魔術師探しに~外伝

むかしむかしそれは異世界でのお話。

王子の名はシューランデルス。これは少しさかのぼり幼少期のお話。




「シューランデルス王子様。それは見事な魔法にございます」

「カデルシアン、褒められるのはいいけどいつになったら初歩を抜けれるの?わたしは三つより教えられているのに同じようなことの繰り返し。魔法らしき魔法に進まないじゃないか?せめて黒姿の術ぐらいもう覚えられる」


「シューランデルス王子様は幼い。魔法の基礎は大事にございます。どうかご辛抱をして基礎を繰り返しくださいませ」

「やだやだやだ、進められるものを進めてくれないのはいやだ。もうお前は首だ。明日から来なくていい。わかったな」


「私を首にしてどうするのです。これでも貴族達の中で一番人気のカデルシアンなのですぞ」

「それだけ褒めれば人気もでるよ。わたしはお遊びじゃない魔法を学びたい。カデルシアンわたしは早く兄君たちに追いつきたい」


「それは高望みです第一王子とは20歳も離れているのですから、少しずつ自分を磨くのが一番です」

「例えば何が唱えれれば次に進める?唱えて見せてよ」


そうすると炎の噴射の魔法を唱える。シューランデルス王子は真似して唱えた。意味はまだわからないけど教えてくれてないのだから仕方がない。ともかく炎の噴射は見事に成功し天井を燃やしそうになった。カデルシアンより遥かに大きい。


「わたしは使えたぞ。もっと前に教えてくれてれば前に進めた。やっぱり首。それからアロンを呼んで来い」




「何でしょうか?シューランデルス王子」

「明日、街を歩き回るから近衛を小隊一組用意して。それからわたし専用の近衛隊長が欲しい。出来る限り歳が近くて遊び相手になれる人。アロンは王付きで事実上わたしをまもるのは無理だろう。それで交代してくれる近衛たちは本気で遊んでくれない。怪我もさせられないと言うんだ。それじゃ剣術は伸びないと思うんだ」


