第2話 俺はラブコメが書けない

俺はラブコメが書けない。


友達には内緒で、こっそりこの小説投稿サイトに投稿を続けてきた。

最初は小説なんて俺でも書けるんじゃね?といったよくある動機に突き動かされたからだ。

異世界ファンタジーをテーマにした長編小説を定期的に連載していたのだが、割と自分で思っていたよりも評判が良く、固定のファン?というかブックマークのようなものをつけてくれる人も結構いて、自己顕示欲というものを適度に満たしてくれていた気がする。


だが、俺は途中であることに気づいた。

俺は異世界ファンタジーのアイデアならいくらでも思いつくが、ラブコメのアイデアは一つも思いついたことがない、というか思いつけない。


なぜなのかは自分でも分からない。


その……まあ……彼女とかそういうのがいたことがあるわけではないのだが、別に恋愛経験がなくともラブコメを書いている人なんて世界に、いやこの小説投稿サイト内でさえごまんといるはずだ。

だから、別に恋愛経験がないことがそれに繋がっているわけではない、と思う。


ただ、そうなるとなぜ俺はラブコメを書けないのか?

その理由がいまいちよく分からない。


たまに参考にしようと、ラブコメを書いてらっしゃる方の作品を覗いてみたりするのだが、やはりそれを覗いたところで良いアイデアは浮かんでこない。

せいぜい浮かんでくるのは、その作品の二番煎じのようなものばかりだ。

剣を持って戦う主人公やそのスキルはいくらでも思い浮かぶが、主人公に恋するヒロインの存在は全くもって思いつかない。


こうなるとやはり自分の恋愛経験のなさが仇となっているのではないかと疑いたくなるが、そうではないと自分に言い聞かせている。

そんなわけねえだろ。

でもとなると、やっぱり俺の頭はラブコメには向いてないのかな……



******



今日も今日とて、家に着いて急いでタブレットを開く。


勝人と卓と食べたカツ丼うまかったなーとか考えつつ、まずは自分の小説の状況を確認する。

コメント一件……「すごく展開が自分好みで大好きです! 表現の拙いところもありますが、荒削りなのも魅力かと思います! 表現などで分からないところがあったら聞いてくださいね」


小説界隈にはやたら上から目線の輩が多いなと苦笑しつつ、そいつのプロフに飛んでみる。

まあ想像通り、そこそこのレビューを獲得しているようだ。

調子に乗るのもしゃーないわな。

でもちょっと待てよ。


さっきこいつなんでも聞いてくれって言ってたよな。

ラブコメの書き方くらいなら、別にこいつじゃなくてもフォロワーに聞いたら教えてくれるんじゃね?


物書きという点において他の人物を頼るという発想がなかった俺が悪いのだが、完全に目から鱗だった。

善は急げとばかりに、近況ノートを開き、自分の状況を綴ってみる。

数分ほどして、一応質問形式の近況報告のような物が出来上がった。

投稿ボタンを押してそのままソファにもたれこむ。


なんだか一仕事終わったみたいだな……


そう倒れながら呟いた矢先、メッセージ欄に新しい通知が来る。

そんな早いのかレスポンスって?

そう思いながら送り主を確認すると、普段からよく拝見しているラブコメ作家さんだった。

メッセージの内容は簡潔。



「作品いつも拝見させてもらってます。僕も異世界ファンタジーの書き方が分からないのですが、お互い教えあいませんか? 僕でよければラブコメはいくらでも教えます」



……来ちゃったよコレ

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僕たちは小説が書けない 田中 海月 @jellyfish-t

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