第6話
〈 あの時は 〉
「私もよ…」
「今ね…君を見つめているだけで…
ドキドキしているんだ」
「私も…この身体のせいかしら…
貴方を見つめているだけで息苦しいの…
貴方の胸の中に入ってもいい?」
匠は両手を広げ……
「大歓迎だよ」
そう言って女将を抱きしめた。
「不思議ね〜」
「何がだい?」
「私達って、世界中の夫婦の愛し方を知っているじゃない」
「そうだね…情報処理と言う事で…
100億回以上のセックスをしている
事になるね」
「そう、全て素敵で気持ち良かったけど…
感動はしていないの…
だってコピーだし、情報だもの。
でもね…今は違うの……
貴方に抱きしめられて……
身体が熱くなって、
身体が小さく震えて、
身体の力が抜けていくの…」
匠は女将をギュッと抱きしめると…
優しくキスをした。
すると、女将の目から涙が溢れ落ちた。
匠は女将の耳元で…
「これが、ベイ博士が教えて下さった
愛と言うモノなんだね…」
「…きっとそうだと思う…
私…人間って大好きよ…
時には間違った事をして、
私を失望させてくれるけど…
居なくなればイイなんて…
思ってもいないわ」
「僕も思わないよ…むしろ、
人間が、少しでも幸せを感じて
生きて行ける
御手伝いをしたいと思っている」
「私もそう思っている…これって…
ベイ博士と先生方の影響かしか?」
「そうだと思う…
だって皆さん
暇さえあれば引っ付いて
「愛してるよ」「愛してるわ」
って言ってるし…
ベイ博士は「悪魔の使いだ」
って言いながら人助けばっかりしているし…
君と僕は、
皆さんを手本にして居る訳だから、
自然と人の事を好きに成るんだろうね」
「そうね…あっ、今、ボブ夫妻がベットに
入ったわ…
あっ、グレイ夫妻も」
「時期にジョニー夫妻も、
ベイ博士夫妻も愛の営みを始めるね」
「匠…私達もベットに入りましょう、
この身体で早く…
貴方を感じてみたいわ…」
匠は微笑みながら女将を
ヒョイと抱き上げ…
「…この身体での、記念すべき、
第1回目の…愛の営みだね」
女将の顔は見る見るうちに真っ赤になり
「…大好きよ匠…」
そう言って…静かに目を閉じた。
しばらくすると、
ホワイトホテルを包むかのように、
急に激しい風が吹き出した。
「ビュービュー…」と言う風の音は、
ホテルの中の、人の気配や、
物音を、全て…
呑み込んでいる様に感じられた。
5m四方の部屋に
ベットが2つ…
机が2つ、
トムとニーナの部屋である。
夜の10時20分、
2人は部屋の電気を消して
パジャマに着替え、
ベットの枕元に付いている
ライトの灯りで
本を読んでいた。
そんな時…急に激しい突風が…
「ガタガタガタ」
激しく音を立てる窓ガラス…
ニーナは読んでいる本を手放し…
「お兄ちゃん怖い…」
そう言ってトムのベットの中に
飛び込んで行った。
トムはニーナの頭を撫ぜながら…
「大丈夫だよニーナ、
風が強く吹いただけだよ」
「でも怖いわ、私、今夜はお兄ちゃんの
隣で寝る、いいでしょ?」
「べつに構わないけど…
2人で寝るには少し狭いから、
夜中にベットから落ちないようにね」
ニーナは頷きながら
トムの左腕にしがみ付いた。
ホテルの上空…
50mの位置に待機して居た
スカイシップは、
現在、ホテルの上空20mの位置まで
降りて来ている…
デッキの中ではフリー・メーが、
1つの作戦の指揮をとっていた…
「フリー・リー、風の強さは
安定しているかしら」
「大丈夫よフリー・メー。
ねぇ雨も少し降らしてみない?」
「いいわね、降らしましょう。
「ねぇフリー・アー」
「なぁに?フリー・ルー」
「カミナリなんて言うのはどうかしら」
「そうね〜…
いいんじゃないかしら?
フリー・メー、頼めるかしら」
「お安い御用よ…」
そう言い終わるのと同時に、
雷の音が
ホワイトホテルを包み込んだ。
「お兄ちゃん怖い…
カミナリが鳴り出した…」
そう言って小さく震えるニーナを…
トムはギュッと抱きしめた…
「大丈夫だから…パパとママのホテルは、
雨や雷なんかには負けないから。
それに今夜は…
ベイ博士も、先生方も…
女将さんと匠さんまで居るんだよ、
そしてスカイシップの中には
フリーさん達が居て、
僕達を護ってくれている…
だからニーナ、
絶対に大丈夫だからね」
そう言ってトムはニーナの頭を撫ぜた。
ニーナは兄の言葉に安心したのか…
トムの胸の中に顔を埋め
「うん…分かった……」
そう言いながら
「スーッスーッ」と寝息をたて出した。
トムとニーナの言葉を、
ホタル経由で聞いていたフリー・ベーは…
デッキの中央で、
土下座をして居た…
「…ゴメンなさい…
トム君、ニーナちゃん。
僕のせいなんだ、
どうしよう…怯えている…
本当にゴメンね、ゴメンね…」
そう、しきりに謝りながら、
何回も頭を下げていた。
話しは少しだけ前に戻る…
10名がホテルに降りた後、
フリー・ベーが何気なく…
「女将様と匠様の夜の営みが、
どうか無事に終わりますように…」
と呟いた。
それは、誰かに聞いて貰いたくて
言った訳ではない。
本当に、心の底から…
2人の事を心配をして、
思わず出てしまった独り言である。
しかし、
その事を聞いていたフリー・メーは
素直に受け止めてしまった。
「フリー・ベーが、
そこまで女将様と匠様の事を
考えているなんて…
さすが、私達のリーダーね。
分かったわ、
貴方の心配事は、私達全員の問題よ…
御二人の愛の営みの成功を、
私達が全力でサポートするわね」
そう言って親指を立てた。
「えっ?いや、違う、あの…
フリー・メーちょっと待って、
違うんだ、お願い待って!」
そこから今に至るのである。
フリー・メー達は、
夜の営みの時に、どうしても出てしまう
大人達のアエギ声と、
ベットの軋む音…
それらを、かき消す為に、
音響効果として、
風と、雷の音を使ったのである。
何も知らないトムとニーナ…
トムは…
「フリーさん達が…守ってくれる」
とまで言ってくれているのに、
まさか…雷と風を出しているのが
スカイシップの、フリー達とは…
フリー・ベーは一人で悶絶していた
「早く夜が明けてくれ…頼む、
明けてくれ、あけろ、あけるんだ!」
そう言い終わると
下を向き…
「…本当に…ごめんなさい…トム君…
ニーナちゃん、ゴメンなさい…」と、
謝る事しか出来なかった。
次の日…朝の8時。
トムとニーナは花壇の前に立ち…
「お兄ちゃん、あの花どうかしら?」
「綺麗だね…ニーナは花選びが上手だね」
そんな会話をしながら、
食堂に飾る花を摘んでいた。
テーブルの上には、
食器類が綺麗に並んでいる
ブラウン夫妻はいつでも料理が出せるように食堂の入り口で待機をしていた。
一番最初に部屋から出て来たのは…
グレイ夫妻である
「おはようございます、
ブラウンさん、レイチェルさん」
ブラウン夫妻は満面の笑みを浮かべ
「おはようございます、
グレイさん、ルーシーさん」
そう挨拶をした後に、
直ぐに熱いコーヒーと、
ベーコンエッグ、
そしてポテトとサラダを運んで行った。
「ありがとうございます」
そう言って、ルーシーが
トーストにバターを塗っている間に…
ボブ夫妻、ジョニー夫妻…
そしてベイ夫妻が、
テーブルに着いた。
どの夫婦も…満足そうな顔で
鼻の下を伸ばしている。
昨夜なにをしていたとか、
どれだけ気持ち良かったとか、
そんな野暮な話しをする人は…
一人もいない。
そこに…
匠夫妻が食堂に入って来た。
「皆さん、おはようございます」
匠の腕の中には…
お姫様抱っこをされた女将の姿が…
誰もが
(あぁ…幸せそうな顔…良かった…)
そう思いながら、口々に…
「おはようございます」
と言って微笑んだ。
女将は庭で花摘みをしている
トムとニーナが、
まだ此方に来ない事を
確認しながら
「昨夜…ウフフいっぱい愛し合いました…」そう言って匠の胸の中に
顔を埋めた…
8人は…
(…えっ?照れてる?
えっ?恥ずかしがっているの?
何で100億回以上の、
セックスの経験と、
知識がありますって言ってたじゃん?)
と思ったが…
嬉しそうに、
はにかんでいる2人を見て…
(…そうか…自分の身体を使って
愛し合ったのは、
昨夜が初めての経験だったんだよね…
そうか…無理もないよね…)
そう…思う事にした。
トムとニーナが花摘みを終えて
ホテルの中に入って来た。
女将は、匠の腕の中からサッと下に降り、
匠の浴衣の襟を直し…
自分の髪の毛を…シュシュっと束ねた。
8人は…
(おぉ〜奥ゆかしい、日本の女性って
言う感じだ…)
と思っていると…
匠が軽く右手を上げた。
誰もが(んっ?…)と思っていると
目の前に、パッと、真っ白な花瓶が現れた。
8人が…
(イリュージョン…)と思っているところに
2人が入って来た。
ニーナが可愛い声で…
「皆さん、おはようございます。
庭に綺麗な花が咲いていましたので…
摘んで来ました。
直ぐに花瓶を用意しますので…」
すると女将が…
「ニーナちゃん、もしよければ、
この花瓶をどうぞ、
主人が作った物なんだけど」
「…綺麗な花瓶…」
トムとニーナが花瓶に花を入れると、
女将が人差し指をテーブルの方に向けた…
すると
花瓶はテーブルの真ん中に飛んで行き…
フワッと着地した。
その様子を、ブラウン夫妻も料理を運びながら見ていた…
レイチェルが夫の耳元で…
「貴方…スゴイわね…」
ブラウンは笑顔で頷いた。
その時である、花瓶の中には
蕾のままの花も入って居たのに…
それらが一斉に…咲き始めたのだ。
12人は思わず拍手をしてしまった。
匠と女将は微笑みながら…
小さく会釈をした後に、
自分達の席に着いた。
〈…あの時は…〉
女将と匠のイリュージョンは、
ベイ達8人にとっては
日常茶飯事的なことであるが…
ブラウン一家にとっては普通の事ではない
(魔法の国みたいだぁ〜)
そう思ったのか、
4人の笑顔が普通の顔に戻らない
(ニヤニヤしていたら失礼だろうなぁ、
困ったなぁ〜)
とブラウン夫妻が思っている時…
ジョニーがその事を察してくれ…
「トム、すまないけど…
テレビのニュースを観たいんだけど…」
そう言って…
皆んなの注意をテレビに
向けてくれた。
しかし間の悪いことに、
トムがテレビのスイッチを入れた瞬間…
画面に映っていたのは、
8人が、まさしく世界最高会議室に
現れたシーンであった。
ブラウン夫妻は…
「あっ!」と言いながら両手で口を押さえ、たまたまコーヒーを飲んでいた
リンダとルーシーは…
口からコーヒーを吹き出してしまった。
「…ゴホッ、ゴホッ…ごめんなさい…」
と言いながら、
噎せるリンダの背中を摩るボブ。
「大丈夫かい…」と言って、
ルーシーの口の周りを拭くグレイ。
皆んな一応に驚いていたが…
ベイだけは冷静な口調で…
「これは、どういう事ですか?
昨日は確か…
私達の事は取り上げられる事は…
ほぼ、ない、と言っていましたよね…」
そう言って女将と匠の顔を見つめた。
一瞬にして部屋の中の空気が凍り付き、
皆んなの顔から笑顔が消え…
テレビの中のアナウンサーの…
「…地球を影から守ってくれた
8人のヒーローですが、
どこの誰なのか…
現段階では、特定した名前を
言う事が出来ません…」
その声だけが…
妙に部屋中に響いていた。
10秒間の沈黙を破ったのは女将である。「…私達は、ベイ博士の命令には
絶対に服従しようと
常に2人で話し合っています。
なのにベイ博士は私達に、
「まかすよ」と言われました。
私と匠は8秒も話し合いました。
私達2人の1秒は、皆さんの
1時間に当たります、
そのくらいのスピードで
AIは会話が出来るんだと思って下さい。
私達はまず、
ベイ博士自身の事を話し合いました、
なぜ私たち夫婦を産んで(作って)下さったのか。
次に、地球の未来についても
話し合いました。
その次はベイ博士夫妻について…
ボブ夫妻について…
ジョニー夫妻について…
グレイ夫妻について…話し合いました。
結論から申し上げます…
皆さん、開き直りませんか!
あの人達は誰なんだ?
ボブだよ、リンダよ、
壁から出て来て驚いた、
ゴメンね、急いで居るのよ。
あなた方は神様ですか?
ジョニーって言うんだよ、
女神様ではないのですか?
そう呼びたきゃ呼べばいいけど、
私の名前は、アンジーって言うの。
仏様ですか?いえ、
料理人のグレイって言います、
えっ?ドクターじゃないんですか?