「遊び相手がほしいのはわかりますが…何で街にお出になりたいのですか?」

「首にした魔法使い探し。他の者に任せていては同じよーなのばかり連れてくる」

「街に魔法使いがいるでしょうか?」

「わからない。でも森の魔法使いなら城のものが大方捜しつくしてると思うから」


「それもそうでしょうね。近衛隊長のことは考えとくとして明日の街へ出る許可と準備をしてまいります」

アロンは退出して行った。




「どうだろうか?デロル、カロルを近衛隊長に抜擢させてもらえないか?」

「しかし、カロルは13歳だその重みに耐え切れるだろうか?」

「それはわからん。だが6歳のシューランデルス王子の遊び役が務まってだ、尚且つ近衛の任についても恥を取らない少年といえばカロルしか思いつかない。


既に師範役を務めている私から3本に1本は勝ち取れるんだ。士官学校へ行く必要もないくらいの教養も既に持っているし思いきってはくれんか?」

「俺やるよ。大人差し置いて近衛隊長ってのがいいじゃないか。いづれは近衛隊目指したかったんだ10年早く餓鬼の面倒見るだけでなれるなら挑戦したい」


「これ、わが国の第三王子シューランデルス様です。餓鬼呼ばわりするものではないぞ」

「俺だってまだ餓鬼だ。それより小さいのを餓鬼呼ばわりして何が悪い」

「近衛になるには家柄、容姿、教養、実力、マナーと皆必要なんだカロル」

「んなの表で猫かぶってればいいんだろう。全部ないわけじゃない」


「こんな子だぞ。本気で近衛隊長に抜擢するきか?アロン」

「幸い国は平和だ。餓鬼なのはわかってる。一緒に成長すればいいさ、な、カロル」

「そのシューランデルス王子とやらは剣術結構才能はあるのかよ?」


「才能はあると思う。お前みたいな鬼才はないが魔法にも才能がある。それでだ早速明日師匠の魔術師探しをおこないに行くので相性も兼ねて同行を頼む」

「入門テストって訳だOK。いってやろうじゃないか。ところで今まで独学?」

「いや3人目の師匠を今朝首にしたところだ。先を急ぎたがってな」


「急がしてやればいいじゃん。俺だってアロンに習って大人顔負けの剣術身につけてるんだし、魔法だってくすぶるより使えるとこまで極めたらいい」

「そういうもんかな。とにかく4人目は自分で探すんだ納得してもらいたい」



「それじゃ、大勢での移動になるから、人の迷惑にならないようにね」

「チビ、俺の紹介は?」

ざわざわとざわつく近衛たち。それをアロンが沈める

「あー、この子は今日の任務に問題がなければシューランデルス王子の近衛隊長の任につけたいと思っている」


「シューランデルス王子をチビ呼ばわりし、こんな年下に俺たちはこき使われるのですか?納得がいきません」

「わたしは気にしないよ本当にチビだしアロンに遊び相手を頼んだのはわたしなんだ。カロルって言うんだよ。とりあえずはわたしと一緒に皆で守ってあげて」


「守らなきゃいけない隊長なんて前代未聞です。俺は…」

「必要ねえよ。不満のある奴はこの任務終了したらかかってこい強ければとりあえずいいんだろうが。はしから倒してやる」


「アロン隊長こんなのを本気で隊長にするきですか?」

「うん。まぁ、本気なんだけどね。本当に後で戦ってみるといい。俺はめくらで推薦してるわけじゃないよ。まだ今一かもだが将来は有望だ。まぁ、口の悪さも有望そうだけどな」


「あのね、わたしはできたらそろそろ出発したいのだけど…」

『任務遂行の遅れまことに申し訳ありませんでした』

アロン一同の声がそろい王子に頭を下げる


「なんか近衛って面倒なのな」

「馬鹿、お前も頭を下げる。首刎ねられてもおかしくない一言だぞ王子の言葉は」

そういってカロルの頭を無理やり下げさせる。


「アロン?カロルの無礼はともかく我侭につきあってもらうのにわたしは貴重な近衛隊の人間の首を刎ねたりはしないよ?」

「すいません。失言でした。ともかく街に参りましょう」


そして、あんまり治安のいいとは言わないところを半日歩き続ける。近衛は軽装をさせてきたがマントまで羽織っている王子には重労働だろう。カロルがマントをひっぱり取り上げる。それを見たシューランデルス王子は不思議な顔をする。


「上着も脱ぎな。持ってあるいてやるから。チビには重たい格好だ。半日歩いただけでもたいした根性だよ。だけど歩くだけでわかるのか魔法使いってのは?」

シューランデルス王子素直に上着を脱ぐ。随分と軽くなった。


「えっと匂いを気にしてるの。魔法使いはいろんな薬品を混ぜてお薬つくるから」

「匂いかぁ、俺じゃ手伝えないなぁ」

「他の近衛にも聞いてこさせていますが魔法使いといえば森の中だろうと」


「んー、三人はいると思うのになぁ」

「何故そう思われるのですか?」

「算数だよ。召集をかけた時と森の魔法使いの数は七人足りないんだ。街に居るのと山に居るのと半々としても街に一人くらいいそうなのになぁ」


そう言うとシューランデルス王子は人のあまりすまない工業区に入って行ってしばらくあるくと急に走り出す。慌てて付いて行く近衛たち。まだ体の小さいカロルが裏通りを抜け王子に追いつく。


「急にどうした。見つけたのか」

「うん。みつけた!」

「どこだ?」

「あの紫と橙の煙が登ってるところ。消えちゃうとわからなくなる」

「わかった。とにかく走れ」

「うん」


カロルは走りながら昼花火をあげだした。音と小さな煙が流れるだけの花火だか壁にこすり付けるだけで火がつくし小型なので沢山もてると言っても限りはあるので一定の距離で花火をあげていく。家の前でシューランデルス王子は座り込んでいた。


