悪食

「……なんだなんだ、剣呑としてんな。気持ち悪い奴が相手だから仕方ねぇんだろけどさ」


 声で、思考は中断させられる。

 ──どれだけ考えていた。十数分。否、数秒もあっただろうか?

 浮かんだ疑問の数々は、しかし答えを出すには情報が足りない。自分自身がどうにも欠損している──壊れている、とでも言えば良いのだろうか──という自覚は掴んだものの、では欠ける前・・・・はどうだったのかがまるで見えない。

 つまるところ。

 考えるだけ、時間の無駄だ。

「──そうだね、すまない。おかえり、ゼファー」

 この疑問も違和感も、すぐに答えは出せずとも。

 きっと、軽々に置いていってはいけないもの。

 ならば急ぐ必要は無い。もしこの答えに近い情報が手に入れば、それをまた噛み合わせて推理すれば良い。

 今の自分は、レウィンなのだ。

 青年はそう整理し、戻ってきたゼファーの腕に目をやり、


「…………。味覚障害か何かなのか君は。いや、──辛い!? 匂いが既に辛い!! 待ってくれそれ以上寄らないでくれ頼むから!!」


 下がりながら叫ぶ。

 叫ぼうとして、大きく息を吸った事をやや後悔。

 抱えられていたのは、小包、パン、小さな鍋、その他諸々。

 そのどれもが例外なく、人体に有害な臭気を発している──!?

「うわ……あの。いえ、……ゼファー。正気ですか」

「正気ってお前。これくらい味強くねぇと気合入らんだろ」

「小鳩亭の料理を思い出してくれ。こんな酷い物は無かった筈だ……!!」

 或いは刺激臭。

 もしかしたら刺激臭。

 というか、例外なく刺激臭。

 逆にどこからこんな物を……こんな物たちを見つけてしまったのか。しかも基本的にどれも見た目が整っているが故に、鼻が効かなかったら危険物とは気付なかったかもしれない。

 ふと気付く。比較的に人の少ない場所を選んではいたが、あからさまにさらに人が減っている。

 ……というか、遠巻きに眺められている。当たり前だ。いくらなんでも悪目立ちが過ぎる。

 ちらり、と隣の麗人に目配せ。

 一瞬だけ目を合わせ、考えが同じである事を確信し、敢えて宣言。

「ゼファー。それ全部一人で食べ切るまでそこを動くな」

「あん?」

「迎えには来るから、全部処分してから合流しよう。僕達はもう少しこの街を巡ってくる」

「──いや待て、護衛ってのは」

「私が居れば大丈夫でしょう。悪いようには致しませんのでご安心を」

 ぎろり、とひとにらみ。

 ちらり、と静かに確認。

 溜息ひとつ。二人の反応で失敗を悟り、渋々といった表情で片手を上げる。

「……しゃーね。しかしお前ら大げさだな」

「その他大勢の反応を見た上でその言葉は吐いてほしい」

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