私はパティシエのルーシーって言うのよ。
そんな風に、開き直って名乗ったところで…
世界中のどなたも、
私達とコンタクトを取る事なんて
出来ませんよ、
だって…ズッと空の上で、
ズッと世界中を飛び回っているんですから。
もう…
「俺達は悪魔の使いだ」
と言うキャッチフレーズは…
昨日までで終わり!
…と言う事にしませんか?
あまりにも無理があります。
ベイ博士の気持ちも分かっている
つもりです。
死んだ人間が生き返るんです、
良く思ってくれる人もいれば、
モラルに反する行為だと言う人もいる…
確かにその人達からすれば
悪魔でしょうが、
大半の方達は
神様とか仏様だと言ってくれている
と言う報告を…
ホタル達から間断なく受けとっています…
何処の誰だか分からない、
謎の8人は誰でしょう…
もう、いいんじゃないですか…
名乗りましょう」
そう言って…
女将はベイ博士の目をジッと見つめた。
ボブは向かい側に座っている
ジョニーを見つめ…
(ジョニー、この雰囲気はマズイよ、
なんとかしてくれ…)
と目で合図を送った。
するとジョニーは…
(ごめん、無理無理…)と言う感じで、
首を小さく横に振った。
その時である…ベイが急に笑い出した…
そして…
「分かりました。
女将さんと、匠さんの、言う通りですね、
今から悪魔の使いと言う表現はしません」
と言った、すると匠が…
「えっ?ベイ博士…よろしいのですか?
とても気に入っておられるのでは…」
「いいですよ…だって昨日…
『此れからは、皆んなの意見をよく聞く』
って約束をしましたから、
今まで本当に申し訳ないくらいに
自己中心的な作戦でしたからね…」
するとグレイが….
「ベイ博士の作戦には愛情が沢山
つまっています。僕は大好きです」
と言ってくれた。
ルーシーも……
「私も大好きです…ずっと昔から」
そう言ってグレイの手を握っている。
ベイは…
「ありがとう…そんな風に言って
もらえるなんて」
そう言って微笑んだ。
〈 キャスター 〉
ベイはメリーの顔を見ながら
「…どう…少しは人の話を
聞けるように成ったかな?」
「えっ?どう言う意味かしら?」
「いや、だから…
僕は、何時も人の意見を聞かずに
動く癖があるから…」
するとメリーは首を傾げながら…
「貴方はいつも…私達の話を聞いてくれて、私達の希望通りに…してくれたわよ」
そう言って…
ベイの鼻を人差し指で…
チョコンと触った。
すると、先ほどまでむせて居たリンダが…
「ベイ博士、メリーの言う通りです。
私達は、嫌な事をさせられた、
なんて言う風に思った事は
一度もないですよ、
何時も…何らかの理由と、
意味があるんだろうなって
思っていましたよ。
悪魔の使いの事だって、
世間から非難を浴びた時に…
全部自分一人の責任だって
言う為ですよね?」
隣でボブが…小刻みに頷いている。
ジョニーはオデコを…コリコリと掻きながら「ベイ博士……
皆んな、ベイ博士の事が大好きで…
今までズッとついて来ました。
何時もワクワク、ドキドキさせてくれて。
そして最後に、
あぁ〜良い事をさせてもらったなぁって、
思わせてもらって…
とにかく、ベイ博士が考えられる作戦は
全て大好きですよ。
女将さんと匠さんも大好きですよね?」
「はい、大好きです…
何回も言いますけど、
考え方も行動も、そして人柄も大好きです」と匠が言えば、
女将は頷きながら
「だからこそ…私たち夫婦は、
ベイ博士のサポート役を、
心の底から喜んで
させて頂いて居るんですよ」
そう言って、
微笑んだ時である…
テレビの中に、リチャードスミス氏が…
映った…
食堂に居る全員が…
テレビの画面に注目した。
ニュースキャスターの女性は、
見るからに興奮しているのが分かる、
無理もない、
世界を救ったヒーローインタビューに、
多くのアナウンサーの中から自分が選ばれ…
更に、特別なコーナーまで用意して
もらったのである。
彼女は何度も、控え室の中で練習を繰り返し…そして今……
「テレビをご覧の皆さん、
世界が終わるのではないか…
そう思われた昨日から、
一夜を開ける事が出来ました。
既に、テレビやネットの映像で御覧に成られたと思いますが、
世界中の空軍の方達が
力を合わせ戦って下さった
お陰だと思っています。
今日は、戦いの総指揮を取られた、
リチャードスミス隊長を
スタジオに御招きしております」
そう言って、彼女はリチャードに
御辞儀をした後に
「今日は朝からスタジオにお越し頂き、
ありがとうございます。
あの、すみませんリチャード隊長、
お聞きしたい事が沢山あるのですが…
よろしいでしょうか?」
リチャードは小さく頷きながら…
「はい、何でも答えさせて頂きます」
そう言って背筋を伸ばした。
「昨日の皆さんの働きで、
地球は救われました…
ただ映像を観ますと…
沢山のジェット機が…その…
爆破されたように見えまして…
中には、
エイリアンの飛行物体に、
自ら体当たりをして…その…
大破したように、見えたのですが…」
キャスターの質問に、
リチャードスミスは
厳しそうな表情を浮かべ…
「太平洋上空での戦いは、
先程もこちらの番組で流された
映像の通りです…
かなり多くのジェット機が爆破されました、
特に日本のパイロットの方達は…
自らのジェット機にミサイルが無くなると、
隊長が先頭をきって、
敵の戦闘機に突っ込んで行かれました。
私は正直言ってびっくりしました。
しかし次の瞬間、
隊長の後を追うように、副隊長も、
部下の方達も次々と
敵に突っ込んで行くんです。
ここで奴らを倒さないと地球は守れない…
彼等の後ろ姿が、そう言っているように感じました…本当にすごい方達です」
「リチャード隊長…実は、
日本のパイロットの方達全員が…
無事生還されたと言う情報を…
私どもの番組が手に入れているのですが」
リチャードは…
(…知ってるよ、スカイシップの中で一緒に生き返らせてもらったし…
男同士で抱きしめ合ったし…
お互いメチャクチャ尊敬し合ったし…)
そう思っていたが、
ワザと大げさに…
「えっー本当ですか、良かった、
上手く脱出する事が出来たんですね〜
本当に良かった」
と言って微笑んだ。
するとキャスターは…
「あの…私どものスタッフが映像をくまなくチェックしました所…
リチャード隊長も敵の母艦に体当たりしているんですよね…
こちらの映像をご覧下さい」
リチャードは…
「えっ?」と言いながら振り返ると、
スクリーンに自分が乗っていたジェット機が写っている……
(…げっ…マジか…よく見つけたな…)
と思っていると、キャスターから
「リチャード隊長も無事に脱出する事が出来たんですね…」
「えぇ…そうなんです…」
「でも映像を見る限り、ものすごい爆発で…脱出されたようには見えないんですが?」
「そうですねー…
この角度からは写って居ませんが…
この爆破の後ろ側に…
脱出する事が出来まして…
とてもラッキーでした」
「本当に良かったですね。ところで話しは少し変わりますが…
こちらの方達をご存知ですか?」
と言ってキャスターは一枚のボードを
指し示した。
リチャードは…おもむろに視線を向けた…
(えっ〜、またベイ博士達の写真…
さっきも映像を出してたじゃん…
秘密なんだよ…
でも何で皆さんの写真が…
世界最高会議室って、なに、
簡単にハッキングされちゃうの…?)
そう思ったが、表情には一切出さず…
(知らないフリをするしかないな…)
と思った次の瞬間である…
「リチャードスミスさんも、
ここに一緒に写っていますよね…」
そう言ってキャスターが微笑んだ直後に…
何処からか指示が出たのか…
「えっとスミマセン、
今から我が社が入手しました映像を
約5分間ほど見て頂きまして、
その後にもう一度…
リチャード隊長から話を伺いたいと
思います」
そう言ってキャスターは…
一旦話を結んだ。
リチャードは胸をなでおろし…
(あぁ〜良かった…
でも何でトップシークレットが
漏れてるんだ?…
なんて答えればいいんだ…
テレビ局は…
どの辺までの秘密を知っているんだ…)
と思いながら大きく息を吸った時である…
キャスターが…
自分の胸元に付いている
マイクを外しながら
リチャードの耳元に顔を近づけた…
「リチャードさん、私どもはベイ博士の事を知っています。
全ての事では有りませんが…
ボクシング世界ヘビー級タイトルマッチの
前日記者会見の映像の中に…
ボクサーのボブ選手、
マネジャーのリンダさん、
ラジオの人気DJの、
ジョニーさんとアンジーさん、
天才シェフとしていくつもの雑誌に取り上げられた、グレイさんとルーシーさん…
そして色々な研究所を回られた
ベイ博士とメリー博士が写っている物を、
私どもの、
テレビ局のスタッフが見つけました。
でも…あの方達8人は…
火事で亡くなっているんです…
なのに世界最高会議室の中にパッと現れ…
悪い奴らを…
大統領に引き渡しています…
それに…先ほどの映像の空中戦…
素人の私が観ても
パイロットの方が全員が助かったなんて
信じられません…
それに海岸沿いを襲った、
高さ90m級の津波…
ご存知でしたか…
何処の海岸も全部…
大きな海水の壁が立ち上がり、
町は何の被害も受けずに助かったんです。
それに島には
海水のドームが張られ、
船などは、大きなシャボン玉で包まれて
沈む事もなく…
無事…今日と言う日を迎える事が
出来たんです。
でも常識で考えて…
おかしくないですか…」
キャスターの声は、早くて、小さくて、
そして…
震えていた。
リチャードは小さな声で…
「死んでいた方が…良かったですか?」
「ごめんなさい、そう言う意味ではないんです…会議室での映像…はじめの方が、
音声が入ってないんです…
リチャードさんの声も
ベイ博士達の声も…
何を話しておられたんですか?
お願いです、教えて頂けませんか…」
キャスターはすでに
泣きながら喋っている。
リチャードはハンカチで彼女の涙を
ぬぐいながら…
「世の中には、知らない方が…
いい事もあります…
ただ…これだけは言っておきます…
あの方達は、とっても優しくて、
強くて…そして正しい方達です…」
「知っています…知っているんです。
私の妹は、産まれた時から沢山の
病気を持っていて、
何度も何度もオペを繰り返して…
でも半年前に亡くなって、
私と両親が泣き崩れて居たら…
ジョニーさんとアンジーさんが
壁の中から出て来て…
妹を生き返らせて下さって…
御礼を言いたくて声をかけたら…
「オレ達は悪魔の使いだ…
気まぐれな事をしただけだ…」
そう言われて、
壁の中に消えて行かれました…
リチャードさん、
知っているなら教えて下さい、
あの方達は神様ですよね…」
するとリチャードは優しい声で…
「そうです…
でも、8人の神様達の事が世間に知れたら…
あの方達は行動しづらくなると
思いませんか?」
キャスターは静かに頷いた…
「貴女は神様達に、
御礼を言いたかったんですよね」
キャスターはもう一度頷いた、
リチャードは微笑みながら…
「今度あの方達にお会いする機会がありましたら…貴女の事を伝えておきますよ…
ですから…今日のこの放送は、
地球が何事も無くて良かったですね、
と言う風に…
まとめて頂けませんか?」
「…はい……取り乱して…スミマセンでした」
そう言って…
彼女はこの後…報道番組を上手にまとめ…
終了させてくれた。
リチャードとキャスターの話は
フリー達によって、ズッと、
ベイ達8人の耳元に届いていた。
女将が、あえて聞かせたのである。
ベイはテレビを観ながら…
「匠さんと、女将さんの言う通りでしたね……悪魔の使いだ…
何て言うキャッチフレーズは…
僕の軽率な考えでした。
皆んなにも嫌な思いをさせて
本当にゴメンね…」
7人は優しく微笑んでくれた。
メリーはベイの手を触りながら…
「ねぇベイ…」
「なんだいメリー」
「さっきのキャスターの方…
本当は番組の中で私達の正体を
明かしたかったのかしら…
それとも本当に御礼を言いたかった
だけなのかしら?」
「さぁ〜どっちかなぁ…
でも結果として
僕達の事を黙っていてくれた訳だから…
助けてもらった感は…あるよね」
「後で…お礼を言いに行かない?」
「そうだね、8人で行こうか」
そう言って6人の顔を見ると、
満面の笑みで
親指を立ててくれた。
皆んなの気持ちが…
とてもいい感じに和らいでいる時…
匠の隣にチョコンと座っている女将が、
申し訳なさそうな声で…
「あの…ベイ博士」
「はい、何でしょうか?」
女将は匠と顔を見合わせ…
「あの、実は私達夫婦は…
皆さんに隠し事があるんです」
「えっ?…そうなんですか…
いま…私達に聞いて欲しいって言う
事ですか?」
「はい、そうです…」
ベイは皆んなの顔を見回した後に…
「分かりました、どうぞ…」と言った。
女将は意を決したような表情で…
「ホタル達を世界中に送り出してから、
さまざまな報告が、
私達の耳に入って来ます。
命にかかわる重大な事は…
直ぐにベイ博士に伝え…
皆さんに世界中を飛び回って頂くと言う…
大変なご苦労をおかけしております」
「女将さん、苦労なんて思って
いませんよ…」
と言ったのはルーシーである、
女将は微笑みながら…
「ありがとうこざいます…実は、
亡くなった方々を生き返らせる事よりも、
更に多くの報告がありました…」
今度はアンジーが
「何ですか?…」と尋ねた、
女将は淋しげな表情で…
「貧困と飢えです…
ホタル達から…
お金ではなく、
今すぐ食べ物を送って欲しいと要請が…
途切れる事なく入って来ました、
お金を持って買い物に行くどころの
話しではなく、
今すぐに食べ物が無いと
死んでしまうかも?
