第13話 戦いの後

 目を開けると、白い天井が見える。

 ベッドに寝ているようだ。

 あれ?いつの間に寝てたんだ?

 確か、大変なことをしていたような。


 日差しが少し眩しい。明るいので朝のようだ。

 近くに誰かいる。

 隣を見るとリリアが椅子に座って本を読んでいた。


 キラキラした目をしていて、ずいぶん楽しんでいるようだ。

 本にドクロの絵が書いてあるけど、どんな本なんだ?


 ぼんやりしていると……何か……思い出してきた。


「またナンシーさんの下着が見れなかったな」


 ガタッバタッ


「エリオット! 起きたの?」


 リリアが椅子から立ち上がりこちらを見ている。

 目と大きく開き、口が半開きで「ワワワ」って小さく言っている。

 本が落ちたけど気にしていないようだ。


「心配したんだよー」


 僕に飛びつき、抱きついてくる。


 ズキズキッ


 お腹が痛む。

 だけど、リリアを抱きしめ返す。

 リリアが強く抱きしめてくれる。癒される。


「で、ナンシーさんの下着って何?」

「え? なんのこと?」


 低いトーンで聞いてくる。僕の何かを疑っているようだ。

 リリアが抱きしめるのをやめて、僕の顔の前でじっと見つめてくる。


「さっき言ってたじゃない。どういうこと?」


 目が少しつりあがってる。

 近くに顔があるのに、ドキドキではなくハラハラしてきた。

 んー? あ。

 心の声が出てたかもしれない。


「違うよ。聞き間違いだよ」

「えー? そう? ナンシーさんって言ってたよー」


 じーっと見つめてくる。

 僕の目の奥に何を考えていたのか書いてあるのか、それを読もうとしてくる。

 バレそうだ。


「私がどうしたの?」


 ナンシーさんが扉を開けて近づいてきた。

 リリアがナンシーさんの方を向いて告げ口する。


「ナンシーさん。エリオットがナンシーさんをエッチな目で見てるの」

「あら。そうなの? 別にいいじゃない」

「むー」


 リリアがムスーっとしてる。

 これはこれでかわいい。


 けど、僕は不満げな顔のリリアより、笑ってるリリアが好きだ。

 リリアを笑わせたい。


 チュッ


 ほっぺが近くにあったからチューしてみる。

 お互いが好きって言ったんだからいいよね。


「なっ。何するの。エリオット」

「あららー。やるわね」


 リリアが頬に手を当て顔を真っ赤にしている。

 ナンシーさんは右手を頬にあててニヤけている。

 僕は笑いかける。


「好きだよ。リリア」

「なっ」


 リリアがさらに真っ赤になる。

 少しうつむき、目が合わなくなった。


「フフ。私は後で来るわね」


 ナンシーさんがどこかへ行く。


 僕はリリアを引き寄せ、抱きしめる。

 やわらかくて良い匂い。

 僕の胸へリリアのドキドキとした鼓動が伝わってくる。


 少し体を離し、僕たちをキスをした。



--------



 一か月で僕の傷は治った。

 王様が国民の前でお祝いしてくれるらしい。

 今僕は、広場が見渡せる城の高いところから、国民のみんなを見渡している。

 広場には人がぎっしりいる。

 王様が少し咳払いした後、大きな声で話し出す。


「国民よ。待たせたな。勇者エリオットが魔王との戦いで負ったケガは完全に治った。ここのその名誉を称えようぞ」


 ワーワー


 国民の皆様が手を振ったり、何か言ってる。

 バラバラのことを言っているからはっきりしたことはわからないが、勇者様すごい的なことを言っている。


「うむうむ。勇者エリオットは帝国軍を1人で壊滅させただけでなく、魔王と巨大なドラゴンの討伐を果たしたのだ。ワシはこのような英雄を聞いたことがない」


 ワーワー


 凄い盛り上がり。

 平和を喜んでいる人たちがこんなにいる。

 僕はもっと喜ばせたくなって、大きく手を振ってみる。


「キャー」「エリオット様ー」「カッコイイー」「あたしと結婚してー」

「うおーー」「エリオット様ー」「一生ついていきやすぜー」


 女の子の声や雄たけびのような声がする。


「ついては、貴族として領地と騎士団を授ける。いずれはワシの娘と結婚し、国王として王国を治めてもらおうではないか」


 ワーワーワー


「では、次は娘との結婚式で会おう」


 ワーワーワーワー


 盛り上がりがすごい。

 王様や僕たちは城の中に入るが、歓声は収まることは無かった。



--------



「さて、勇者エリオットよ。皆の前でも言った通りだ。近いうちに娘と結婚し、この国を支えてくれないか?」


 先ほどの国民の前での演説の後すぐに、城の執務室らしき部屋で王様は話し出す。

 第1王女サラ様や第2王女シルビア様、宰相、僕たち3人もいる。

 謁見の間はドラゴンに壊されたので、この部屋で話をするようだ。


「もちろん。聖女様を第一夫人とし、サラやシルビアは2番目でいいぞ」

「いえ、それについてですが、僕はリリア以外の女性を好きにはなれません」

「そうか」


 僕は王様に、はっきり言った。

 期待してもらっているのは嬉しいが、どうしてもできないことがある。

 しかし、王様はある程度予想していたような反応。


「では、形だけの結婚として、国王になってくれないか? おぬしのような英雄を手放すわけにはいかん」


 国王もはっきり言ってきた。

 変に探り合いするよりは話しやすい。


「ねぇ。エリオットはこの国にいたいの?」


 リリアが急に聞いてくる。

 他の人と話している途中に割り込んでくるなんて珍しい。

 どういうことだろう?


「あのね。アタシね」


 リリアはもぞもぞし、どこから取り出したのかわからないが、ドクロマークの入った黒いブカブカの帽子をかぶる。


「アタシね。海賊になりたいの! 大きな船で冒険して色んな島の人たちを助けたいの」


 本を手に持ち、こちらへ向ける。

 本にはリリアと同じ帽子をかぶった男が船に乗り、荒々しい海を進む絵が描いてある。

 どうやら、今はこの本に夢中のようだ。


「ねぇ。一緒に来てくれるよね?」


 リリアがまっすぐに僕を見つめてくる。

 不安そうな目ではない。ニッカニカの笑顔で僕を冒険に誘う。

 僕も来るのが当然のような、そんな顔だ。

 だから僕も、当然のように言う。


「当たり前だろ。一緒に行くよ。けど、海のことわかってるのか?」

「ん? 冒険しながらお勉強すればいいんじゃないの?」


 相変わらずの準備不足。

 だけど、僕も海には詳しくない。


「じゃあ、私もついていっていいかしら? 海にも多少知識はあるつもりよ」


 ナンシーさんが頼りになることを言ってくれる。


「うん。いーよ。アタシは船長さんで、ナンシーさんは船を操作してね。エリオットは……アタシの言うことを聞く人ね」

「なんだよそれ。僕はいつもと変わらないじゃないか。でもナンシーさん。国を離れていいんですか?」

「大丈夫よ。私は勇者と聖女を助けるためこの国にいたのよ。元々別の大陸にある国で生まれたし、二人が別の国に行くなら、私も行くだけよ」


 そうだったのか。てっきりこの国の生まれだと思っていた。

 ナンシーさんは既に船で旅をしたことがあるのか。

 いつかはナンシーさんの国にも行ってみたいな。


 僕たちがいつもの調子で話していると、王様が話しかけてくる。


「うーむ。国王は無理そうじゃな。仕方ない。この国に立ち寄ったときはぜひ顔を見せてくれ」


 王様は残念そうな顔をしている。

 悪いね。リリアの行きたいところが僕の行きたいところなんだ。


「あの、お父様…」


 第2王女シルビア様が気まずそうに王様へ話し出す。

 しかし、王様は何を言い出すか気づいたのか、途中で話し出す。


「ダメじゃ。王族は国を離れるわけには……」

「いいじゃないの。お父様。私がいるわ。シルビアには好きな人生を送らせてあげましょう」


 国王はシルビア様を止めようとしたが、サラ様が許してくれるようお願いする。

 シルビア様の目がうるむ。


「姉さん。ありがとう」

「いいのよ。あなたの守護者のスキル。結界の魔法はきっと勇者様の役に立つわ」


 サラ様は微笑みをシルビア様へ見せる。

 謁見の間の結界って、シルビア様のスキルだったのか。

 シルビア様はリリアへ向かって言う。


「リリア様。私もつれていってくださるかしら?」

「うん。いーよ。シルビア様は……うーん。お洒落に紅茶を飲む人はどう?」

「ありがとうございます。でも私、お料理やお菓子作りが得意ですので、そちらを担当いたしますわ」

「やったー。お菓子だー。アタシケーキ食べたい」


 リリアが楽しそうに、仲間と冒険の計画を立てている。

 今日も笑顔のリリアはかわいい。


 この笑顔を僕は守りたい。






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ここまで読んでいただきありがとうございます。

本作はこれで完結いたしました。


本作は著者が初めて中編小説を書こうと思い書き上げたものです。

拙い文章にも関わらず、お付き合いいただきありがとうございます。


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「応援する」もいただけると嬉しいです。


では、次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

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聖女スキルの幼馴染は僕が守る。そんな僕のスキルは『はかいビーム』 維瀬ゆうに @oyatora

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