第31話 彼女と看病Ⅰ

 ルビアの肩を借りなんとか家までたどり着いた。

 「…大丈夫?」 

 「ああ、ちょっと寒いだけだよ」

 心配そうに問いかけるルビアの瞳は心なしか泣きそうにも見えて、俺は強がらざるをえなかった。

 濡れて汚れた身体を流すために俺とルビアは順番に風呂に入った。先にシャワーを譲ってもらったが、じっくり入っていられるほどの体力は残ってなかったから流す程度で、ルビアと交代した。普段ならばルビアのシャワーに聞き耳を立てていたところだったが、生憎、そんな気力すら残ってはいなかった。

 ふらふらのからだを起こして、棚から体温計を取り出し計ってみると、体温計は38.1℃を示していた。

 「あー頭痛ぇ…」

 そりゃあ、だるくもなるか…。俺はため息をはいた。吐いた息に熱が籠っているのを感じる。

 酷い頭痛と身体全体を倦怠感が纏わりつく。

 あー駄目だ、本格的にヤバい。意識が遠のいていく…。

 この眠気と気だるさに抗う術を俺は持ち合わせていなかった。


 翌朝。目を覚ますが未だに身体のダルさは残っていた。だが、不思議と頭は気持ちが良かった。

 不思議に思い額をさわると、良く冷やされたタオルがのせられていたことに気付く。まさかと思い、キッチンの方を見るとそこにはルビアの後ろ姿があった。

 「ルビア何してるんだ?」

 ガサガサになった声で俺はルビアに問いかけた。

 「ちょっと!熱あるんだから寝てなきゃ駄目でしょ!」

 「お、おう…」

 困った顔を浮かべながら、ルビアは俺のことをマットレスまで押し戻した。

 もしかしたら、昨日のことに罪悪感を覚えて看病してくれていたのかもしれない。水で濡らしただけじゃここまで冷たくはならない。きっと、わざわざ冷やしてから用意してくれたのだろう。俺のために早く起きて。俺はルビアの優しさに感動しつつ、握っていたタオルを再び額に乗せ、素直にルビアに従うことにした。

 しばらくルビアの後ろ姿を堪能していると、キッチンからいい香りがしてきた。

 「お待たせ」

 そう言いながらルビアは、湯気の立つ何かを持ってきた。中を除くと赤い色をした雑炊にもリゾットにも見える初めてみた料理だった。

 「ナニコレ?」

 「…嫌なら食べなくてもいいよ」

 ルビアがムスッっとした表情でこちらを睨んでくる。なるほど、確かに食べずにナニコレ?は失礼だったかもしれない。

 「ごめんごめん!そうじゃなくて、初めての料理だから気になったんだよ」

 「これね、マ…お母さんが風邪の時いつも作ってくれた料理なの。オリジナルだから名前は分からないけど」

 ルビアは嬉しそうにその料理の話をしてくれた。

 「じゃあ、ありがたく頂こうかな?」

 「あ、ちょっと待って?」

 なんだろ、仕上げのトッピングでもあるのだろうか?何かと思ってるとルビアはその料理をレンゲで掬い上げて口元へと持ってきた。

 「ふぅ、ふぅ…はい、あーん」

 何ィ!?あ、あーんだと!?最高のトッピングじゃねえかぁ!!

 ルビアシェフのまさかの仕上げに、頭に血が登って身体がふらついた。

 「ちょっと大丈夫?」

 そんな俺を支えようと、ルビアが身体を寄せたが、結果的にそれは抱きつく形になってしまった。

 あのねルビアちゃん?そんなことしちゃったらね、余計に体温上がって、大変なことになっちゃうよ?

 「…ルビア!」

 「へ、あっごめん!」

 赤面して、顔をそらすルビアの肩に手を乗せる。

 「ごめん、そろそろ限界かも」

 「え…ちょっと…やだ…」

 紅潮した頬、口元に手を添え、上目使いでこちらを覗く彼女。駄目だ、ほんとにもう限界かも…。

 「ルビアごめん!グハッ!」

 パァァァン!と激しい音を奏でながら、俺の鼻から大量の血液が弾け飛んだ。

 …ああ、向こうでばあちゃんが手を振ってるのが見え…いや、だからあなたまだ生きてるよね?なんでちょくちょくそっち側に現れてくるの?

 「ねえ!大丈夫なの!?」

 「…皆に伝えてくれ、悪くなかった!」

 


 「…ったく、ほら早く口開けて」

 「…あん。ん!…美味しい!」

 冷静さを取り戻した俺はルビアが作ってくれた料理を食べさせてもらった。

 美味しいと言われ、分かりやすく喜ぶルビアはなんだか年相応に可愛らしかった。

 野菜がゴロゴロ入っていたが、良く煮込まれていてホロホロとしていた。赤さの由来はトマトで、酸味とコンソメの薫りがとても良くマッチしていて美味しい。何かに例えるとしたら給食とかで食べたスコッチブロスが一番近いかも。風邪でも食べやすく、栄養がとれるように米をいれて雑炊っぽくしたのだろう。俺はすぐに平らげてしまった。

 「ありがとうルビア、凄く美味しかった」

 「…そう」

 少しはしゃいでいたことを反省したのか、ルビアは目線を反らし、態度を隠そうとしていた。だが、上がった口角は誤魔化しきれていなかった。

 ほんとに、ルビアはお母さんのことが大好きなんだな…。

 ルビアの献身的な看病のお陰か、頭に上っていた血が抜けたお陰か、少し体調も楽になっていた。多分、あともう少し寝たら体調も万全になるだろう。久しぶりにこうしてルビアとゆっくりできる機会が来たんだ。少しずつ踏み込んでみようかな。

 「なあルビア。もう少ししたらまた寝ようと思うんだけど、それまでルビアのお母さんの話、聞かせてくれないか?」


 

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俺と死神の100日同棲生活。 をぱりお @wopalio

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