最終回 ネバーランドの彼方に

「到着~!そしておめでとうスリーゲームの完全クリアだ!」


 俺達が出会った最初の平野。まだ少ししか経っていないというのに何処か懐かしさすら感じた。


「さぁさぁ!君にはネバーランドの住人になるカードを差し上げ「いらない」」

「えっ?」

「チケットは

「えっ、ど、どうしたんだい!?ここに来たときはあんなにも欲しがっていたじゃないか!ここなら好きなことが何でも出来て!」

「マイン、ネバーランドなんてんだろ?」


 その言葉を聞いた瞬間、マインの顔からあの明るさはゆっくりと消えていく。饒舌だった口は開かなくなる。

 

「それがお前が言うじゃないのか?」

「……君の意見を聞いてもいいかい?」

ゲームをプレイしていた時はまだ分かってはいなかった。全てを終えて……あの魂と話してようやく分かった。


「ロイは俺の、クランは俺の、そして魂は俺の、あれは全て俺自身の弱さが具体化した存在、スリーゲームもその弱さを自覚させるため」

「……」

「だから存在しないんだ、あれは全てお前の魔法で作った世界、お前は俺を試していたんだろ?自分の弱さに気付けるのか、端からお前はチケットを渡す気はなかった」

「……ハハッ、アハッ、アッハハハハッ!」


 高らかに響き渡る笑い声。だが何処か震えて悲しい感情を含んでいるように感じる。


「あ~あ、そこまで分かっちゃったか……」


 これまでに見たことのない真剣な顔。享楽的な彼女の仮面が剥がされる瞬間。

 

「正解、この世界は私が見せていた幻想であり異世界……君を誘ったのは私だ、スリーゲームという名目で君に自らの弱さと向き合わせた、これが真実、ごめんね?ネバーランドなんてそんな都合のいい世界最初から存在しないんだ」


 語られる真実。だがそれは俺が既に辿り着いていた答えの再確認。動揺はない。


「……何故俺だったんだ?」

「私はね、なんだよ、人の心を治療する概念、だから私は誰の心にも存在する、君のような闇を抱えている人が消えるまでは私は永遠に存在し続ける、そしてこの偽りのネバーランドも終わることはない」


 マインの正体。それは予想よりも壮大で悲しいものであった。闇があるから光がある。故にマインの義務は永遠に続く。


「それが君を誘った理由、これが全てさ」

「もし俺が気づけなかったどうしようとしていたんだ?」

「別にどうもしないさ、成功しても失敗してもそこまで、最後のチャンスを逃したとしか思わないさ、さて全てを話した、君を元の世界に「待ってくれ」」

「ありがとう」

 

 俺はマインに騙された。苦しめられた。弱さを見せられ心を抉られた。だが今心に残っているのは感謝の心だった。


「……初めてだよ、私にそんな言葉を述べた人は、皆私を恨んだりするのに」

「もちろん最初は恨んでた、何でこんなゲームをさせたのか、何でこんな苦しい思いをしなきゃいけないのか」


 度重なる耐え難い苦痛。ヘイトは募っていき殴りかかろうとした。


「けど……それじゃ意味がないって思ったんだ、お前が提示した3つの弱点、そして俺自身が見つけた弱点?」

「君自身が?」

「それは俺自身が暴君になっていること、相手の言葉を表面だけで理解して俺の気持ちにそぐわない物は聞く耳を持たない」


 俺のやっていることは間違っていない。悪いのは周りの奴ら。そんな暴君で身勝手な思想を疑いもせずに正しいと思っていた。


「でもスリーゲームをプレイしてようやく気付いた、俺はその言葉の本質を見ていなかったことに、辛い言葉でも裏を返せば俺自身を思ってるかもしれない、だから……俺は怒らない、怒ったらまた前の俺に戻ってしまう」


 変化は今しかない。弱点を自覚して他人を思いやる気持ちを理解した。ここで変われないでどこで変われるのだろうか。


「……君は思っていた以上に成長していたようだ、正直なところ君は成功しないと思ってた、だからこそ心は興奮でいっぱいだよ、もう会えないのが少し寂しいよ」 


 徐々に俺の体は光となっていく。迎えの時間が来たのだろう。現実へと帰る時間が。だがもう未練は何もない。

 マインは消えかけている俺の身体を優しく抱き締める。


「また会えると思うかい?私達」

「もう二度と会わないさ」

「……二度とか」

「でも一生忘れることはない、お前……いやマインのこと」

「それは愛の告白?」

「そうなのかも、あれほど憎んでいたのに不思議な気持ちだ」

「そうかい……それは素直に嬉しいな」


 光に包まれていく。意識が遠のいていく。

マインの声が歪んでいく。


「おめでとうハヤト」


 その言葉を最後に遂に意識が途切れた。



__________

 


 目が覚めた途端に見えた光景は見覚えのある天井。俺の自室だ。

 夢だったのかと錯覚するが身体にある確かな温もりが現実だったということを自覚させる。


「よしっ」


 身体を勢いよく起こし、机の上でノートを開く。

 マイン、俺はもう前だけを見るようにするよ。失敗や絶望を数えない。これからの希望を数える。お前が見せてくれた俺の弱さ……全て受け入れる。変わってみせる、だから安心してくれ。


そして自分なりの夢を見つけたよ。それはになること。お前との不思議な時間を文字にして皆に伝えたい。幻想の中で終わらせたくはない。




題名は『ワン・ユア・ザ・ネバーランド』




 魔法使いのマイン。次に彼女が現れるのは貴方の所かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワン・ユア・ザ・ネバーランド スカイ @SUKAI1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