スノードロップ

鷹山

病照

 僕には彼女がいる。彼女は母のいない僕にとってはすべてで宝物。

彼女の少し冷たい、でも暖かな手のぬくもりと彼女の凛と澄んだ

スノードロップの香水が僕の心を癒してくれる。

 彼女は言う。

私のことはすき???と。

少し顔を赤らめる彼女の眼を見ながら僕は強く頷いた。

 彼女はそれを見てきらめく星のような笑顔を僕に見せた。

そして彼女が僕の手を、心を包む力がまた一層強くなる。そんな時だった。

一人の女性から声を掛けられ道を聞かれた。僕はすぐに答えたが彼女は少し顔を青くしたようにしてトラに追われるヤギのように逃げていった。

 なぜだろうか。僕の言い方が怖かったのだろうか。と僕は反省した。

なんせこの町は小道が多く観光客は迷いやすい。なので聞かれることも多い。

 それに対して怯えさせてし申し訳ない。僕は彼女に

どうしたらもっと優しい言葉遣いができるだろうか。

と聞いた。

 彼女は少しはにかみながら、

君は君のままでいいよ。それがいちばん優しくてあったかい

という。僕はその言葉がとても嬉しかった。

 彼女と話していると負の感情が眠りから覚めた時のようにすっと消える。

彼女の包容力のおかげだろう。

 しかしぼくは今日、はじめて彼女の家に誘われた。

せめて営みくらいは僕がリードしてあげなければならない。

そうまるでオリンピックに挑む選手かのような高き志を持っていた。

 彼女は僕に言う

私のことは好きか??と。

 二度も聞く彼女に疑問を持ったが僕はもちろんだ。と頷いた。

今後どんなことがあっても???と彼女はいう。

もちろんだ。と答える。

 この気持ちに一点の曇りもなかった。この時までは。

彼女はうれしいと笑顔をこちらに向けた。

 そんな幸せな話をしていると彼女の家に到着した。

彼女は一人暮らしをしている。彼女が言うには防音対策もばっちしで営みにはばっちりだとのことだ。

 ぼくはワクワクしながら彼女の住処に足を踏み込んだ。

部屋はシンプルな黒と白が基調になっているが、ところどころにおいてあるぬいぐるみが女性らしさを引き立てていた。

 しかしそこにはベッドはなかった。

彼女に聞いた。君は布団で寝るのかい?と。

 彼女は大きく笑いながら、そんなものはないよ。という。

 では普段はどこで寝ているのか。と聞くと

 彼女は少し不思議そうに寝るところなら床で十分と答えた。

僕は少し驚いたが、まあそういう人もいるかと特に気にもしなかった。

 彼女と僕は白色のソファに座りお茶を飲んだ。

彼女の出すお茶はとても舌触りがよく喉をすっと徹感触があったが少し後味が酸っぱく亜鉛のような香りがした。しかし不思議とまずくはなかった。

 少しの静寂に耐えかねたのか彼女はふと僕に聞く。

母親の顔は覚えているか、と。

 僕は、ぼんやりだが覚えている。なんせ小学生のころまでは生きていたから。

と答えた。

 ではなぜ亡くなったか。と彼女は聞いた。

 僕にはその理由はわからない。と彼女に答えた。

そして彼女は、母親のは覚えているか。と聞いた。

 とても奇妙な質問だった。少し場を明るくしようとしてくれたのだろうか…

僕はとりあえず、そんなもの知るわけがないだろう。と彼女に微笑んだ。

 彼女は言った。じゃあだね。と

何を言ってるかよくわからなかったので僕は軽い返事をし、スルーした。

 そしてそのあと少し話したのち行為に至った。

彼女の声は部屋中に響き、ソファの軋む音とともに僕は彼女の快楽に沈んでいった。

 行為が終わり少しして彼女は僕に聞いた。

私のことは好きか??と

 僕は、好きだといった。

 すると彼女の感謝の言葉とともに僕の腹にナイフが突き刺さっていた。

僕は呼吸とともに流れる大量の血を見て叫び苦しんだ。

 彼女は笑っていた。

僕は絞り出すような声で聞いた。なぜこんなことをと。

 彼女は笑いながら、あなたが好きだからよ。と。

  ここで僕の意識は途切れた。

その瞬間、最後に僕が感じたのはスノードロップの香水の香りだった。


















































スノードロップの花言葉:あなたの死を望みます

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スノードロップ 鷹山 @hijiki0808

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