【前章『二之線・死』】

ざけんな、誰がテメェなんざに渡すかよ。


「じゃあ先に金ェ渡せ」

「終わったら一人で帰るからよぉ」


胸糞悪いクソ共と一緒に行動するなんざもう無理だ。

当初の目的は金だ、金さえくれれば後は一人でどうにか帰れる。


「ほら、半分だ」


ワニ革の財布から取り出した二万円。


「おいボケカス」

「頭だけじゃなく」

「脳のシワすら剥げてきたのか?」

「四万寄越せコラ」


「全部渡したらお前、逃げるだろ」


当たり前だろうが。

誰が好き好んで肝試しするってんだよ。


「行ったらもう二万、くれてやる」


財布から、更に二万円を取り出してくる。

……なんかキナ臭ェな。

どうして俺を肝試しに、しかも先頭で向かわせようとする?

あの中に何が入ってやがる?


「財布」

「丸ごと寄越せや」

「そしたら行ってやる」


ジャケットのポケットに手を突っ込む。

ポケットん中にはもしもの為にバタフライナイフを忍ばせてる。


「いい加減ににしろよテメェ!」


唾を地面に吐くと同時にソバカスが俺に何かを向けた。

それは拳銃だった。ニューナンブって言う奴だっけか。

回転式拳銃。銃口を俺に向けてやがる。


「誰に向けてんだ」

「ぶっ殺すぞオイぃッ!」


俺が懐からナイフを取り出した。

即座、俺の近くにいた眼鏡が俺に向けて刃物を取り出して腕を切った。


「ぎっ!な、ひ、ぃぃいッ!」


俺はナイフを離して腕を抑える。

ドクドクと流れる血液が生暖かい。


「ち、くしょうッ!」

「な、にしやがんだテメェ!!」


涙が出てきた。

眼鏡は刃物を振って俺に近づいてくる。


「神社の中でやる手筈だっただろ」


「かん、かんけ、けいねぇよ!」

「こ、こころ、殺す、も、もう我慢、出来ねぇ!」


くそ、が。

俺が一体、何をしたって言うんだよ、オイっ!


「分かった、行ってやる、だから、止めろ、クソッ」


必死になって声を荒げる。

何が目的なんだ、クソがッ!


「おい、銃を下ろせ」


眼鏡がそばかすにそう言って宥める。

イカれてやがる。理由を付けてさっさと逃げるしかねぇ。

そう思っていた時だった。


パン、と音が鳴り響く。

俺は軽く後ろに下がった。


「あ?」


シャツから滲み出る赤色。

だらだらと、ネジの緩んだ蛇口みたいに、血が流れて来る。


「うるせぇ、コイツ」

「こいつはなッ!おれ、お、俺の」

「女、寝取りやがったんだ」


ぎゃあぎゃあ喚くが、聞こえねぇ。

膝を突いて、俺は口から血を流す。

喉奥から熱いモンが込み上げて来やがった。


「ぐぶっ……お、え…」

「い、でぇ……ぐぞ、ぶぢやがっだ、ごいづッ」


なんだよ。

クソが、その拳銃、本物かよ。


「もう駄目だな」

「折角、神社に用意してたのに」

「無駄にしやがって」


焦点が合わない。

空を向いたまま、俺は自分の血に溺れそうになる。


「おら、死ねッ、死ねッ!クソ野郎ッ!」


眼鏡が止めるのを止める。

俺に向けて、何発も発砲してきやがるソバカス。


「やめ、ろッ嫌、だッ死、ぢにだ、ぐ、ねッ」


最後に響く乾いた音。

眉間に熱いものが突き刺さる。


それが鉛玉なんて気が付く頃には。

俺はもう死んじまっていた。




















【終章之一へ行く】

https://kakuyomu.jp/works/16816700426335346360/episodes/16816700428411790623

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