第8話 体育祭と宣伝
[まえがき]
『宇宙船をもらった男~』の外伝『法蔵院麗華~無敵のお嬢さま~』第26話 クラス対抗リレーhttps://kakuyomu.jp/works/1177354054904992245/episodes/1177354054921022552 に友情出演していた翔太とアスカですが、今回は翔太視線で書いてみました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日はうちの学校は体育祭だ。アスカが腕によりをかけたかどうかはわからないが3段重ねの重箱にいっぱいのお弁当を作ってくれている。よりをかけたかどうかわからないというのは悪い意味ではなく相当美味しい料理をアスカが簡単に作るからだ。
俺の出番は最後の競技のクラス対抗リレーだけだ。真面目に走ってしまうと大変なことになってしまうので、ジョギングのつもりで様子を見ながら走らなくてはならない。
アスカは保護者席にいるし、俺はクラスに特に親しい友達もいないボッチ状態なので、おとなしくクラスの連中の後ろの方の応援席で体育祭の競技を眺めていたら、2年生たちの座っている応援席の辺りがなにやら騒がしくなった。
目を凝らしてよく見ると、なぜか丸テーブルが置かれた上にビーチパラソルが広げられて、神社の巫女服にも見える白い胴着に赤い
そういった謎の異空間に、羽織袴を着た恰幅の良いおじさんが黒いスーツ姿でサングラスをかけた数人のデキそうな男の人を引き連れて現れたためその周辺が騒がしくなったようだ。
競技の合間だったので、その二人を観察していたら、恰幅のいいおじさんもその丸テーブルの脇の椅子に座ったところをみると二人は
ああ、そうか。あの目立つ女子は法蔵院グループ次期総裁だという2年A組の
目を凝らしてその女子を注目すると、赤いリボンで艶のある長い黒髪を束ねているようだ。足元はよくは見えないがどうも白い
「ふーん。俺とは縁はなさそうだが、面白そうな女子だなー」
そのうち次の競技が始まったのでその女子のことは忘れて競技の方を見ていた。
競技が進んでいき、昼休みになった。アスカは俺のいる場所がすぐわかったようで、弁当をもってやってきてくれた。周りの連中が女子を含めてというか女子の方が明らかに何やかやとうるさくしているのを放っておいて、俺はアスカと一緒に少し離れた日陰の場所に移動した。
「ここらでシートを敷いて食事するか?」
「はい」
シートは俺が人目がないのを確認して、向うで使っていた四角い布を収納から取り出して敷いた。
アスカは3段重ねの重箱を広げそこから適当なものを小皿にとって俺に渡してくれた。そのあとポットからプラスチックのコップにお茶を入れてくれて渡してくれた。
厚焼き玉子を最初に食べてみたが出汁がしみだしてくる。うまいものだ。アスカが料理を作り始めた最初は、見た目はそれなりだったが味は今一だった。それが今では相当美味しい。料亭で食事をしたことはないが料亭の味とでもいうのかもしれない。
確かにうちには昆布や鰹節、イリコに干しシイタケなど和食に欠かせない出汁の材料が置いてあって、アスカはちゃんと出汁をとって料理を作っているものな。
その料理を食べながら、
「このシートを使って食事するのは久しぶりだな」
「そうですね」
「あちらの世界がどうなっているのかは分からないけれど、シャーリーたちはうまくやってるかな?」
「いちおう、マスターがちゃんと準備だけはしていましたから混乱は無かったのではないでしょうか?」
「そうだといいがな。何とかして連絡だけでもできればいいんだが」
「そうですね。今すぐどうこうすることはできませんが、何か手立てがあるかもしれません。なにせマスターはあの世界とこの世界を往復しているわけですから」
「そうだったな。手掛かりは召喚だよな。次の召喚があるとして、あと100年近くもある。そういえば、向こうで2年間過ごしたけれど、帰ってみれば時間が経っていなかったわけだから、向こうの世界とこちらの世界の時間の進み具合はどうなっているのかな?」
「それは分かりません。そこまで考えると何もできませんから無視しましょう」
「それもそうだな」
難しいことを考えるのはやめて、アスカの手料理を楽しむことにした。
腹いっぱいになり一休みしたところで、俺はアスカと別れクラスの連中のいる応援席に戻った。
ふつう美人のお姉さんと二人っきりで食事をしようものならクラスの連中に冷やかされるのだろうが、俺の場合そういったことないようだ。別に冷やかされたいわけではないが、俺はクラスで浮いているのだと実感する。別にイジメや無視とも違って距離をお互いに取っていると言った方がいいかもしれない。実年齢は18だが2年間向こうの世界にいた関係で、精神年齢は20歳。その2年間で普通ではありえないようなことを経験したせいか、俺の精神年齢はもういっているのかもしれない。
そういった感じだから、どうもクラスメイトたちが子どもに見えてあまり相手をしたくないんだよな。
午後の競技が始まり、競技が何個か終わった後に、体育委員の生徒がリレーの出場者を集めに回ってきた。
「次は、最後の競技のクラス対抗リレーです。選手の方は、入場ゲート前にお集まりください」
俺の唯一の出場競技なので集合場所に急いだ。
クラス対抗リレーは各クラスから男女2名ずつ出場し、1年から3年までの同じAクラスならAクラスの者、2×2×3の12名でチームを作る。
クラスはAから始まりHまでの8クラス。全8チームで順位を競うことになる。1年の女子生徒が第1走者で3年の男子生徒がアンカーだ。
俺はC組のアンカーとして走ることになる。
集合場所に集まった各学年各クラスの代表を見ると、あの赤い装束の白鳥麗子がいた。足を見ると裸足だった。見た感じはかなり気合は入っているのだが果たしてどうなんだろう?
