第50話 避難

「お、おい!どうしたんだその傷!!」


 ハンスは慌てて傷だらけの男に近づき体を支える


「く、すまない…急いで皆に知らせなくては…」


 そう言いながら村に戻ろうとする男、しかしこれ以上無理に動くと命に関わると判断したアストルが男を抱え急いで村に戻る


 村に戻ると重傷を負った男を見て騒ぎになる、狩りで怪我をする者も当然出てくるので回復魔法が使える人間が待機している、すぐに男を地面に下ろし回復を頼む


「…氾濫…ダンジョン…魔物…」


 男は治療を受けながらうわ言の様に同じ単語を繰り返している


「おいハンス、皆を呼び戻した方が良いと思うぞ」


「あぁ、俺もそう思ってたところだ」


 そう言いながら懐から笛を取り出す、緊急時に狩りへ出ている者たちを村に呼び戻す為の帰還笛と呼ばれる物だ、魔道具と呼ばれる特殊な道具なのでどんなに離れていても相手を思い浮かべて吹けば必ず音が届くようになっている


 ハンスが笛を吹くとそんなに時間もかからず狩りに出ていた全員が戻ってくる、笛を鳴らした張本人のハンスに帰ってきた者たちが理由を問いただす


「おいハンス、どうして俺達を呼び戻したんだ」


「そうだよ、いい獲物を見つけてこれからだったのに」


「何があった?」


「悪い、でもやばい状況なのは理解してくれ」


 ハンスがいつものふざけた態度ではなく真面目な顔をしていたので周りも事の深刻さを理解し静かになる


「アストル達と歩いていたらダンジョンの偵察に出てたテリーが重傷を負いながら歩いていたのを発見したんだ、それで狩りを中断してテリーを村に連れ帰ったんだ、そして治療を受けてたテリーがうわ言で氾濫、ダンジョン、魔物って繰り返し呟いていたのを聞いて皆を呼び戻したんだ」


 ここまで話せば大体の者は理解できる、ダンジョンに偵察へ行った者が重傷を負いつぶやいた言葉が氾濫、ダンジョン、魔物とくれば答えはダンジョンフラッドと呼ばれるダンジョンから大量の魔物が出てくる現象を意味する


「すぐに非難の準備に取り掛かる、食料や飲料のみを持ち東の洞窟に村の者を誘導しろ!」


 ハンスの話を聞きガーネットがすぐ行動に移す、大量の魔物が来ることが予想される為村に留まる事は出来ないと瞬時に判断し、生き残れる確率の高い近くの洞窟に避難する事を決める


「ガーネット、俺とオルトで魔物の進行を遅らせよう」


「何言ってるの!それって押し寄せてくる魔物に立ち向かうって事でしょ!?自殺行為よ!!」


「危険性は理解している、しかしこの村には移動が困難な者達が居るだろ、時間を稼がないと非難が間に合わないと思う」


「確かにそうだけど…だったら私も「駄目だ」」


「ガーネットは皆をま止める重要な役目があるだろ、それに村で一番の実力者の君が居ないと安全な移動も難しくなるだろ」


「でも…」


 老人や子供、それに怪我人なんかも居て洞窟に避難するのに時間が掛かる事が予想される、そこでアストル達が押し寄せる魔物達を相手にして進行を食い止める事を提案する


 当然それには危険が伴う、ガーネットの性格からもそんな事を他人に任せる事など出来ないと言い出すのは分かっていた、その為ガーネットが避難時に離れられぬように避難時の危険を伝える


「心配するな、非難が終わるまでなら何とか俺達でどうにかできる」


「………」


 確証はないがこうでも言わなければガーネットが動けないので、明るく自信満々に言う、ガーネットも納得は出来ないがアストル達の強さを知っている為頷かざるを得ない


「気を付けて…絶対に死ぬなよ!」


「あぁ」


 二人は言葉を交わすと互いに違う方向に進む、ガーネットは村の方へ、アストルは森の方に進むのだった

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セーブ&ロード〜繰り返される苦行〜 キクラゲ @Nukuiyou

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