第31話「先輩、感想は?」
「なんで先輩が来たんですか? わたしは花音先輩と……」
ファミレスの席に座っていた
「花音のこと、そんなに信頼してたのか?」
「いいえ。わたし、あの人、あまり好きではありませんでしたから」
それが
「そうか。じゃあ、騙されても文句は言えないな」
「せ、先輩のことだって、す、好きではないんですから」
頬を染めながら視線を逸らす
「俺さ、アイシス辞めてきたよ」
「え?」
「雪姉から卒業したんだよ。俺の初恋はもうお終い。そもそも、始まってもいなかったんだけどな」
まずはインパクトのある俺の事情から話す。本題はその後だ。
「なんで……」
「俺は相棒を迎えに来たんだ」
「相棒?」
言葉の意味をわかっていないように、呆けた顔をする
「おまえのことだよ」
「わたしは先輩とはもう……」
「
「それは……わたしが認めた作品じゃないから」
「プロ相手に大口叩いてるな。作者本人か出版社に聞かれたら、一生その業界じゃ生きていけないぞ」
「いいんです。わたしはもう絵を諦めます」
「なんだよ。絵を描くのは好きなんだろ?」
「でも……」
俺を騙したことがそんなに心の重荷になっているのか?
「別に絵を描くのに資格はないよ。それに描きたくないなら描かなければいい。いつか、おまえの認める作品が出てきたら頑張ればいいじゃん」
「わたしは……先輩の作品以外には描きたくないんです……って、勘違いしないでくださいよ。先輩の作品が好きなのであって、先輩が――」
「おまえ、ツンデレキャラは似合わないな」
「だって、演技指導受けてませんもん」
しゅんとなる
「だったら小悪魔キャラに戻れよ」
「でも、あれは演技で、本当の自分ではありません」
「でもさ、本音で話してただろ? 脚本はほとんどなかったって言ってたじゃん」
自信過剰だったけど、でもそれは、すべて岩神
「そりゃ、花音先輩は方針しか示してくれませんでしたから。それに本音っていうか、本能のまま行動してたというか……自分の言動を思い出すと恥ずかしくて、毎晩、布団で悶え苦しんでいたんですからね」
その姿を想像するとかわいいな。
「俺はさ、あれも
「そ、そんなわけないじゃないですか。それじゃ、二重人格ですよ」
「多重人格というより、ただの多面性だよ」
「へ?」
「人間ってさ、他人に見せる面はそのつど変化していく生き物なんだよ。それが多面性。社会を築いた時点でそうならざるを得なかった。中学時代の地味な
多重人格の交代人格のように、それぞれが独立しているわけではないのだ。
「……」
「それでいいんだよ。だから悔やむことはない。嘘だけど嘘じゃない」
「でも、わたしは先輩を騙して」
「それは俺が許す、それよりもおまえを傷つけたことを謝りたいよ。すまなかったな」
俺がテーブルに頭が着くくらい下げると、
「せ、先輩、顔をあげてください」
俺はその言葉で、顔を上げてにっこりと彼女に告げる。
「
「な、なんでわたしなんかと……」
「だから、最初っから言ってるだろ。おまえを迎えに来たって。俺ならばおまえの認める作品を書けるんだろ? だったら描けばいい」
「先輩と……それってプロポーズ」
「おお、戻ってきたな。そういうとこ好きだぞ。プロポーズじゃないけどな」
俺が軽いノリで好きと言った途端、真っ赤になる
「女子高生にそんなこと言うなんて、健全じゃないです」
「人妻に言うよりはマシだろ」
「う、先輩いじわるです」
「対抗するなら、小悪魔に戻るしかないぞ」
「……」
「話戻すぞ。俺はさ、おまえと組むなら、別に小説にこだわる気はないと思っている。だって
こいつが始めたのはマンガからだ。
「俺がシナリオ書いて、おまえがマンガを描く。それでどっかの出版社に持ち込むとか、そんなんでもいいな」
「……」
「もしくはな。ゲームでも作るか? 今はインディーズでも活動しやすいプラットフォームもある。あと何人か声をかけなければならないかもしれないが、外注でもいいだろう。もちろん、シナリオは俺で
未来の可能性はどんどん膨らんでいく。
「……先輩、ズルいです。そんな美味しい話をわたしに持ちかけるなんて」
「けど、ゼロからスタートだ。困難な道のりだぞ。それにスタートするのは、
「どうしてです?」
「おまえはまだ子供だからな。責任は負わせられない。でも、高校時代にいろいろ経験して、経験値を溜めておけ。将来の仕事に役に立つかもしれないだろ。まあ、保険で、大学に行っておくのもいいだろう。そこでまた、小悪魔キャラでサークル作ってもいいぞ」
