二軒目

 道行く二人。

 先導するのは、金色の麗人。

 この街を満足に知らないが故に、レウィンはクラウにほぼ全ての案内を任せている。雑貨という要求でわざわざ案内したいと申し出てくれたのはクラウの方だ。

 ……一人置いていってしまったが、それはそれとして。

 二軒と言われた内の、もう片方は。

「先に聞いておこうか。……どういう店だい?」

「文字通りの雑貨店ですよ。普通の人は通わない所ではありますが」

「うん、なんだろう。君に案内を頼んだのは正解なんだろうけど、どんどん後ろ暗い方に引き込もうとしてないかな」

 くすり、と笑われる。

「見てくれの良い店ならいくらでもありましょう。そして、敢えて『普通』を行くのであれば、わざわざ私が教える必要もありません。であれば、正道から外れた店を知ってもらうのが一番では?」

「……言いたい事は、わかるんだけど」

 軽く溜息。

 きっと、この疑念は見抜かれている。

「まだ僕がアルフレッドなのか、と疑われているようでね」

 徐々に人気が失せていく。

 東の国の両極端、腐臭と無秩序が満ちた路地に潜っていく。

 悪いようにはしない、とは言われたものの、それに百の信頼を預けるにはやや不安が残る──とはいえ、警戒した所できっと無意味なのだろうが。

 何せ。

 ゼファーと違い、レウィンにはクラウがどれほどの腕なのかが全くわからないのだから。

「──いえ。その疑いは貴方が死ぬまで続きますが」

「続くんだ……」

「続きます。が、それはさておき」

 背中越しに、頬が綻んだのが伝わる。

 もしかしたら、気のせいかもしれないけれど。

「貴方がレウィンである限り、その手を取ろうとも思っています。……無自覚なのでしょうが、その名は私達にとっても大切な物なので」

「…………。……そういう事に、させて貰おうか」


 ……私達?


 疑問が解ける前に次の謎である。

 失言と取るか、或いは言葉の綾か。

 クラウと出会ってまだ数時間。だというのに、ずっとその言葉に翻弄されている。

 どこまでが本気で、どこからふざけているのか、まるで読めない。読ませない、のでもあろうが。

 くすり、と笑われる。……やはり手玉に取られている?

「大丈夫ですよ。というより……考える事に一生懸命で、すぐに私への警戒を疎かにする。そんな無防備な人、軽率に投げ出したりなどできませんから」

「──あ、」

 ものの十数分。

 既に、ゼファーに意識の大半を預けていた事が露見する。

 否。この麗人は警戒するべきではない・・・・・・・・と思い込んでいる。まるで昔からの馴染みがあったかのように、僅かな疑いも抱く事無く。

「……不思議だな、初対面の筈なのに。ゼファーも、君も、いつの間にか信頼しきってしまっているらしい」

「光栄な事です。貴方らしくもある。──少しばかり、不安ではありますが」

 笑顔で軽く振り返り。

 着きましたよ、とクラウが小さく告げる。


「本日二軒目にして、本命。東の国唯一の『魔法店』です」


 辺りは異様に薄暗く。

 人気は全く無いというのに。

 何故かその建物だけは、一際小綺麗で、違和感があった。

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