322)恐怖の林間学校-14(突入)

 早苗達がホテルから講堂に向かうと、そこは窓からの照明の為、暗闇の中に明るく映し出されていた。



 玄関の両開きドアの前には銃を持った男が警戒態勢で立っている。捕まったクラスメイト達が講堂に集められているのは間違いない様だ。


 男が二人立っているのを遠目で見た早苗達は講堂近くの木立に身を潜めた。


 

 此処で早苗はアリたんに問い掛ける。


 「……アリたん……連中は全部で22名って言ってたけど……あそこには今、奴らは何人居るのかしら?」


 “ちょっと待ってね、早苗っち。……外の2人は別にして……講堂の中には8名居るわ。周囲には……別に2人居るね。一丁前に講堂の周りを警戒してるみたい。

 それと……ホテルから離れた所に車に乗った別働隊が居るよ……。バックアップの為かな……。こちらは5名だね。

 残りは早苗とキャロが2人やっつけて、残りの3人は玲たんが倒したみたいだ。これで22名全員だね“



アリたんの説明を受けた早苗(体は小春)は後ろの晴菜達を見つめた後、少し考えてアリたんに答えた。



 「……私一人なら……このまま乗り込む所だけど……晴菜ちゃん達も居るしね……。ここで玲君を来るのを待ちましょうか……」


 “OK、早苗。玲たんの現状は……あれ? ……玲たんは結局……神崎少年やロ……いやカナメ君と一緒に行動してるみたいだよ。

 多分……さっきの早苗の話を聞いて……心配して戻ったみたいだ。そんな心配、カナメ君が居る時点で要らないのにね“



 早苗の返答を聞いたアリたんは玲人の現況を調査して報告した。そしてワザとらしく晴菜に向け意味あり気にカナメの事を話した。



 「……え? それってどう言う……」



 突然カナメの事を言われた晴菜は、戸惑いアリたんに聞き直すが、アリたんは別な何かを感じ取って晴菜の話を遮った。



 “あ! ちょっと待って、晴菜ちゃん! 講堂で、何か動きが有ったみたいだよ!“



 アリたんがそう言った瞬間だった。講堂から一際大きな悲鳴が聞こえた。



 「キャー!! い、いや! 放して!!」


 それは泣き叫ぶ少女の声……。声の主は明らかに小春を貶めようとした伊原恵美だった。



 悲鳴を聞いた瞬間、早苗達に緊張が走る。



 「……ゆっくりと玲君を待っている暇は無いわね。と言ってもこのまま突っ込むのも危険だわ。……まずは講堂の周囲に居る2人だけど……キャロちゃん……殺さずに倒してくれる? 

 それと……正面玄関の2人は私と……ローラちゃんお願い。レーネちゃんは晴菜ちゃんと由佳ちゃんを守って。

 アリたんは……車に乗っている別働隊の方を撹乱してね? 同時に玲君への連絡もお願いするわ」


 「あいよ!」

 「御意!」

 「任せて下さい!」


 “任されたー”



 早苗の明確な指示にローラ達、カリュクスの騎士とアリたんは頼もしく返答した。



 「……有難う。晴菜ちゃん達は……講堂の周りを無力化する間……レーネちゃんと此処で待ってて」


 「わ、分ったよ、早苗さん」

 「……はい」



 早苗に待機を促された晴菜と由佳は不安そうな顔を浮かべながら答えた。対して早苗は明るく言う。


 「大丈夫よ! そこに居るレーネちゃんは可愛いけどとっても強いから! それじゃ……皆、行こうか……うん? え? 仁那ちゃん……替わりたいの? ……分った……」



 早苗(体は小春)は晴菜達と話している時に、脳内から話し掛けてきた仁那と何やら話し合ったみたいだった。


 話を終えた後、早苗は横に居たアリたんに状況を説明する。



 「……アリたん、仁那ちゃんが……小春ちゃんの友達達を自分が助けたいって言ってるの。仁那ちゃんは凄く強いから大丈夫だと思うけど……アリたん、サポートお願いね? ……それじゃ、仁那ちゃん替わるけど……。くれぐれも気を付けて」



