タイムボクセル
光城志喜
見えない色あせ
今日で自分の部屋ともお別れか……
自分の部屋なのに目新しいものがいっぱい並んでいた。
棚があった壁には日光で影がついている。
綺麗にしようとしたが、元に戻すことができずにそのままになってしまった。
部屋のレイアウト自体は今まで通りのはずなのにどこか違うような気がした。
明日からはこの部屋が妹の部屋になる。
四月から妹は高校生として生活をしていくために、となりの狭かった部屋から昇格したのだ。
僕は大学付近にある都内の狭いアパートに引っ越すわけだが、これは降格なのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながらも学習机の大きい引き出しの中を手で探る。
「確か、この奥に箱が……」
箱の中には大事にしていた大会で優勝したレアカードが入っている。
いつでも見れるようにケースに入れ、右下の引き出しに入れたはずだった。
小さい頃から片付けをしない癖ですぐに引き出しに入れてしまうため、中には色んなものが入っていた。
机の上には中に数本入っている鉛筆の箱やたくさんの文房具の山が出来ていた。
探していると今までと違った感触が手に伝わってきた。
取り出すと紙が貼られた白い立方体が姿を現す。
紙を開くと本人だけ開けるように書かれていた。
横に引っ張ったり、押し出してみたりしたがびくともしない。
いろいろ試していると手が滑って箱が落ちてしまった。
拾い上げると蓋と箱の角度がずれていた。
「いや、回すんかい!」
洞察力の無さを痛感した。
箱の中を覗くと一つのUSBが入っていた。
気になった僕はパソコンを持ってきてUSBの中身を確認する。
画像ファイルのアイコンをダブルクリックした。
そこには元カノと遊園地で遊んでいる写真があった。
「写真は楽しいままでいいよな。」
過去の幸せと現在の虚無は日焼けをした壁と同じように僕も光と影が濃くなっていくのだろう。
忘れたくても消す覚悟のない人間はいつまでたっても染み付いて、見えない色あせが脳裏に焼き尽く。
元に戻すことができないのならば、許容していくしかないのが人生なのかもしれない。
データの入ったUSBをポケットに入れて部屋をあとにした。
タイムボクセル 光城志喜 @koojyoo
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