オマケ~コンビニバイトの今須~



「いらっしゃいませ……」


 あっ、今須います阿佐比あさひです。

 只今、バイト中。コンビニです。いろいろあって、吸血族秘伝の『精気を抜くワザ』を再取得するために、道場……的なモノに通うことを決めました。

 親に内緒です。


 できないのか?


 と言われるのが恥ずかしい。それに母さんには黙っておかないと……色々問題がある。父さんなら解ってくれるかもしれない。ハーフだし、朝起きると頬が痩けているときもあれば、元気なこともある。


 つまりそういうこと。


 高校生の僕が口に出すことはちょっと……。

 それはそうと、秘伝を早々教えてくれない。前も話したが、傷害事件になりかねないから、道場は秘密にされている。まあ、表向きは空手や剣道道場。吸血族だといった途端、素直に秘密を教えてもらった。


「最近の吸血族は、秘伝を使う事に否定的だ!」


 異様に目をギラつかせた師範だが……大丈夫だよね?

 まあ、そこに通うための学習費を、バイトで稼いでいるわけである。手軽なのが高校の最寄り駅前にあるコンビニ。

 大手じゃないのに制服もあり、学校の通学路、バイトのなり手が引く手アマじゃないか? と思ったが、そうでもないらしい。

 この新ヶ野あがの市の市立中学から高校までを、鉄道開発の一環で集中させた。何もないところに。住宅地もほとんどなし。お客は生徒と教員ぐらいだけ。なので夜の9時には閉まってしまう。


「ヴァンパイアか……」


 面接で履歴書を持って行ったときに、店長と経営者のため息は覚えている。

 吸血族なら夜中のシフトでも問題ないと思ったようだ。もちろん、僕は日が落ちれば元気になるが、今どき人間の血が混じっていない吸血族なんていない。睡眠も必要。どうも夜間のシフトに回したかったが、立地時要件が悪い。夜間に開店させていると、売り上げよりも光熱費の方が上回るとか。

 で、とりあえず閉店近くまでのシフトに入っている。

 吸血族といっても、高校生を夜中に働かせるのも問題になるとかで……。


「今須くん。外掃除してきて!」


 ――そろそろ閉店の時間か。


 店長からの仕事の指示。夜の駐車場の掃除は、僕の日課。これがちょっと嫌だ。

 どこの学校にもいるでしょ? いわゆる、不良という奴だ。

 それも一昔前のようなのが、うちの学校にもいた。

 店員達は彼らのことを『信号機』だの『虹』だのいっている。制服を着崩しているぐらいならいいが、長髪にカラフルな色で毛を染めているからだ。


 箒とちり取りを持って、僕は駐車場に出る。

 今日も今日として、駐車場のライトの下にたむろっていた。

 彼らを刺激しないよう遠くから、掃除をしていた。いつもだったら、店員の姿が現れ、自分達のテリトリー――明かりが届く範囲――にチラチラ入ると、うっとうしそうに解散するはずだ。だが、今日に限って緑色の長髪が絡んできた。


「なんか文句あんのか!」


 緑でウエーブのかかった髪が、顔半分を隠しているが、あきらかに女子。整った顔立ちだが、どこで売っているのか、黒いリップに同色アイシャドウ……にあっていると思っているのか?


 ――なんで今日に限って……目も合わせてませんよねぇ!?


 何も言い返せないまま、胸倉を捕まれると顔面に一発。


「何しているんだ!」


 殴られているのを見たのか、店長が店から飛び出してきた。

 大人には弱いのか、そこで不良達は蜘蛛の子を散らすように解散。


 ――やっぱりちゃんと秘伝を覚えよう。


 護身用のためにも……。



〈了〉

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鯨よりも深く〜夏休みの一コマ~ 大月クマ @smurakam1978

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