第12話 ドラゴン魔王(3)

 ナンシーさんについていき、城下町を走る。

 ドラゴンはゆっくり歩きながら、たまに炎をアレンへ打っている。

 町の建物は壊しているが、町の人は兵士の誘導で避難を始めている。

 大きな被害にはならなさそうだ。


「あそこね」


 ナンシーさんが指す先は教会だった。

 魔法使いは教会の関係者なのか?


 教会に入ると、司祭やシスターが倒れている。

 奥には水晶を持った、角の生えて肌が青色の、紫色のローブを着た魔法使いらしい奴がいる。


 パリィンッ


 その魔法使いは水晶を握りつぶした。

 なんて握力。

 って、壊しちゃいけない物だろ。


 ほら、ナンシーさんも怒っているじゃないか。


「何者?ここは神聖なる教会よ」

「なんだ貴様らは。ワシを誰だと思っておる」


 やたら偉そうな奴。

 というか、角生えてるって魔物か?

 それにしては人間サイズ。


「まあよい。今日は気分が良い。ワシは魔王ネオダークドラゴン。かつて世界を滅ぼそうとした伝説のダークドラゴンの生まれ変わりじゃ」


 偉そうな態度のまましゃべる。

 ネオダークドラゴン?

 こいつも魔王ってことか?


「外で暴れておるのは、ワシが召喚した前世のワシじゃ。じゃが、知能は低いので勇者を殺すことだけ命じておる」


 めっちゃ教えてくれる。

 色々聞いちゃおう。


「なぜ勇者を狙う?」

「勇者は前世のワシを殺そうとした。ギリギリで逃げ出したがの。じゃが、今度はワシが勇者を殺す。今回はワシの治癒魔法で不死身となった前世のワシが相手じゃ。勇者が死ぬは時間の問題よ」


 確かに、あいつは攻撃しても治るからな。

 相手にしたくない。


「さて、ワシは水晶をすべて壊して今後勇者が現れないようにする用事があるんじゃ。ついでにお前らを含めた人間も殺すがの。フハハハハ。大人しくワシに殺されろ」


「魔王。人間を舐めるんじゃないわ。ウィンドカッター」

 ビュウウッ


 ナンシーさんの風の刃。


「無駄じゃ。パーフェクトガード」

 パンッ


 魔王が紫色のドームに包まれ、ドームに風の刃が当たると弾けて消えた。


「フハハハハ。これこそがワシが転生時に得たスキルじゃ。すべてを無効化する結界よ」


 無効化だと。

 これじゃあ、スキルが通じない。

 魔王は魔法を唱える。


「サモンドラゴン」


 魔王の周囲に4体の魔物が現れる。

 4体の魔物はダークドラゴンを3メートルくらいにしたサイズだ。


「こやつらを殺せ」

「ギャギャ」

「ギャギャギャー」


 4体のダークドラゴンがこちらへ飛んでくる。


 こいつ、魔物を呼べるのか。

 さっさと倒さないと面倒そうだ。


 僕はネオダークドラゴンへ両手を向ける。


「はかいビーム」

 ギガギャリリリリリー


 今までで一番大きな白い光がダークドラゴンごと貫く。


 4体のダークドラゴンは消し飛ばしたが、紫色のドームに包まれたネオダークドラゴンにはケガ一つない。

 僕のスキルも通じないのか。


「ほほぅ。強力ではあるが、ワシの結果は無敵じゃ。サモンデーモン」


 また4体のダークドラゴンが現れ、こちらへ飛んでくる。

 くっ、どうする?


「エリオット。動けない間はアタシが守ってあげるね」

「エリオット。私たちに任せて、次の手を考えなさい」


 こんなときにもリリアは強気。

 ナンシーさんは冷静だ。


 そうだ。今まで3人でなんとかしてきた。

 これからもなんとかするんだ。

 リリアと世界を守るために。


「ウィンドカッター」

 ビュウウッ

「あたれー」

 シュッ


 ナンシーさんの刃がダークドラゴンを2体切り刻む。

 リリアの矢は外れた。


 いや、ここは当ててくれ。

 ダークドラゴンは小さいからなのか、ナンシーさんの魔法でも倒せている。


「ギャギャー」

 2体のダークドラゴンが炎を吐く。


「アタシに任せて」


 リリアが手で払い、炎を無効化する。


「ウィンドカッター」

 ビュウウッザシザシュ


 残りの2体も切り刻んだ。

 よし。魔王相手でも戦えている。


「面白い人間じゃ。殺し甲斐があるのぉ。ダークヒール」


 4体のダークドラゴンが紫色に光りだし、ケガが治った。

 そうだった。倒しても復活できるんだ。まずい。

 魔王に攻撃できないと、こちらが不利だ。


「わわわー。またこっちに来るよ」


 リリアも焦った様子。

 いや、リリアもスキルを無効化できる。

 無効化同士だとどうなるんだ?