 話を終えた早苗は目を瞑り沈黙する。数秒後、パッと目を見開いた早苗? は横に居た晴菜達に朗らかに答えた。



 「晴菜ちゃん、由佳ちゃん。私は仁那だよ! カレーの時、一緒だったね。今……悪い人に小春の友達……捕まってるけど、私が全員助けて見せるから。2人共ここに居てね!」



 早苗から替わった仁那(体は小春)は晴菜達に明るく言い切った。



 その口調は完全に早苗や小春と違い、早苗に小春の真実を聞いていた晴菜は恐る恐る仁那に問い掛ける。


 「確か……お、大御門君のお姉さんとか言う……仁那ちゃん……で良かった?」



 晴菜に同時に聞かれた仁那(体は小春)は元気一杯に答える。



 「そう、私は仁那だよ! 玲人のお姉さんです! 晴菜ちゃん、改めて宜しく! 由佳ちゃんとは前からお友達だよ!」


 「仁那ちゃん、また会えたね!」



 仁那(体は小春)は明るく晴菜に答えた後、前からの親友である由佳に手を上げて挨拶すると、彼女も応える。



 「ゆっくりお話ししたいけど……今は捕まってる皆を助けなくっちゃ! ローラちゃん、一緒に行くよ!」


 「はい、我が主!」



 仁那(体は小春)は晴菜達に話した後。控えていたローラに作戦実行を促す。対してローラは力強く自らの主に答える。



 「それじゃ! 私から行くね!」「はい!」



 元気な掛け声と共に、仁那は駆け出した。今日仲良くなった小春のクラスメイト達を助けたいという想いに溢れているのだろう。


 そんな仁那の想いに応える様にローラも力強く叫んで彼女と共に駆け出したのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

323)恐怖の林間学校-15(仁那の怒り)


 講堂の中から突然響いた伊原恵美の悲鳴に、仁那(体は小春)はローラ達と共に突入する事を決めた。



 「仁那様、私は左の男を倒します! 仁那様は右の男を! 出来るだけ相手に声を気付かれ無いようにお願いします!」


 「うん! 分った!」



 ローラは駆けながら仁那に話し、仁那も其れに答える。暗い夜空の下、掛けていく二人に対し講堂を守る二人の男は彼女達の存在に気が付かない。



 あっという間に二人の男に肉薄する仁那とローラ。先ず仁那が赤黒い軍服を着た右側の立っていた男に迫る。先ずローラが講堂入口の左側に居た男に攻撃を仕掛けた。


 暗闇から突如現れたローラに男達は慌てたが声を出す間もなく彼女から、首に強烈な一撃を喰らった。



 “ガツン!”


 「……うぐぅ……」



 講堂入口の右側に居たもう一人の男も現れたローラに驚き、銃を構え様とする。



 「お、お前……ど、何処……! うぅ」



 しかしローラと共に居た仁那が男の鳩尾を打ち悶絶させた上、額に手をやり意志力を働かせて意識を刈り取った。



 仁那はローラと共に講堂入口を守っていた紅き革命軍の2人を難なく倒した後、離れた位置で見守る晴菜達とレーネに親指を立てて“大丈夫!”とサインを送った。



 すると仁那の前にアリたんが現れて、声を掛ける。



 “仁那ちゃん、講堂の周囲に居た連中はたった今、キャロが倒したよ! アタシの方も車に乗っていた連中は偽情報流して適当に足止めしとくから、安心して講堂に籠っている連中やっつけちゃって!”



 「うん、分か……」

 

 「や、やめて! 誰か、誰か助けて!」



 アリたんの言葉を受けて仁那が返答を行おうとしている最中に、叫び声が又も響いた。



 ――伊原恵美の声だ。



 伊原恵美が悲鳴を上げる今、もはや一刻の余裕は無い。それが分かっている仁那はアリたんに頷いて作戦開始の合図を送り、目の前の脅威に集中した。



 そして横に居たローラに目配せして突入を促す。仁那とローラは講堂の入口を蹴り開けて内部に侵入した。



 “ドガァ!”



 「……何だぁ、お前達……。一人はターゲットの女か……。お前を迎えに行った奴らは何処に行った? 使えねぇ連中だな……」



 講堂に入った仁那とローラは奥で少女に伸しかかっているガタイの良い筋肉質の男に声を掛けられた。男に伸しかかられている少女は伊原恵美だ。



 恵美の顔は殴られた跡があり青あざを付けられ、口から血を流している。衣服は上半身の服がはだけさせられ、下着が見えてしまっている。



 そんな伊原恵美の周りには酷い泣き顔を浮かべている少女や焦燥した青い顔を浮かべる少年等、一様に恐怖と不安に駆られた少年少女達が座らせられている。



 教師達やホテル従業員達も、講堂に集められていた。



 彼らは赤黒い軍服を着た男達に銃を突き付けられ、生徒同様に恐怖を滲ませた表情を浮かべていた。



 その中にアーガルムの騎士である薫子も居たが、状況を一瞬で解決出来る筈の彼女は、如何にも不安そうな作り顔を浮かべて他の教師達と共に居た。


 薫子は小春達に影響が及ばない限り干渉しない心算らしい。



 そんな状況の中、伊原恵美の上で乗っている筋肉質の男が、講堂に飛び込んできた仁那達に向かい叫ぶ。

 


