第10話 君と永遠を
結局、ゼフィーだけではうわさ話の消滅は出来なかった。
「はあ、僕の側近くんって使えないよね」
「もともとは、あなたがみんなの前でお姉さまを抱っこしたからでしょ」
「僕の不始末をなんとかするのが側近くんなんだよ」
「はあーーーー!?」
「まあ、2人は仲良しね」
「なんてったってフィーと僕の弟だしね」
「だーれーがーあなたの弟ですかっ」
だけどソフィーは知っている。ベルンもゼフィーもこうやって本音で語れる男友達がいなかった。なんだかんだ、楽しそうだし、いい友人になるに違いない。
今日は王城でお茶会を開く。
この国の王子と子爵令嬢が婚約したという話はすでに社交界には広まっている。どんな根回しがされたかはわからないが、表立って反対するものは皆無だった。しかし、ゼフィーと王子との熱愛説は根強く残っている。その解決策としてソフィーが考え出したのが、このお茶会である。
本格的な婚約式の前に、「やっちまった令嬢」を集め、彼女たちの前だけで披露してしまおうというのだ。
今、やっちまった令嬢たちは社交界でも微妙な立場にあった。つい、熱愛抱っこの話をしてしまい、冷静になった途端『今度は命がやばいかも』と眠れぬ夜を過ごしている者もいたし、あの王子の本性を見て未だにショックを受けている者もいた。早々に婚約を解消された者もいる。
そんな彼女たちを城のお茶会に招待するということは、公式に「王家からの許しを得た」というアピールになる。完全な信用回復には時間がかかるかもしれないが、それなりの効果はあるだろう。しかも、あの、注目のシタン家の双子も出席するのだ。彼女たちはそれこそ当分の間、社交界で注目されるに違いない。令嬢たちは、それぞれ複雑な思いを抱えながら、当日を迎えた。
*
「みなさま、お久しぶりです。まあ、二度と会わないはずでしたがね、僕の大好きな婚約者がどうしても許してあげてと僕に泣きつきましてね、、、」
王子が挨拶らしきものをしている間、緊張と恐怖で令嬢たちは顔を上げることが出来なかった。怖い、怖すぎる。なんで、あんな人に会いに行ったのか、、、
しかし、続いてシタン家の令息ゼフィーが挨拶したときは、好奇心が勝っておずおずと顔をあげた。
「か、かわいい〜〜〜」
リスのような外見の青年が、魔王(王子)の横に立っていた。この青年が「溺愛抱っこ」の相手なのか。あのときは王子しか目に入っていなかったけど、これはなかなか見目麗しい青年である。
「あの、ちょっと誤解があるといいますか、図書室の件でご説明したいのですが、、」
令嬢たちは一斉にビクっとなる。
「あのときは僕、前日に足に怪我をしていて、、、王子が友人の僕に、えと、過分に心配してくれただけなんです。歩けなくなった僕を抱き上げてくれたのは、えと、彼のただの優しさなんです。それと、皆さん、王子があまりに珍しい、じゃなかった美しいので近寄りたくなった気持ちは、その、僕はわかります。だから、もう気にしないでください、、、
それと。それと、僕は女の人が好きです!王子もです!」
「かわい〜〜」
令嬢たちはもはや、初めての演説?に緊張しまくりのゼフィーに釘付けになった。こんなに可愛い男子がいるなんて信じられない。もはや、王子なんてどうでもいい。
「それと、ベルン王子がゼナ子爵の夜会にたまたま立ち寄って、僕の姉のソフィーに一目惚れしたのは本当で、、、それで、婚約することになったというわけです。
その、、姉を紹介します」
「はじめまして、この度シェルベルン王太子と婚約いたしました、シタン子爵家長女ソフィーと申します」
「これまた、かわい〜〜〜」
さらに令嬢たちのボルテージが上がった。彼女たちは、シタン家の双子にもう夢中である。双子が二人揃うと更に可愛さが強調された。
令嬢たちが盛り上がりを見せる中、シェルベルン王子は彼女たちに見せつけるかのようにソフィーにくっつきだした。お菓子を取ってあげたり、今もお茶のおかわりを手づから入れていた。ソフィーがやんわりと
「今日は皆さんとお話するって言ったでしょう?」
とたしなめているが、やめる気配はない。
「こりゃ、ベタぼれだな」令嬢たちは呆れ顔で見守った。
しばらくすると、なんとか王子を引き剥がしたシタン家の双子は、積極的にみんなに声をかけ始めた。誤解を解くことと、シタン家の双子(と王子)に良い印象を持ってもらうのが今回のミッションでもあるのだ。
