自分にしかできないこと、それは
歴史は繰り返す。一度目は悲劇だが、二度目は喜劇として。自分の不登校もそれだ。一度目は何者にもなれない自分に絶望して。今回は、言葉では言えないけど、なんとなく、そこまで深刻な何かではない気がする。
ただ、そこ、今の写真部に行ったら、なにか自分が負けた気がするのだ。なにか自分の中で気持ちを整理して、自分なりの何かを持っていかなければ。そういう観念が私を支配している。それができるまでは行けない。だから自宅のベットに逃げている。
私は自問自答する。
(私は、もしかして私を好きかもしれない友達を、見知ったばかりの後輩の頼みで騙したんだ)
でも、フィルムに映るあーちゃんは私には見せたことのない笑顔をしてたよね。拳と上手くいったんだよ。恋のキューピッドだね、喜んだほうがいいよ。
(全然嬉しくなんかない)
そう。じゃあもしかしたらあーちゃんが私を、じゃなくて私ががあーちゃんを好きってことだったのかもね。
(・・・・それは違う。)
違わないよ。本当は作戦の失敗を期待していたくせに。
(違う。)
あーちゃんなら拳を振ってくれると思った?
(思ってない。)
拳がけしかけたらあーちゃんが自分への気持ちを自覚するとでも思った?
(思ってない。)
また2人だけの部室に戻れるとでも思った?
(思ってない。)
自分が好きな相手を、むしろ自分に振り向いて欲しいからこそ、後輩に売ったのね。
(違う。)
じゃああれか、写ってる写真があんなに綺麗だから。
(・・・・)
自分があーちゃんを1番よく撮れると思った?
(違う。)
あーちゃんが自分が撮る写真が1番だと思ってると決めつけてたんでしょ。
(・・・・違う)
違わないよ。春休みの撮影会での反応がよくて自分にしかできないことだとわかって嬉しかったもんね。
(・・・・)
本当はあーちゃんが好きとか好かれてるとか関係ないんだよね、自分にしかできないことがあるってことが自分のアイデンティティーなんだから。
(・・・・)
だから、あわよくば拳が恋愛で、そして写真で失敗してくれることを祈って拳の作戦に乗った。
(・・・・)
そうすれば自分があーちゃんの中で1番でいられるもんね。
(・・・・)
結局のところ、この学校じゃあ学力で自己を確立するのは無理。だから写真に、フィルムカメラに逃げた。なんでもいいから誰かに1番って言って欲しかったんだよね。
(・・・・)
私はあーちゃんが好きでもなんでもない。ただ1番と認めてくれることが嬉しかっただけ。
(・・・・)
で、それもダメになったからまた不登校になった。いい加減学習しないの?
(・・・・)
もう自分にしかできないことなんてないって認めたほうが楽だよ?
(・・・・)
ね?
私の体は安直な結論に向かうことを嫌った。夜だった。私はベットから降り、薄着のまま外を散歩することにした。
6月の生ぬるい夜風が私を通った。田んぼのざわめきが聞こえた。
蛍が光った。
私はカメラを構えた。顔の前にはカメラがなかった。
「やばいカメラ忘れた!」
私は家に向かって走り出す。
RANGEFINDER 司島積雲 @sekiun_creation
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