、対策しているよな?ということで、先生もテスト作るんだが、激ムズと激ムズと激ムズどれがいい?いや〜対策してると思うから激ムズにしても大丈夫だよなぁ〜川崎〜」と言いながら隼人の方を見る。
隼人の首筋から汗がツゥ〜と落ちていく。
「げ、げ、激ムズは〜ヤバいと思いますよ〜。お、俺は大丈夫ですけど他のみんなが困るじゃないですか〜」
「そうかーみんなは大丈夫だと思うから激ムズにしてやろう」
ノゥッ
再びクラスで悲鳴が上がる主に隼人とはや(以下略)
その後、隼人がクラス中の人から睨まれるということはあったが、その後は1時間めの古典に始まり化学、物理、英語表現といつもの様に授業を受け、昼休み弁当を食べていると
「今回のテスト俺の一番点数の良かった科目とお前の一番悪かった科目で勝負しようぜ‼︎負けたら勝った人の言うことを一つ聞くっていうことで」
なんか勝負を挑まれた。
「お前勉強できたっけ?」そう言いながら、いや、無謀すぎないか⁈と心の中で叫ぶ。自分で言うのもなんだが勉強は真面目にしているし、高校入学後に受けたテストも全て上位に食い込んでいる。対して隼人は良くて中の下悪いと下の上くらいの順位で特にこれといった出来る教科もない。
だから今回も勝てると話をよく聞かず軽く考えていた。
そして、
「テストを返すぞー今回の平均は53点。もう少し取れると思うぞー」数学のテストが返却される。
83点 一番の不安要素がこれなら問題ないだろう。
案の定、休み時間に隼人に点数を聞くと43点だったわ〜という実に軽い返事が返ってきた。どうして勝負しようと思ったのか分からんと聞くと、
「まぁ、後で分かる」となんともイラッとさせる笑顔を向けてきたので取り敢えず軽く叩く。そんなことをしていると、
「はーくん。お昼一緒に食べるって約束してたでしょー」と隼人の彼女である千紗が来た。
「おぉ〜悪いーいゃぁ〜輝から熱烈なラブコールを受けてて」
「おい、勝手なことを言うな。千紗も彼氏になんか言ってやれ」
「えっ?あきくん?私の彼氏を奪おうって言うの⁇ゆるさないよ?! シュシュッ はーくんは渡さないんだからぁ‼︎」千紗がシャドーボクシングを始める。俺の話は聞いてくれないらしい。何故だ‥‥‥解せぬ
「ごめんなぁ輝、気持ちは嬉しいが俺が好きなのは千紗だけだから」イラッ
「はーくん…」
スパーン
「あ痛ぇ」
「夫婦漫才はよそでやれ。なぜ俺までクラス中の男子から親の仇をみるような目で見られなきゃならない」
取り敢えず隼人の頭を叩く。ほんと隼人はいいヤツなんだがなぁ。彼女と一緒にいると所構わずイチャイチし、非リア男子にとっては辛い桃色空間を創り出す。
「ほら、早く行かないと食べる時間なくなるよ」
こうして、非リアの敵、リア充隼人は連れ去られていった。その後、彼の姿を見たものはいない‥‥‥第二章消えた隼人を探せ‼︎に続く!‥‥‥訳ではなかった。
「あっぶねぇー 弁当忘れてた」
「もぅまったくはーくんはドジなんだからぁ」
「お前らさっさと逝けよ‼︎」若干字が違うが、クラスのほぼ全員が同じことを思っているはずだ。実際クラスメイトの大林と斎藤なんかは目が血走り、さっきから入念に指をバキバキとやっている。このクラスでイチャイチャするのは命懸けらしい。
なんやかんやで午後の授業も消化し放課後、テストはまだ全て帰ってきた訳ではないので勝負の結果はわからないが一応隼人に一番点数の良かった教科を聞くと、英表で68点と帰ってきた。確かにいつもの隼人に比べれば、かなり良い点数であるが、これで勝てると思われたのだったらそれもそれで腹が立つなんて思いつつ、
「ところで何故急に勝負を挑んできたんだ?」気になっていたので聞いてみると、
「フッまだいうべき時ではない」といつかも聞いたような返事が返ってくる。本当後でっていつだよ!
