2 仲間たちからの離脱 (2)

 冒険者ギルドは、レンガとは少し違う、鉱石のようなもので壁が造られていた。

「頑丈そうですね」

「ああ、すごいだろう。有事の際に、冒険者ギルドは司令部の役割をするからな。建物はかなり頑丈に造られてるぞ」

「へぇ……」

 さすがにドラゴンが乗ったらつぶれてしまうが、ジャイアントベアなどの攻撃なら防ぐとフロイツがドヤ顔で話す。

 いやいや、問題はそこじゃないだろう。

「街の中に、そんな頻繁に魔物が入ってくるんですか?」

 もしそうであれば、先に街の防衛を見直すべきだ。

「まさか。そんなこと、めったにない。俺の記憶だと、そういうことがあったのは……確か一〇〇年以上は前だな」

「なるほど……」

 でも、数百年に一度くらいはそういった可能性があるのか。やはりレベルは早めに上げておいた方がよさそうだ。


 冒険者ギルドの中は、にぎやかだった。

 多くの冒険者が設置された休憩スペースで談笑していたり、受付で仕事の話をしたりしている。壁には多くのチラシが貼ってあるけれど、あいにく文字が読めないので内容まではわからない。

 狩りの予定を立てながら見ているパーティがいるから、仕事内容が書かれているのだろう。

 リーダーと思われる大柄の男は大剣を持っているし、ローブの魔法使いもいる。弓を持つアーチャーの女の子は、大きな荷物を持っていて機敏性が心配になってしまう。

 冒険者ギルドの中を見回しただけなのに、なんだかわくわくしてくるから不思議だ。

 きっと、こうやって実際に冒険することはすべてのゲーマーの夢だったんじゃないだろうか。もちろん、こんな召喚は予期していないだろうけれど。

「んじゃ、俺たちはクエストの報告してくっから。ヒロキはどうするんだ? 登録の相談からなら、左奥のカウンターだな」

「左奥ですね、わかりました」

「いいってことよ。俺はティナとダイアの保護者みたいなもんだからな。困ったことがあれば、いつでも声をかけてくれ」

「ありがとうございます」

 フロイツにお礼を言い、左奥のカウンターに行く。

 ほかのカウンターは混んでいるが、ここは誰もいなかった。相談する人があまりいないのかもしれない。受付の女性は、俺を見て優しくほほんだ。

「こんにちは、初めて見るお顔ですね。担当させていただきます、ハルラと申します」

「俺はヒロキです。ええっと、冒険者になりたくて来ました」

 用意された椅子に腰かけて、自己紹介をしながら担当してくれる女性を見る。

 猫の耳が生えている、獣人だ。

 ……でも、獣人はタンジェリン大陸に住んでいると聞いていたので、人間の住むこの国にはいないと思っていた。

 じっと見つめていたら、気づいたハルラさんが苦笑しながら俺の疑問に答えてくれた。

「この辺りには、獣人があまりいませんからね。私は獣人と人間のハーフなんですよ」

「あ、そうだったんですか。すみません、じろじろ見てしまって……」

「気にしてませんから、大丈夫ですよ。今日は冒険者登録ですね。詳細などはごぞんですか?」

「説明してもらえるとうれしいです」

「わかりました」

 ハルラさんは頷くと、ギルドに関する説明をしてくれた。


 冒険者ギルドは人間、獣人、魔族、すべての大陸に中立の立場として設けられている機関。その証拠に、魔族も含めた各国がギルドを支持している。

 てっきり魔族と魔物は近い存在だと思っていたが、そうではなかった。

 魔族は俺たち人間と同じ外見をし、同じように生活して暮らしているらしい。逆に魔物は言葉を話さず、人間を襲ったり害をなしてくる存在だとハルラさんは言う。

 魔物が多い世界ゆえに、各国も有事の際にギルドへ登録している冒険者の戦力も当てにしているのだ。そのため、国境は冒険者の身分証を見せることで通行が許可されるのだという。

 冒険者登録をすると、クエストの発注と受注ができる。

 それはギルドの壁に貼ってあるチラシに、詳細が書かれているのだが……素直に読めないことを告げると、相談窓口に来れば説明や自分のレベルに合ったものを教えてくれるらしい。


「だいたいわかりました。えっと、冒険者にはランクなどはありますか?」

「いいえ、ランクはありません。ですので、クエストを選ぶときは気をつけてください。……命を落とす方も、少なくはありませんから……」

「そうですか……」

 一気に不穏な空気になったんだけど。

 ちなみに、クエストはすぐに受注することができ、完了すればすぐに報酬を得ることができるようになる。

 ただし、失敗した場合は報酬額の何パーセントかを支払わなければいけない。これは、クエストの難易度や依頼人により異なる。

「登録されますか?」

「はい、お願いします」

「では、こちらの用紙に記入と、登録料が三〇〇〇ロトになります」

「あっ」

 登録料があるのか~!!

 すぐ冒険者になってお金を得ようと思っていたが、そうそうくはいかないようだ。すると、表情に出ていたようで、ハルラさんが首をかしげて俺を見つめる。

 こういうときは、田舎から出てきたことにしよう。

 日本だって、東京の物価が高く地方の方が安い。ここは王都なのだから、値段も格段に高い……はずだ。

「実は田舎から出てきたばかりで、あまり持ち合わせがないんです。故郷から持ってきたものを売ろうかなと思っていたんですが、先にこっちへ来てしまって」

「そうだったんですね。買い取りであれば、一応ここでも行えますが……どういったものでしょう?」

 引き続きハルラさんが相談に乗ってくれるようで、ほっとする。

 しかし、売りたいものは日本から持ってきたもの。

 ハルラさんが持っている登録の記入用紙を見るに、蓮のノートとボールペンは見せない方がよさそうだと判断する。

 となると、るりの鏡かハンカチ。もしくは俺のチョコレート。

 どうせなら、チョコレートを早く消費したい。

「ちなみに、食べ物って大丈夫ですか?」

「ええと、保存食やポーション類であれば買い取っていますが……どんなものですか?」

「これです」

 ポケットから、一口サイズのチョコレートを三つ取り出して机の上に載せる。

「初めて見ます。光沢があって、カラフルで……不思議な紙で包まれていますね」

 拝見しますと言い、ハルラさんはまじまじとチョコレートのパッケージを見つめる。多少書かれている日本語については、村で使う簡易文字だと適当な説明をした。

「前例がないもので、さらに食べ物となると難しいですね」

「そうですか……。ちなみに、三〇〇〇ロトあると、王都では何が買えますか? 村だと、結構な額になるものでして」

「かなりの田舎から出てこられたんですね。三〇〇〇ロトあると、冒険者が使う宿屋に素泊まり一泊でしょうか。それより安い宿は、治安の悪い地区ですのであまりお勧めしません」

 なるほど、一泊分か。

 それであれば、すごく高い登録料というわけではなさそうだ。

 ……そう。

 受付嬢であるハルラさんでも、支払いが可能だろう。

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