カロルとサラリー 外伝

むかしむかしそれは異世界でのお話。

主役の王子の名はシューランデルス。だけど今日は少し時間をさかのぼりカロルとサラリーの物語。


時間をさかのぼるといってもさほど昔ではなく二人が18歳になった頃のお話。サラリーがハープの前で泣いている。例のごとくシューランデルス王子が扉を閉め忘れたと思い扉を閉めようとしてみてしまった。


サラリーは強い。カデリアの元修行をつんだ彼女はもう10年足らずの修行で正式な魔法使いとして認定されていた。国の城に住まう以上、何らかの役目がくるものとは思っていたが、いきなり宮廷魔術師補佐役の任務にあたれというのだ。


そしてサラリーは泣いていた。

「サラリー?いいか?ここじゃ人目に付く部屋に行こう」

カロルがそういうと抱きついてくる。同じ歳で同じ頃から城に住まう二人は決して仲はわるくない。時には慰めあい時には叱咤し今日まで仲良くやってきた。


部屋に来るとカロルの存在も居て少し落ち着いたらしい。来月から宮廷魔術師補佐役に命令が下ったことを言うとカロルが不思議そうな顔をする。

「それで何故泣いている。サラリーはもっと野心家だと思ってた。未来の宮廷魔術師第一候補だぜ?」


「でも私はシューランデルス王子が大好きです。でも立場上そうなれば優先的にかまってあげられなくなります」

「それは王子を愛していると意味で?言ってるのか?身分違いだぜ?」


「馬鹿!そんな意味でなんか恐れ多くて言えません。それに私はモゴモゴ…」

カロルが唇に口付けしてくる。サラリーもそれに応え長い口付けを交わす。何度となく二人の間では交わされている行為だ。だからカロルは意地悪を言った。


「お前でも口を濁すんだな。女ってのは面倒だ。俺は愛してるよ。そして俺もシューランデルス王子が大好きだ。王子の近衛だからやっている。昔は近衛になりたいと思っていたが今は王子の近衛じゃなきゃ辞職する」


「辞職してどうする気?」

「王子付きのボディガードにでもなるさ。ついて来い。そん時は」

そう言うと再び口づけをしてサラリーを押し倒す。カロルがその先を望んでることをしってサラリーが慌てる。


「カロル早すぎるわ貴方は18歳よ。女の私はともかく…」

「恋愛に早すぎるものもあるか、おちおちしてたらお前なんか他の男に取られちまう。結婚しよう。俺の部屋は王子の隣だ。隣まで来て挨拶しない訳にもいくまい」


「その釣りえはちょっとずるい。押し返せなくなっちゃったじゃない」

「いいだろう。初めて出会った時から魅了されつづけてきたそろそろ頃あいだ」

そうして二人は結ばれる。




「カロル?宮廷魔術師補佐役の大任式を一月遅らせて、結婚式をするってごねたんだってね?」

「ここだけの話ですがサラリーは宮廷魔術師なぞ望んでいません。シューランデルス王子にこそ仕えるべき人だと願っております」


「わたしはとても嬉しいけど、サラリーの実力では勿体無い話だね」

「俺も王子についていきますよ。結婚したら結婚先まで職を辞しても俺とサラリー食わせてくれよ」


「それは構わないけど宮廷魔術師に怨まれそうだなぁ。カロルはもともとわたし付きの近衛だったけどサラリーは来たときから将来宮廷魔術師に有望とされてたし、そろそろ宮廷魔術師は歳が歳だからね。跡継ぎが早く決まってほしいのは本音だろうと思うよ」


「だよなぁ。サラリーを奪うんだ将来の宮廷魔術師ぐらい決めといてやりたいな」

「明日、カデリアが来るから相談してみようか。彼女なら森の魔法使い以外にも知ってそうだし、宮廷仕えを拒否している魔術師も知っているだろうからね」



「結婚するぅ?魔術師がその若さでかい?」

「なにかまずいのでしょうか?」


「宮廷魔術師の座を蹴ってまで愛したい男が居れば別に構わないさ。異例だけどね。

それで次の宮廷魔術師ねぇ…宮仕えしてる中じゃジャリーが一番だろうさ。地味な魔法を覚えるのが好きな奴だが大きな魔法が使えないわけじゃない」


「サラリーはカロルと一緒にわたしに仕えてくれるというんだ。ありがたい話だね。宮仕えしてないものには優れたものはいないのかいカデリア?」

「みんな優れてるよ。だけど仕えるのがいやな奴が宮廷魔術師などなるものかい」


「それもそうだろうね」

シューランデルズ王子がコロコロと笑う。つられて皆笑った。

「一人だけいるかもしれない。昔愛人になるのが嫌で逃げ出した魔女が居る。一人娘を作っていたはずだサラリー並に若いが母親の実力を受け継いでれば…いける」


「わたしが動いちゃ駄目だろうね。子供だしサラリーみたいにわたしにつくと言われても困るし父上を説得してみるよ。場所を教えてくれる?悪いけどサラリーもついていってくれる?今の宮廷魔術師は話術には長けてはいないからね」


「それじゃまるで私が話術に長けているように聞こえます」

「カロルはいつも勝てないでいるみたいだけど?最近はカデリアも言いくるめるよね。長けてると言えるとわたしはおもえるのだけどもちがうかな?」


「ものは言い様です王子。それでは宮廷魔術師殿に失礼に当たります。あくまで私は結婚の道を選ぶことで自ら宮廷魔術師になる道を辞しました。その為、宮廷魔術師になって欲しい方に懸命になってくださるよう説得しに行かねばなりません」


「ややこしいものなんだね」

「俺もそう思う」

「わしゃもそう思うねぇ。優れてるものを認めて何が悪いんだか」


「カデリアおば様まで世の中には渡り方というものがあることを教えてください」

「それは分野外だ。魔法以外に興味はないんでねぇ。坊やは自然に身につくさ」


そしてサラリーがカデリアから聞いたことにし王に進言する。王は昔恋人にしたかった女がどんな魔女になってるか興味心身で娘が居ると聞くと目を輝かせた。そして一個中隊を引き連れて山に昇り娘を説得し連れ帰ってきたのである。


まだ17歳という若さだったが実力は上々、王宮マナーまで身につけている優れものだった。王が愛した娘だけあって見た目も上々、宮廷魔術師も気に入り自分の跡継ぎとしていろいろと教え始めた。サラリーと違い素直なところもいい。




一件落着したところで結婚式だった近衛隊長と宮廷魔術師補佐役の結婚式である。

城では大々的に行われ、民衆にも酒が配られた。まだ若すぎる二人に心配の声も上がったが、二人の立ち振る舞いをみれば誰もが安心し納得した。二人とも王宮マナーを完璧に習得して笑顔を絶やさない。こんな見事な仮面夫婦もいまい。


シューランデルス王子は二人を見ながら自分に対する態度と他人に対する態度がここまで変わるものかと半分呆れながらも二人を祝福した。


そして一週間後正式に宮廷魔術師補佐役への就任式がサラリーに行われ彼女はそれからしばらく宮廷魔術師補佐役として活躍するのだった


王子とカロルとサラリーの関係はほぼ死ぬまでそう変わらない。気の置ける存在であり口の悪いところや、やかましいところもあったが二人はずっとシューランデルス王子に仕えて行くのだった。


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