第26話 クラス対抗リレー
今はバスケットボールの試合を終え、昼食休憩の時間だ。クラスの生徒たちは、思い思いに机をくっつけたりして仲のいい者同士お弁当を食べている者や、食堂に行くもの、購買にパンなどを買いに行くものなど様々だ。
午前中、体育の実技のバスケットで緑の髪のかつらをかぶりシューティングガード
「法蔵院さん、お話があるんですが、よろしいですか?」
クラスメイトの女子生徒が珍しく麗華に話しかけて来た。
「構いません。それで鈴木さんどうしました?」
今日はバスケットボールの試合で、手持ちのまともな名前4人を使いきってしまい、次に麗華が話しかける相手が女子生徒の場合、Aさんからになるはずだったのだが、たまたまいま麗華に話しかけた女子生徒は先ほどの試合で同じAチームに所属していた鈴木(仮)さんだった。
「再来週の日曜日に開かれる体育祭のことなんですが」
「はあ、体育祭?」
「はい。その体育祭で、うちのクラスでおそらく一番走るのが早い法蔵院さんにクラス対抗リレーに出ていただきたいんですけど、どうでしょうか?」
「少しお待ちくださいね。
代田、その日に何か予定は入ってた?」
「お嬢さま、再来週の日曜日には特に予定は入っておりません」
「予定も入っていませんから、かまいませんよ。リレーと言うことは、誰かから渡されたバトンを次の人に渡せばいいんですよね」
「その通りです。それじゃ法蔵院さん、体育祭でのクラス対抗リレーお願いします」
「ところで、A組は何色でしたか?」
「A組は赤です。リレーの時は赤い鉢巻きに赤いバトンです」
「了解です。赤い鉢巻きをした人から赤いバトンを受け取り1周200メートルのトラックを周って赤い鉢巻きの人にバトンを渡せばいいんですね?」
「はい。そういうことです」
「クラス対抗リレーだけ出ればいいんですね?」
「はい、それだけお願いします」
「鈴木さん、任せてください」
はたから見るといつも孤高を保っているように見え、話しかけにくそうな麗華であるが、基本的に頼まれればよほどの用事がない限り嫌と言うことのないのである。
そして、体育祭当日。
晴れ渡った空にはいつものように白く見える宇宙船が浮いている。
今日の麗華の出で立ちは、見ようによっては神社の巫女服にも見える白い胴着に赤い
保護者席の脇の辺りに設置された麗華専用の観戦席にはビーチ用の大きな日傘が広げられており、その観戦席の前の丸テーブルに置いたアイスティーの入ったグラスをストローでかき混ぜながら麗華がつぶやく。
「早くから学校に来てみたら、クラス対抗リレーは最後の競技だったから始まるまで退屈ね」
「申し訳ありません。リレーのスタート時刻を把握していませんでした」
麗華のいる保護者席の辺りがなにやらざわつき始めた。4人の黒服、黒サングラスのボディーガードと筆頭執事の横山を引き連れた法蔵院正胤が羽織袴姿で現れ、麗華の隣の席に腰を掛けた。
「麗華の運動会を見に来たのは小学校以来だな。きょうは麗華がリレーに出場すると代田に聞いて午後からの予定を後ろにずらして応援に来たぞ」
「あら、お父さまありがとうございます」
「ところで麗華、その格好で走るのか? 少々走りにくそうに見えるが」
「普段槍の鍛錬の時着ているものの色違いですし、それに走るときには足袋を脱いで裸足になりますから走りにくくは有りません。この姿で走れないようでは槍を振るう時に困りますから。それにわたしは赤組ですので赤く目立つ格好をした方がいいだろうと思いこの格好を選びました」
「そうだったのか。なかなか良く考えているじゃないか。それならお前の言う通りだ。ハハハハ」
「ホホホホ」
いつも通り仲の良い親娘(おやこ)である。
「次は、最後の競技、クラス対抗リレーです。選手の方は、入場ゲートにお集まりください」
体育委員の生徒がリレーの出場者を集めに回っている。
「お父さま、それではいってきます」
「麗華、頑張ってこいよ」
クラス対抗リレーは各クラスから男女2名ずつ出場し、1年から3年までの同じAクラスならAクラスの者、2×2×3の12名でチームを作る。
クラスはAから始まりHまでの8クラス。全8チームで順位を競うことになる。1年の女子生徒が第1走者で3年の男子生徒がアンカーだ。
「位置について、よーい」
バーン!
競技用ピストルの音とともに8人並んだ1年生の女子走者たちが一斉に走り出した。
麗華のAクラスはバトンを渡すたびに順位が下がって行き、7番走者の麗華の前で走る6番走者の2年A組の男子生徒がバトンを受け取った時には最下位まで順位が下がっていた。それでも彼は前を走る2人をみごとに抜き去ってバトンの受け渡し区間に走り込んできた。
「山田くん、頑張って!」
もちろん山田くんは麗華が勝手につけたクラスメートの名前だ。麗華にとっては、赤い鉢巻きをして赤いバトンを持って走り込んでくるのだからクラスメートの山田(仮)くんに間違いない。
麗華は助走しながら山田(仮)くんからバトンを受け取る。バトンの受け渡しが終わった時の麗華の順位は後ろから3番目、1位から50メートルほど離された6位だ。前を走る5位の女子走者が直線のバトン受け渡し区間を過ぎてカーブに差し掛かろうとしている。
麗華は一気に加速して5位の走者を追うのだが、5位の走者がなぜかカーブの途中で失速してしまい、すぐに麗華が追い抜いてしまった。よく見るとその失速した生徒はいわゆる爆乳。体操服をはちきれんように揺らして走っていたところを、観客席から大きな望遠レンズの付いたカメラで狙われ、それを意識して失速したらしい。可愛そうではあるが麗華にはどうすることも出来ない。あわれ、6位に転落したその女生徒は、次の走者、またその次の走者にも抜かれ、とうとう最下位になってしまった。
許すまじ、大きなお友達。
麗華はその後も順調に前の走者を抜いていき最後のコーナーを回って直線コースで、それまで先頭を走っていた走者を抜き去り、余裕で次の走者にバトンを渡し終えた。まさにごぼう抜きの麗華の走りに観客席、特にビーチパラソルの立っているあたりでは大騒ぎになっていた。
「田中くん、バトンよ!」
もちろんこの田中くんというのも麗華が勝手につけたクラスメートの名前だ。男子生徒に対する残った名前は、鈴木、山本の2枠。今日はクラスメートをAくんと呼ばなくてもよさそうだ。赤い鉢巻きをして走り出した田中(仮)くんにバトンを渡す。麗華の体育祭での仕事はこれで終わった。幸か不幸か、麗華が1周200メートルを20秒を切って走ったことに気付いた者はいなかった。
レースのアンカーは3年男子。高校3年生としては珍しい丸刈りの男子生徒が最下位のバトンを受け取ったとき先頭走者との差は70メートルほど。麗華も速かったがこの男子生徒はさらに速い。瞬く間に7位、6位の走者を捉え、最初のコーナーを抜けた時には4位にまで順位を上げていた。
ここで、観客席に立つ銀髪の女性からなにか声がかかったようだがそれを聞いたその3年生は急に失速しそのまま4位でゴールインした。銀髪の女性がどういった声かけを行ったのかはわからないが、あのまま失速せずに走り続けていれば、200メートル、18秒を切ったのは間違いない。
[あとがき]
今回は、『真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!? IF』
https://kakuyomu.jp/works/16816700426217227360 のショウタとアスカに友情出演してもらいました。
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