「まずは話が出来るまでに息を整えろ。そのうちに近衛たちが追いつく。話はそれからだ。いいな?シューランデルス王子」

「カ、ロ、ルは同じ、よ、う、、、に、はし、ったのに、息、切れ、ない、の?」

「ああ、王子とはさすがに鍛え方が違うよ。俺、剣術専門だもん。歳も違うし」


「シューランデルス王子、カロル無事か?いいもん持っててくれたおかげで助かったよ。もう少しで隊を散り散りにするところだった」

「それより、ここ。気配ふたつあるけど魔法使いだと思うよ」


「では開けてみます」

「頼もう!急な用件で参った。扉を開けて顔を見せてくれたまえ」

シーン。たしかに王子の言った通り気配は二つあるのに扉は開かない。


「わたしがやってみるよ」

「わたしはシューランデルス王子。ここから蘇生薬の煙がたってたよ。魔法使いと思ってお願いにきたの。どうか顔を見せて」


扉が開く恐ろしい形相をした魔女らしき女がでてきて…アロンに向かい

「くわっ!」

と叫ぶ。アロンは隊員がいる事も忘れ後ろの壁にぶち当たるまで退いた。


「あのね、おばさん。用事があるのは彼じゃなくわたしなんだけど」

「くわっ!」

「それ、なんかの遊び?おばさんより怖い顔にはどうなってもなれないよ」


「逃げないんだね」

「逢いに来たのに逃げてどうするの?魔女さんだよね?」

「変わった子だね。王子だからってビタ一文まけられないよ」



「いいけど、ならわたしの教育係りになってくれるのだよね?」

「ちょいお待ち。教育係ってのは城で連れてくるもので探しに来るものじゃないだろうに。わしゃすでにサラリーという弟子を持っている」


「だったらサラリーさんが城に来て一緒に学べばいいよ。わたしは魔法使いになりたいのじゃなくて魔法を知りたいだけなのだから」

「他の魔術師はどうした?」


「基礎から前に進まないから首にしたの」

「方向性は?」

「んー治癒系かなぁ。身は騎士たちが守ってくれるしぃ」


「基礎より前に進みたいってことは厳しいときのが多いよ」

「わかった」

「サラリーついてきな坊やのレベルと基礎力把握して逢った時にしらせな。条件は3つ。サラリーの面倒を城でみること。サラリー用の魔術師の部屋を用意すること。わたしゃここから通わせてもらう事。聞けるかい」


「聞けるけど城に行った方が歩かずにすむけど?」

「他人と暮らすのはごめんだ。サラリーがいなくなれば快適さ」

「じゃあ、サラリー一緒に来てくれる?身一つでいいから」


「さっ、やりかけのことはいいからほっといてとっとといきな。城で暮らせる贅沢なんてそう味わえるものじゃないよ」

「カデリア様はいらっしゃらないのですよね。私はどうしたら…」


「今まで教えたことを繰り返す。飽きたら宮廷作法でも習っとけ、どうせお前と坊やを教えに毎日出向く。坊やの魔法の時間は何時から何時だい?」

「えっと昼の3時から5時の間なら魔法の時間に使っていたよ」


「サラリー10時には勉強の支度をしときな。坊や昼食を用意してもらうよ」

「城に住まわすつもりだったからそんなことはなんでもないけど用意しとくね」

そしてサラリーがおずおずとでてきた。12~15歳位だろうかの少女がでてくる。


「ほーっ、この見目麗しさなら実力次第で宮廷魔術師に推薦できるな。丁度今のじーさんが10年持つか持たないかの年齢だ」

とアロンが感心した。ばーさんの顔と反比例した美しさだった肩より先はみつあみしてそのかみは金髪に輝き紫の目は神秘さをただよわせていた。


一同は急ぎ帰る。既に夕暮れ時だった。シューランデルス王子を連れ帰る約束の時間は過ぎようとしていた。


シューランデルス王子とサラリーは抱きかかえられ早足での帰路となる。帰る頃は真っ暗でアロンが国王に散々怒られたのは言うまでもない。シューランデルス王子は国王がもっとも愛した愛人との間に生まれた愛人が40歳で産んだ子だ。


それを正妻との間に養子として取り正規の子として育てている。上二人の王子とは立場は肩身の狭いものだったがもっとも愛されている子でもあった。当のシューランデルス王子は六歳。そんなことも知らないですくすくと育っている。