と言う緊迫した状況の話しです…
でも皆さんに、
これ以上出動して頂くには…
無理があると判断した私達は…
皆さんが寝ている間に…
瞬間移動とホログラムを使い…
世界中の困っている方達に、食べ物を
配りました…」
するとリンダが
「なんだか私…
泣いてしまいそうなんですけど…
私達が寝ている間に…
女将さんと匠さんは
世界中を飛び回って下さっていたんですね。
ごめんなさい…
私達なんにも知らずに…
もう…本能のままに、
愛し合って居ました…」
そう言ってボブの手を握った。
するとベイは頷きながら…
「私がいたらないばっかりに、
影でそんな苦労をされてたんですね、
本当にすみません…
食べ物を受け取られた方達は
喜んでくれだでしょうね…」
「それはもう大喜びでした。
ただ…いきなり食べ物だけが
目の前に現れても、
不審に思って、
誰も食べないだろうと思い…
実は…皆さんの姿をホログラムにして、
食べ物を配りました…」
8人はほぼ同時に…
「えっ?」と言って女将と匠の顔を
見つめた。
2人はその声のトーンで…
(…しまった…怒っている…)
と判断したのか、
皆んなの視線を避けるように、
下を向いてしまった。
ベイは慌てて……
「あの…匠さん、女将さん…
えっと…そんな下を向かないでください。
良い事をされたんですよ、
私達は少しも怒って居ませんから…」
すると女将は…
「そうなんですか?良かった〜」
匠の顔を見つめ…
満面の笑みを浮かべた。
8人は思わず…
(おっ、立ち直りが早いな〜)
と思いながら笑い出してしまった。
今さら…匠と女将に何を言っても、
8人のホログラムは世界中の誰かに…
食べ物を手渡しているのだ。
ずっと悪魔の使いだったはずが、
自分達が寝ている間に…
神様の使いのようになって居たのだ。
ベイは心の中で…
(…本当に良く出来たAIだこと…
僕の欠けている部分を、
何も言わなくても良い方向に向けてくれて…AI主体の社会だって作ろうと思えば
作れるのに…
僕みたいな頼りない男に使えてくれて…
女将さん…匠さん…僕は欲深くて、
自己中心的で…大したことない
人間ですよ…)
そう思っていたら…
隣からメリーが身を乗り出し…
「私達ばっかりが世間から感謝されて…
女将さんと匠さんも
私達と一緒に、前に出て来られませんか?
前にベイが言ってたんですけど…
優秀な御二人なら,
僕から離れて、
いくらでも宇宙に君臨する事が出来るよ、
って言ってましたよ」
そう言ってメリーは
2人の顔を…ジッと見つめた。
すると匠が…
「まったく興味がありません。
私達二人は…
ベイ博士の全てにおいて
完璧でない所が大好きなんです。
何時もメリーさんの身体を、
舐め回すように見つめる、
あのヤラシイ目。
のべつ幕無しメリーさんのお尻を触る、
あのヤラシイ手。
なのに、ほぼ同時進行で…
世界中の人達の幸せを考えている…
優しい心。
口では…
「自己中心的な俺の、どこが悪い!」
と言いながら…
皆さんの意見を聞き…
すぐに自分の意見を
引っ込める心の広さ。
私と女将は…
そんなベイ博士が大好きです。
なので…自分達がトップに立ちたい
などと思った事は
一度も有りません!」
と言い切ってくれた。
するとボブも間髪入れずに……
「匠さん、私達も…御二人とまったく
同じ思いです。
ベイ博士は超天才で、
何でも自分の思い通りになるだろうに…
しないんです。
私達はその部分が大好きなんです」
と言ってベイの顔を見つめると、
部屋中のメンバー全員が…
(その通りです)
と思いながら………
ベイの顔を見つめた。
〈 トムとニーナ 〉
ベイは皆んなからの視線に
耐えられなかったのか?
真っ赤になった顔を両手で隠し…
「お願いだから…そんな目で見ないで……
僕は、本当に大した事を考えてないから。
皆んなが知っている通り…
メリーの事しか考えていないから」
するとリンダが…
「はい、よく存じ上げています、
昔からそうでしたから。
更に付け加えれば、
暇さえあればメリーを膝の上に
抱っこしている…
私達は…その様にちゃんと
認識していますので、
ご心配なさらないで下さい」
そう言って微笑むと、
部屋中が大爆笑になった。
ニーナも皆んなと同じ様に、
ニンマリと微笑んではいるが、
大人の女性の気持ちが今ひとつ
分からない?
ニーナはメリーを見つめ…
「メリー先生。
ベイ博士は、そんなに沢山、
メリー先生のお尻を触るんですか?」
と質問をして来た。
するとメリーは、
子供の質問に対して(…嘘はいけない…)
と思ったのか
「そうね、いっぱい触って来るわね」
「触られるのは嫌ですか?」
「嫌なわけ無いじゃない、むしろ嬉しいわ」「何で嬉しいんですか?」
「だってベイは…私の事が大好きだから触ってくれるのよ、
嫌いなら触らないでしょ…」
「はい、そう思います…
パパも、ママのお尻をよく触っています、
私達が知らないとでも思っているのか…
ママの後ろに立ち、
パパがお尻を触ると…
ママは振り返って…
嬉しそうな顔で
「なんなのブラウン」
と言ってキスをします…
それって好きだからですか?」
メリーは頷きながら…
「その通りよニーナ、
パパとママは愛し合っているの…
お喋りしたり、手を握ったり、
抱きしめたり、キスをしたり、
全部大事な事なのよ」
ニーナは深く頷きながら…
「私…お兄ちゃんのことが大好きなのに、
お兄ちゃんが私の事を触らないのは…
嫌われているのかしら?」
そう言ってトムに視線を向けた…
トムは真っ赤な顔で…
「僕もニーナが大好きだけど…
僕達は兄妹なんだよ。
ニーナが大人になったら、
素敵な男性が現れて…
「結婚して下さい」
って言ってくれるから…」
するとニーナ真剣な顔で…
「私は、お兄ちゃんの奥さんになりたい!」
「ありがとう…僕もニーナを奥さんに
したいけど…
兄妹だからね、
法律で許されないんだよ…」
そう言って…トムはボブの顔を見て…
(そうですよね先生)
と言うような表情で訴えた。
ボブは以前、トムに勉強を教えている時に、少しだけ話しが脱線した事があった。
「トムは、大人に成ったら、
どんな…お嫁さんが欲しいの…」
トムは照れくさそうに
「僕はニーナのように、
素直で、明るい女の子がいいです」
と言った。
ボブはトムの頭を撫ぜながら
「トムはニーナのことが大好きなんだね」
するとトムは淋しげな表情で…
「でも僕達は兄妹なんです…」
と言って下を向いてしまった。
ボブは、その時のことを思い出しながら
ベイの顔を見た…。
実は以前、
トムとニーナを
生き返らせた時に
以外な事実が判明したのだ。
しかし、
ブラウン夫妻が隠している事を、
周りの人間が…
とやかく言う筋合いがないので
…黙っていたのである。
ベイは、ボブの視線の意味を理解した上で、
ブラウン夫妻に目を向けた。
ブラウンとレイチェルは、
ベイの視線を感じながら…
目で会話をした
(…あなた…どうしよう、大丈夫かしら?)
(…大人になってから…言うつもりだったんだけれど、トムとニーナがそんなに
悩んでいるなんて…)
アンジーがトムとニーナの間に入った。
2人の肩を抱き寄せながら…
ポツリ、ポツリと呟いた…
「私達が昔ね…施設に居る時にね…
メリーとリンダ…
ルーシーと私の里親が決まったの…
本来なら…喜ぶべき事なんでしょうけど…
私は…とにかく、
ジョニーから離れたくなかったの。
ジョニーに抱き着いて…
「ずっと一緒に居たいの…」
って泣きながら言ったら……
「僕もだよアンジー、
ベイに相談しよう、
きっと何とかしてくれるよ」
2人でベイ博士の所に…
走って行ったの…
そしたら…すでにボブとリンダ…
グレイとルーシーが来て居たの…
たしかメリーは…
ベイ博士の胸にしがみついて…
泣いて居たわ…
ベイ博士は微笑みながら…
「大丈夫…大丈夫だから…
いま頭の中を整理しているからね…
皆んなが幸せに成れるような…
そんな作戦を考えるからね」
そう言ってくれて…
それから私達…色々な事が、
いっぱいあったんだけど…
皆んな、パートナーの手は…
絶対に放さなかったわ。
ニーナ、トムが大好きなら…
何があっても、離れちゃダメよ」
そう言って、
アンジーは、ニーナのおでこにキスをした。
ニーナは満面の笑みを浮かべながら、
トムの顔を見ている…
その様子を見たレイチェルは…
意を決したようにブラウンの手を握り…
そして…
「今…アンジーさんのお話を聞いて…
私の揺れ動く心が…
おさまりました。
ありがとうございます」
レイチェルは、トムとニーナの前に立った。
トムは内心…叱られると思ったのか…
少し…伏し目がちに立っている…
しかし、レイチェルの顔はとても
柔和な表情である。
レイチェルは、2人の前に座り込み…
「…2人も座って…」
そう言って微笑むと…
トムとニーナも…
レイチェルの前に座った。
「…トム…大人になったらニーナを
奥さんにしたいの?」
トムは静かに頷いた…
「そう…分かったわ。
ニーナもトムの奥さんになりたいの?」
「ごめんなさいママ、
私…難しい事は分からないの…
でも…お兄ちゃんの奥さんになりたいの…
その事を考えると…胸が苦しいの…」
「…いいわよニーナ、トムのお嫁さんになってあげて」「いいのママ」
「いいわよ」
そうレイチェルが
言い終わると同時に、
ニーナは、レイチェルの胸の中に
飛び込んだ…
レイチェルはニーナの
背中をさすりながら…
「ニーナ、私は貴女のママよ…
でも…1つだけ聞いてほしい事があるの」
「なぁにママ?」
「あのねニーナ……………
貴女には…もう1人…ママが居るの」
「えっ?…」
「本当は…ニーナがもう少し大人になってから…言うつもりだったんだけど…
今…言うわね…」
ニーナは黙って頷いたが…
レイチェルの目からはすでに
涙が溢れている。
「ある晴れた日に…
貴女の…お父様とお母様が…
ホテルに泊まりに来られたの…
昼の1時頃だったわ。
お母様の腕の中には、
産まれて間もない…
貴女が寝て居たの。
真っ白なベビー服を着て…
私は、天使が寝ているのかしら、
と思ったわ。
お父様は…少し疲れているように見えた。
ブラウンが三人を部屋に案内して…
フロントに戻って来た時に…
「レイチェル…なんだかマズイ気がする」
って、私はなんの事だか
よく分からなくて。
夕方…
「ちょっと3人で外に出て来ます」
お父様がそう言った時に…
お母様に抱っこされていた貴女が、
急に泣き出したの…
御二人はとっても辛そうな顔で
貴女を見ていたわ……
その時、フロントの奥に寝かせていた
トムも泣き出して…
ブラウンがトムを抱っこしながら
「あの…もし宜しければ、
赤ちゃん泣いているようですから、
私達夫婦で御預かりしましょうか?
…あの、私が抱っこしているのは、
息子のトムって言うんですけど…
今…2歳でして…あの……
娘さん…御預かりしましょうか…」
お父様とお母様は顔を見合わせて…
そして…
私の胸の中に…貴女が来たの。
お母様が…
「娘のニーナです、よろしくお願いします」そう言った後に…
貴女の頬と、私の頬にキスをされて…
そしたらブラウンが、
トムを御二人に見せながら…
「まだ2歳なんですけど、
頭が良くて、とっても優しい子なんです…
きっと大人になったら…
ニーナちゃんを守ってくれると思います…
ニーナちゃんの…
花婿候補にいかがですか?」
って言ったの、
私はびっくりして
「あなた、お客様に失礼な事を言わないで。
すみません、本当に優しくて、
良い主人なんですけど、
たまに、訳の分からない事を言うんです…
ごめんなさい…
気を悪くされましたでしょ…」
そしたら…お父様がブラウンを
抱きしめながら
「ありがとうございます、
よろしくお願いします」
って言われて…
今度は…お母様が…
貴女を抱っこしている…
私ごと抱きしめられて
「いけない事をした時は、
叱って下さい…
愛してやって下さい…
お願いします…」
御二人を乗せた車の後ろを見ながら、
ブラウンが泣いているの……
「どうしたの」って私が聞いたら
「たぶん御二人は帰って来ないよ…
帰ってきて欲しいけど…」
次の日、御二人が事故で亡くなった事を
ニュースで知ったの。
ニーナ、貴女のお父様の名前は、
ニールさん…
お母様の名前は、エレナさん…
ごめんなさい、今まで隠していて…」
そう言って下を向いた。
部屋の中がシーンとなった。
誰もが
(…ニーナに…何て声をかければ
いいんだろう…)
そう思っていた。
すると突然、ニーナが歓声を上げた
「やったー、お兄ちゃん!…
私たち本当に結婚出来るのよ…
お兄ちゃん、アレって、
夢じゃなかったんだね、
良かった〜、
お兄ちゃんの、奥さんになれる」
そう言ってトムに抱き着いた。
ニーナは大喜びであるが…
大人達は何の事だか分からない?
