カデリアとシャルファーサ王女 外伝

むかしむかしそれは異世界でのお話。

王子の名はシューランデルス。これは王子と王子を取り巻くものたちの物語。牢屋を飛び出したカデリアとシャルファーサ王女の二年間のお話。




「カデリア、水汲んできたわよ」

黒髪の女がとても醜い老婆に話しかける。カデリアは大きなバケツ2つを平気な顔して運んできたシャーに呆れてボソリと言った。


「姫様がそんなバケツ2つもかかえてくるなんて誰も信じないよ」

「丁度いいじゃない信じなくて、それにしてもかつらがないとしまんないなぁ」

「無い方が美人に見えるがのう」


「だから困るのよ。男達に声かけられるたびに避けるの大変なんだから。まぁ、こんな辺境じゃ誰も居ないわね。よく家が建ってるものだわ」

「魔法で家ごと転移したでな。魔法に不自由になることはない」


「魔法は困らなくても生活は困るわよ買出しに行く場所も無いんだから」

「嬢ちゃん草のみを摘むといい。わしゃ、魔法で獣を狩る。それで生活もできる」

「これから一生そうやって生活する気なのカデリア?」


「わしゃ、それで構わんがお嬢にはきつかろうて。2年我慢しろ。正規の亡命手続きをする。それで国王もてがでんはずじゃ」


「亡命かぁ、名前も国も失っちゃうんだね。テルモノは大好きだけどテマルは愛してた。全然帰らない不良な姫だったけど国を思う気持ちは人一倍あったよ。だから、テルモノとテマルの往復をしてた。古臭い臭い国だったけどそこにも人がいる」


「嬢ちゃんは死にたかったのかい?」

「まさか、テルモノにはシューランデルス王子が居る。きっとカデリヤや私の身を今も案じてくれてるに違いないもの。死ぬしかないならともかく生きる道があるのに簡単に死を選んだりはできないわ。私はもう気付いてしまったもの」


「国よりも、もっと愛するものをか…やっかいな話じゃな」

「カデリアには居なかったのそういう相手。魔法一筋?」

「魔法一筋じゃったのは愛する人のほうじゃ、わしゃそれを全て受け継いだ。同じ師匠をもって一緒にはげんどった。私の顔も人並みでな心もねじれてはおらなんだ。


いつも一歩前を歩き、後からついてくるわしゃを励まし助言をくれとった。年頃になると自然と恋をしたがあの人は魔法一筋でな、その思いにはきづかなんだ。それでもわしゃかまわなんだんだよ。丁度、この家じゃ、三人で暮らしとった。


懐かしいのぉ、あの頃が一番幸せじゃった。ところがある日魔法の封筒が飛んで来てな師匠はテルモノと隣のタイズ国との戦場に狩り出された。もう教えることはないからと後は独学で学べと言って師匠は戦場に向った。戦況は五分じゃったよ。


テルモノには魔術師がいたがタイズは魔法の効かぬ体質をもった巨人族を受け入れとった故に補助魔法しか使えなかった。もっとも人間には効いたがのぉ。師匠が死に愛する人が今度は戦場に向かうことになった。ありったけの魔法を受け継いで


お前さんと一緒じゃよ。一晩限りの契りを交わし愛する人はわしゃにこの顔と声を与えていった。戻ったら戻すよといたずらげに言ってな。だがもどらなんだ。死の知らせが来たのはタイズの巨人を滅ぼしてタイズがテルモノに屈してからじゃ。


わしゃには同じ魔術師で先に死んでしもうたが娘がおる。孫もおる。この姿を嫌い近寄りもせんがな。それならそれでよい。姿に惑わされるものに血縁といえど付き合う気はない。それでも誰でも一度は引く姿じゃ平気な顔をして迎えてくれたのは

シューランデルス王子くらいなものじゃ。だからあの坊やの師匠になった」



「その姿は元には戻せないの?死んだ愛する人にしか?」

「全てを受け継いだと言ったろう。元に戻ろうと思えば戻れる。だがそれは…愛する人の死を認めたことになる。わしゃ、この目で死ぬとこをみたわけじゃない」


「カデリアがそんなにロマンチストだとは知らなかったわ。もう100を超えてるのにまだ愛する人を待っているなんて。性格はなんでひねくれたのよ?」

「歳を取れば誰でもひねくれる。この醜い姿で100年過ごしてるんじゃ、この家を誰にも触れさせないようにここへ移転してから街に住みいろいろ経験したのさ。


醜くて拒絶される。あからさまに逃げるものもいる。テルモノの国じゃなかったらもっとひどい拒絶と差別を受けただろう。多少はひねくれもするわ」





「お嬢、お前さんの国、人々が立ち上がり国王の首を取ったぞ。次期国王は第一継承者スグルマリステンセル。しかし国民による政治機関、国民決議委員会なるものを発足、国王の意思だけでは動けなくしたらしい」


