第9話 王家の事情
ベルンが双子を連れ去った後、国王はシタン夫妻に改めて話しだした。
「早速じゃが、この国の神話は知っておるな」
「子供の頃に絵本で習う『竜の建国伝説』、でしょうか」
「そう、竜が人間と結婚してこの国のもとを造ったという伝説なんじゃが、あれは事実でな」
「っ、そうなんですか」
「と言っても、竜の血はどんどん薄くなっているし、普通の人間とさほど変わらない。でも、たまに「先祖還り」だとか「生まれ変わり」といわれる者が生まれる。信じようと信じまいと、これは事実なんじゃ」
「はい、、、」
「先祖返りをした者は特徴があってな、頭がよく優秀で、その者が王になる時代は、この国が繁栄する。
ちょうどわしの曽祖父が先祖返りだったらしく、大きな戦争を仕掛けては勝利してこの国を大国にした。他所の国にとってはえらい迷惑だったじゃろな」
「『血の大開国時代』の頃ですね、今では考えられないことです」
「そうじゃ。でもな、それは曽祖父が意図して戦争ばかり引き起こしていたわけじゃない。番のせいなんじゃ」
「つ、番?」
「先祖返りしたものは、優秀じゃが人間社会のことなんてさほど興味がない。ただ、番だけに執着する。曽祖父の番である后、つまりわしの曽祖母が虚栄心の塊のような人でな、他所の国の王族にひざまずかれるが快感になっていって、最終的にはこの大陸全体を支配したいとなったそうじゃ」
「そ、その願いを王様が叶えたと」
「まあ、後ろで糸を引いていたのは武器商人でもあった曾祖母の実家だったのじゃが。まあ、次の王がその家を完全抹消したから、この話はごく一部のものしか知らない」
「はあ、そのようなことを私共が聞いていてもよろしいのでしょうか、、、、」
「つまりじゃ、ベルンは先祖返りである、わかるな?」
国王がぶっちゃけた。
「もしかして、ソフィーがその、つ、番であると、シェルベルン様の、、、」
「そうじゃ、最初から分かっておった」
「最初から!?あのお茶会のときからですか?」
「私もびっくりしたのですよ、7才で番を見つけるなんて。先祖返りというよりは、生まれ変わりみたいだけどね」
と嬉しそうに王妃が口を開いた。
「ベルンったら、ソフィーちゃんを離さないでしょ。それはしょうがないなあって思ったんだけど、安全のために男の子設定を利用させてもらったの」
「安全のため、利用?」
「そうよ、いくら幼いと言っても、たった1人の王子の周りに女の子がウロウロしていたら、知らない貴族たちが何を思うかわからないじゃない。次の王妃の座を狙って何らかの妨害をしてくるかもしれない。いまだに毒なんかを盛る方もいる位だからね、ふふふっ、」
誰かを思い浮かべているのか、ふふふっと笑っているのが妙に怖い。
「だから、男の子としてなら、ソフィーも、そしてこの国も安全だったのよ、、、」
「この国、もですか?」
「ソフィーちゃんのためなら、この国を破壊するかもしれないからね、ベルンは」
シタン子爵夫妻は先程から冷や汗が止まらなくなっていた。何なら足の震えだって止まらない。
「恐れながら、せめて私共だけでも、もう少し早く教えてくださることは出来なかったのでしょうか」
「それはね、曽祖母の実家の例があるからね、」
「つまり、私どもの家が、ソフィーを利用してなにかするかもと、、、」
「ずっと観察させてもらったけど、君んとこ、本当に欲がないね」
「観察、、、」
「これまでだって、君の家が、ソフィーが王子の友人なのを利用することだって出来たはずなのに、何も要求してこなかったしね」
「っ、考えもしませんでした、、、」
「そもそもソフィーがこんな状況であるにも関わらず、愛らしく健全で美しい精神で育っておる。頭も良い。」
「いえ、この国最高の教育を王子とご一緒させていただけただけでも光栄で、、、
「ああ、それ王妃教育兼ねているから。女性王族としての授業はこれからだけど」
「王妃、、、ソフィーが?王妃、、、うちは子爵、、、」