 「わざわざ逃げずに此処に来るとは馬鹿な奴らだ。俺らとしては都合が良いがな! とにかくターゲットのお前を確保して……、残りは大御門とか言う軍の犬を無力化すれば、依頼は終わりだ……。お前達、その二人を捕まえろ!」


 「「おう」」

 「はいよ」



 伊原恵美の上で叫ぶ筋肉質の男……赤き革命軍のリーダーである磐田の指示を受け銃を構えた3人の男が仁那とローラに迫る。



 命令を下した磐田は、自分が乗り押さえ付けている伊原恵美を見下しながら楽しそうに呟く。


 「……それとスポンサーの意向で、この馬鹿女をターゲットの女の前で犯せば良いんだったな……。貧相なガキだが……依頼なら仕方ねぇな」



 磐田はそう言って恐怖に引きつる伊原恵美の顔を抑えつけた。



 「いや! いやぁ! こんなの、絶対にいやあ!」



 顔を抑えつけられた恵美は泣き叫びながら激しく抵抗する。対して磐田は残忍な笑みを浮かべながら恵美に話し掛けた。



 「そう嫌がるなよ……恵美。お前だって俺に会いたがってただろう? まぁ大学生ってのは大嘘だが、引っ掛かって来たお前が悪いんだぜ。可愛がってやるから、精々喜べよ!」


 「は、放して! いやあああ!!」



 冷たく言い放った磐田は恵美の衣服を脱がそうとした。対して恵美は更に激しく泣き叫び激しく抵抗する。


 その状況の中、男性教師の一人が恵美を助ける為、声を上げて抵抗した。



 「せ、生徒に乱暴は止……」

 「うるせぇ!」


 “ドガ!”

 「あぐぅ!」


 しかし、勇気ある教師は傍に居た赤黒い軍服を着た男に銃に力一杯殴られ倒れてしまう。


 その様子を見ていた恵美のクラスメイト達は声を上げる事が出来ない。銃を構えた男達にどんな目に遭うか火を見るより明らかだ。



 ――そんな中、講堂内に大声が響いた。



 「その子を放せ!!」



 大声を上げたのは銃を持った男達に囲まれた仁那(体は小春)だった。仁那の大声を聞いた赤き革命軍のリーダーである磐田は馬鹿にした笑い声を上げながら恫喝する。



 「ははは! 元気の良い御嬢さんだ……。だが、周りを見ろよ。この中には8名居るぜ……お前に出来る事なんて何もねぇよ? 先に始めちまったが……この間抜けなガキを、犯す様依頼を受けてんだ……。

 お前にもしっかり見て貰うぜ……。お前達、早くそこの2人を縛り上げろ」


 「……もう一度言うよ……。今すぐ、その子を放して」



 磐田は仁那を縛り上げる様、彼女を取囲む3人の男に指示をする。



 対して仁那(体小春)は磐田の恫喝に怯まず言い放つ。仁那は本気で怒っていた。



 ……彼女は許せなかったのだ。



 小春の体を通じてだが、生まれて初めて参加した林間学校と……クラスメイト達との楽しい触れ合い。


 それは崩壊寸前だった以前の自分では絶対経験出来なかった素晴らしい思い出だった。



 それが……突然、無遠慮な乱暴者達に無茶苦茶にされたのだ。



 そして同時に大切な思い出を与えてくれた小春の友人達を助けたいと強く思ったのだ。それは小春に辛く当たる伊原恵美であろうが、純真な仁那に取っては関係無かった。



 そんな強い想いを抱いた仁那(体は小春)の両手と両足に突如黒いモヤが生じ手首と足首に纏わり付く。


黒いモヤは輪の様な形状をを形作りながら……直ぐに黒光りする漆黒のリングとなる。


それはドルジ戦の時に仁那が生み出したアーガルムとしての武器だった。


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隻眼殲滅兵器の婚約者 美里野稲穂 @miumiu46t

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