シャルファーサ王女は卒倒した。


気がつくと額をタオルで冷やされている。洗面器をみつけ冷やしなおし自分の額に当てる。国王は自業自得だ。シャルファーサ王女は心の中で何度もつぶやく。でもきっかけをつくったのは自分だろうと思うと心が痛い。兄様は無事に国王になった。


でも国民決議委員会って…民衆に国のなにがわかるのだろう。ない金から国を動かし金を集め民に返す。仕事を作り、公共事業をなしとげ、税金を集め、貢物の礼をし、他国に大国であることを知らしめる。民衆にそんなことができるのか?


国王となった兄が、賢王となりその決議委員会とやらを上手に動かせればいい。だけど国王の首をとった民衆の勢いは今、最高潮だろう。国王はただの飾りとなりはて国税を公共事業を好きなようにされては国そのものが滅んでしまう。


どうか兄様、賢くあれ、民衆よ、大局を見極めよ。自分たちで政治がしたいならそれでもいい。だけど他国とのバランスを有益なやりとりを、赤字まで出して作っている公共事業の意味を理解して欲しい。私の国は大国だがそれ故に貧乏なのだ。


「目が覚めたかい嬢ちゃんや。覚醒魔法を使っても良かったんだが休養もたまには必要やろうてほっといたわ。自分を殺そうとした父親でも死ぬのはショックなんだねぇ。確か父兄、姉の為に許さないとまで言っていたはずだったが…」


「私怨と国政は別ですカデリア。私欲に税金を多少使う癖はありましたが国王は統治者としては無能ではありませんでした」


「人をないがしろにするのにも長けておったろう。それが今回の悲劇を生んだんじゃ。お嬢の声に耳を傾けてさへいれば、お嬢の言うとおり兵隊の命こそ国の宝と迷わずに言えさへすれば国王はスノーを諦められたろうに私欲に国政を利用した」


「…それはそうですが…民に国を任せるのは不安でなりません」

「兄も王と同じなのかえ?」


「いえ、兄はむしろ王に逆らうほどの気性が足りません。思うことも意見したことはないでしょう。私のほうが王には煩い存在だったはずです。ですが実行したのもそれを見ないふりしたのも罪にかわりはありません。姉の件、スノーの件、兄は最低限の行動も取れませんでした」


「ならば民に託すのも一案じゃ、市民はそんなに馬鹿じゃないぞえ。学はないがな知恵は回る。それに結成したのは王族、公爵、貴族、騎士、豪商じゃ、政治のことも少しはしっとろうて。問題はまとめ上げれるかだ。一人私欲に走れば皆走る」


「当座、その役目が兄様の役目なのですね…」

「いや、カニオルという男がまとめ上げておるらしい。なかなかの切れ者で有無を言わさず国家予算を吊り上げ税金を吊り上げたらしいて、場所の提供こそすれ難民に関与せずとも決めたらしいな。地価も吊り上げ、貢物は全て食べ物以外国税の補完に当てるらしい。


もっとも、国がなくなったようなものだから、その貢物を用意せずにねぎらいの言葉で済ます国も少なくないようじゃ、税金の払えぬものは難民区行きか国外退去すべしとも決めたらしい」


「カニオルはとある王族の愛人の子です。賢いとは聞いていましたが、まさかそんな代表になっているとは…国が貧乏なのは民が貧乏なのです。国外退去など支持すれば国を去る者は続出しましょう。なにを考えてるのか…」


「まずは国税に見合った人数まで人を減らそうとしてるんじゃろうなぁ。議員の税金は一般市民の三倍取ると公言したらしいから金持ち優遇というわけでもないらしい。まぁ、三倍で揺らぐ貴族はもう貴族でもなんでもないと切り捨てたわけじゃ」


「テマルに安定の日々はくるのでしょうか?国は潰れないでしょうか?心配でなりません。許されるものなら国へ今すぐにでも帰りたい」

「帰っても兄と立場は変わらん王は象徴化し政治は民衆の手に委ねられた。おまえさんが生きているうちには国はまだ安定しまい。せいぜい孫の代じゃな」


「私もまた国を捨てた女として神から罰を受けているのですね。愛するテマル国を自分の手で乱してしまった…」

「譲ちゃんが勇気をだしてくれねばテマルとテルモノは今激しい戦争の只中にあったやもしれん。スノーを連れ帰ればスノーのことで国王もいつ暴走したやも知れん。


そうすれば多国戦乱…古代王国終わって以来、始めての大戦乱になっとったかも知れないんじゃ。死を覚悟した王族として見事な采配だったとわしゃ思うよ。後は自由になればいい。愛さぬと決めたお前さんが愛した人間がいるのじゃろう?」