「爵位なんてどうとでもするよ、そもそも番なんだし。あと、ゼフィーにはベルンの側近を命じるから」
いつもののんびりした国王は一瞬いなくなり、カタカタ震えるシタン伯爵夫妻に言い放った。
「国の最重要機密を知ってしまったからには、後戻りできないよ」
すぐにいつもの調子を取り戻した国王は「詳しいことは宰相にきいてくれ〜〜」と言いながら王妃と嬉しそうに退室していった。部屋の隅でじっと立っていた宰相は
「お気の毒ですが、これからの予定を申し上げます。予定と入っても決定事項なのですが、、、」
といって、分厚い予定表を開いたのだった。
*
恒例となったシタン子爵家での家族会議。王城から帰った一家は、それぞれ思うことがあったものの、とりあえず今はソフィーの婚約が議題だった。
「お姉さま、ずっと王家に振り回されて、これでいいのか?」
「そうよ、もし、嫌なら断ってもいいのよ、この国がどうなろうとっ、たとえ滅びようがっ、ソフィーが犠牲になることはないわっ」
「ソフィーが婚約とか結婚とか結婚とか、、、来年すぐに結婚とか、、、」
「大体、なんで僕があいつと、、、」
口々に何かをわめき出した家族の中で、ソフィーが1番冷静だった。
「みんな落ち着いて!大丈夫だから!!私もびっくりしたけど、私が決めたことだから」
「いや、あいつが根回しして、ソフィーを追い詰めたんだ」
「国王や王子になにか強要されていない?見た目がいいからって、流されていない?」
「結婚なんてまだ早すぎる!!ソフィーすまなかった、父さんがもっと早く腹黒王家からお前を救い出していれば、、、」
「ちょっと待って、私が自分できめたの!」
一同は黙った。
「そうね、1番最初のお茶会のときは、びっくりしすぎて何も考えずについて行った。でも、それからはね、ずっとベルンは私の意見を聞いてくれたの」
「うそだ、あいつは我儘で傲慢な男だぞ!」
「うーん、たしかに先走ったり意地悪なときもあるけど、、、それでも大切なことは自分で決めないで、絶対に私に聞くのよ。今までもそう、夜会でダンスを申し込んだときもそう。今日だってベルンは一つ一つ聞いていたでしょう、ちゃんと私に確認してくれたわ。
それにキッチンを勝手に計画したのはびっくりしたけど、私の好みに合わせて作れるように、何も手を加えていなかった。本当に自分勝手な人なら、キッチンを作っちゃってから『どうだ〜』って感じで見せたと思うの。ちゃんと私に聞いてくれるの。本当に優しい人なのよ」
母親はため息を付きながらいった。
「まあ、ソフィーが自分であの王子を選んだというなら何も言えないわ」
「それでも、結婚はまだ早くないか!?」
父親はいつまでも食い下がる。弟も憎々しげにいった。
「本当に優しい人が、あんな面倒なこと僕に押し付ける?」
「あら、うわさなんて私もベルンもどうでもいいわ。あなたのことを想って王家の力を貸してくれるんでしょ」
「おい、何のことだっ」
「そ、それが、王子が僕を『お姫様抱っこ』したってうわさが流れていて、、、その、僕と王子が本当は恋人で、ソフィーはそのカモフラージュだという、、、」
「あらあら、ゼフィーのお嫁さんが来なくなるわねえ」
「もういい、、、わしは疲れた、、、ソフィー、ゼフィー。結局、幸せは君たちが自分で掴み取るもんだ。これが運命だというのなら、受け入れよう、、、」
「お父さま、急にしょぼくれないで、僕のうわさ解消を手伝ってよ!!」
ソフィーの母親は、
「あいつは魔王だ!!」 と騒いでいる男二人を一瞥して、ソフィーに向き合った。
「ソフィーはシェルベルン王子のこと、ちゃんと好きなのね」
「はい、今日、好きだったんだなあって気が付いたの」
「じゃあ、幸せにならなきゃね」
家族会議はその日、夜遅くまで続いた。
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