第55話 どちらがハッピーエンド?(最終回)

「本当に全てが終わったのね。」

 内戦の勃発もあり、それが完全に終わっていなかったこともあり、延び延びとなっていた前国王の葬儀、ガミュギュン大公の葬儀、そしてアガレスの正式な戴冠式が、それでもかなり簡素化して行われた。

「本当にこれで良かったのかしら?」

 ガミュギュンの転生体ではない長男を抱きながら、パエラは感慨にふけりながら、王宮のバルコニーから、遠くに視線を向けていた。そこには、まだまだ復興半ばの王都の光景が広がっていた。王都だけの表面だけの、見てくれだけの復興を嫌ったからだ、アガレス達が。

 自らがアガレスを処刑した時と比べようもないほどの被害を及ぼし、今も復興のため、アガレスの陣頭指揮でそれが進められ、パエラは質素な生活を余儀なくされていた。それが苦なのではない。あまりにも多くの死者が、被害が出たことに、思いを向けざるを得なかった。

 結果として、多くの貴族が消えたため、国民国家への道のりは大いに進んだ。周辺地域、魔界すら含めての和平も進み、平穏な世界が到来した。しかし、あくまでも結果としてである。

 そのパエラを後ろから抱きしめる者がいた。アガレスだった。

「愛しい人パエラ…。」

“この人は、私以上に、そのことを考えていたわ。この人とともに、罪を受け入れるしかないのね。”

 振り向いて、彼に唇を半開きにして、口づけを求めた。彼が、それに応じたのは当然だった。

“あの夢?いえ、あの記憶は?”何度も、自分の人生に後悔して、未来から自分の過去に思いを伝えたのかもしれないとも思った。“私は、今をやり直したいとか、疑問を持つとかは思ってはいない。無数の私自身と思いが成就された?”そのまま、二人は舌を絡ませ続けた。二人の唾液が、混じり合って互いの喉の中に流れ込んだ。

 ウァサガも、バイエンも、グシオンも、アガレスの元に集った新進気鋭の文武官の面々も、新たな国作りのために働いていた。彼らは、アガレスとともに死んだり、殺されたり、或いは粛清の中に巻き込まれて死んだり、全くその才能を生かすことも出来ず埋もれてしまった面々である。それが、今や主役で活躍して、歴史に名を残しているのだ。

 そして、彼女は知ることはなかったが、ガミュギュンの作った帝国は、彼の孫の代に乱れ、長い分裂と戦乱の末、国民国家への道のりを歩み始めている。そして、彼女とガミュギュンとの間の子供達は、彼女の死後数年を経ずして、ダビ家粛清とともに生を終えていた。

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