煙草

@isonomanami

煙草

狭い僕のワンルームに彼女が高めのワインを持ってやってきた。



ワインにつられて部屋に招き宅飲みを始めた。



“じゃああんたは恋愛とかしないんだ。”



なんの興味もなさそうに彼女は言った。



“君は恋愛しないと生きていけないタイプだね。”



僕はあえて悪意で返した。



彼女は表情1つ変えずに言った。



“愛のない人生なんて楽しくないでしょ。”



僕はあえて笑って答えた。



“それには同感だね。”



彼女のイライラが沸々と湧き上がっているのがわかる。



“意味分かんない。”



僕はあえて嫌味っぽく答えた。



“だろうね。”



彼女は溜まったイライラを拳にのせ、僕の腹を殴った。



“しばくぞ?”



僕は油断していた腹を擦った。



“しばいてんじゃん。”



彼女はまた興味なさそうに聞いた。



“あんたの恋愛って何よ。”



僕は即答した。



“この世で1番要らないもの。”



彼女はこの質問について深く聞かなかった。



代わりに全く別物の質問をした。



“じゃああんたの愛って何よ。”



僕は少し考え込む素振りを見せた。



彼女は心底うざそうに



“そういうのいいから。”



とぶった切った。



僕は鼻で笑い答えた。



“1番脆くて邪魔で必要なもの。”



彼女は僕を見つめたあと溜息をついた。



“違いがわからないんだけど。”



僕はあえて嫌味っぽく答えた。



“だろうね。”



彼女からまたイライラを感じ取った。



“いいから説明しろや。”



見た目からは想像出来ないくらい口の悪い彼女を見て盛大に笑ってしまった。



イライラの溜まった彼女にまた腹を殴られた。



咳き込みながら僕は答えた。



“恋愛とはある1人の人間を愛し続けること。”



彼女は頷いた。



“愛とはある1人の人間を愛し抜くこと。”



彼女は首を傾げた。



“何が違うの?”



僕は答えた。



“恋愛は一時の感情、愛は永遠の感情。”



彼女は眉間に皺を寄せた。



“はぁ?恋愛だって突き詰めれば永遠じゃない。”



僕は煙草を取り出し口に咥えた。



煙草の煙をあえて彼女の顔の前で吹く。



“そんなんだから君は馬鹿だと言われるんだ。”



彼女は今日1の殴りを僕の腹に決めた。



“今のは言葉より煙草にむかついた。”



3発殴りをくらった腹を労りながら謝った。



“ごめんごめん。”



彼女は僕の煙草を奪うとさっさと灰皿で火を消した。



その動作を虚しく目で追う。



“で、どこのどちら様が馬鹿だって?”



最大限の怒りを込めて彼女は問う。



“ごめんて。”



彼女は顎で続きの説明を求めた。



“両思いの確率ってどのくらいあると思う?”



彼女は本気で考え込んでわからないと言った。



“約2025億分の1の確率。”



彼女は顔を綻ばせた。



“え、すご。運命じゃん。”



思惑通りの返事に僕も顔を綻ばせた。



“そう、恋愛は運命なんだよ。本物ならね。”



彼女はまた不思議そうに首を傾げた。



“愛は本能、恋愛は運命。どっかの誰かが残した名言。”



彼女は結論を話さない僕に飽きだしていた。



“だから?”



“だから愛は本物で恋愛は偽物。”



彼女の顔がまた一層曇った。



ここまで言ってわからない彼女も鈍い。



“だから?”



“だから愛になりきらなかったものが恋愛。”



彼女は更に問い詰めた。



“だから?”



“だから愛を知らない人間は愚かで脆い。”



鈍い彼女も流石に勘づいてきたようだ。



それでも彼女は僕を問い詰めた。



“だから?”



僕は少し間を溜めて答えた。



“だから、君は可哀想だなぁって”



彼女は今日で1番優しくて痛い殴りを僕の腹に決めた。



“ふざけんな。何が可哀想なんだよ。”



元ヤン級の口の悪さで僕に怒りを爆発させる。



“意味分かんない。あんたに恋愛してるあたしが可哀想って?大きなお世話じゃぼけ。”



僕は彼女の言葉を痛く受け止めた。



“何?愛を知ってるあんたが偉くて、恋愛してるあたしが惨めって?”



僕の胸ぐらを掴みながらキレる彼女に手を伸ばした。



“いや、綺麗だなぁって。”



彼女の思考が停止し体が完全に固まった。



彼女の顔の前で手をひらひらさせながら僕は言った。



“沢山の人と恋愛してる君は惨めで可哀想でとても綺麗だよ。”



言葉の真相を知った彼女は怯える胸ぐらから手を離した。



“ただ僕は君のように恋愛は出来ない。

僕はこの狂気じみた重い愛しか持ち合わせてないからね。

君は僕を運命的に愛していても本能的に愛してないだろう。”



彼女は怪物を見たかのように目を見開いてもう1度胸ぐらを掴んだ。



そして、噛み付くように唇を重ねた。



“可哀想な人。”



唇を擦りながら彼女は僕に言ったセリフをそのまんま返した。



彼女の大きな目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。



“さよなら。”



そう言って出ていった彼女の背中をやるせなく見送った。



彼女の残した涙に僕は欲情した。

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