かなり特殊な異能ミステリ

 密室化したワンルームの中、記憶を失い全裸で目を覚ました「ぼく」が、目の前にある少女の死体について必死で考えを巡らす密室劇。

 異能をモチーフにした特殊なミステリ、もしくはソリッドシチュエーションスリラーです。特殊かつ限定的な環境で、自分が殺人犯とされてしまわないよう、自分の身に何が起こったのかを必死で推理、考察するお話。

 このレビューにおいては一応、致命的なネタバレ(答えやヒントを書いちゃうなど)はしていないつもりですが、でもものがミステリだけに要注意というか、わずかにでも事前の情報を得たくない方はご注意ください。この先、少なからず物語の構造には触れています。



〈  以下ネタバレ注意!  〉

 面白いのは主人公が「なんらかの超常的な能力の持ち主」であること。
 しかし記憶がないためその正体は当人にもわからず、そしてそれがどうやら状況を解読する鍵になっているらしい(と読んでいてわかるようになっている)点。

 そもそもにして記憶がない、という時点で一応「誰が(犯人)」「なんのために(動機)」もわからない状況ではあるのですが(「どうやって(手段)」は見ればわかる)、でも解くべき謎の焦点は犯人当てでも動機の解明でもなく、
「この奇妙で異常な状況が成り立つのは、一体どういう能力だった場合か?」
 というところにあるのが独特で面白かったです。

 異能ありのミステリではなく、異能そのものを謎の部分に持ってきたミステリ。ソリッドシチュエーションスリラーとしてのハラハラ感もあって、ついつい謎に引き込まれてしまう作品でした。