次第に場が打ち解けると、ソフィーとゼフィーの周りに人だかりが出来て、キャッキャ若い女の子の弾んだ声がこだました。双子は多少まごつきながらも笑みを絶やさず、令嬢たちを魅了している。
シェルベルンは1人でお茶をすすっていたが、なんだか生まれて始めて感じる複雑な気持ちになった。
もういいだろう。
ベルンはパンパンと手を打って、みんなの注目を集めた。
「シタン家令息ゼフィーは私の側近となる将来有望な青年です。ちなみに婚約者はまだいませんっ」
と発言するやいなや、ソフィーとまだ話したがる令嬢たちを(できるだけ)やんわりと引き離し、手をつないでお茶会を後にした。令嬢たちに更に囲まれたゼフィーは、今度こそもみくちゃにされた。
*
「ひー女の子って怖い!」
「わかります」
「あんな、あんな、あんな、、、、」
「わかります」
お茶会のあと、ゼフィーはベルンの近衛兵シェラウドに切々と訴えかけていた。今回こそシェラウドは助けに行こうとしたのだ。女性だからといって躊躇してはいけない。前回の反省を踏まえてすぐに動ける体制を取っていた。
しかし、さっさと王子がソフィーを連れて自室へ帰ろうとするので、ついていくしかなかったのだ。他の近衛兵にも事前に「若い女性の集団」の恐ろしさについて説明はしてあった。
自分がやれることはやったはず。
ゼフィーの「ギャー」という叫び声は聞こえた。
シュラウドが思わず王子をみると、彼はニンマリ笑っていた。
「ああなることを、王子は知っていたんだ」
「まあ、そうでしょうね」
「あんの悪魔、、、、」
「それって、僕のこと?」
そこへシェルベルン王子がやってきた。
「あの演説はいただけないね、『ぼ、僕は女の人が好きですっ』て、何?」
ププッと口を抑える。
「あなたの挨拶のほうが最悪でしょう!!それに僕のあれでも真意は伝わったはずです」
「うーん、まあ最低限のことは伝わったかな、後は彼女たちが勝手にうわさを広めてくれるだろうよ」
「それよりも、あなた、僕を見捨てたでしょう!?」
「え、結婚相手が見つからないかも〜って泣きそうだったから協力してあげただけだよ」
「はあああ?」
「これで、完璧な入れ替わりが出来たじゃないか」
「!!!!」
「ベルン、でも、ちょっとあれはいけないわ、第一危ないじゃない」
ソフィーがひょっこり現れて、ベルンをたしなめた。
「そうだね、ソフィーごめんなさい。今度から気をつけるよ、許してくれる?」
「もう、本当に反省しなきゃ駄目よ」
「ちょっと!!謝る相手って、僕だよね」
「じゃあ、婚約式の打ち合わせに行ってくるよ、ゼフィー、後の対応は任せたから」
「ちょ、まっ!!!!」
*
ソフィーはベルンと手をつないで歩きながら、幸せを噛み締めている。
収まるべきところに収まった、そんな感じ。
なんだかいつも叫んでいる人が周りにいるけど、大好きなベルンとこれからもずっと一緒にいれるのだ。
キッチンが完成したら、1番にベルンにお菓子を食べてもらおう。
夢はまだまだある。
美味しくて簡単に作れるレシピが出来たら、下町に大きな工房をつくろう。どんな人もお菓子を気軽に食べられるようになればいいな。野菜嫌いの人のためのケーキも考えよう。お菓子の学校を作るのもいい。ちゃんとした国公認の資格を作って、熟練の菓子職人でいっぱいにして、、、この国の一大産業になっちゃたりして。
そして、そして、、、まだまだやりたいことはたくさんある。
普通の貴族のお嫁さんになっていたら、ちょっとしたお店を持つくらいがせいぜいだっただろう。でも、ベルンがいるから夢が大きくなった。ベルンと一緒なら何だってできる。ベルンはソフィーのやりたいことを何でも応援してくれるから。
「ねえ、ベルン。このペンダントについている石って、宝石だよね、何か意味があるの?」
「ああ、それ僕の鱗なんだ。たった1人の大切な人だけに、私の心を渡しますという意味があるんだよ」
「鱗?ベルンって魚なの?」
「ちょっと違うかな、僕は竜の生まれ変わりでね、体の一部にちょっと名残があるんだ」
「そうなの?」
「気持ち悪くなった?」
「全然!何でもいいの。ベルンがベルンであれば何でもいいの」
この国は竜が番とともに作り上げた国である。竜の生まれ変わりが現れる時、その国は特に繁栄するという。その隣には、いつも愛すべき番の姿がある。
男装令嬢に夢中な王子は魔王ではなく竜の生まれ変わりです 柴犬 @maruyoko
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