特質

「ルーチェ。奥の棚から魔石持ってきて」

「あいさ!! ……なんでも良い?」

「なんでも良い。テストだし、屑魔石でも」

「あーいっ!!」


 元気よく。

 とても元気よく跳ねながら、ルーチェは奥の部屋へと飛び込んでいく。

 軽い溜息。それから、改めてフォルテはレウィンへと顔を向ける。

 白い目隠しで覆われた、何も見えない筈の目が、やはり彼を射抜いているようにさえ思えて。

「……やっぱ面白いね、その魔力。どこの出身?」

「早速痛い所を突いてくるな……」

 苦笑い。

 その質問に答えるだけの記憶が無い、と言っても信用を得られるものか。

 数秒の逡巡。それを見て「やっぱやめ」と顔を逸らされる。

「東でも西でも見た事ない、変な魔力してる。というか……歪んでる。壊れてる? んにゃ、欠損してるのか。ああルーチェ、そっちじゃないよ。右手の……それそれ。レウィンに投げてやって」

 不思議と、彼女はルーチェの居る奥へと目はやらない。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、一体何を感じ取って、紅い少女の手元を判断したのだろうか。

「いい? 投げるよーっ!」

「──え、ちょっと待っ」

 ほぼ姿が見えないまま、声と同時に──確認の意味がまるで無い──小さな石が飛んでくる。

 黒い鉄にも似たそれを、慌てて受け取ろうとして。


 ぱしんっ、と。

 青年の手に触れると同時に、鋭く弾けた。


 猫騙しを食らったような硬直。

 僅かに手元に残る痛み。

 ──ちりちりと、冷たい違和感。

 何が起きたのかわからないまま、ただフォルテの顔色を伺おうとする。

「レウィン。アンタの体ね──魔力の出力はめちゃくちゃ高いのに、生成力がまるで無いんだ」

「…………。えっと、つまり?」

「変人って事。……肩を落とさないで。この国の人間とは真逆だけど、だからこそ面白い事ができそうなんだよ」

 一息。

「さっき寄越したのは、西の国でよく見つかる『魔石』ってやつ。純度も密度も高くない屑石だけど、優秀な魔法師はアレからも魔法を編んでみせるんだよね。……アンタの場合、単純に魔石の魔力をそのまま開いちゃっただけみたいだけど」

「……生成できない魔力を、いきなり外から足されたような?」

 首肯。

 物わかりが良い、と腕を組む。

 表情こそ変わらないが、フォルテはどことなく満足そうである。

「特異体質ってのは楽じゃないけどね。それ用に調整さえできるんなら、そんなに苦労はしない筈だよ。──ちょっと確認。いくらなら出せる?」

 す、と懐を確認。

 中身に違和感が無い事を確かめてから、頭の中で軽く計算。

「……金貨、十二枚」

「富豪じゃん。……四枚ちょうだい。アンタ用の発動体を作っとく。杖とは言えないかもしれないけど」

「ん?」

 疑問。

 確認。

「まるで僕が、魔法を使えるようになるみたいな言い方だけど」

そう言ってる・・・・・・。魔石に強く依存はするけど、そういう道具を作るのは得意だし。それとも、要らない?」

「不要、とは言わないけど……」

「趣味と実験も兼ねてる。そっちの金ピカよりはわかりやすいし、楽しそうだし」

 振り返る。

 いつの間にかルーチェと静かに格闘していたクラウが、その言葉に軽く頷き。

「私は貴方よりもっと酷い。生成力も無ければ、出力も全く無いと言われてしまいました」

「生き物の常識ぶっ壊れてるよね。無色ですら無いんだもん、異常よ異常」

 嘆息。

 今日は一日、他の誰かにペースを握られっぱなしのような気がしてならない。

「それじゃあ、頼んだ。……ルーチェさん?」

「はいっ!!」

 呼び掛けると、即座に正面に回り込まれた。

 両手で金貨を受け取る構え。地味に急かされている様な気もする。

「……そう言えば、フォルテ。君は付与術師エンチャンターでもあると言っていたね?」

「ん?」

 車椅子が消えようとする前に。

 もう一つ、確認しておきたい事があった。

「例えば、だけど。……燃える水とか、伸びる縄とか、そういった物は作れたりするのかな」

「東の人間じゃないでしょやっぱり。大抵の奴、魔法についてそんなに詳しくないよ」

 呆れたように肩を竦めて。

 白い術師は、応答する。

「説明が要らないなら楽でいい。何がいる? いくら出せる?」

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東の国の機械技師 ねこのほっぺ @motimotitanukineko

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