最終話



 遥か悠久の時を超え、鋼鉄の揺り籠より覚醒めざめしは白金の“超鋼”なる鋼鉄はがねにて組み上げられたる躯体。

 縦に並んだ三つ目が刻まれし鉄仮面の奥には碧く輝く光源あり、肉も無く血も通わぬ鋼鉄の五体にその輝き迸る。


 “機械神兵エグゾマギア”と呼ばれる人形がその正体。

 “三輝神”に仕え、守護する騎士をも凌ぐ力持つ命を知らぬ無敵の兵器は、騎士すら敵わぬ驚異から“三輝神”を守護る最後の砦。

 しかしその役目は“三輝神”が眠りに就いた時、共に終わりを迎えた――筈だった。


 純白と黄金の豪奢な、そして流線を多用したまるで絹纏う天使か荘厳なる神殿そのものかの様な躯体を音も無く動作させ、機械神兵は揺り籠クレイドルとの接続を切断する。

 骨格の様な胴体と接続された手足は、胴体の華奢さに反し積層装甲によって分厚く巨大に肥大化。大木のような足が白銀の床を踏み締める。


 天井と壁が無く、床以外の全てが深遠の漆黒と星々のきらめきに包まれたその空間に、機械神兵の静かな足音だけが響く。

 機械神兵は自らの接近に伴い宙に浮揚し、階段を形成した床を登ってゆく。緩やかな湾曲を経て頂へと辿り着いたとき、機械神兵の前には巨大な、それは巨大な渾天儀があった。


 周囲の円環が惑星の軌道を表し、その中心には恒星が据えられているはずであるが、その渾天儀の中心部に据えられていたのは恒星の模型などではなかった。

 人――それもまだ少女の人間が体を丸くして円環たちの中心に浮揚しているのだ。大陽のような白銀のを漂わせる、桜色の肌をした眠りの少女。


「……レプランカ」


 それは声だったろうか。

 確かに聞こえたそれは、しかし虚空を震わせ伝えられたものではない。機械神兵に発声という機能は無い。


 けれどそれは間違いなく機械神兵より聞こえた声だった。“彼”の声が紡いだ“言葉”だった。まるで心が語るかのような、そんな言葉だった。虚しさと、寂しさに彩られた“心語り”。


 伸ばされた六指の先が不可視の障壁に阻まれる。神の眠りを妨げることは、例え“衛府の剣”たる機械神兵にも赦されない。

 けれど“彼”は望む。彼女の覚醒めを。そのときを。


「君の声を聞かせてくれ……」


 しっかと結ばれていたはずの絆は断たれ、奇跡は陰った。

 交わされることのない想いと心。孤独に苛まれる機械神兵は眠る少女に背中を向け、そして見下ろす。床が透過され、“彼”の眼下に広がったのは、それは雲海に包まれた星の姿だった。

 かつては宝玉のように美しかった星は、今や死に瀕している。


 星に人の住まう場所はもはや無く、人々は住処を雲海越えた先に求めた。かつての叡智により建造された巨大の塔に。

 そして世代を越え、塔の外殻に築かれた土地での生活に慣れ親しんだ今の人々は忘れてしまっていた。


 ――終わりはもう、すぐそこまで迫っていることに。



 ――おわり。

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CANAAN ~終焉に輝く星を穿つ、罪と愛の救世録~ こたろうくん @kotaro

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