「それよりテスト終わったしどっか行こうぜ‼︎」
家に帰っても暇なので取り敢えず頷くと、「あぁ、ちなみに千紗も参加するからよろしく‼︎」
「で、どこ行くんだ?」取り敢えず二人の桃色空間に一人で乗り込むという現実から逃避行するために聞いてみると、
「カラオケ?」疑問形のようだ
「いや、なんで疑問形なんだよ!」
「いゃぁ、千紗が行きたいって言ってたから」このリア充め、取り敢えず軽く叩こうかと思っていると、
「はーくんお待たせ〜、あっくんも早く行こ?」千紗がやってきた。因みにあっくんというのはどうも俺のことらしい。
カラオケ店に着くと千紗が2時間を選択する。ものすごい手慣れている。指定された部屋に入ると早速、千紗が曲を選んでいた。歌い始めたのは夕焼けの中に吸い込まれて消えていくボカロだ。これまた歌い慣れている感がありかなり上手い。
それを聞きながら自分も何か歌って見ようかと曲を選ぼうとして、カラオケで歌えるような持ち歌がないことに気づいて愕然とする。少し悩んで、気に入っているボカロに挑戦するも、
リズム感がないためズレまくり、サビの音程が出ない、歌詞を噛んでしまう。と、スリーアウトで力尽きた。
「ドンマイ」隼人が肩をポンポン叩きながらなんか言っているが取り敢えず無視する。
「キー下げれば?」千紗が言ってくるが、ところでキーってなんだというようなことを言うと愕然とされた。キーを下げてもう一度歌うが、思い出したくないほど散々な結果になった。隼人が揶揄ってくるが無視する。結局多少音程が外れても大丈夫そうな曲をみんなで歌ったりしているとあっという間に2時間経ってしまった。プリクラを撮りたいという千紗の希望に従い近くのゲームセンターに寄るが、
「いやいやいや、おかしいだろ!なんで俺と隼人のプリクラなんだよ⁈」1度3人で撮った後、何故か野郎2人で取ることになってしまった。そんなことをしていると、
「あれ?なぎなぎ?」
「あら?偶然ですね千紗さんはここで何を?」どうやら白鷺さんがきていたようだ。
ここで野郎2人でプリクラを撮っているところを見られるわけにはいかな‥‥
「はーくんとあきくんのプリクラを撮ってるの〜」千紗ぇぇぇ‼︎何思いっきりばらしてくれちゃってんだよー‼︎
頼む!白鷺さん聞き流してくれ!
