紅い魔法師、白い魔鑑師

「お客さんだーっ!!!」


 扉を開けて、出会い頭。

 呼び鈴代わりに飛んできた声は、耳に悪い程に鋭かった。

「客だ客だ客だー! お客さんだよーっ!!」

「違っ……いや違わないか。違わないけど」

 つい両耳を塞いで否定しかける。

 客ではある。アテは隣の麗人だが、しかし使えそうな「何か」を求めて来たのは事実だ。

 その少女の声の勢いがあまりにも良すぎて、気圧されてしまったけれど。

 店の奥。走って出てきた紅い姿は、出会い頭に声の主だと自己紹介。

「客っ!!!」

「……客です」

「客??」

「クラウ、彼女は店主だという認識で良いのかな。僕、物凄い不安感に襲われているんだけど」

「…………」

「クラウ?」

「困惑する貴方を眺めるのも愉快なので、もうしばらくそうして頂いても」

「助けてよ!?」

 腕を組みながら顔を逸らされている。

 震える肩が何を意味しているかなど、問う理由も無いだろう。

 いつの間にか、小さな女の子はレウィンの周りを小走りで回り始めている。客、客、と同じ事を繰り返しながら。

 数分で頭痛がしてきそうな強烈さである。

「……ルーチェ、落ち着け。ソレが客なのはわかったから、それ以上困らせてもこっちも困る」

 と。

 数歩分の奥の暗がり。店の遠い所から、別の少女の声。

 ──きい、と僅かに木が軋む音。そうして、その人は顔を見せる。


 白い法衣。白い目隠し。

 木製の車椅子。華奢な両腕。

 小柄な姿に、それらはあまりにも痛々しくて。


「あ……いや、驚かせるつもりは無いんだ。驚くなって方が無理あるのはわかるけど。ごめんね、こんな格好で」

「ダー姉ぇ、表情筋! 笑顔!!」

「うるさい」

 いつの間にか、ルーチェと呼ばれた女の子が車椅子の後ろに移動している。

 当の白い少女は、早々に車椅子を自力で動かすのを止めている。ルーチェにしばらく押されるままである。

 ……勢い良く飛ばすと思ったら、想像以上に丁寧で拍子抜けしてしまった。そう待たずとも、改めて二人からの挨拶を受け取る。

「クラウが連れてきたって言は、まぁ……変人で間違いなさそうだね。ボクはフォルテ。こっちは妹の」

「ルーチェでーっす!! 覚えて!!!」

「……うるさいルーチェ」

 自己紹介は、対象的。

 しかし妹と言ったか。こうまで真逆なのに、姉妹だと。

 やたらと元気に溢れる妹と、物静かでやや控えめな姉。

 ただこの二人を眺めているだけで時間が吹き飛びそうなものだが、しかし目的の一切を放置しているわけにもいかない。

「レウィン。新人冒険者だ。……変人かもしれないけど、流石に初見でそれは傷つく」

「手遅れです」

「クラウもやめてくれないかな?」

 にこやかに隣から声が聞こえてきた。

 諦めてしまいたい。色々と。

「しかし、フォルテさん。こちらの店主は貴女だという判断で良いのかな? 何をどう扱っているのか、実は全くわかっていないんだけど」

 ぐるり、と店内を一周。

 ……それは店と呼んで良いものなのか。棚も無ければ椅子も無く、おおよそ商品と呼べるものが陳列されているようには見えない。

 内装も外観同様に小綺麗であり、視界の端にはいくつか装飾も見受けられる。が、逆に言えばそれだけ。

 魔法店、と聞いていたが、しかしこれはあまりにも。

「呼び捨てでどうぞ。っていうかそもそも、何て紹介したの金ピカ」

「魔法店と」

「ルーチェ、張り倒してきて」

「はーいっ!!!」

 跳ねて飛んでくるルーチェ。

 対してクラウはにこやかな笑顔のまま、振られる張手を片手で捌いている。

 嘆息。それは青年と白い少女がほぼ同時で。

「嘘では無いけど、さ。えーと、レウィン?」

「どうやら凄まじい行き違い……というより、クラウに遊ばれたのかな、これは」

「らしいけど、アンタの要求次第では答えられなくもない。面白そうな魔力してるし、アンタ自身に興味ある」

 ……その言葉で。

 目隠しをしているにも関わらず、彼女に射竦められた気がした。


「ボクが持ってる資格は、魔鑑師マギクス付与術師エンチャンターのふたつ。残念ながら魔法師ウィザードではないけど、魔法に近い道具なら作ったり見繕ったりできる。……アンタの魔力は東の国の人間とは違うから、何か気に入るのが見つかるかもね」

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