おっと、競技が始まるようで、俺たちは並んでスタートラインの内側に移動していった。
「位置について、よーい」
バーン!
競技用ピストルの音とともに8人並んだ1年生の女子走者たちが一斉に走り出した。
俺はC組なので、黄色いバトンだ。それにアンカーなので頭に黄色い鉢巻をして出番を待っている。
法蔵院麗華は赤のA組の7番走者のようだ。A組は、走者が変わるたびに順位が下がって行き、彼女の前で走る6番走者の2年A組の男子生徒がバトンを受け取った時には最下位になっていた。かく言う俺のC組も似たようなもので今のところ6位だ。もちろんトップとは大差が付いている。
法蔵院麗華の前の走者は前を走る2人を抜き去ってバトンの受け渡し区間に走り込んできた。従って俺のC組は現在7位。
「山田くん、頑張って!」
次の走者の法蔵院麗華が走り込んできたA組の走者に大きな声で声をかけた。山田くんとは親しいらしい。ただ声をかけられた山田くんは何か困った顔をしたように見えたがそのままうまくバトンを麗華嬢に渡すことができた。
彼女の前を走る5位の女子走者はすでに直線のバトン受け渡し区間を過ぎてカーブに差し掛かろうとしている。
麗華嬢はバトンを受け取り、そこから一気に加速したようだ。5位を走っていた女子がなぜかカーブの途中で突然失速してしまい、すぐに彼女に追い抜かれてしまった。麗華嬢に抜かれてしまった女子は次の走者、またその次の走者にも抜かれ、とうとう最下位になってしまった。
その後も麗華嬢は順調に前の走者を抜いていき、最後のコーナーを回って直線コースでそれまで先頭を走っていた走者を抜き去り、余裕で次の走者にバトンを渡し終えた。まさにごぼう抜きの彼女の走りに観客席、特にビーチパラソルの立っているあたりでは大騒ぎになっていた。
あれ? いまの彼女、一周200メートルのトラックを20秒切って走ってないか?
後でアスカに聞いてみないとな。いくらスタート時点でスピードが乗っていたとしても女子で200メートル20秒は相当な記録じゃないか?
「田中くん、バトンよ!」
彼女がバトンを手渡した相手は田中というらしい。思った以上に麗華嬢は気さくな性格なのか、クラスの男子と仲がいいようだ。
そうこうしていたらいったん5位まで浮上していた俺のC組だが、アンカーの俺がバトンを受け取った時にはいつの間にか最下位になっていた。先頭走者との差は70メートルほど。先ほどの麗華嬢の走りを見ているのでちょっとばかりいいところを見せようかと思ったのがいけなかった。
すぐ前を走る走者を抜き去り7位に、そのあとすぐに6位の走者を捉え、最初のコーナーを抜けた時には4位になっていた。先頭との差は40メートル。これならいける。
ここで、保護者席に立つアスカが目に入った。抑えてはいたつもりだったがやりすぎてしまったようだ。マズい。ここからは流そう。
結局俺はそのまま4位でゴールインした。
[あとがき]
フォロー、☆、応援、誤字報告ありがとうございます。
法蔵院麗華はクラスの生徒の名前を誰一人として覚えていません。クラスメートに対する二人称は、山田、田中、鈴木、山本。この4つに「さん」か「くん」を付けて適当に使い分けているだけです。一日の中で同性五人以上に話しかける必要がある場合、5人目からはA、B、Cと続きます。
ネタが尽きたので、この辺で。
そのうち何か思いついたら追加しますので、完結マークはつけません。
宣伝:
2021年8月6日より投稿開始、少し真面目風異世界ファンタジー
『キーン・アービス -帝国の藩屏-』
https://kakuyomu.jp/works/1177354055157990850
魔術の天才キーン少年が成長していく物語です。
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