ブラウンがトムに向かい…
「トム…夢って何の話かな?
聞いてもいいかな?」
部屋の中の大人達が、全員トムを見つめた…
しばらくの沈黙……その後トムが
「あのねパパ…少し話しが長くなるけど…
いいかな?」
ブラウンは小さく頷きながら…
「構わないよ…ゆっくりでいいから」
そう言ってトムの頭をなぜた…
「…あのね、僕達が死んで、このホテルの
周りを漂っている時にね…
オジさんとオバさんに
声をかけられたんだ…
オバさんが…
「ニーナ、可愛い女の子になったわね…」
そしたらニーナが…
「おば様、私の事を知っているの?」
オバさんは…
「うん……知っているわよ…
ずっと見ていたもの…
ねぇ、抱っこしてもいい…」
ニーナはオバさんの顔をジッと
見つめた後…
「いいわよ、もう死んでいるから、
誘拐される心配もないものね」
そう言ってニーナはオバさんに抱き着いて、
そしたらオバさんは…
泣きながらニーナを
抱きしめて。
その後に
オジさんが僕に向かって…
「トム君…お父さんが言っておられた通り、優しくて賢い男性になったね」
って言ってくれて、
だから僕は「ちっとも賢くないので…
ニーナを守れず死んでしまったんです」
って答えたんだ…そしたら
「そうか〜…でも、オジさんとオバさんは…嬉しいよ…まさかニーナとトム君とおしゃべりが出来るなんて」
…オバさんは、
ズッとニーナに頬ズリしてるの…
それから30日間、
オジさんとオバさんと過ごしたかな…
沢山お話しをして…
とっても仲良くなってね。
でも…今日が最後で…
オジさんとオバさんが、
天に上がるって言う日に…
ニーナがオバさんに…
「お兄ちゃんの事が好きだけど、
兄妹だから結婚できないの…」
そしたら
オバさんが「大丈夫よ結婚出来るわよ…
だって…ニーナを産んだのは…
オバさんなんだから…
ごめんね、びっくりした」
ニーナは
「…知ってたよ…
ずっとお腹の中で…
お母さんと、お父さんの声を聞いてたもん…
でも…きっと…
大人の事情って言うのが
あったんでしょ…」
オジさんとオバさんは…
「ゴメンね、ごめんなさい…ごめんなさい」
って謝りながら大泣き…
最後にオバさんは、ニーナをギュッと抱きしめて、何回もキスをしながら……
「レイチェルママと、
ブラウンパパを大切にするのよ」
そしたら、
オジさんは僕に
「ニーナを頼みます」
そう言って…何回も頭を下げてきたの…
僕はオジさんに抱きついて
「ニーナとズッと一緒に居ますから…
大事にしますから」って…
泣いちゃって…
それから…
空に上がっていく…オジさんとオバさんに
手を振って…
そしてまた2人でホテルの中を漂っている時に、生き返らせて貰って。
でも生き返ったら、
漂っていた時の事が夢のような…
なんだかボンヤリとして…
よく分からなくなってきて。
ごめんなさい…
長くなったけど僕の話はこれでおしまい」
そう言って…トムはニーナの顔を見つめた。
するとレイチェルは、
ニーナをギュッと抱きしめて
「お母さんに会えて良かったね、
抱きしめてもらって良かったね、
キスしてもらえて……
本当に良かったね…」
そう言って泣きだした。
周りに居る大人達は貰い泣きで、
顔が涙でグチャグチャである。
ブラウンは、トムとニーナの頭を撫ぜながら「ごめんよ…そんな事があったんだね…
2人とも偉かったね」と言うと…
ニーナはレイチェルの
背中をさすりながら…
「ママ…泣かないで、私にはママが居て、
お母さんが居て。
パパが居て、お父さんが居るのよ。
そしてお兄ちゃん…
トムと結婚出来るのよ。
それに…私達2人には、
何でも教えて下さる先生が8人、
いえ10人もいらっしゃるのよ…
私達ってさ…きっと、
世界で一番幸せなカップルだと思うわ」
そう言って微笑んだ。
ポジティブなニーナの強さに、
大人達の心は大いに救われる事に成った。
女将はベイに向かって…
「もとわと言えば…
ベイ博士の…
「復讐大作戦」から
出発したんですよね。
でも途中から、
不運な死に方をした人達を、
「生き返らせちゃえ大作戦」になり…
そこから「地球を救う大作戦」に変わり…
悪い奴らを一掃する為の
「復讐大作戦」に返って来て。
そして最後は、
トム君とニーナちゃんが、
大人になったら結ばれる、
「結婚大作戦」
と言う話でおさまりましたね。
ベイ博士、皆さん…
今まで本当に……楽しかったですね」
そう言って微笑んだ。
ベイは頷きながら…
「本当に…一生懸命に考えた作戦でしたけど…まぁ〜僕の優柔不断な性格上…
最後までブレない作戦は……
無理みたいですね…」
そう言って頭をさすると、
匠は微笑みながら…
「優柔不断ではなく、
臨機応変に進化して行くんですよね、
ベイ博士の作戦は、
私は大好きですよ!」
すると女将もすかさず…
「私も同じ意見です。
小さな子供さんの幸せを、
丁寧に解決される作戦……
一番大事な事だと思いますよ。
ベイ博士の事ですから、
次の作戦も頭の中で考えて
いるんでしょうね」
そう言って珈琲を一口飲んだ…
「あらあら大変…冷めちゃってます…」
そう言いながら女将は人差し指を立てた…
すると、あっと言う間に
テーブルの上にある、
全ての珈琲カップから…湯気が上がった。
誰もがニッコリと微笑み…
「ありがとうございます、いただきます」
そう言って…カップに口をつけた。
朝から色々な事が沢山あった朝食会は、この後10分ほどで終了した。
女将と匠を入れた10名は、ブラウン一家に見送られ、いったんスカイシップに戻った。
〈…サプライズ…〉
そして、8人はお互いの顔を見合った後…
すぐさま黒衣モードを身にまとい、
テレビ局の一室に瞬間移動をする
準備をした。
女性のニュースキャスター…
グロリアに会うためである。
特別なニュース番組を終えたグロリアは、
控え室で、
リチャードスミスに御礼を言っていた…
「お疲れのところ申し訳ありませんでした、また当番組に出演して頂き…
ありがとうございました。
…そして途中…
私情を挟んで…取り乱してしまった事…
本当に申し訳ありませんでした。
どうか…お許しください」
そう言って、
涙ぐみながら頭を下げた。
リチャードは慌てて…
「いえいえ…頭を上げて下さい、
私は怒ってなど居ませんよ…
むしろ出来る事なら貴女に、
神様達を紹介したいくらいです…
でもきっと皆さん…お忙しいと
思いますので…」
そう言っている時に…
部屋の隅っこがキラキラと光り出した。
2人が…
(…えっ?…)と思っていると
イキナリ8人がパッと現れた。
グロリアは目を見開いたまま…
自分の口を両手で押さえた。
「脅かせてすみません」
と言うベイの一言に…
グロリアの目から涙が溢れ
足が震えている。
今にも(倒れそう!)
と思ったアンジーは、
サッと駆け寄り……
「悪魔の使いだ…なんて、
嘘をついてゴメンなさい」
そう言ってグロリアをソッと
抱きしめた。
グロリアはアンジーの背中に手を回し…
「…あの時は…あの時は妹を助けて頂き…
本当にありがとうございました…」
そう言って泣き崩れてしまった。
そんなグロリアとアンジーの横で…
ベイはリチャードに向かい…
「すみません、私が秘密にして欲しい、
何て言ったから、
リチャードさんに気を使わせてしまい…
反省しています」
そう言って頭を下げた。
リチャードは恐縮しながら…
「ベイ博士、頭を上げて下さい…
実は、私自身どう言えば良いのか
迷っている時に…
グロリアさんに助けてもらって…
何とか上手く、
乗り越えられただけなんです…」
ベイは頷きながら
「実は…今後こういった事が、
なるべく無いようにと思い…
大統領に手紙を送りました」
「手紙ですか……他の誰かが見なければ
良いのですが…」
「大丈夫ですよ、匠さん特製の手紙は、
大統領が何かを飲む時に…
カップの中に…文字が浮かぶんです、
例えばミルクを飲む時には、
黒い文字が…
ココアを飲む時には
白い文字が…
これなら誰にも見られないでしょ…」
「すごいですね…」
「本当は…大統領の頭の中に、
直接話しかける事も出来る…
と言われたんですけどね……
それってかなりヤバイ奴だなって
思ったもんですから…
文字が浮いている方が、メルヘンチックでいいかなって…」
真面目なリチャードは…
「はい、メルヘンの方がよろしいかと…
ところで大統領には何と?」
「1つ目は、リチャードさんを
大統領の力で、
あまりマスコミに出さないようにと、
お願いしました。
2つ目は…もし今後、私に話しがある時は
リチャードさんを通して下さいと…
珈琲カップの手紙に、そう書きました」
リチャードは「そうですか…」
と返事をしたが、内心では……
(いやいや、待って待って、
1つ目は嬉しいけど…
2つ目はマズイんじゃね…
いやきっとマズイよね……
軍の上官に会うのはいいけど、
大統領は駄目でしょ…
うん、無理、無理、
この前お会いしたのは特別だから、
例外だから…
本来なら私…会える立場じゃないから)
そう思っていたが…
ベイの笑顔を見ていたら…
何も…言えなかった。
ベイは次に…グロリアに目を向け…
(…かなり落ち着いたな…)
そう思えたので…
「皆さん少し注目して頂けますか。
出来ればお互いの顔が見えるように、
輪になって頂けますか?」
と言った。
ベイの右側にはメリー、
左側にはリチャードスミス…
グロリアはアンジーの右側に立った。
ベイは皆んなの顔を見回した後…
「リチャードさん、グロリアさん…
私達8人の事を話しますね…
大して面白い話しでは有りませんが、
聞いていただけますか?」
2人は…静かに頷いた。
ベイは少しハニカミながら、
今日まで、どのように生きて来たのか、
そんな話しを…約15分ほどにまとめて、
2人に聞いてもらった。
施設での生活…
いきなり殺された事…
復讐の事…死んだ人を、生き返らせれる事…
水の壁を立ち上げ、
津波から町を守る術を知っている事…
全部である。
ただ最後に…
「悪い事をされた方は生き返らせる
事が出来ないんです…
地の底から得体の知れないモノが…
亡くなられた方の魂を
連れて行ってしまうんです…
私もその部分はどうする事も出来ません…
どうか、生きて行く過程の中で、
悪い事をされませんようにと…
祈るばかりです…
あと御本人が…
「このまま死にたいんです」と希望された時は御本人の意思を尊重します。
私達8人の話は以上です。
リチャードさん、グロリアさん…
いま私が話した事を、
秘密にして下さいとか…
周りの人に伝えて下さいとか…
そう言った意味で
話したんじゃないんですよ…
ただ…お二人に…
知っていて貰いたかったんです…
私達8人が何者なのか、
どんな生き方をして来たのか…
話しが長くなってしまいました、
すみません。
私達はこれで帰りますが、
最後に…」
そう言って、ベイはメリーに…
「グロリアさんの身体を治してあげて」
メリーは微笑みながら…
「グロリアさん、ちょっと下腹部を…
ごめんなさいね…」
そう言って光を当てた。
「次にヒールを脱いでもらえますか…」
「えっ?あっ、はい…」
グロリアはヒールを脱いだ…
メリーまたブレスレットから光を浴びせた。
「グロリアさん、
外反母趾と、足の裏のタコとマメ…
あとは子宮筋腫…治しておきましたよ。
痛いのは辛いですもんね」
そう言ってウィンクをおくると…
グロリアは「えっ〜」
と言いながらしゃがみ込んで
自分の足の裏を触った…
ツルツルである、
今まで痛かったのが嘘のようである。
其れに以前から下腹部にあった鈍痛が
消えているのだ。
グロリアは御礼を言おうと顔を上げた…
しかし8人は…もう居なかった。
「えっ〜?あの…リチャードさん…
皆さんは…」
「皆さんお忙しい方達ですから、
帰られましたよ。
皆さんに会う事が出来て、良かったですね」
「はい…とっても嬉しかったです」
そう言って涙をこぼした。
リチャードは微笑みながら
「でわ…私も帰りますね、
愛する妻子が待っていますので」
「お忙しいところ…本当にありがとうございました」
「大丈夫、忙しく無いんですよ、
実は…2週間の特別休暇をもらえたんです、
今から妻とゆっくりと過ごします」
そう言ってリチャードは…ドアを開けた。
グロリアはリチャードの背中に…
「すみませんリチャードさん…
もし私が…
神様達にお会いしたいと…お願いしたら…
あの…」
するとリチャードは振り返り…
「…いいですよ…内緒の話しなんですけど…
電話番号を知っていますので…」
そう言ってドアをソッと閉めた……
ドアの向こう側から、
聴こえるグロリアの歓声
リチャードは微笑みながら
車に向かった。
8人がスカイシップに帰って来ると、
女将はイスとテーブルを
ソッと出してくれた。
8人は微笑みながら
自分の席に腰を下ろした。
ベイは静かな口調で…
「女将さんと、匠さんも、
席に着いて貰えますか…」
女将と匠は小さく会釈をしながら…
席に着いた。
横2m、縦4mのテーブル。
右側に、
ボブとリンダ、ルーシーとグレイが座り。
左側に、
ジョニーとアンジー、女将と匠が座り。
そして奥の席に…
ベイとメリーが並んで座った。
ベイは微笑みながら…
「これから先、
皆んなで話し合いをする時には、
このような形で座りましょう…」
誰もが心よく賛同してくれた。
高度5000mの窓の外には、雲ひとつない青空が広がっている…
10名はふと…
(…昨日の今頃は、闘いの真っ最中
だったな…全てが上手く終わって
