第13話 髪はね君再び

「やったー!プログラム、完成!」

 私は最後のエンターキーをかなりの勢いでターンと押した。

「おめっとー。ギリギリ間に合ったね。」

「ギリギリとか言わないの。」

 山口先輩とキララがそれでもパチパチと手をたたいて完成を喜んでくれる。


「ありがとう!ありがとう!皆さまのお陰でございます。」


 私は舞台挨拶のような形式ばった礼を、見えない観客に向かって行った。

 本当によく頑張った、私。自画自賛。

 部活に気合いを入れ直して早一週間。放課後は毎日遅くまでプログラミングに明け暮れた。


『ロボット甲子園』

 私たちが夏休み返上で、この大会に青春を注ぎ込んでいる理由だ。秋には最終決戦が行われるが、来週あるのはその地区予選。ロボットを動かして課題を攻略する、高校生の熱き戦い。


「地区予選を前に、丸工大にいった関先輩がチェックしてくれるんだってよ。」山口先輩がニヤニヤしながら言った。

「え?そうなんで…」

「関先輩!!!」


 キララが食いぎみに叫んだ。


「本当に?関先輩が見てくれるんですか!」

「ああ、昨日連絡があって、」

「うおおおー!やったー!」

「…。」

「…。」

 私と山口先輩は2人で顔を見合わす。


「…予想通りだな。」

「予想通りですな。」

 キララは関先輩が大好きだ。そしてその気持ちを一切隠さない。本人以外には。

 彼は私達が高校生になってプログラミング部に入った時の部長だった。誰の目にもキララの恋心は一目瞭然だったのに、ナゼか本人には一切分かってもらえてなかった。

 もちろん、ナゼかキララも本人にだなけ好きだと告白しない。


 もう卒業して大学生となった彼だが、私達の事を気に止めてくれていて、ちょくちょく学校に来てくれていた。


「いつ?いつですか?」

「あ、ああ。」

 山口先輩も、ちょっとからかう気持ちもあったのに、キララの勢いに若干引きぎみだ。


「明後日、17時喰らいになるかもって…。」

「明後日!よし、よーし!ありがとうございます!」

 キララはそれから帰るまでの間、興奮冷めやらぬ様子で、「世の中の全てに感謝!」と連呼していた。



 まずい、まずい、まずい。

 時計を見ると、もうすぐ18時になる所だった。

 今日に限って先生に呼び出され、キララからは「時間厳守!!」と言われていたのに、既に1時間近い遅刻だ。


 部室の前には2台のスクーターが停まっていた。

 完全に関大先輩様を待たせている、これは。

 私は勢いよく部室のドアを空け、開口一番頭を思いっきり下げて謝罪を叫ぶ。


「すみません!!!遅れました!すみません!!!言い訳します!うちの担任が…。」

 …あれ?

 絶対に飛んでくると思っていたキララの声がしない。

 …?

 不思議に思って顔をあげた時だった。


 ピョコン。

 …髪が跳ねてる。

 え?あれ?

 誰?


 彼?!


 そこにいたのは、びっくりした顔をした紛れもない髪はね君ではなかろうか。


「え?え?あれ…?」

 私は完全に混乱した。部室に電車の髪はね君がいる。


「…。」

 髪はね君はそんな私を見ると、少し落ち着きを取り戻したように、ペコリと頭を軽く下げて無言の挨拶をした。

「は、はい。」

 私もあわてて挨拶する。そして確認作業を行った。


「あの、関先輩、皆はどこかに行ってらっしゃるの、で、しょうか?」

「…機材を取りに。」

 うわ。声が渋い。

 思っていたより、低いトーンの声にちょっとドギマギする。


「えっと、遅れてすみません。プログラミング部の武内と言います。あの、関係者の方…でしょうか?」

「林田です。」

 ペコリ、ともう一度会釈。


「えっと、はい。」

 ペコリと私も会釈返し。

「…。」

「…。」


(何であなたがここにいるんですか?)


 と聞きたいが聞けない!

 そして思った通りというか、見たままというか、寡黙。服も黒。期待を裏切らない彼。


 その時、部室の外からガラガラと大きな音が近づいてきた。

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今といつかのダイヤローグ ツヅク @murasakimama

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