「習った魔法はそれだけですね?」

「うん。でもどんな魔法が使えたら先に進めるか聞いて炎の噴射の魔法を使ったらちゃんとつかえたよ。わたしは天上を燃やすとこだったけど」


サラリーがどんな魔法かとコントロールの仕方を教える。するとシューランデルス王子は見事にコントロールして見せて大人の頭の天辺ほどの炎を噴射させる。

「お見事です。シューランデルス王子。それなら先に進む勉強も可能でしょう」


「サラリーは教えるの上手だ。先生が二人に増えちゃった。サラリーにも給与払わなきゃだね」

「そ、そんな滅相もない。与えられた部屋と魔術師の部屋は最上級。衣装も立派過ぎて恐縮です。その上小間使いまで一人付けてくれてこれ以上にお金などもらえません」


「城で暮らす上で最低限の用意をさせただけだよ。魔術師の部屋は代々教育者が使っているものだし…衣装も地味だよ子供なんだから魔術師にしたってもう少し派手なドレスでもいいだろうに」


「というか、ドレスじゃ駄目なんです。魔術師服か職人服ないですか?私はそそっかしいのですぐに汚してしまうのです。ドレスは着れません…」

「あるよー。でも子供サイズあったかなぁ。とにかくいってみようか」


歩いてるとハープがぽつんとおいてある部屋が目に入った。

「あーまた扉しめわすれちゃった。王に怒られちゃう」

「あれはシューランデルス王子の楽器ですか?」

「うん。まだ全然弾けないけど今年の誕生日に買ってもらったんだ」


「フルハープじゃまだ手が届かないでしょうからね。弾いてみても?」

「いいよ。さらりーは楽器も弾けるんだね」

「たまたまです。母がハープ演奏者、父が魔術師でしたから」



「ならハープ教えてよ。わたしは独学なんだ」

「わかりました。手の届く簡単なものから教えていきますね」

「ありがとう。それじゃ後で好きなだけ弾くといい。今は衣裳部屋に行こう」


「ああ、すいません。頓挫してしまって、王子様でもありがとうなんていうのですね。少し驚きました」

「何故?普通の言葉でしょう?」

「でも王族は頭を下げてはいけないものと習いませんでしたか?」


しばし、シューランデルス王子考える。確かにそんなようなことも教わった。

「でも、時と場所と場合と相手によるんじゃないかなぁ。今二人だし」

「確かにそうですね」

サラリーはにこやかに返した。


衣裳部屋では衣装はサイズ順に並んでいる。子供の衣装は年齢順に並んでいた。

「どうにか着れそうなのある?」

「ええ、5着ほど持っていっていいですか。」

「いいよ。あげるから好きにするといい。ここはわたし専用の衣裳部屋だからね」


「女性物も多いですが?」

「汚れて騒ぐのは女が多いからさ。テルシーアにまかせたら9割女物になった」

「えっとテルシーアさんとは?」

「わたし付きの召使監督役兼女性を相手する指南役。女性の手のとり方から煩い」


「あはは、それは大変ですね。それじゃ楽器お借りします」

「わたしは部屋に行くよ。苦手なマナーの時間だ」

「王族には必要不可欠です頑張ってくださいませ」



「それでサラリー、この坊やの基礎力はどうだったんだい?」

「基礎はしっかりしてます。魔術師が意地悪したらしく炎の噴射を見よう見真似で使わせたらしいです。相手は火も出ないと思ってたのでしょうが天上まで火が昇って昨日使えるようにそれだけは教えておきました」


「坊や使ってみな」

シューランデルス王子は昨日の教え通り大人の頭の上ほどの高さで魔法を使う。

「完璧だね。その魔法が使えて他の魔法が使えないのが笑えるね。言っとくが治癒系の魔法のが遥かに難しいよ。覚悟してついてきな。その前に攻撃系の基本を覚えることだ」


「えー、また基礎?」

「大丈夫だ。坊やの期待は裏切らないよ。ただ魔法慣れと攻撃魔法の仕組みを知るためのもんだ。しっかり身につけな。護身にもなる」

「はーい。頑張りまーす」


こうしてカデリアはシューランデルス王子の魔法教育係りとなった。変わり者で教え終わると自分の家に魔法移動で帰ってしまうし、王子の教育中についでにサラリーも教えてしまう横着さだが実力は本物で5年ほどでサラリーは宮廷魔術師に並ぶほどの実力を身につけ王子も治癒系の魔法は結構なレベルまで身につけてしまう。


カデリアの教育は15歳になった今でも続くが週2回の教えになっていた。


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