2 仲間たちからの離脱 (3)

「少しご相談なんですが」

「はい」

「これはチョコレートというお菓子で、俺の故郷でもとても珍しいものなんです。……ハルラさんが一つ食べて、もし気に入ったら残りの二つも差し上げるので、登録料を払ってもらうことはできますか?」

 ──という俺の提案に、ハルラさんは渋い顔をする。

かったらどうするんですか?」

「そのときは、自分で登録料を稼いできます。別に、食べた分のお金を請求したりはしません」

「……それなら、いいですよ。でも、私が不味いと言っても文句は言わないでくださいね!」

「もちろんです」

 怪しんで受けつけてもらえないかと思ったけれど、あまりにすんなり了承され逆に驚く。日本なら最悪上司を呼ばれるだろうが、さすがは異世界。自由だ。

 ハルラさんが包み紙を開け、チョコレートの香りを確認する。

「こんな不思議な香り、初めて嗅ぎますね……。いただきます」

 そしてぱくりと、口へ。

「……っ!」

 おそらくもうとしたのに、チョコレートがとけ始めたから驚いたのだろう。視線をキョロキョロと動かしているのは、未知の味と遭遇した……というところだろうか。

 口を手で押さえうつむいてしまったが、俺からは猫耳がぴくぴく動いているのが丸見えだ。ごくんと喉が鳴り、ハルラさんは勢いよく顔を上げた。

「ヒロキさん……これ、これっ、すっごくしいです!!」

「よかったです」

「口の中に入れた瞬間に、とろって、とろけたんです! しかもほろ苦いのに甘くて、いつまでも食べていたくなります」

 どうやら、この世界の住人にもチョコレートは受け入れられるようだ。

 机の上に置いてあった残りの二つもハルラさんが手に取り、俺は無事に冒険者登録をしてもらえることになった。

「あ、チョコレートは暖かい場所にあったりお湯に入れたりするととけちゃうので気をつけてくださいね」

「口に入れてとけちゃうくらいですもんね……わかりました」

 ハルラさんは大きく頷き、嬉しそうににこにこしながら登録の手続きを進めていく。

「書類ですが、私が代筆しますが問題ありませんか?」

「はい、そうしてもらえると助かります」

 ハルラさんが羽ペンを手に取り、書類の項目を埋めていく。

「お名前はヒロキさん。あとおうかがいしたいのは、職業と戦闘スタイルですね」

「ヒーラーで、ステータスは回復と、回避に多く振ってます」

「はい。ヒーラーで、回復と回避……え、回避、ですか?」

 俺の言葉を聞き、ハルラさんが目を大きくしばたたく。

「ええと、回復もできますよ?」

「でも、回避にも振っているんですよね? ヒーラーは、基本的に回復にしかステータスを振りません。余裕があっても、防御です。回避を上げてしまったヒーラー……」

 ハルラさんは眉を寄せて考え込む。

「ヒロキさん、パーティメンバーは?」

「一人なので、ここで見つけられたらいいなと思ったんですが……」

 火力のある人とパーティを組みたい。そう伝えると、ハルラさんの表情がいっそう厳しくなる。

「ステータスを回避に振ったヒーラーをパーティに入れたいという冒険者は、いないと思います」

「えっ」

 さすがに、お試し期間くらい設けてくれてもいいのではないだろうか。

 そう思ったが、ハルラさんいわく。

 回復以外にステータスを振るヒーラーは戦闘に関する知識がなく、ほかのステータス値を上げてしまったことにより回復量もいまいち……という判断になるそうで、誰にも必要とされないという。

「ヒーラーの回復値で、自分たちの生死が決まるんです」

「怪我を満足に治せない可能性があるやつは、無理ってことですね?」

「はい。それに、回復値がないと回復の魔法スキルもあまり使えないはずです。そのため、自分の職業に適したステータスに振っていない人は歓迎されないんですよ」

「なるほど……」

 ここにきて、スキルの使用回数がわかった。

 攻撃系統のスキルは、攻撃ステータス。

 防御系統のスキルは、防御ステータス。

 魔法系統のスキルは、魔力ステータス。

 回復・支援系統のスキルは、回復ステータス。

 といった具合に、ステータス値が高いほどスキルの使用回数が増えていく仕組みになっているらしい。上限の回数は不明らしいが、一つの目安にはなる。

 回復できないヒーラーは、確かにヒーラーとはいえないから一理あるだろう。しかし、すでに回復が100ある俺であれば話は別だ。

 完全回避ヒーラー、無敵なのに。

 この世界の住人はまったくよさがわかっていないらしい。


  ~試し読みはここまでとなります。続きは書籍版でお楽しみください!~

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【書籍試し読み版】完全回避ヒーラーの軌跡 1 ぷにちゃん/MFブックス @mfbooks

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