冒険者養成学校をつくろう!!
カネヨシ
第1話 冒険者養成学校をつくろう!
「冒険者養成学校をつくろう!」
「……唐突ですね」
「口に出すのは初めてだが、前から考えていたんだよ? きっと需要があるぞ。儲かるに違いない!」
「需要、あるでしょうか? 冒険者って、学校に通ってなるものではないでしょう」
「ああ、そうだな。基本、子供のお使いレベルの依頼から始めて専業化、ランクアップしていくんだから学校なんて必要ない。学校に行く暇があれば依頼をこなすべきだろう」
「ですよね。それなら需要なんてないのではありませんか?」
「そう、確かに冒険者や冒険者を本気で職業にしようとしている人には必要ない。よってそこに需要は発生しない。
しかし! しかしだよ、カレン君!」
「カレンさんは先代の秘書さんでしょう。何度も申し上げましたが、私はコンサルタントのジェシカです」
「そうだったね、ジェシカ君!」
「それで、何が『しかし』なんですか?」
「冒険者養成学校の需要を作るのは彼らではないということだよ」
「では、一体誰が需要を作るというのです」
「中流階級以上の人たちさ! なんでも最近、『冒険者は高給取りだ』という噂が巷で流行っているらしいんだ。それを聞いた人の中には、冒険者になりたいと思い、それでいて自ら行動に移せない人たちがいるんだそうな」
「なるほど。そう聞くと途端に面白い考えに思えてきました」
「そうだろう、そうだろう!」
「つまりは、現実逃避をしたり、冒険者以外の職に就く前のモラトリアムを延長したりする方法を求めている人に、都合の良い場所を与えようということですか」
「その通り! やはり勉強を苦手とする層には、少し危険を冒すだけで大金を得られる職は魅力的に映るのだろうね」
「私には、とても楽な職業には思えませんが」
「そうだね。楽だなんてとんでもない。他人の手助け無しには生きられない体になることも多いし、下手をすれば死ぬこともある。転職しようにも市場価値は低く、個人事業主扱いだから固定給なんてものも無い。怪我や死亡のリスク、不安定な収入、人生計画も立てにくい。大変な職業さ」
「それでも、一部の優秀な冒険者がすべてだと思い込んで、淡いあこがれを抱く人たちもいるのですね。生まれ育った環境が良いからこそ、でしょうか。隣の芝生は青く見えると言いますし」
「まあ、何はともあれ需要はあるんだ。冒険者ギルドの方にも話を通そう」
「商人ギルドからの話に応えてくれるかはさておき、具体的にどんな学校にするおつもりですか?」
「授業内容は考えてある。座学では冒険者ギルドの仕組みを学んだり、自分のキャリアプランを考えたりする。実践的な内容としては、身体を鍛えることに集中しよう。スポーツをたくさんすれば楽しんで満足してくれるはずだ。あとは適当に現役冒険者を講師に呼べば、広報もばっちりできる。
『現役冒険者が教える冒険者への道!
君の夢を形にする学校!』
という具合でね」
「詳細は後で詰めるにして、特に問題は無さそうですね。冒険者ギルド公認ともあれば箔が付きますし、講師の依頼を出せばつながりも深まります。ですが、国からは承認を得られるでしょうか」
「そこも考えてある。結論から言うと問題ない!」
「やけに言い切りますね」
「ああ! なぜなら、学校法人を設立するわけではないからだ!」
「……冒険者養成学校。学校、ですよね?」
「名前には学校と付けるが、株式会社として設立しようと思うんだ」
「それは……本当に、商売としてしか考えていないのですね」
「だからこそ君に相談しているんだよ、マーガレット君」
「ジェシカです」
「ジェシカ君。ここは商人ギルドで、私はそのギルド長だ。教育は国に任せて、私たちは利潤を追求するんだよ」
「ええ、そうですね。ですが、そろそろ社会貢献も考えたほうがよろしいですよ。評判は大切ですから」
「そちらにも勿論手を回しているさ! 貧民街の教育事業への投資とか、田舎の町おこしとか。その他いろいろとね」
「流石です。しかし、私にはその情報が回ってきていないのですが」
「…………さあ、君にも相談したことだし、さっそく学校設立に取り掛かろうじゃないか!」
「はあ……わかりました。私もサポートいたします。ですが、前にも申し上げた通り、ちゃんと事業報告はしてくださらないと困ります」
「すまない」
「本当、お願いしますよ」
「わかった。しかし、意外にも君に否定されなくて自信が持てたぞ。今から上手くいきそうな気がしている」
「私がいますから」
「心強いな!
いやしかし、この国では初めての試みだ。やることは多い。障害も出てくるだろう。それでもやり遂げてみせるのが私の腕の見せ所。
私が主導する。ジェシカ君もいる。上手くいくこと間違いなし!
よし、冒険者養成学校の始まりだ!」
冒険者養成学校をつくろう!! カネヨシ @kaneyoshi_book
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