「ナンシーさん。僕たちを魔法で援護してください

「ええ。いいわ。考えがあるのね」

「リリア。僕が守るから、聖女の力で魔王の結果を殴ってくれ」

「うん。わかったー」

「ありがとう。行くぞ」


 僕とリリアは魔王へ駆け出した。


「ギャギャー」

「ウィンドカッター」

 ビュウウッザシュッ


 ナンシーさんが1体倒した。

 もう1体が噛みついてくる。

 僕は剣で横から斬る。


 ガキィッ


 が、鱗が硬いのか斬れない。

 ただ、攻撃をそらせることはできた。

 斬る必要はない。

 先に進むほうが大事だ。

 そのまま走り続ける。


「ウィンドカッター」

 ビュウウッザシュザシュッ


 復活した2体をナンシーさんが倒してくれた。

 そのまま進む。


「フハハ。何をしても無駄じゃ。サモンデーモン」


 魔王の周囲に4体のダークドラゴンが現れる。

 何体でも呼び出せるのか。


 魔王まで4メートルに近づいたが、4体のダークドラゴンが壁のように立ちはだかる。

 邪魔するな。

 魔王へ手を向ける。


「はかいビーム」

 ギガギャリリリリリー


 ダークドラゴンは吹き飛ばしたが、魔王は紫のドームで防いでいる。

 僕は動けない。


「リリア。行け」

「よーしっ。いくぞー」


 リリアが右手を振り上げて走る。


「ナンシーさん。僕ごと風で飛ばしてくれ」

「いいわ。ウィンドブラスト」

 ビョオオッ


 僕は魔王へ飛んでいく。

 リリアが魔王の結果を殴った。


 バリィィンッ


 ドームが砕けた。

 やった。結界を壊せた。

 僕が魔王にぶつかる。


 ドカッ


 ぶつかっただけの威力は弱く、魔王は立ったままだ。


「何じゃ?ワシに触るな人間」


 魔王が嫌がりながら僕の腹を殴る。


 ドギャッ


 魔王の腕が僕の腹を貫いた。

 ぐうぅぅ。痛い。


「ガハッ。リリア」

「ヒール。頑張ってエリオット」


 僕のお腹が緑色に光り、治癒が始まる。

 しかし、魔王の腕があるためかちゃんと治らない。


「なんなんじゃ。お前。不死身なのか」

「不死身じゃねぇよ。守りたいものがある人間だ」


 僕は血を吐きながら叫ぶ。

 まだ体を動かせない。

 でも強がることはできる。


「うるさい人間め。どけ」

「どかねぇよ」


 どかないんじゃなくて、どけないんだけどね。

 魔王は僕を引きはがそうとするが、腹の傷が治ろうとしていて腕が抜けないようだ。


「ヒールヒールヒール」


 リリアがずっと回復してくれているが、だんだん傷の治りが遅くなる。

 どうした?


「リリア様。そんなビリビリに破れた『聖女の法衣』では聖女の力がうまく発揮できません」

「それでも、アタシがエリオットを守るの!」


 『聖女の法衣』が破れてる?

 魔王の結界を壊した時のか?

 お腹の治癒が遅くなる。


 ズボッドサッ


「フハハ。人間は弱いのぉ。サモンデーモン」


 魔王は僕の腹から腕を引き抜き、ダークドラゴンを呼び出している。

 僕はその場に倒れた。


「邪魔しないでっ。ウィンドカッター」

 ビュウウッザシュザシュッ


 ナンシーさんが何体か切り刻んだようだが、他にも鳴き声が聞こえる。


「ギャギャギャー」

「やめてーっ」


 リリアが僕に覆いかぶさる。

 このままじゃリリアが危ない。


 その時、体が動くようになった。

 急いで手を魔王へ向ける。


「はかいビーム」

 ギャリリリリリー


 白い光が魔王を貫く。


 僕は白い光を放ちながら、力を込めて、さらに大きな白い光を放った。


 白い光が止んだ時には、魔王はそこにいなかった。


「ギョワワー」


 ダークドラゴンたちがその場に倒れる。

 ダークドラゴンの体がだんだん薄くなり、最後には消えていった。

 呼び出した魔物は魔王が死ぬと消えるようだ。


 ズズーンッ


 外で大きな物が崩れる音がする。

 でかいダークドラゴンかな?


 あいつも魔王が呼び出したのなら、消えていってるだろう。


 勝ったよな?


「エリオットー」


 リリアが抱きつく。

 僕は体が動かないので何もできない。


 ふにゅん。


 やわらかくて、あたたかいものが僕に当たっている。

 これ気持ちいい。


「あの、リリア様。私のローブを着てください」


 ナンシーさんの気まずそうな声。

 頑張って目を動かすと、リリアは下着姿になっていた。

 なんで?

 リリアは聞こえていないのか、僕に抱き着いたままぐずぐず泣いている。


「恐らく、魔王の結界と聖女の力がぶつかったときに、両方が壊れたのでしょうね。はい。肩にかけますね」


 リリアへ自分のローブをかけるナンシーさん。

 優しい。


 でも、ナンシーさんがローブを渡したら、ナンシーさんは下着姿になるんだぜ。

 僕はナンシーさんの下着姿も見ようとしたが、はっきりと見えない。

 なんだか意識がぼんやりしてきた。


「エリオット? あら。お腹からすごい血が出てるじゃない。ちょっと、リリア様。すぐにエリオットを治療院へ連れて行きましょう」

「うえーん。エリオットー」


 泣いてばかりのリリア。

 やっぱり僕が守らないとな。


 改めて決意を固めようとしていたが、僕の意識はだんだん薄れていった。

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