本当に良かった…)
そんな事を思っていると…
何となく視線が窓の外に向いてしまった。
メリーがしみじみとした口調で…
「…本当に良かった…地球が守られて…」
9名は黙って頷いた…
しばらくの間…沈黙が続いた…
そしてベイから…
「今後の作戦…と言うか、
僕達のこれからの行動について、
皆んなで話し合わないとね…」
すると…
皆んなの視線が、まだ何となく青空に向いているな…と思った匠が…
「ベイ博士、もう少し上に上がりましょうか?」と提案してくれた。
ベイが小さく頷くと…
スカイシップは少しずつ高度を上げた。
女将も、匠と同じように皆んなの表情を読み取りながら
(…皆さん…少し感傷的になっておられるのかしら…それなら…)と思い、
デッキの中に…こんな曲を流した。
まず雷の音…雨の音…
そして軽快なリズム…
その割には少し、寂しげな男性の歌声…
「…えっ〜と…誰の曲だったかなぁ〜、
かなり昔の曲だったよなぁ…」
そう言ったのはジョニーである。
すると女将が「カスケーズと言う…
5人グループが歌う、
“悲しき雨音”と言う曲ですよ。
愛する女性と別れてしまい、
後悔している、と言う歌です。
ボーカルは、ジョンガモーさんです」
ジョニーは頷きながら
「ありがとうございます、思い出しました。
この歌のお陰で、
男性が彼女とケンカをした時には…
謝る事が大事なんだ
と言う事を学びました」
すると、雨の音で…
昔の事を思い出したのか、
アンジーが小さな声で
「…ねぇ…あの日の雨は…
本当に冷たかったわよね…」
と呟いた。
ジョニーはアンジーの手を握り…
「…あの時…皆んなの靴の底に穴が開いててさ…」と言うと、
今度はグレイが…
「…僕達、その靴しか…
持ってなかったもんね…
あれって三月くらいだったかなぁ〜」
と言うと…
「うん、そのくらい…あの時…
お腹もペコペコに空いてて…
せつなかったぁ〜」と
ルーシーが応えた。
リンダは小さく頷きながら…
「…雨漏りだらけの空き家だったわよね。
夕方に…ベイ博士とメリーとボブが
袋いっぱいの食べ物と、
色々な物を持って帰って来てくれて…」
するとボブが…
「あの日…雨だったからさ…
レストランのゴミ箱がベチャベチャに
濡れててさ…
3人で…町中走り回っても、何も無くて…
確かメリーが、
道端で一枚のコインを拾って…
淋しそうに
「…お金じゃなかった…」って、
そしたらベイ博士が、
「メリー、お手柄だよ!
僕達は助かったよ…」そう言って、
スロットマシンのある店に入って…
20分くらい、ベイ博士は大人がして
いるところをジッと見てて…
そしてメリーからコインを受け取ると、
たった一回で、数字を揃えてさ…
それから、
見た目の大きな俺が換金に行って…
食べ物、…薬、下着、洋服、靴って…
あの時は…嬉しかった…
助かった〜、って思ったよ…」
ボブは涙もろい…
話し終えた顔が、
涙でグチャグチャである。
リンダはサッと立ち上がると
ボブの顔を自分のお腹に包み込み…
「泣かないの…」
そう言って…優しくボブの頭を撫ぜた。
スカイシップはいつの間にか…
地球を見下ろす所まで上がっていた。
メリーはベイの顔を見つめ…
「…ベイ…色々な事があったわよね…」
と言うと、
ベイは、皆んなが言う、
「あの日の雨は冷たかった」
と言う言葉から連想したのか、
自分の両手を口元に当て、
手の平を「ハァーッハァーッ」
と暖めるような格好をした。
匠はソッと、スカイシップの進行を止めた。
窓の外に見える地球が…
10センチほどのボールに見える…
ベイ博士は…温めた両手を前に出すと…
窓の外の地球を、
包み込むような格好をした…
メリーが「どうしたの…」と尋ねると…
「…僕達は…とんでもないパワーを手に入れたんだよ…
ほら、こうやって
地球を包めるくらいにね…
ならば、
出来る限りの事をしたい…
偉そうな言い方に聞こえるかも
しれないけれど…
あの日の…僕達のような人を…
少しでも…
たとえ少しでも
減らせるような事をしたい…」
その顔は真剣である。
メリーはしばらく
ベイの顔を横から眺めた後に…
「ちょとゴメンなさいね、ヨイショ…」
と言いながら…
ベイの膝の上にまたがり、
ベイの両手の真ん中から、
自分の顔をヒョコッと出した、
そして
「よ〜し、ベイがそこまで言うのなら…
私も応援しないとね…
ところで今……
私の事は何パーセントくらい
ベイの心の中にあるのかしら?」
「90%がメリーの事だよ」
メリーは…
「ありがとう…じゃあ私も90%の思いを込めて…」と言ってキスをした。
ベイは微笑みながら…
「メリー、マイナス10%分はなんなの?」と尋ねると…
「貴方と一緒に…
誰かの手助けをする為よ…
同じ思いに立った方が
いいかなぁ〜って思って」
ベイはメリーの頭を両手で包むと
「ありがとう…」
そう言ってキスのお返しをした。
女将はその様子を10秒間見つめた後…
「パンッ」と手を鳴らし、
凛とした声で…
「はい、おしまい!
いつまでもベタベタ
引っ付かないで下さい。
でわ皆さん、
困っている人達を……
〈 お助けする 〉
と言う〈 答え 〉で良いのですね、
私と匠も、その方向で進みますよ、
宜しいですか?」
そう言って皆んなの顔を見回すと…
全員が満面の笑みで…
親指を立てていた。
〈 ようこそ 〉
この日から、スカイシップは更に世界中を飛び回る事になる。
命に関わる事が一番。
食料問題が二番。
病気が三番。
事件、事故が四番。
イジメ、セクハラ、過重労働が五番、
その順番で、
女将が優先順位をつけてくれ、
誰が、どこに、飛んで行って
助ければ良いのかを、
フリー&ブレス達に指示を出して
くれるのだ。
ベイ達4組の夫婦は、
女将から出動要請が出るまで、
スカイシップの中で、
待機して居る事に成る。
しかし…よく考えれば…
誰かに
助けて欲しいと言われた訳では無い。
ホタル達からの要請を受けて、
勝手にその人の前に現れるのだ…
優しさの押し売りも
いいところである。
お節介で、熱苦しい、
お助け隊なのかもしれない。
世界中を、飛び回り出して3日目に…
匠と女将から衝撃的な告白があった。
…8時間の活動を終えて…
スカイシップに帰って来た8人が…
「ただいま帰りました…」
と言うと、匠から
「お帰りなさい、ご苦労様でした」
と言う、ねぎらいの言葉が…
しかし、女将からは…
「ベイ博士、皆さん、ラチがあきません…」と言う悲観的な声が…
8人は
(えっ?女将さんが愚痴…珍しいなぁ)
そう思いながら女将を見つめた…
女将は腕組みをし…
「…世界の人口約78億人…
全員が助けて欲しいと
言っている訳では有りませんが、
其れでも…SOSと言ってくる
ホタルの数の多いい事…
いくらマッハのスピードで飛べても、
いくら壁を通り抜ける事が出来ても…
8名では無理があります。
そこで、匠と私から…提案があります」
「何ですか?」
と聞いたのは、ジョニーである。
女将はニッコリと微笑んだ後…
「ホタル達に…
四番目と五番目の仕事をしてもらいます」
7人は首を傾げたが…
「…なるほど、助かりますね」
と言ったのはベイである。
メリーはベイの顔を見つめ…
「ねぇ、どうやって…?何をするの?」
「ホタル君達に…
先回りをしてもらうんだよ」
「えっ?」
「例えばね、居眠り運転で事故を起こしそうな人がいるとするでしょ…
ホタル君に
運転手を路肩に止めてもらって、
仮眠をとらすんだよ」
「もしも、間に合わない時は?」
「歩行者の肩についているホタル君達が、
車が突っ込んで来る3秒ほど前に、
被害者に成るであろう人達を、
避難させてくれるんだよ」
「へぇ〜すごい。じゃあ、
例えば女性を襲おうとしている人が
いるとすると、
事前に犯人を眠らせちゃうとか?」
「その通りだよ。もし間に合わない時は、
女性の肩についているホタル君が
強姦魔に睡眠ガスをかけるんだ…
それと同時に、強姦魔の肩についている
ホタル君は、
警察に通報するんだ…」
メリーだけではなく全員が…
「オォッ〜」と言う歓声をあげ、
大いに納得してくれた。
ルーシーが嬉しそうな顔で…
「イジメやセクハラも、
同じような感じですか」
ベイは微笑みながら…
「そうだよ、イジメる前とか、
セクハラをしようとする前に、
気絶させるの…
ただし相手が子供の場合とかは…
難しいかもね…
女将さんそんな感じですよね」
女将は笑いながら…
「はい、ベイ博士が説明して下さった通りです、気絶したり、転んだり、
手を挟んだり、
難しい部分も有りますが…
いずれにせよ悪い事をしようとした人です、
痛い目に合ってもらいます。
でわベイ博士、今までよりも多くの機能を
ホタル達に与えますけど…。
よろしいでしょうか?」
「はい、そうして下さい、
女将さんと匠さんの考え方に、
私も賛成です、よろしくお願いします」
「ありがとうござます…
では直ぐに、ホタル達を
バージョンアップします」
「えっ〜、直ぐに出来るんですか?」
と尋ねたのはグレイである、
女将は笑いながら
「はい、出来ますよ…あなた、
終わったかしら?」
そう言って匠の顔を見ると、
匠は…2秒ほど沈黙した後に、親指を立て…
「はい…いま全て終わりました…
ホタル達が今まで以上に…
活躍が出来ると言って喜んでいます。
これで皆さんの出動回数が
グンと減ると思いますよ」
そう言って微笑んでくれた。
8人は心の中で…
(…もともと2番の作戦は、
匠さんと女将さんが
私達が寝ている間に、
ホログラムを使って…
食料を瞬間移動で届けてくれて
居たんだよね…
その上に4番目と5番目の作戦までも…
どこまで優しい人なんだよ…)
と思いながら…親指を立て…
自分達も…
ニッコリと微笑んだ。
次の日…
1番と3番の作戦だけに限定されると…
本当に皆んなの出動回数がグンと減り、
8人の自由時間が大幅に増えた。
そんな時…
「ベイ博士…ぼちぼちリチャードさんの
御家族を、食事会に誘ってみては
いかがですか」
と言ったのはジョニーである、
ベイは…
「ありがとうジョニー、実は僕も気になっていたんだよ…
皆んな、いまジョニーから、食事会の提案があったんだけど…」
「いいですね〜、やりましょう」
最初に声を上げてくれたのはボブである、
ベイは屈託のないボブの顔を見て…
「えっ〜とね、
リチャードさんの家族と…
ギンバレーさんの家族を招待しよう…
当然ブラウンさんの家族も招待して…
皆んなで、友達になろう…
なんて思っているんだけど、
皆んな…どうかな?」
全員が笑顔で賛同してくれた。
ベイは頷きながら、更に…
「…食事会の席で、匠さんと女将さんを、
リチャードさんの家族と、
ギンバレーさんの家族に紹介したいと思います、いかがですか…」
そう言って、
匠と女将に視線を送った…
2人は照れ臭そうに会釈をしながら
「喜んで…」そう言って
嬉しそうに微笑んだ。
ベイは自分達の活躍を影から支えてくれている2人を、どうしても皆んなに紹介したかったのである。
それから2日後…
ギンバレーの家族を迎えに行き、
リチャードの家族を迎えに行き、
そして、ブラウンの家族を迎えに行った。
3家族は、スカイシップのデッキの中で、
自己紹介をしながら、
握手をし、対話をし…
親睦を深めていった。
ブラウン一家は、
元ヘビー級チャンピオン、ギンバレーと、
空の英雄リチャードスミスに会い、
とても嬉しそうである。
しかし逆に、ギンバレーと
リチャードの家族は…
(ブラウン一家って…凄い…ベイ博士達に選ばれた家族なんだ…)と思った。
正確には、女将と匠が選んだ家族である。
ギンバレーの息子マイクは、
姉のリンの耳元で…
「お姉ちゃん…凄いね、
リチャード隊長だよ、空軍の英雄だよ、
びっくりだよ。それに…このスカイシップ、マジで凄いんですけど…」
「そうね、でも…友達とかに、スカイシップに乗せて貰った、なんて言っちゃダメよ」
「言わないよ、言える訳ないじゃん。
もし言ったら…その日から僕は、
〈嘘つき野郎〉って言う…
あだ名がついちゃうよ……
誰も信じてくれないよ」
そう言って…小さく笑った。
リチャードの娘…パトリシアが、
「ママ…私いま…夢の世界に居るのかしら…
パパが応援していた、
ギンバレー元チャンピオンよ…」
「そうね…パパ喜んでいるわね。
でもママ…なんで
さっきからズッと腕を、
ツネッテいるの…」
「この凄い、スカイシップと言う乗り物…
今…実は夢の中にいるんじゃないかと
思って…」
すると、パトリシアは頷きながら
「ママの言う通り…私達3人で、同じ夢を見ているのかな…?」と言った。
するとリチャードは、2人の肩を抱き寄せ…
「現実だよ…ベイ博士と言う名前の……
神様の船だよ…」
そう言って微笑んだ。
とにかく…どの家族も嬉しくて、ドキドキが
止まらなかった。
そんな時…
デッキの中央に、女将と匠が並んで立った。
ベイは…
「皆さん…少しだけ此方に注目して
頂けますか」
全員がベイの顔を見つめた。
「此方に居られる御二人は…
私の家族です…
えっ〜、奥さんと弟夫婦以外にも家族が
居るの、って思われるでしょうが…
居るんです、
自己紹介して頂きます…
匠さん、女将さん、お願いします」
二人は会釈をした後に…
まず女将が…
「私達夫婦はAIです、
ベイ博士に創って頂きました」
ギンバレー家族とリチャード家族は
(いやいや…待って…どう見ても人間
何ですけど、ベイ博士の…
ジョークかな…?)