「隼人さんと輝さんのプリクラ‥‥‥‥面白そうですね、見せてもらっても良いですか?」 救いは無かった。
「俺もかなり恥ずいから」今の今まで空気になっていた隼人が急に何かを悟ったような穏やかな表情で語りかけてくる。が、俺の肩を掴んだてからは絶対に逃がさない、お前も一緒だ、という雰囲気が伝わってくる。
「あきくんが女装に失敗した人みたいになってるー」千紗がそう言って笑うと
「これは、うふふふ‥‥」白鷺さんも笑う。くっ、殺せぇー 誰か一、一思いにやってくれぇー
そうしてなんやかんやあったが、帰路につく。
そして翌日、
「いや〜何してもらおっかなー?」俺は隼人の前に跪いていた。そう。あろうことか勝負に負けたのだ。まさか隼人が90点台を取るとは‥‥勉強したんだなぁ‥‥悔しいが負けだ。
「ねぇねぇ、どんな気持ち?負けないって思っていた相手に負けたのは?ねぇねぇ?」 ウザっ
危なかった。思わず言葉に出てしまうところだった。
「いや、急にそう言われると流石の俺でも傷つくからな⁈」どうやら少し本音が漏れていたようだ。
隼人はおもむろにスマホを見、とても良い笑顔で
「今週の土曜日10時にボーリング場前な」とのたまってきた。
嫌な予感はするが、これは罰ゲームなので分かったと頷く。
そして当日、俺は集合後5分以内にしてすでに嫌な予感の正体と対面していた。
「難しいしてどしたのー?」野生の千紗が現れたのだ。なんと隼人の奴は千紗も誘っていたらしい。
「ほら、さっさと行こうぜ」
イチャイチャされる前に行動すべく話しかけると、
「ちょっと待ってー、今もう1人来るから」
という驚愕の事実が明かされた。尤も、もう1人くらいいた方がバカップル供がイチャイチャしたときに楽だが、なんて思っていた時期が俺にもありました 。
「すみません、少し遅くなりました」
「うんん、みんな今来たところだから」
野生の千紗は仲間を呼んだ。白鷺さんが現れた。ってウソだと言ってよ⁈
「えっと、隼人さんと輝くんもいたんですね」少し困惑した表情で言ってくる。どうやら白鷺さんもリア充供に嵌められたらしい。
「良かったな。これで俺と千紗がイチャイチャしても大丈夫だな」隼人がなんか言ってる。
「早く行こー!ボーリングが逃げていくー‼︎」ボーリング場に着く前に千紗がテンションが壊れた。
そんなわけでボーリング場に移動し、靴を借りボールを選ぶ。俺は自分で言うのもなんだが持久力ゼロなので少し軽いと思えるくらいの重さを選択する。
最初は千紗の番なので見に徹する。綺麗なフォームで投げられたボールは、少し右に寄りすぎて後少しでガーターに落ちるというところで大きくカーブし右端のピン1つを残して全て倒した。ニ投目を投げるも今度は曲がる前にガーターに落ちてしまった。
「う〜ん」本人は少し不満に首を傾げる。次に隼人が投げる。ボールのスピードが千紗のボールより明らかに速い。が、コントロールが悪く右側のピンを3つ倒すだけにとどまる。
ニ投目はヘッドピンに当たり、残りのピンを全て倒した。
「やりぃ」隼人がハイタッチを求めてくるので応じる。
ここで俺の番だ。ボーリングは中学以来だ。できるだけ力まないように意識して投げる。が、
「あっ」投げ終わるタイミングで手首を捻るようにして投げてしまった為、レーンの半分よりも手前でガーターに落ちる。
「下手でー」後ろからスペア(隼人)のヤジが飛んでくる。
ニ投目は手首を下手に動かさないように全集中するが、ピンの手前でまたもやガーターへ
「投げる時に体が斜め向いてますよ。」そう声をかけられる。一瞬誰かと思ったが白鷺さんがいつの間にか横にいた。
「後でさっき撮っておいた動画見せてあげますよ」ん?動画を撮られていた?