「別れるのにシューランデルス王子に忘れられないような傷のようなものをつけてもらいたかった。ただそれだけです。ただそれだけなのに私はシューランデルス王子への想いが全てを支配することをしってしまった」


シャルファーサ王女は後悔したような苦しげな顔で笑って見せた。

「坊やがお嬢をどう思ってるかは魔法じゃわからんが、女に覚悟があるように男にも覚悟があるもんじゃ。受け入れたということは最後だからだけではあるまいて」


「王子も18歳になったはず。一つ年上の私を女性として待っててくれるでしょうか?ううん、今まで通りの友人としてでもいい、生きてるか死んでるかも解らない私たちを待っててくれているでしょうか?」


「あの坊やなら待ってるさ絞首刑が減刑され幽閉されたのは知らされてるはずじゃ。おそらく牢屋からいなくなったのはひたかくしにされとるじゃろうが、少なくともサラリーは逃げたのをしっとる。じゃなきゃこんな手紙は寄越さないだろうて」


「それって、ここがばれてるって事?」

「いや、わしゃの髪の毛が一房はいっとった。体の一部よ主の下へ帰れという魔法を使ったのだろうて。難度は高い魔法だがあれはわしゃを越すな」


「国がそんなんじゃ、姫一人に構っておられんだろ。そろそろ帰るかな。一ヵ月後じゃ、帰り支度をせい」

「わかりました。いよいよなんですね。なんだかドキドキする」





「カデリアったら魔法薬ばかり作って帰り支度私にまかせっきしじゃない。信じられないばーさんだわ。本当に魔法以外できないのね」

「それじゃ若い頃とさほど変わってないんだね。家をこんなところに移すから探すのにひどく手間をとったよ」


「………おじいさん誰?こんな辺境までカデリアを追ってくるなんて魔術師?」

「そうだよ。タイニールが今帰ったと知らせて来てくれるかい?」





「今まで何をしとった。今更なんの用じゃ」

「顔も声も、魔法をかけたままなんだね。戦争で死に掛けて魔法が使えなくなっててね。元の魔力をとりもどすのに50年かかった。ここを探すのに30年かかった」


「残りの時間は恋をしていた。傷ついた私の面倒を見てくれた人とね。でも魔力がなかなかもどらないわたしは苛立ちと苦悩の連続でその女性に優しくなれなかった。そのうちに逃げられてしまったよ。愛するものには逃げられたけど愛してくれた人のことは思い出せた。本当に最後の最後の時だけだけど一緒に暮らして欲しい」


「それって待たせすぎにもほどがあるわよ。身勝手だし」

「本当にそうだな、約束だね。元の姿に戻そう」

「いらん、今じゃこれがわしゃの姿で声じゃ。醜いのは愛せんか?」


「カデリア、君が望むならその姿のままでも一向に構わない。戻るのに月日をかけすぎたものね。確かにずっとその姿ですごしたならそれは君自身とも言える」

「………タイニールの魔法で戻しておくれ。それが約束じゃった」


タイニールが魔法をかける。カデリアは品のいい、可愛らしいおばあちゃんに変わった。声までまるで少女のようだ。

「カデリアかわいい!そんなにかわいいのに今まで元に戻らないなんて凄い想いだね。私には真似できないかもしれない」


「目の前のお嬢が大国テマルのシャルファーサ王女だ。テルモノの城に連れて行ってやらねばならない。ここで待つかい。来るかい。どこで暮らすかも考えねばなるまいって。ここでもいいし、テルモノの家でもいいし城にもかけあってもいい」


「城へついていくよ。暮らすのはどこでもいい。カデリアが決めなさい」

「お嬢、城へ行く覚悟はこの一ヶ月でできたかい?」

「カデリア、ばっちしよ。自分を捨てる覚悟。この一ヶ月でちゃんとした」


「それじゃ飛ぶからね。固まるんじゃ、向こうに連絡手段で連絡はしてあるが細かい日時は決めてなかったから少し驚くかも知れんがのう」

「カデリア、その声でその喋り方変」

「ほっとけ。それじゃ行くよ」


三人はテルモノの城に向けて瞬間移動した。



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国の第三王子 御等野亜紀 @tamana1971

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