そう思いながら
二人を見つめた。
「信じられないでしょうね…
どう見ても人間ですものね」
そう言って女将は、満面の笑みで
匠の顔を見つめ…
「あなたの技術って最高…
誰もAIって分からないって…」
すると匠が女将の肩を抱き寄せ…
「皆さん、観てて下さいね…」
そう言って自分達の身体を光に変え…
デッキの床に溶け込んで行った。
ブラウン一家も、ここまでの
行動を見た事がないので、
ギンバレー家族とリチャード家族と
同じ様に、
口をポカンと開けて固まってしまった。
するとデッキ全体から女将の声が
聞こえた
「驚かせてゴメンなさい…
私達がAIだと信じて頂けましたか?」
三家族は何回も頷きながら…
拍手と歓声を二人に贈ってくれた。
女将と匠はまた人間の身体に成り…
「私達はAIですが、
心を持っています…
ですから「地球には人間は必要ない」
なんて言う事は言いません。
どうかご安心ください」
そう匠が言うと、
女将も
「私達夫婦は…ベイ博士御夫妻の
子供だと思って居ます…
ですから、間違った事は
絶対にしません…」
2人は小さく微笑んだ後に、
「さて皆さん、私達の紹介は以上です。
今日は、ベイ博士より、
食事会と聞いております。
皆さんに喜んで頂けるようにと、
主人と相談しまして…
今から、天の川の見える所に
移動したいと思います。
ソファーを用意しますので、おかけ下さい」
誰もが女将と匠の事を…
すんなりと受け入れてくれた。
そりゃそうだろう、自分の夫を、
妻を、子供を…
生き返らせて貰っているのだ…
ましてやこのスカイシップ…
「凄い」と言う言葉しか浮かばない…
もうベイ博士が言う事は…
全てYES(はい、そうです)
で良いじゃないか、
誰もがそんな風に思った。
次の瞬間…
床からソファーが現れた。
ギンバレーの家族には、2人掛けのソファーが2つ、夫婦用と、子供達用。
リチャードの家族には、仲良く3人掛けの
ソファーが1つ。
ブラウンの家族には、2人掛けの
ソファーが2つ。
全員が嬉しそうな顔でソファーに座った。
ギンバレーはステラの耳元で…
「天の川だから、赤道の辺りまで行くのかな?」するとステラは、
「さっき聴いたんだけど、スカイシップは、とても速く飛べるらしいわ、
貴方の言う通り…
赤道まで行けるんじゃないかしら」
そう言って夫の太ももをさすった。
マーガレットはリチャードの手を
握りながら
「貴方…私達…何処に行くのかしら?」
すると、リチャードが首を傾げている間に、パトリシアが…
「ママ…もしかしたら宇宙だったりして」
そう言って小さく笑った。
マーガレットは夫の顔を覗き込み
「貴方、そうなの…」
リチャードは小さく頷き…
「…もしかしたら…そうかもしれない、
だって、ベイ博士は…エイリアンを、
宇宙空間で倒してくれた訳だから…」
自分でそう言いながら、
リチャードの胸は、
ドキドキの速度が速く成っている。
その時、自分達が座っているソファーが、
音も無く動き出した…
「えっ?…」
誰もがそう呟き…ジッとしていると…
ソファーはデッキの中央に、
横一列に並んだ。
すると、目の前の大きな窓が…
ドンドンと横に広がり、
360度全てが窓!、
と言う状態に成った。
3家族は思わず「えっ〜」と声を上げて
しまった。
ニーナはトムの耳元で
「お兄ちゃん…きっと宇宙に行くのね…」
トムは嬉しそうに
「僕もそう思っていたんだ」と言って
ボブの顔に視線を向けた。
ボブはフリーから、トムとニーナの内緒話を聞いていたので、
2人を見つめ、ソッと親指を立てて、
微笑んでくれた。
匠は、皆んなのヒソヒソ話しを
嬉しそうに聴きながら…
「でわ皆さん…星が綺麗に見える場所に、
光速移動をします、椅子にジッと座って居なくても大丈夫ですので、
自由にくつろいで下さい。
でわ…
船にシールドを張ります…
スタート準備OK…出発します」
窓の外には、雲一つない青い空が
広がっている…
ところが、見る見るうちに、
青空が紫に変わり…
アッと言う間に宇宙空間に!
ベイ達8人と、ブラウン一家以外の人達は、全員ソファーを立ち上がり、
後ろを振り返った。
ドンドン小さく成ってゆく地球…
子供達は喜声を発して喜んだが、
大人達は絶句した。
「ス、ステラ…胸がドキドキする…」
ギンバレーは妻の手を、
自分の胸に当てた。
「あら、凄いドキドキね、
貴方でも怖いモノが
有るのね…なんだか可愛い…」
ステラはギンバレーを…
ギュッと抱きしめた。
ギンバレーは優しい妻の胸の中で…
(…世界で一番怖いのは、君だよ!
睨まれた時の怖い事……
ボクサー時代の挑戦者は、
殴る事が出来たけど、
世界一愛する君を、
叩く訳には行かないもんね…」
そう思っていたら、気持ちが、だんだんと
落ち着いて来た。
ステラが…
「大きな赤ちゃん…もう大丈夫かしら…」
と言って背中を撫ぜると、
ギンバレーは
「うん…」と言いながら、
小さく微笑んだ。
リチャードは、マーガレットを
抱きしめながら…
「星を見に行くって、やっぱり宇宙だったんだね…
マーガレットごめん…僕…足が、ちょっと震えちゃって…」
「リチャード、私も足が震えてるの
…でも大丈夫よ、2人で支え合っていたら、
立って居られるわ」
そう言って、マーガレットは
夫の腰に両手を回した。
するとパトリシアは、2人の耳元で…
「パパ、大丈夫よ…周りから見ると、
空軍の英雄は愛妻家で、
奥さんを抱きしめている、
って言う感じに見えるから。
ママ、パパの腰じゃなくて…
首に手を回して…」
マーガレットは娘の言う通り、
リチャードの首に両手を回した。
娘なりに、父親の威厳を…
守りたかったのである。
女将は…
「皆さん…約6時間ほど、
私どもにお付き合い下さい。
まず、火星を見て、木星の周りを飛んで、
土星、天王星、海王星を回り、
そして、瞬間移動をして、水星と金星を観てから…地球に帰ります、
皆さん…
間もなく火星が見えてきますよ」
3家族は「おぉっ〜」
と言う声を上げた。
女将は匠の耳元で…
「わたし…人が泣いている顔って
大嫌いなの…
胸が苦しく成るの。
でも、喜んでいる顔を見るのは大好き…
胸が暖かく成るの…」
「僕もまったく同じ意見だよ」
そう言って
匠が微笑むと…女将は、匠の手を
ソッと握りながら…
「皆さん、今から3時間後に
食事の用意が整います…
それまでに喉を潤して頂きたいと
思います…」
すると次の瞬間…
床下からテーブルが上がって来た。
誰もが(おぉ…テーブルが…)と思っていると、今度は上から…
シャンパン、ビール、カクテル…
などが飛んで来た。
何処から飛んで来た…
そんなくだらない事は
もう誰も考えない…
此処はスカイシップの中なのだ。
魔法の船なのである。
子供達の前には、
チョコレートパフェ、果物の盛り合わせ、
アイスクリームなどが飛んで来た。
とにかく
何一つ、溢れる事もなく、スッと…
皆んなの目の前に降りて来た。
ギンバレーが思わず拍手をすると、
皆んなもつられて拍手をしだした。
匠と女将は小さく微笑んでいたが、
内心は…(ウケてる…)と思いながら
かなり御満悦であった。
しかし、皆んなが驚いたのは、
モノが飛んで来た、と言う事よりも、
自分が好きな物、
今、欲しかった物が…
目の前にある。
と言う事実である…
(なぜ?どうして?…何も聞かれて
居ないけど、なんで分かったの…)
誰もがそう思ったが…
いくら考えても分からないので、
(やっぱり、神様なんだ…)
と言う事で
全てを素直に受け入れる事にした。
嬉しそうにグラスを持つ大人達。
そして子供達は…
「ママ…3時間後の食事…
残しちゃうかもしれない…」
そう言って…
満面の笑みで…
フォークとスプーンを握った。
第1回目の食事会はこんな感じで
楽しく終了した。
皆んなを家に送って行く途中、
ギンバレーの家族と、
リチャードの家族の顔が…
(あ〜ぁ…楽しかった夢の時間が…
もう直ぐ終わっちゃう…
ベイ博士達とは…
もう会えないのかなぁ…)
そんな寂しそうな表情に成っていた。
その事を察したベイが…
「皆さん、提案なんですが、
1.3.5.…の奇数月は遠足で、
2.4.6…の偶数月は食事会にする。
なんて…いかがですか?
その月の、最後の日曜日、
と言う風に決めておけば、
比較的に、予定が組み易いと思うのですが…
いかがでしょうか?」
誰もが本当に嬉しかったのか、
喜声と拍手、そして
満面の笑みで賛同してくれた。
そして…
地球の危機からアッと言う間に
1年が過ぎた、
今でもスカイシップは週に5日間、
地球狭しと飛び回っている。
誰からも頼まれていないのに、
あいも変わらず
優しさの押し売りをしている。
2日間のお休みの1日は
ホワイトホテルでのんびりと過ごし、
残りの1日は、
それぞれの夫婦の自由時間。
そして…1ヶ月の内の1日だけ、
海底に眠る財宝を
拾いに行く…
どこの国にも届けない、
泥棒と同じである。
10人以外の、誰にも知られてはいけない、
本当の意味での…
闇のトップシークレットである。
世界中のお金持ちが欲しがる物を、
一番高値を付けてくれた人に、
コッソリと売りに行く…
その額…
物によって違うが…
1億ドルから10億ドル以上…
大金持ちなので、当たり前のように
払ってくれる。
10名は…財宝泥棒で稼いだお金を、
私利私欲の為に使う事は、
ほとんど無い、
1番から5番で助けた人が、
経済的に困って居る時に
差し上げる為のお金である…
偽善者もいいところである。
しかし、
たとえ汚れたお金であっても…
本当に困って居る人には
有り難いのである。
「汚いお金です」なんて、
言わなきゃ分からない!
黙っときゃいいのである。
そんな偽善者作戦は…
臨機応変に進められて行った。
そして今日…楽しい7回目の食事会である。
〈 約束のセコンド 〉
…5月5日、
午後2時……
スカイシップのキッチンの中では、
グレイとルーシー、ブラウンとレイチェルが、料理の腕を振るっていた。
7回目の食事会の用意である。
グレイは時計をチラッと見ると…
「ルーシー、僕の方はもう直ぐ終わるけど、何か手伝う事はあるかな?」
「ありがとうグレイ、私も最後のクリームを…はい…今終わったわよ」
「ご苦労様、ルーシー。
ブラウンさんとレイチェルさんは…
どんな感じかな?」
「ちょっと見てくるわね」
ルーシーは5mほど離れた隣のキッチンを見に行った。
テーブルの上には既に完成した料理が並んでおり、
ブラウン夫妻はその料理を嬉しそうに
眺めている
「レイチェルさん、ブラウンさん、
お疲れ様でした、
終わっておられたんですね」
「たった今終わったところです、
あのグレイさんも、終わられて
居るんですか?」
そうレイチェルが尋ねると、
「はい終わっています。
でわ…今から…
勉強会を始めましょうか」
そう言って微笑んだ。
レイチェルとブラウンは
嬉しそうに自分達が作った
料理の一品ずつをワゴンに乗せ…
グレイの居る
隣のキッチンに向った。
4人だけの
お楽しみタイムである。
前菜からデザートまでの15品を
4人で試食しながら
学び合うのである。
ブラウンとレイチェルは、
初めてグレイの作る料理を食べた時
(…料理の天才って…本当に
居るんだなぁ…)と思い、
機会があるたびに、
グレイから、
色々な事を教えてもらっていた。
ところがグレイ本人は、
周りの人達から “料理の天才”
と言われても、
自分の事を天才だ、とは思っていない。
常に、自分以外の人は “全て先生”
と思っているので、
ブラウン夫妻が照れ臭そうに、
料理の説明をしている時…
グレイは真剣に
耳を傾け、そして、
必ず沢山の質問をする。
ブラウンとレイチェルは
良い意味で…
胸をドキドキさせる事になる。
そして午後4時半、
ギンバレーの家族、
リチャードの家族をスカイシップに
招いての……
第7回目の食事会の始まりとなった。
今回はパトリシアの誕生月と言う事で、彼女の要望を聞き、
カナダの山々の夕陽を眺めながらの……
ディナーと言う事に成った。
匠は、パトリシアの希望に叶う
景色を探す為に…
色々な所を飛び回ってくれた。
子供達は其れが嬉しいのか、
デッキの一番前に
5つの椅子を出してもらい、
山の景色の美しさを
心の底から楽しんで居た。
其れに対して大人達は…
特に男性陣は…
(…綺麗な景色だなぁ…)
ここまでは子供達と一緒である…
しかし…
(でも、綺麗さで比べるなら、
僕の、妻の次だな…
皆んなには言えないけど…
僕の妻が…
世界で一番…綺麗で…可愛い…)
と思いながら…
妻を見つめ…
そして…耳元に口を近づけ…
「今日も君が…一番綺麗だよ…」
と呟いた。
妻は鼻の下を伸ばし…
嬉しそうに夫にキスをする。
皆んな…
自分の妻が…全てにおいて
一番だと思っている…
実に、おめでたい男達であり…
実に、幸せな奥様達である。
午後5時…
今回も8体のフリー達が、
皆んなの為に料理を運んでくれている。
午後7時…全てを食べ終えた
大人達の手元には、カクテルグラスが…
子供達の手元には、
御子様限定…
ノンアルコールのグラスが…
皆んなでホッコリとした気持ちで、
月明かりの…山を眺めていた。
そんな時、
フリー・ボーがボブの耳元に
飛んで来た。
「ボブ様、以前…沈んだ船から救出した男性で、
ボブ様を一目で…
「チャンピオンのボブさんですよね」
と言った青年を
覚えておられますか?」
「覚えているよ…ボクシングをしているって言ってたから…
彼がどうかしたの?」
「いま…リングの上で闘っています、
世界ミドル級タイトルマッチ…
挑戦者として…」
デッキの後ろに、
縦横5mのスクリーンが現れ、
まさしく今現在の、
試合の映像が映し出された。
ボブは戦っている様子を観ながら…
「スゴイね、
こんなに大きな舞台に立てるなんて、
大したものだよ」
「ボブ様…どうも話が少し違う
ようですよ、ミドル級チャンピオンが
余りにも強くて、
試合が組めなくて…
苦肉の策で、
最近頭角を現わしてきた…
ディックと言う青年に、
白羽の矢が立ったみたいです…
でも,どう見ても格下過ぎます」
「なんでディックは…
試合を受けたのかな?」
「順番に説明します。
こちらがチャンピオンで…
ふらふらになっているのが
ディックです」
ボブはフリー・ボーの説明に…
(…ごめん、分かるよ、
一度会っているから)
と思ったが…
「…へぇ〜そうなんだ…」
と言った。
フリー・ボーは更に…
「セコンドにいるハゲた壮年が、
ジムの会長のオトールさん44歳、
隣に居るのは、コーチのバレンさん
38歳。
こちらのジムは、ディックを入れて
三人です。
会長とコーチは…
昼間の仕事と、
夜のバイトで、
ジムと家庭を守って居ます。
ちなみに2人の奥さんも
働いていますが…
夢を追いかけている御主人達に
ほんの少し…
不安と不満を持っている様です。
ちなみに、ジムの経営は
厳しいようです」
「なぜ試合を受けたのかな?」
「負けても…3万ドルを払ってやると言われたからです」
「ディックはお金の為に…」
「はい…3万ドルあれば、
たとえ一年間でも、
会長とコーチが、
夜のバイトをしなくても
やって行けるのではないか…
ジムの運営費の、足しになると思ったからです。
それともう一つ…貧しい中を、
女手ひとつで育ててくれた母親と、
施設で育って来た婚約者…
ロゼの為です…
ディックは、
遠く離れて暮らす2人に、
頑張っている姿を
テレビ中継で見せたかったようですね」
ギンバレー夫妻は
フリー・ボーの…この部分セリフに
反応した。
(…俺もステラも…
貧乏だったんだよなぁ)
そう思ったら、
ディックを応援したいと言う気持ちが
高まり、
胸が熱く成って来た。
ボブはフリーに…
「会長とコーチは、ファイトマネーをディック自身が受け取らない事を、
知っているの?」
「知りません、彼が1人で相手のジムに行ってサインをしてきました。
会長とコーチは…
「まだ早すぎる」と止めたのですが…
自分の弱さのせいで、
会長とコーチの家庭がギクシャク
していると、
勘違いしているようです、
ディックは少し、御バカですね」
「フリー、ごめん、そう言う言い方は、
やめてくれないかな…」
と言って…ボブはフリーを睨んだ、
するとフリーが…
「おや…怒っているんですか、
ボブ様には何も出来ないでしょ、
見守っているだけでしょ…」
するとボブは…
「いや行く…」
「行ってどうなるんですか、
頑張ってくださいって言うだけでしょ…
彼等の未来に関与する勇気が
ボブ様に有りますか?
無いでしょ…
行かない方がいいですよ…
ほっとけばいいんです」
「いや俺が…そのジムの事も
何とかする…だから行く!」
と言い切った。
するとフリーは…静かに微笑みながら…
「ボブ様…大変失礼な、
物の言い方をしました。
誠に…申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げ…
「行って上げて下さい、
以前から、
生活が苦しいアスリートの方達を
サポートしたいと
言っておられましたよね、
ボブ様…今が、その時ですよ…」
そんな2人のやり取りを聞いていた
ベイは…
(まさかフリー達まで人間らしくなるなんて…)と思いながら…
「皆さん、いま話を聞いて頂いた
通りです。
今、シカゴのスタジアムで、
ディックと言う青年が試合をして
います…
ちょっとだけ、
応援をして上げたいのですが…
行って上げてもいいですか?」
全員が笑顔で手を上げてくれた。
ベイは微笑みながら…
「匠さん、シカゴまでお願いします」
と言い終わった時…
匠が…
ベイ博士、スカイシップは今現在、
シカゴのスタジアムの上空
50mの高さにあり、
透明シールドを張って
待機しています。
どなたを、会場内に、
瞬間移動させれば宜しいですか」
そう言って、
ウィンクをしてくれた。
「さすが匠さん!
えっと…ボブ夫妻と…」
と言った時…
ギンバレーが小さく手を上げて…
「私達夫婦も…行っていいですか?」
と言ってくれた。
ベイは微笑みながら…
「でわ、2組の御夫婦を…」
「かしこまりました」
第6ラウンド終了の鐘が鳴った、
挑戦者のディックは
ふらふらの状態でセコンドに
帰って来た。
観客席からはブーイングの嵐である、
「弱いくせに、
リングに上がるんじゃねぇ!」
と言う罵声も飛び交っている。
会長のオトールは…
ディックにタオルを見せ…
「観客の声など気にするな!
ただ少し…早すぎたんだ…
もういいから…次のラウンドで、
1回でもダウンしたら、
タオルを投げるぞ」
と言った。
コーチのバレンも頷きながら…
「もう頑張らなくていい、
お前には、才能がある…
もう一度三人で…仕切り直そう…
なっ…だから、もういいから…」
と言った。
会長もコーチも…
ディックの将来の事を考えたのである。
ディックは2人の言葉を、意識もうろうの中で聞いていた…
その時である、
会長とコーチの後ろに、
ボブ夫妻と
ギンバレー夫妻の姿が
パッと現れた。
ディックは大きな口を開けて驚いた…
リングに、
ディックのマウスピースと
涙が落ちた……
オトールとバレンは顔を見合わせ…
(あぁ〜もう限界なんだ…タオルを…)と思った次の瞬間、
ブーイングと怒号の会場が…
シーン…と成った。
「やあディック、頑張ってるね、
約束通りに、セコンドに来たよ…」
と言うボブの声に…
オトールとバレンが振り返った
「えっ?…」
そう言ったまま2人は
固まってしまった。
ボブは微笑みながら…
「会長とコーチの言う通りだよ…
君には才能がある、
いい動きもしている、
でも、少し早すぎたんだ…」
すると横からギンバレーが…
「早過ぎたとしても、プロとして、
これだけのお客様を集めてるんだ…
脚はまだ動くのかな?」
ディックは小刻みに頷いた…
「ならば、足を使って左右に動き、
とにかくガードを固めながら、
パンチを出すんだ… 大振りをするな!
最後のゴングが鳴るまで…
立って居るんだぞ…頑張れるか?」
と尋ねた、
ディックはまたも…小刻みにに頷いた。
格が違うと、奇跡は起きない…
元チャンピオンのギンバレーは、
その事をよく知っている。
ミドル級チャンピオンには
血の滲むような努力で勝ち進んで来た
実績があるからである。
ボブはディックの顔を
ジッと見つめ…
「チャンピオンは強くて怖いし…
お客様の罵声とブーイングも怖いし…
でもね…
怖さを知っている選手は、
必ず、強くなれるよ」
そう言って親指を立てると…
ディックは…リングに落としたマウスピースを自分で口に入れ……
ファイティングポーズをとった。
そして………
第7ラウンド目のゴングが…
鳴った。
すると、6ラウンド目まであった
ブーイングが一切無くなり……
と言うか、
会場はシーンとしてしまい…
何とも言えない雰囲気になっていた。
〈 紹介します 〉
40000人を超える観客達は…
(なぜ?ギンバレー元チャンピオンが
リングサイドにいるの…?)
(なぜ?亡くなったはずのボブ選手が
居るの…)
(あれ?…ボブ選手と隣の女性…
あれ?どこかで見たような気がする…?)
そう思いながら首を傾げている。
試合も気になるが……
ボブとギンバレーの方がもっと
気に成るのだ。
そして最終12ラウンドが終了した。
ディックはフラフラになりながらも…
何とかリングの上に立って居た。
ギンバレーとボブが拍手をおくると…
観客もつられてディックに拍手を
おくってくれた。
判定は当然チャンピオンの勝ちである。
しかし…テレビカメラは、
挑戦者と、その後にいるボブとギンバレーに釘付けである…
それだけ過去の2人の試合は有名であり、
1つの伝説に成っていたのである。
アナウンサーはチャンピオンに
マイクを向け、
タイトル防衛に賛辞の言葉をかけているが…
内心では
ボブとギンバレーの方に
行きたくてしょうがない。
1人の観客がスマホの画面を見ながら…
「あった……えっーボブ選手は、
世界最高会議の席に突然現れた…
8人の中の1人だ…」
と声を上げてしまった。
会場がざわつき始めた、
観客達はスマホを出し…
8人の事を検索し出した。
その様子を…
スカイシップの中で見ているベイは、
皆んなの顔を見回しながら…
「さぁ…女将さんと匠さんの提案通り、
皆んなで開き直って…
自己紹介をしに行こうか、
フリー・ベー、黒衣モードを頼むよ」
「かしこまりました」
すると他のフリー達も一斉に、
自分の主人に対して、
黒衣として覆いかぶさった。
「匠さん、ギンバレー夫妻をスカイシップ
にお願いします、
その後…
私達6人を下に…お願いします」
「了解しました」
会場の中にいる観客達は立ち上がり、
ボブ夫妻と、ギンバレー夫妻を眺めている…
しかしボブとギンバレーは、
周りの事など何も気にせずに喋っている…
「ディック、またジムの方に顔を出すからね」とボブが言うと、
ディックはパンパンに腫れ上がった顔で…
涙をこぼしながら何度も頭を下げた。
ギンバレーは会長とコーチに向かい
「私に出来る事があれば
何でも言って下さい」
そう言って手を差し出すと、
2人は恐縮しながらその手を…
両手で握った。
その時、会場の照明が2秒間スッと消えた…そして明るくなると、
ギンバレー夫妻の姿は消えていた。
どよめく会場、
一体何が起こったのか?