カラァン
音がした方向を見ると白鷺さんがストライクを取ったところだった。ハイタッチを求めてくるので応じる。そのまま流れるような動作でスマホを取り出し、俺の投げるシーンの動画を見せてくる。客観的に見ると体が斜めに向いてしまっていた。これがイップスなのか。と言ってみたら他の3人全員に「それはない」と否定された。解せぬ
そして7巡目にして初めてストライクが出た。もっとも一回目のゲームは3位の千紗に40点も差をつけられると言う屈辱的な負け方をしてしまったが。
そんなに点差がついたのは3人が強いのではなく輝が50点台だったからであるが‥‥そのままの流れで2ゲーム目に入る。
隼人は5回目を投げて5回ともピンを9本倒すにとどまりストライクはおろかスペアすら出ず、首を傾げている一方、俺は何故か白鷺さんが撮っていた俺の投げるシーンの動画を見せてもらい、さらにアドバイスを貰いここまでスペアが2回出ている。白鷺さんはすでにストライク2回スペア一回出しているが。
そのままゲームは進み、俺は隼人に勝って3位になった。
3ゲームに入る前に隼人が勝った人に負けた人が従うというルールの一対一の勝負を仕掛けてきた。
「いいのか?また、さっきのように勝つぞ?」少し煽ってみるがものすごいニコニコしていて挑発に乗ってこない。そんなことをしていると、
「はーくん早く投げてー」どうやら隼人に順番がまわってきたようだ。
「ここでストライク取るから」隼人がガーター直行のフラグを立てる。はたして‥‥
カラァン
「うおっ、マジか」フラグをへし折りやがった。もっとも、1番驚いているのがフラグをへし折った隼人本人なのはどうかと思うが、(隼人さんまじカッケー)こう思うのは仕方ないと思う。
「俺もストライク取るから」宣言する。そして‥‥
「ガーターじゃねーか」フラグをきっちり回収しました。まるで吸い込まれるかの様にガーターに落ちていった。気を取り直して二投目を投げ、どうにか6本倒す。
結局勝負に負けた。スタミナが切れたのとスペアやストライクを取ったあとにガーターが多いのが敗因だった。そのままボーリング場に隣接しているゲームセンターに行くと
「2人きりで楽しんでこい」唐突に隼人が耳打ちしてくる。
「はぁ?」思わず素っ頓狂な声が出る。
「勝者の命令だ♪」今日1番の非常に良い笑顔が返ってくる。無性にイラッときたが我慢する。敗者だから仕方がない。ラッキーなんて思っていないったら思っていないのだ。
「どうしてこんな唐突に?」気になったので声が弾まない様に気をつけながら聞いてみると、
「いやぁ〜先駆者として煽りじゃなくて応援したいんだよ。隼人お前白鷺さんの事好きなんだろ?」煽るって言いかけているっていうか
「お、俺が白鷺さんのことが好き?な、な、なのこと言っているかわかららないなぁ〜」
「お前動揺しすぎ。いつだか言ってただろうが。千紗も知ってたぞ。だから今日千紗が白鷺さんを誘ったんだし。まぁ、それよりも早く逝け。応援はしてるし骨は拾ってやる」
「俺と白鷺さんなんて釣り合うはずが無いだろ」
「健闘を祈る」
「いや、何と戦えと?」
「ナンパ?」そういうと隼人は俺が何かをいう前に
「少し2人で、ブラついてくるわ」と千紗を連れて行ってしまった。千紗も隼人の意図がわかっていたのか連れていかれる時に頑張れとでも言うかのようにウインクしていた。
「2人でまわりますか」声を掛ける。
「そうですね」
「そうしますか」
「ところで、そんなにかしこまらなくても‥‥凪沙って呼んでいただいても構いませんよ?」
「白鷺さん」
「凪沙」
「凪沙‥さん」
「な・ぎ・さ」
「な、凪沙」
なんていうやりとりをしつつ2人でゲームセンターを回るが、