彼女が傷つく環境はなるべく排除すべきだ。それに未成年に責任なんか負わせられない。
「保険なんていりません。それに高校卒業したら、小悪魔なんて気取ってられませんよ。ただの悪魔です」
ウィットの効いたジョークってわけでもなく、彼女は本当に邪悪なものと思っているのだろう。
「それもいいかもな。小悪魔が悪魔にクラスチェンジしたところで、俺は気にしない」
異世界に転生したら勇者になるくらいの自信はあった。
「先輩のそういうところ、強気ですよね」
「とにかく大学は行っておいた方がいいぞ。潰しが利く。美大でもいいからコネは作っておけ。絵で食っていけなくなっても、それに関わる仕事に携わることができるぞ」
「そんなのどうでもいいです。わたしを誘惑した先輩に全責任を負ってもらうんですから」
誘惑って……ビジネスパートナーに誘ってるだけだろうが。
「おいおい。俺には失敗したときの責任はとれないって。まだそこまでの稼ぎはないんだから」
「先輩、腹をくくってください。可憐な美少女を誘惑しているんですから」
「わかったよ。けど、
「先輩とならどこまでも!」
「ね、先輩。先輩との契約の証として二人で自録りしますんで、こっちに来て下さい」
「めんどくせーな」
俺はしょうがなく、
「撮りますよ?」
「勝手にしろ」
俺はスマホの画面から目を逸らす。
「はい、3、2、1、ちゅっ!」
擬似シャッター音と同時に、
「はい。女子高生への淫行の証拠が撮れました。これで先輩は逃げられません」
一瞬、背筋がぞっとなる。
「てめえ!」
「冗談ですよ。でも、これは契約のキスです。だから記録したんです」
スマホを口元に持っていき、小悪魔的な笑みを浮かべる
「契約ねぇ……」
「先輩、感想は?」
「苦すぎる」
「えー、甘いキスだったのにぃ」
いつもの
俺たちの戦いはこれからだ!!!
□omake side -雪音-
家に帰ると、毎度の事ながら花音が私のベッドで寝転がっていた。
「雪姉お帰り」
「ただいまぁ、まったく悦司さんが出張だと、我が物顔でベッドを占領するんだから」
「だって、雪姉の匂いを独り占めできるの、今だけなんだもん。それから、月姉と喧嘩しちゃったから今日泊まるね」
「まあ、いいわ。けど、ちょっと疲れているから、あんまり花音の相手はできないわよ」
アイシスは今、ほぼワンオペ。休憩時間すらとれない。肉体的な疲れが溜まっている、私も年なのかしらね。
「亮にぃの代わりのバイトの子、まだ見つからないの?」
「亮ちゃんみたいな優秀な子、そうそういないわよ。アイシスとしては痛手ね」
「雪姉の自業自得じゃない?」
「うふふ、それは少し反省している」
ちょっとやりすぎちゃった感はあった。
「雪姉の魂胆がまったく外れたもんね」
「そうね。あの子が私好みの作品を書くことも、もうないのだから」
「雪姉は毎回詰めが甘いのよ。昔、亮にぃが流行物で成功したからって、ネットで炎上させて再起不能にさせてしまうし、今回のことだって」
なかなか私の思い通りに事は運ばないようだ。
「それでもいつか、あの子がまた私好みの作品を書いてくれることを願うわ」
「ほんと雪姉って病気だよね。亮にぃ本人より作品の方が優先なんだもん」
「それはしかたがないわ。その欲求を抑えきれないことこそ、
「まあ、そこが雪姉の愛おしいところなんだけどね」
最愛の妹は嬉しそうにそう笑った。
了
◆あとがき
これにて終幕。
今回は完結まで執筆してからの投稿。見切り発車の連載では仕込めなかったような、細かい伏線を張っています。
もう一度最初からお読みいただくと、『ヒロインの印象が変わってくる』という、一粒で二度美味しい方式ですので、ぜひともお試し下さい。
物語も完結ということで、レビューや『★で称える』がまだの方は、ぜひともよろしくお願いいたします。
プラスにしろマイナスにしろ何かしら心に残るものがありましたら、レビューや感想(SNSで発信しても構いません)を書いてくれるとありがたいかな。
評価も★1であってもそれは読者からのご意見として、しっかりと受け止めますのでお気軽にどうぞ。
では、また次の作品で会いましょう。
小悪魔な女子高生を拾ったけど、振り回されるのは嫌なので大人な対応をしてやったら懐かれた ~契約のxxxは、ほろ苦いシロップの味~ オカノヒカル @lighthill
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます