デバフスキルで最弱無双~俺が弱いのであれば周りを更に弱くしちゃえばよくね?~ハナシガハヤイver

いくらチャン

始まりと終わり


「サトウタクマ! 貴様の持つスキルは勇者には相応しくないッ! よって、勇者の資格を剥奪し、国外へ追放とするッ!!」


 玉座の間で声高々にそう宣言したのは、俺達【勇者】を召喚した国、オイスタール王国筆頭宰相フォスゲンである。


 見知らぬ異国の……いや、異世界での追放宣言。事実上の死刑宣告ともとれるそれを聞いて、俺は顔を伏せて肩を震わせる。




 事の始まりは二週間ほど前。平凡な高校生ライフを送っていた俺は、どうやって未成年とバレずにエロ本を買えるのかと友人達と喧々諤々の議論を交わしていた。そんな時、突如足元に変な模様が浮かび上がり、気がつけば知らない城でおっかない兵士に囲まれていた。

 俺の他にも数人の人たちがつれてこられており、しかもオリンピックが開催されているせいで二人ほど外国の人まで混じっていた。

 驚いたのがその外国人とも普通に会話が出来ていて、どうやら召喚とやらで呼ばれた人は、あらゆる言語を脳に直接叩き込まれるらしい。なにそれ怖い。


 俺たちが呼ばれた目的は、世界を脅かそうとする魔王の討伐。魔王が世界を滅ぼすと、次は俺たちの住んでいた地球がやばいらしい。なんでも、呼ばれたこの世界と、俺たちの世界は表裏一体なんだとか。知らんがな。

 まぁそんなこんなで俺たちは【勇者】と呼ばれ、特別なスキルを持つ。実際、呼ばれた全員がスキルを持っていた。俺も含めて。

 確かに、みんな凄い能力やスキルを持っていた。召喚されたときに元々の身体能力とかは補正がかかるらしく、呼ばれた外国人の一人であるウルサイン・ボルテッカさんは陸上の世界選手であり、その足の速さは馬をも追い越していた。元の世界で俺がやっていた馬の美少女擬人化ゲームも真っ青だ。ウルサインさんは男だけど。


 さて、そんな中で俺はというと、元々ただのオタク高校生の身体能力なんてそんなものあるわけもなく、1に何を掛けても1な様に、俺の身体能力は一般人のそれと同じ、下手をすれば一般人以下であった。

 しかも、スキルは【弱体化】。デバフスキルというやつだ。ゲームなどでデバフは重要な要素である。しかし、現実問題でデバフスキルは死にスキルであった。


 まず、ゲームと違って撃てば当たるわけではないこと。デバフを使う際、手のひらに野球ボール程の紫色の玉が出てくる。それを当てれば晴れてデバフが成立するのだが、まず第一に当たらない。

 基本的にこの世界の人間は、元々の世界に比べてみんな身体能力が高い。特に戦う事を生業にしている人たちは。なので、ビックリ人間並みのスピードで動くし、見てから回避余裕みたいな事もされる。

 次に、デバフの下がる能力が弱い。当たったところで、精々ちょっと疲れたかなー?程度の、もしかしたら気がつかない程にしか効果がないのだ。

 当たらないし、当たっても効果が薄い。そんなものしか使えない奴を、勇者だのなんだのと言って崇めるのは我慢できなかったのだろう。なにやら裏で色々と事が運び、晴れて追放となってしまったのだ。


「そんなッ!! 見知らぬ土地に勝手に連れてきて、それで出ていけだなんてッ!!」

「えぇい、黙れッ! 我々が読んだのは勇者であって、役立たずの穀潰しではないッ! しかも貴様、我が国の至宝とも言われるエリーゼ姫様に恋慕の情を抱くとは、不届き千万ッッ!! 本来ならば、この場で素っ首を叩き落としてやりたいほどだッ!!」


 エリーゼ姫はこの国における継承権……あれ? 何番目だっけ?

 とにかく、割りとしたの方のお姫様だ。見目麗しく、それでいて心優しい姫様は、俺だけでなく召喚された人みんなを心配し、時には応援のお声掛けもくださっていた。

 最初は『はいはい、実は腹黒だったり、強かな感じなんだろ。知ってるんだ。俺はそういうのに詳しいんだ』と思っていたが、どうもマジで純粋に心のお優しい方の様だ。それ故に、少し危なっかしい部分もあって国王のじい様も心配をしていたんだけど。


「違いますッ! 俺が姫様をお慕いしているのは、この国のみんなが思っている気持ちと同じですッ! そんな、邪な気持ちではありませんッ!」

「ふっ、どうかな。貴様が外で姫様の部屋をじっと見ていたという報告はいくつも上がっている。まぁそれはもういい。貴様は即刻、この城から退去せよッ! 明日、港から出る船で国外へ追放とする。いいなッ!」


 俺は下唇を噛み締め、ぐっと堪えてフォスゲンを睨み付ける。恐らく、周りから見れば俺の形相は今にでもフォスゲンに襲いかかろうとするものだろう。その証拠に、周囲の兵士達が槍を構えてざわめいている。


「わかり……ました。でも、最後にッ! 最後に、一目でいいので……エリーゼ様にお会いさせてください。お願いします」


 土下座をするかの様に地面に伏せ、フォスゲンに頭を下げる。しかし、まぁ予想はしていたが、フォスゲンは嘲笑うように俺の頭を踏みつけた。


「その願い、叶うはずがないだろう? 連れていけ」


 乱暴に兵士に立たせられ、俺は願いを聞き届けられる事もなく、城の外まで連れていかされた。門の外には俺を国外まで連れていく役目の男、オニールが立っていた。


「……残念だったな。まぁ、恨まないでくれ」


 オニールは俺の肩に手を置いて、兵士と引き継ぎを始めた。そして、一通り引き継ぎが終わると、俺とオニールは城下町にある港へとやって来た。

 夕暮れの港は発着する便がないのか、随分と閑散としている。俺とオニールの二人は、波止場の先で海を見つめていた。



「計画、通りだな」

「あぁ。すまない、オニール。君の立場もあるだろうに」

「構わないさ。タクマがこのままこの国に居る方が、世界にとってもこの国にとっても……そして、タクマ自身にも良いことはない」


 オニールは柔らかい眼差しで海を見つめる。

 そう、俺が追放を受けるのは俺は勿論のこと、姫様や国王のじい様、それに近衛兵であるオニールも了承済みのことだ。それには色々と訳があった。


「まさか……魔王に唯一対抗できる手段である勇者召喚。そのもっとも役割の大きいこの国に、既に魔王の手が入っているとはな」

「それこそ、まさかだろ。俺たちの世界にある言葉で、『将を射んとする者はまずは馬を射よ』って言葉もあるくらいだ。力同士のぶつかり合いより、搦め手の方が有利に事が運ぶものさ」

「あぁ、その通りだ。だからこそ……」


 そう、だからこそ、俺が直接魔王城を落としに行く。

 それは他の勇者でも、この国で一番強い騎士でも出来ないこと。

 最弱であり、他の誰よりも弱いからこそ出来る、俺だけの作戦。


「……生きて帰ってこいよ」

「勿論だ。姫様の熱いキッスを貰うまでは死ねない」

「やっぱり、いま殺してやろうか?」

「じょ、冗談だよ」


 そんな冗談とも本気とも思える会話の翌日。俺は晴れて勇者召喚の国オイスタールを追放された。

 手持ちの資金はたったの1000ゴルド。日本円にしておおよそ20000円くらいのものだ。それと最低限のナイフや食料だけの、本当に貧しい旅。

 だが、それでいい。俺の能力を伸ばすには、極限の中で生きることこそが鍵なのだから。


 けれど、ひとつだけ愚痴を言っても良いなら、俺はこの世界を……いや、システムを作った神様気取りに言いたい。



 いまに見ていろよ、このくそったれッ!!



 ◆◆◆◆◆◆


 さて、紆余曲折あって到着しました、魔王の住む魔大陸。実際は違う正式名称があるそうだが、いまはもうこの名前だけで呼ばれている。

 ちなみにここまでの所用時間は一週間。旅費で資金も底をつき、三日ほど何も食べてはいない。正直、いまにでも死にそうなレベルで腹がへっている。

 だが、それでいい。それが、いい。


「さぁてと……世界、救っちゃいますかね」


 ここまで船で連れてきてくれたボブという爺さんに別れを告げ、俺は魔王城を見据える。だが、向かう先は魔王城ではない。むしろ、出来るだけ魔王城から遠い場所に隠れようと、人気のない場所を探して歩く。

 それでも既に敵地に居るという緊張感は凄まじい。が、本来、海岸線等は魔王軍の兵士が監視をしていたりするのだが、それを潜り抜けての上陸なのでいまの所は見つかる心配もない。それが実現できたのは、昔この魔大陸に住んでいたボブじいさんの協力が大きい。


 ボブじいさんの若い頃は、この魔大陸にも人が住んでいた。ボブじいさんはいま俺がいる場所の近くにある村に住んでいたのだが、ある日突然襲来した魔王軍により村は壊滅。

 なんとか逃げ出したボブじいさんたち数名の人は、涙を飲んで違う大陸で生活をしていたのだ。

 そんなこともあり、ボブじいさんは知っていたのだ。普通に船を出せば海の藻屑となるこの海域の攻略法を。


「ここくらいなら大丈夫だろ。持ってくれよ……俺の身体ッ!!」


 もはや鳴らす気力もない腹を押さえ、俺は神経を集中させてスキルを発動させる。使うのは俺が使えるスキルの中でもっとも有効なもの、【同化】である。

 【同化】は自分の状態を相手に押し付けるものであり、自分がかかっているデバフ等を相手にも味わわせる、かなり便利なものだ。ちなみに、バフだと使えない。デバフのみだ。

 まぁそんなスキルなので、当然ながら自分がデバフにかかっている必要があり、下手をすれば死んでしまうこともある諸刃の剣なのだ。


「へッ、いまの俺は『空腹』は勿論、『疲れ』、慣れない旅での『筋肉痛』、風呂に入ってなかったから酷くなった『水虫』。それと……」


 これはまさに取って置きだ。

 恐らく、これこそが俺がこの能力を有し、神によって与えられた役割だったのだろう。


「まぁ、こんな糞みたいな命に意味があるってんなら、案外神様ってやつも良い奴なのかもな。待ってろよ、その顔に一発ストレート決めてやっからな」


 俺は、死病を患っていた。

 召喚をされた時点で既に余命も半年。もはや手の施しようもないと、痛みを和らげる薬をガンガン使って、残りの命を使い潰すように『平穏な日常』を送っていた。

 だが、それを邪魔された俺は内心、怒りが有頂天状態だった。


 なんでもない日常こそが、俺に残された最期の望みだったのに。


 奇跡なんていらない。富もいらない。俺は、ただ友達と馬鹿しあって、笑いながら死んでいきたかっただけなのに。


「まじで、くそったれだなッ!」


 最大限の恨みを込めて、俺はスキルを地面に放つ。

 デバフスキルは当たりづらいし、効果も薄い。一番効果のある技が自爆技だし。けれど、その対象の範囲だけはぶっ壊れていた。

 大陸全土を覆う様に発動された、俺の【同化】スキル。その効果は直ぐに現れ始めた。


 まず、大地が小刻みに揺れ始める。恐らく筋肉痛だろう。

 次に、草木がへにゃっとし始めた。大地が疲れてきている。

 そして、大陸のあちらこちらがカサカサにひび割れたり、水が毒に変わり始めた。


 最後に……。


「てめぇらのせいで、俺の日常がなくなったんだ。同じ気持ちを、味わえ、よ……」


 薬などとうに失くなっていた。それでも耐え続けたのは、この痛みと苦しみを味わわせる為だ。

 呪いに幸あれ。


 薄れ行く視界の中で、魔大陸が崩壊していくのが少しだけみえt



 ◆◆◆◆◆◆



「これより、勇者送還の儀を執り行う。皆様、忘れ物は御座いませんか?」


 美しい少女が、広間に集まった七名の勇者たちを見る。

 その表情は皆、還れるという安堵があった。しかし、一様に何処か寂しさも抱いていた。


「タクマ……君の事は忘れない。私は故郷の国で、彼の持つ本当の勇気……勇者の意味をみんなに伝えるよ」


 タクマと共に召喚された一人、ウルサインはそう言って少女が手に持っている壺を見つめる。


「そうだね。こんな話、たぶん誰も信じてはくれないだろうけど……それでも、僕たちは彼から貰った勇気を胸に生きていくよ」


 サラリーマン風の男はそう言って、目尻をぬぐう。彼もタクマと同様に、この世界に召喚された一人である。

 他の面々も同じ様な心持ちであり、それぞれが新たな志を胸に頷いた。


「この度は、本当に感謝しかありません。皆様のお陰で、魔王の手から救っていただきました」

「そんな、気にすることないよ姫っち。魔王がこっちを滅ぼしたらあたし達の世界も滅ぶんでしょ? じゃあ、お互い様ってことで」


 ギャルの女子高生がニカッと笑って手を振った。

 この世界に呼ばれた者は、それぞれが自分の生活があった。それを奪った後ろめたさが少女……いや、召喚の儀式の要であるオイスタール王国の姫、エリーゼにはあった。


「タクマのお陰で二つの世界は救われた。それでいい、とは言わないが……せっかくタクマが守ってくれた命なんだ。大事にしていこうと思う」


 首に縄をつけた男は、暗い表情ながらも強い意志を瞳に宿す。

 彼の首の縄は自殺をしようとした時のもので、その最中に召喚をされてしまい、しかも縄が自分の身体判定にひっかかkってしまったのでこんな風貌になっているのだ。


「名残はおしいが、そろそろハニーの作る食事が食べたい。いいかな、プリンセスエリーゼ」


 召喚された者の中で、ウルサインと同じく外国人の男が下手くそなウインクをする。彼もオリンピック選手の一人なのだが、元々野球選手として日本で活躍していたプロで、日本人に帰化をしている。


「かしこまりました。最後に、重ね重ねではありますが、皆様の勇気に感謝を致します……【送還】ッ!!」


 エリーゼの詠唱と共に七人の足元が光だし、眩い閃光が部屋を満たす。

 そして、光が収まるとそこには誰もおらず、部屋にはエリーゼだけが残されていた。


 否。


「終わった?」


 もう一人、この部屋には隠れていた。

 ひょっこりと隠し棚から顔を出す一人の少年。


「はい。皆様、無事に向こうの世界へと還られました。ですが……本当に良かったのですか? タクマ様」

「ん? あぁ、良いの良いの。俺、たぶん向こうに帰っても死んじゃうと思うから。そんな感覚があるし」


 そう、タクマはあの魔大陸で死んでいなかったのだ。

 それには色々な要因がある。


 デバフスキルによって崩壊した魔大陸は、どうにか完全崩壊だけは起こすことはなかった。それは、この星の力が大きい。

 星とは不思議なものであり、まるで生き物の様な動きをすることがある。悪いところがあれば治そうとして抗体を作ったり、修復をしようとしたり。

 崩壊しようとした魔大陸は、星の大きな力によってなんとか死滅は防がれ、その後急速に治り始めたのだ。不思議なものである。


 だが、そうなるとタクマはどうなるのか。

 魔大陸と【同化】していたタクマもまた、星からすれば魔大陸の一部と見なされてしまったのだ。なので、そのまま修復されたタクマは復活。しかも、死病も治ってしまっていた。

 その代わりと言ってはなんだが、魔大陸と一体化しているのでこの世界を離れることが出来ないという感覚が残ったのだが。ちなみに、エリーゼの持っている壺の中身はただの小麦粉だ。


「まぁ、十津川のおっさんの首にある縄みたいなもんかな」

「あれは、向こうに還ってから不便ではないのでしょうか……?」

「さぁ? まぁ医療技術は発達してるし、なんだったらあの特技もいかせるだろうから、ビックリ人間で生きていけるでしょう」


 自殺からの生還者、十津川幸一。

 帰還後は首に同化している縄がSNSでバズり、一躍有名人に。その後動画投稿サイトで300万人の登録者を誇るインフルエンサーへと成り上がっていくのはもう少し先のお話。


「それより……姫様ッ!!」

「は、はいッ!」

「お約束……忘れておりませんよね?」

「え、えーっと……」

「さぁッ! お約束通り、あつーーいキッスをいただきますッ!! ちょんわぁッ!!」


 某怪盗紳士三世もびっくりの飛び上がりを見せ、姫の唇にロックオンを決めるタクマ。


「やらせん、やらせんぞーッ!!」


 だが、そんなタクマとエリーゼの間に入り込む近衛の男、その名も。


「「オニールッ!?」」


 そうして、タクマとオニールは不幸せなキスをしてこの物語も終了。なんだこれ。

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