(これはキツい)2人と別行動になってから少ししか立っていないのに輝は死にそうになっていた。というのも凪沙に話しかけようと思ってもなかなか声をかけらず、ぼーっと彼女の方を眺め、それに気づいた凪沙がこっちを見るため、慌てて目を逸らす。と言うことを繰り返していたからだ。
「あの、どうしましたか?楽しくないですか?」顔を上げると凪沙が心配そうなどこか申し訳なさそうな表情をしていた。
「いや、少し考え事」心配させてしまったことを申し訳ないと思いながら答える。
「少し話しませんか?」そこから実に多くのことを話した。隼人との勝負に負けて今日来ることになったこと。凪沙の方も千紗と15点のハンデをつけて輝たちとおなじ勝負をし、負け、誘われたこと。そのほかにも、休日何をしているか、どんな勉強方法をしているか、交友関係、終いには何故か彼女がいるかなど意味のわからない質問が出てきて、どうしてゲームセンターでこんな話をしているのかわからなくなってきたところで大きなぬいぐるみを抱えた千紗と、少し疲れた様子の隼人が戻ってきた。凪沙はそのタイミングで話を切り上げるとすかさず
「プリクラ取っていきませんか?」と提案する。
というわけでプリクラを撮って解散となった。
そうして週明けの月曜日の昼休み、今日は隼人は千紗と輝の机の近くに陣取り昼食をとっていた。
「お前らイチャイチャはするなよ」イチャイチャされクラスの男子にヤバイ目で睨まれるという災難に遭う前に釘を刺す。
「はーい。ま、はーくん次第だけど」
「へーい。まぁ、千紗がなんかしなければだけどな」釘は刺さらなかったようだ。
そこに、さらに
「ご一緒しても良いですか?」なんか1人増えた⁈凪沙が乱入してきた。男子生徒からの視線が痛い。どうやら男子の怨嗟の視線には物理的な攻撃力があるらしい。何人か目が血走っている奴もいる。さっきからヤるぞ〜ヤッちゃうぞ〜血祭りだぁぁという声が聞こえているのは気のせいだろう。だから大林とかが指をバキバキ鳴らしているのも気のせいだと言ったら気のせいなのだ。
その日の放課後には、グラウンドを全力疾走し、逃げる人が1人、鬼が多数の変則鬼ごっこする男子が目撃されたとか。
それから2週間、たびたび変則鬼ごっこが開催されるだけで平和?な日常が続いていた。凪沙が輝たちと一緒に昼食を取るのはもはや日常になり、今日も今日とて1部の男子に睨まれながら凪沙や隼人たちと昼食を取っていると
「明日学校が午前で終わるのでみんなで何処か行きませんか?」凪沙に遊びに誘われた。
「オッケー」と答えて、千紗たちの方を見ると、
「その日は、はーくんと放課後デート♪」千紗たちはデートに行くようだ。
「なぁ、やっぱ今度に‥‥」凪沙に今度にしようと言おうとするとものすごいシュンとし始めたので慌てて言葉を変える。
「今度みんなで行くことにして明日は2人で行きます?」
「そうしましょう」隼人や千紗が視界の隅でニヤニヤしていてかなりイラッとするがこれで良い筈だ。
午後の授業も終わり帰ろうとしたところで
「輝く〜ん、ちょっとOHANASHIしようか〜」甘ったるい声だがどこか不吉さを感じさせる声が聞こえてくる。と同時に背後からガッと肩を掴まれる。振り返ると大林と斎藤とその他男子数名が実に良い笑顔で立っていた。
「えっ?何?どうした?」取り敢えず聞いてみる。男子たちのこめかみにビキィと青筋が入る。
「被告人を緊急逮捕。男子裁判開廷!弁護人はなしでいいな?」大林が叫ぶ。えっ?どゆこと?混乱していると
「男子諸君、guilty? or not guilty?」斎藤が妙に発音良く叫ぶ。当然、無罪を主張しようとして、
「ノットギル‥‥アデッ」
いい終わる前に大林にもう片方の肩もガッされ、舌を思いっきり噛む。その隙に
「ギルティ‼︎」その場にいた男子が判決を叫ぶ。味方はいなかったようだ。だが、ここは冷静に話せば分かるはず。‥わか‥るよな?わかってくれるといいな?
「さぁ輝くん明日誰と何をするのかOHANASHIしてもら‥‥‥」取り敢えず身の危険を感じたので大林の手を払って逃げる。その日も、元気良く走る(1人死にそうな顔をして先頭を走っていたが)男子が目撃されたとか‥‥
翌日、3時間目が終わり休み時間に
「お前もしかして緊張してる?あっそうか〜隼人もウブですなぁ〜」隼人が余計なことを話してきた。と言っても隼人が言っていることは事実だ。実際、輝自身昨日その場のノリで凪沙と2人っきりで遊びに行くと返事をしたが、家に帰ってからかなり大胆なことをしたと気づき、1人ベッドの上で枕を抱え転げ回り、(ちなみにその後ベッドから転げ落ち背中を打った)寝ようと思ってもなかなか寝付けなかったのだ。それは置いといて俺は隼人には言っておきたいことがあった。
「隼人、話したいことがある。真剣な話だ」俺は切り出す。
「んっ?どうした?」隼人は普段はふざけまくっているがこういうときは真面目に聞いてくれる。
「俺、凪沙のことが好きだ。今日凪沙に告る。」
「あんなにヘタレだった輝が‥‥ついに告るのか‥‥‥長かった‥‥‥頑張れ‼︎万一ダメだったときは焼き肉奢ってやるし、愚痴も聞いてやる。」前半は意味の分からないことを言っていたが、隼人が無駄にかっこいい。だが、これでもう逃げ道は無い。
そして放課後、俺は気合いを入れて髪型をオールバックにする‥‥ことは流石になかった。
「では、行きましょう」凪沙に促されて出発しようと思ったがどこに行くか話し合っていないことに気がついた。
「ところでどこに行きます?」個人的には音痴だということは隠しておきたいのでカラオケは避けたいところだが、
「ボーリングはこの前行きましたし、カラオケにしませんか?」と言われてしまうと、なんとなく断りづらく、諦めてカラオケに行くことにする。
結論から言うと凪沙はカラオケも上手かった。上手かったので、輝自身は歌わず聞きに徹していたら、
「輝さんもなんか歌いませんか?」と電目を差し出しながら言ってきたので、諦めて歌うことにする。あまり下手さが目立たない様な曲を選び歌い、音痴だとバレなかったことにひとまずホッとしていると、
「この曲一緒に歌いませんか?」再度電目が差し出される。見ると有名なデュエット曲の曲名が表示されていた。知っている曲だが、歌える気がしない。しかも確実に音痴ということがバレてしまう。だけど、とても歌いたそうな顔を見てそれでも断ると言うことはできなかった。
結果、「と、とととてもオリジナリティあふれる歌でしたね。」凪沙のフォローが刺さる。オブラートに包まれている分かえってキツく感じる。
「昔からリズムを取るのが苦手なんですよ。スキップだって小学5年生になって練習しないと出来なかったほどに。」
「練習、してみます?」
ということで、告ろうと決めて来たのに、音痴が発覚し、さらに練習に付き添ってもらうことになり、もう心がバッキバキに折れそうだったが、その甲斐もあって
「かなりリズムが取れる様になりましたね」
最初はメトロノームの裏拍すら取れなかったが、単調なリズムなら掴める様になった。
そして、カラオケからの帰り道、
「凪沙さん。お、俺、貴方が好きです。付き合ってください。」思いっきり噛んだ。返事は 3秒‥‥5秒‥‥何秒、いや、何分経った?時間が経つのが遅く感じられる。心臓はバクバクと緊張していることを露骨に主張し、無性に暑く感じる。
そして、「こちらこそ宜しくお願いします」
彼女はそういうと、俺の手をとる。
付き合ってから一ヵ月後、特にこれといって何もない‥‥ということはなかった。
「あきくんは先に部屋で待っていてくださいね。2階の突き当たりの部屋です。女の子の部屋を漁ったりしたらダメですからね?」そう、凪沙の呼び方が輝さんからあきくんになったのだ。
「さすがに、漁らないですよ‥‥漁らないって⁈だからそんな目で見ない」ちなみに俺も、再三タメ口にするよう求められ、敬語を使わないことにした。
言われた通り入った凪沙の部屋はセンスよく家具が配置されていてしかも綺麗に片付いていた。今日初めて凪沙の部屋に入ったが、
