第27話 爆乳談義
今日は昨日の体育祭の振り替え休日で、麗華は執事の代田と自宅の居間でお茶を飲みながらくつろいでいる。
お茶請けは例の梅干しクッキーを八等分にしたものだ。四等分だと食べにくいし量も多いので今ではこの形が定番になっており、生地の段階から刻み目を入れるようにしている。進化し続ける梅干しクッキーなのだ。中に梅干しを入れて丸く丸めたびっくりクッキーの方は、食べる前にハンマーでたたき割るしかないため食べにくいのだが、蒸し焼きにされた梅干しの独特の香りがクッキーの生地に浸みこみ非常に好評である。
「昨日の体育祭でリレーで走っている時ふと思ったのだけれど。バリッ。バキッ」
「いかがなさいました? バキッ。ゴリッ」
「体育祭の時思ったのだけれど、代田は、胸の大きな女子をどう思う? ゴキッ、バリッ」
「赤ちゃんを母乳で育てるのには大きい方がいいんじゃありませんか? ガリッ。ゴリッ。ウグ」
「そういうまともな意見は代田らしくていいわ。でもね、大きすぎるのは邪魔でしょ。本人はどう思ってるのかしら。ガリッ、ガリッ。ゴクリ」
「それと、体育祭はどういった関係が? ガリッ、ガリッ。ゴクリ」
「リレーの時にすごく胸の大きな人が自分の胸を気にしながら走ってたの。すぐに抜いちゃったけどね。それを観客席にいた大きなお友達が望遠レンズの付いたカメラで追ってるのよ。バカみたいでしょ。
漫画やアニメもそう。頭より大きなものを2つもぶら下げてたらそれはそれで問題でしょうに。
そうだわ、漫画は仕方ないにしても公共の電波を使っているテレビアニメは許せないわ。検閲よ。うちがスポンサーになってるアニメがあったら検閲して摘発しなくっちゃ」
「お嬢さま、そういったものを楽しみに見ている方もいらっしゃるのですから検閲はやりすぎでは?」
「やりすぎとは思わないけど、わかったわ。検閲はわたしがグループ総帥になってからということで今はやめておきましょう」
「将来のグループの方針がそれですと少し心配ですが、総帥になられるお嬢さまのご決断ですから、執事の私は全力で応援いたします」
「代田頼むわよ。将来は法蔵院グループでテレビアニメを検閲するってことを覚えていてちょうだい。
それはそれとして、今はいまやれることをやっていきましょう。何かいい手はないかしら?
……そうだわ。そういったものを楽しみにしてるような人たちの蒙(もう)を啓(ひら)くために俳句を作ってそれを広めていくのはどうかしら? これを法蔵院グループで大々的にコマーシャルなんかで流せばみんな気付くんじゃない? わたしみたいな程よい大きさが一番だってことに……」
俳句で何が
何やらぶつぶつ言いながら、筆ペンで手元の紙に書きつけていた麗華だが、すぐに書き終わったようだ。
「われながら、いい俳句が三つもできたわ。代田見てくれる」
紙に書き記した文字は妙に達筆でここにも麗華の才能がうかがえる。
爆乳も 歳を取ったら へちまかな
(ばくにゅうも としをとったら へちまかな)
季語 へちま 季節は秋、ひょっとしたら晩秋から冬かしら?
爆乳が これ見よがしに 肩をもむ
(ばくにゅうが これみよがしに かたをもむ)
季語 なし
シリコンや
(しりこんや それしりこんや しりこんや)
季語 なし
どの句も二度繰り返して得意げに詠み上げる麗華。代田には麗華の字が達筆すぎて読めない部分もあったため助かった。
「どう? なかなかいい俳句でしょ」
「俳句というより、川柳では。いずれにせよ人に向かって言ってはいけない気がしますが、特に三番目の句を人に向かって言ってはダメじゃないですか? それにどの句もこれでは、大きな胸の人に
「そんなことないわよ。ただ単純に大きければいいと信じている人たちの間違った考えを正したいだけ、一種の世直しね」
「世直しですか。お嬢様からすれば世直しかもしれませんが、いらぬお世話と思う人も多いんじゃないでしょうか」
「いらぬお世話と取る人もいるだろうけど、そういった人たちこそ大きければいいなんて間違った思想に毒されてるの。とは言え、大きな胸の人をけなして世直しするというのは本末転倒だわね。それじゃあこういうのはどう?」
麗華は俳句?の才能まで持っていたのかわからないが、その才能や、湧きいずる泉のごとし。もう次の句が出来たらしい。手元の紙に筆ペンで走らせる。今度の句は、気分が乗って来たのか、節をつけて詠み始めてしまった。
上品な おわん型こそ 至福かな
(じょうひんな~ おわんがたこそ しふくかな~)
目出度さも 中くらゐ也 おらが胸
(めでたさも~ ちゅうくらいなり おらがむね~)
美しき その容貌は 麗華かな
(うつくしき~ そのようぼうは れいかかな~)
「最後の句は何なのかわかりませんが、お嬢さまがお作りになった句ですからいいんじゃないでしょうか。ですがこれをほんとにコマーシャルで流すんですか?」
「代田は、気に入らないの?」
「そんなことはございませんが、お嬢さまの俳句だか川柳だけコマーシャルに流すのではベタ過ぎませんか?」
「だったら、このコンセプトで、テレビドラマでも作って放送させてはどうかしら。ドラマ、小説、漫画にアニメ。大手の広告代理店に頼んで一大メディアミックスキャンペーンよ。確か、電報堂はうちのグループだったわよね」
「お嬢さま、電報堂に頼む前に、今の3句について爺咲君の意見を聞いてみてはいかがでしょう」
「それは、いいわね。今度クッキーにつけて感想を訊いてみましょ」
「申し訳ありません、先ほどのは冗談です。それはやめておきませんか。難しすぎる質問で爺咲君を困らすのは可哀そうです」
「どこが難しすぎるというの?」
「彼も、年頃の高校生ですし、女性の『胸』がどうのとか、答えにくいでしょう」
「ふーん。代田も、若いころは女性の『胸』が気になってた口なのね」
「いえいえ、私の若いころは、修行と鍛錬ばかりで女性がどうのとかは有りませんでした」
「それはそれで可哀そうね」
「いえ、そのおかげで、こうしてお嬢さまにお仕えできているわけですから私は幸せです」
「代田、ありがと。これからもよろしくね」
「はい。お嬢様」
何だか、結局代田にはぐらかされた麗華であるが、仲の良い主従ではある。
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