「落ち着かない」ソワソワしてとてもじっとしていることなど出来ず、部屋の中を行ったり来たりした。いや、してしまった。
「痛っ」本棚の角に足の小指を当てるというベタなことをしてしまう。しかも、その拍子に
ドサドサドサッノートが5,6冊落ちてきてこれまた足に直撃する。思わずしゃがみ込むと、ノートに紛れて紙が落ちていた。恐らくノートに挟んでいたのが今ので落ちたのだろうと思って拾って見てみると、
「えっ?これ俺じゃん」俺がボッチで昼食をとっている時の写真だった。しかも写真は付き合う前というか本格的に話し始めたりする前、入学して2、3ヶ月しか経っていない時のものだったりする。一応念のため、まさかとは思うが、とノートの中身も確認する、というか、坂上くんノートvol.5と表紙に書いてある時点で予想がついていなくもないが‥‥
「うぼわぁ」変な声が出たのも仕方ないだろう何故なら、そこには俺の1日活動記録が事細かに記録されていた。流石に家に帰ってからのことは書いていないが、学校にいる間のことはどこで知ったのか問い詰めたくなるくらい細かく、例えば隼人との会話の内容、休み時間にどこにいたのかまで書いてあった。そして極め付けは付き合い始めた日付けが書いていた次のページを捲ると、
愛しい彼氏 坂上くん 坂上輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん 輝くん あきらくん あきらくん あきらくん あきらくん あきらくん あきらく‥‥‥‥‥‥以後ノートの終わりまで続く。vol.5のノートの半分以上がこの名前練習みたいな名状し難いナニカで埋まっていた。
「ヒィィィ」思わず声が漏れる。ここにきて重大な発見をしてしまった。俺の彼女、白鷺 凪沙は少し、否、かなりのヤンデレかもしれん。そういえば好奇心は猫をも殺すという諺があったなぁあれはイギリスの諺が元になったんだっけか、なんて現実から逃避行していると、
「変な声が聞こえてきたけど大丈夫ですか?」その声とともに下手人が現れた。あわわわわ、アキラは混乱した。アキラは逃げようとした。しかし、回り込まれた‼︎もっとも凪沙は扉の所に立っているため回り込まれたも何もないが。
「ノートを見てしまいましたか」どうやら賢い俺の彼女は一目で状況を悟った様だ。
「以前私と釣り合うはずがないとおっしゃっていましたが私からすればそんなことありませんよ?」えぇそうでしょうねぇーなんて言えるはずもなくどうにかして口を開く
「な、凪沙?このノートは?てか、この写真はどうしたの?」
「よくまとめられていると思いませんか?特に五冊目のノートは会心の出来なんです」
か、会話にならない⁈
「じ、自分でも少し、ほんの少しやりすぎたと思いますけど嫌いにはならないでくださいね?」
「あ、あぁ」俺はそう答えることしかできなかった。
「ノート見た時吃驚しました?」
「マジ驚いた」えぇそれは変な声が出るくらいにはね
「なら、よかったです。ドッキリ大成功です」ん?ドッキリ?
「隼人さんに相談してみたんです。あきくんを吃驚させるにはどうしたらいいかって本当は後で私が部屋を出るときに落としていったことにするつもりでしたが‥‥ドッキリって難しいすね」ちょっと待てぇぇぇ隼人ぉぉテメェコラ人の彼女に何吹き込んでくれちゃってるんですかー?心の中で隼人の肩を掴みガタガタする。心の中の隼人の首もガクガク揺れる。
「そんな顔しないでください実際にはここまでしませんよ」どうやら顔に出ていた様だ。ん?ここまで?ってことこんなことするにはするの?聞いてみたいけど聞いたら何かが終わる気がする。だ、大丈夫。俺の彼女はヤンデレじゃないないはずだ。違うよね⁈ガクブル
そんなことがあったが初めてのお家デートは楽しかった。そして、あれ以上の事件は起こらなかった。だからデート中ずっと凪沙の眼が少し粘着質な光を帯びていた様に思えたのは目の錯覚のだと言ったらそうなのだ。
ヤンデレな彼女って聞いてない! ^_^たなはわたは @mshun
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