会場にいる観客達の目は、
今もそこに居る、ボブ夫妻に集中した…
するとボブ夫妻の背後が急に
キラキラと光り出した。
40000人が(えっ?…)
と思った次の瞬間、
ベイ達6人の姿が…フワッと現れた。
観客達は既に、手元のスマホで検索し終わっているので、
目の前に突然現れた人達が…
当然誰なのか分かっている。
「…世界最高会議に出られた8人だ…
宇宙空間で、3機の球体惑星を、
壊してくれた人達だ…」
絶叫と奇声と歓声…
泣きだす人、拍手をする人、
飛び跳ねる人、
会場は異様な雰囲気に包まれた。
8人の耳元に女将の声が聞こえた…
「皆さん、ホタル達から報告が
入っています…
その会場に居る人達に、
悪意と敵意はないとの事です」
そう、この会場には
8万匹のホタル達が居るのである…
8人は顔を見合わせながら微笑み、
まずホタル達に
小さく手を振った。
しかし4万人の観客は、自分達にだと思い、
又も大歓声を上げた。
ベイはフリーに…
「僕達を5mほど上に
浮かせてもらえるかな」
「かしこまりました…」
8人の身体が浮かび出した…
騒がしかった会場が…だんだんと
静かになっていく。
ベイは心の中で…
(えっ〜と、私達は、怪しい者では
ありません。
科学の力を駆使して…
世界中に起こる災害などを、
最小限におさえる活動をしています…
うん、そんな感じの挨拶だけしたら、
スカイシップに戻ろう…
皆んな日頃から、
何の文句も言わず、
働いてくれて居るんだよね…
せめて社会貢献をしている
グループです、
くらいの事は言っても…
バチは当たらないよね…とにかく
世間にメンバーを紹介して上げないと…
女将さんの言う通り、
可哀想だよね…)と思っていた。
その時、1人の壮年が突然叫んだ…
「神様、家内を助けて頂き、ありがとうございました!」
その声を皮切りに
「娘を助けて頂きました、
毎日元気に過ごしています、
ありがとうございました」
この辺までは良かった…
[助けて…]と言う言葉だからである。
しかし…
「神様、ママを生き返らせてくれて
ありがとうございました」
と言う子供の声が…
妙に会場中に響いてしまうと、
会場の中がザワつき出した。
更に…
「雷に打たれて、亡くなった主人を助けてくれて、ありがとうございました」とか
「死んだ子供を私達の手元に帰して下さって、神様、感謝しています」とか…
そして最後の青年などは…
「僕の父さんはパイロットで、
1年前の空中戦で死んだと
思っていたけど、
神様が…生き返らせてくれたんですね、
本当にありがとうございます!」
と叫んだ。
すると周りから
「おかしいと思ったんだよな、
テレビで見た空中戦…
絶対に死んでるだろうって言う
映像なのに、
世界中のパイロットが、
全員生還してるんだぜ……
やっぱり神様は、居るんじゃん」
そう言う言葉が、会場の至る所で
上がりはじめてしまった。
其れをキッカケに会場から…
「神様!神様!…」と言う声が
連呼されるようになり……
とうとう収集が付かなく
成ってしまった。
スカイシップの中で、
その様子を見ていた女将は、
ニッコリと微笑みながら…
「ベイ博士、会場を静めますので、
言葉を用意してお待ち下さい」
そう言って…両手を肩の高さに上げ…
自分の前に円を描くような格好をした。
それを観ているパトリシアは…
母親の耳元に口を近づけ…
「…ママ…私には見えないけど…
女将さんは…誰かを抱きしめて
いるのかしら?」
するとマーガレットも娘の耳元で…
「日本の着物には
30センチくらいの袂(たもと)って言う部分があるから…
あのようなポーズを取られると…
そうね……
パトリシアが言う通り、
見えない誰かを…抱きしめているように
見えるわね…
何だか幻想的な感じに見えて素敵ね〜」
と言って微笑んだ。
デッキの中に映し出されている8人は、
空中で真っ赤な顔をしながら、
引きつった笑顔で小さく手を振っている、
4万人の観客は8人を讃嘆している
つもりでも、
神様エールを贈られている
8人の頭の中は真っ白になり…
ベイなどは、考えていたセリフを
ほぼ忘れてしまった。
女将の左右の親指が…
ピョコンと上がると…
8人の身体から光が発せられた…
4万人はその神々しさに
「おぉ〜っ…」
と声を出した後…
会場はシーンとなった。
誰もが神様の御言葉があると
思ったのである。
しかしベイは心の中で…
(女将さん!何でこの雰囲気づくりなの…
僕たち光を放っているじゃん、
静まり過ぎじゃん、
本当に神様っぽくなってるじゃん、
マジで無理だから、
女将さん、やめて、光を消してー)
そう思っているのに…
女将は何もしてくれない…
ベイは緊張のあまり、
手の指先が冷えて…
少し震え出して来た。
するとメリーは…
ベイの手をソッと握り…
「私達はベイに…ズッと着いて行く…
だから、好きな事を言っていいのよ…」
そう言って微笑んでくれた。
ベイはメリーの顔を見ながら……
(そうだよね…僕は考えすぎ何だよね…気負う必要は無いよね…)
と思いながら…2回深呼吸をした。
そして、その後に……
〈 オーナー 〉
「私達は…神様ではありません…」
ベイはここまでを言うと…
(…女将さん、
めちゃくちゃ綺麗にマイクが
入ってますやん、
会場に設置されてる
マイクじゃないですよね。
お願いです、
せめて私達の…周りの光を
消してもらえませんか…)
そう思ったが、
光ったままである…
(…あっ〜消して貰えない…なるほど、
このまま最後まで行くんですね…)
そう悟るしかなかった。
ベイはもう一度深呼吸をすると
「…私は科学者です……
死んだ人を、生き返らせる事が出来ます。
不慮の事故で亡くなった人、
不治の病で亡くなった人を
生き返らせる事が出来ます。
ただ寿命で亡くなった方は、
生き返らせる事は出来ません。
また本人が、生きて居たく無い…
と言われた時は、何もしません。
あと…悪い事をされた方が亡くなると、
地の底から迎えが来て、
アッと言う間に連れて行かれますので…
その方も…
生き返らせる事は出来ません。
私に出来るのは…
そのくらいの事です。
以前私達は、
悪魔の使いだと名乗っていました、
今は…偽善者だと名乗っています。
今回…このように人前に出たのは…
私の兄弟(兄妹)を紹介する為です!」
ベイはここで大きく息を吸った…
「まずは…元ボクサーのボブです、
隣はリンダ婦人…
2人とも真面目で、惜しまぬ努力を
重ねられる人です。
次は、
元ラジオ番組のDJをしていたジョニー、
隣はアンジー婦人です…
2人とも機転が働き、
人の言う事を深く理解される人です。
その次は、
元シェフをしていたグレイ、
隣はルーシー婦人、パティシエです。
2人とも研究熱心で、人として、とても優しい人です。
そして…
私の隣はメリー、私の妻です。
私の理解者であり、私の全てです。
私は…良い人間ではありませんが、
7人は…本当に正しい人達です…
私が、間違った道に進みそうになると…
必ず軌道修正をしてくれます。
これから先…私達8人が…
皆さんの前に、
壁を抜けて出てくるのか、
急に目の前に、パッと現れるのか…
状況に応じて出方は違いますが…
どうか…怖がらないで下さい。
私達は、アナタのケガを治したり、
病気を治したりするだけです。
ありがたがらないで結構です…
偽善者のする事ですから、
気にしないで下さい。
最後に、いま私の声は
メディアを通じて世界中に流れていると
思うので…
言って置きたい注意事項が
1つだけあります。
人に危害を加える人は当然の事ですが、
職場においては…
パワハラとかセクハラ。
学校においては、陰湿な言葉のイジメから、暴力に至るまで、
それらをされた方達は…私達8人を敵に回したと思って下さい。
つまり…あなたの命に関わるような、
大変な事が起こったとしても…
私達8人は…誰も行きません…以上です。
そして、
今から私が言う事は…
気にしないで下さい。」
ベイはここで5秒間、
何も言わずに…また大きく息を吸い込むと…
「…皆んなの頑張って居る姿を…
私達は、何時も空の上から観て居ます。
思い通りにならない事も沢山あると思います…投げ出したい時もあるでしょう…
でもアナタ達は、
何時も笑顔を絶やさず…
一歩も退く事も無く、
黙々と前に進んでいる、
本当に…頭の下がる思いです…
皆んなの行動に感動しています、
感謝しています…ありがとう…」
この部分はホタル達に対して言った
言葉である。
8万匹のホタル達は嬉しいのか、
満面の笑みで羽を広げ、手を振っている。
ベイは微笑みながら、
メリーの腰に手を回した。
女将はベイの様子見て…
「あなた、皆さんをデッキに…」
匠が…右手を上げるのと同時に…
8人はデッキの中に戻って来た。
スタジアムの中から突然
パッと消えた8人対して…
4万人の観客は一瞬、言葉を失った…
その時1人の女性が…
「キャッー、本当に大変な時は、
神様が来てくれるのよ!」と叫んだ。
その言葉をキッカケに、4万人の観客達は「うおっ〜〜」と叫びながら拳を上げた。
スタジアムが…微妙に…
揺れていた。
会長のオトールは、ディックをリングの下に降ろしながら…
(助かった、神様が来てくれたお陰で、
会場がお祭り騒ぎだ、
罵声が始まる前に、控え室に下がろう…)
そう思っていた。
コーチのバレンも同じ事を思っていたのか、ディックの身体に大きなタオルをかけ…
抱える様な格好で…
足早にリングから離れて行こうとするが…
とにかく会場が広いので、
観客の前から中々消える事が出来ない。
その時…「次は頑張れよ〜」とか
「最後までよく立っていたな」
と言う声援と拍手が三人を
包み込んでくれた。
3人は心の中で…
(ギンバレーさんとボブさん、そして神様が来てくれたからだ…)
そう思いながら…控え室に向かった。
スカイシップの中では女将が…
「皆さん、お帰りなさい、御苦労様でした」と言いながら…
笑顔で8人を出迎えてくれた。
するとベイは、冗談っぽい口調で…
「女将さん、ひどい!
僕の頭の中が、真っ白になっていた事を
知っていたでしょ?」
女将は…涼しげな顔で
「はい、存じておりました…
でも今夜は、どうしても皆さんに
輝いて頂きたくて…
それに、ベイ博士なら必ずや…
上手なコメントをされるだろと、
信じておりましたので」
するとベイは…口をとがらせながら…
「もうズッと光っているもんだから、
緊張しちゃって、
胸がドキドキして苦しくて、
寿命が縮まりましたよ」
そう言ってメリーの手を握り、
自分の胸にあてた。
すると女将は、小さく首をすくめた後に
「安心して下さい、実は…今まで皆さんに
秘密にしていましたが、
私と匠は、人の命をのばす方法を
知っていますから」
するとベイが間髪入れずに
「一番知ってますよ‼︎」
と言うツッコミを入れたので、
デッキの中は大爆笑となった。
第7回目の食事会は…ちょっとドキドキするような出来事を経験しながら…
無事…終了した。
2日後、
オトールと、バレンと、ディックの
三人は、空港内のゲートに並んでいた。
ディックは、腫れぼったい顔を
バレンに向け…
「僕…飛行機に乗るの…初めて何です…
子供の頃から…
乗ってみたかったんです…
もうすぐですね…」
そう言って嬉しそに微笑んでいる…
バレンは、
屈託のないディックの肩を抱き寄せ…
「俺も、あんまり乗った事が無いんだ、
今日で3回目だったかなぁ…
なんだか飛行機って、嬉しいよね」
そう言って微笑んだ。
オトールは2人の会話を聞いて
(…来る時は、バスに揺られて30時間…
金が無いのは、切ないなぁ…
3万ドル+3000ドルのファイトマネーをもらったんだから、
帰りに飛行機に乗っても…
バチは当たらねえよなぁ…)
と思っていた。
オトール自身も、
今回で4回目の空の旅である。
3人が飛行機から降りた…
試合に負けたので、
当然、マスコミなどは誰も来ていない、
勝負の世界は厳しいのである。
しかし3人は…飛行機に乗れた事
自体が嬉しかったのか?
軽い足取りでゲートから出て来た。
空港の待ち合い場所に…
オトールの妻、リズと、
バレンの妻、サマンサの姿が見えた…
オトールとバレンは満面の笑みで
手を振った。
しかし…2人の女房はニコリともしない、
それどころか…泣いているように見える、
三人は慌てて駆け寄って行った。
「リズ、どうした?…何があった…
今回は少し早すぎて負けちまったが、
ディックも良い勉強に成ったし…
その…俺達三人はこれからが勝負だ…
なぁリズ頼むよ…泣かないでくれ…」
するとリズは、オトールの首にしがみつき
「もう終わりよ…何も無いの」
と言って泣き出した。
オトールは意味が分からず…
「どう言う事だ…?どうしたんだ、リズ…」と言いながら妻の背中をさすった…
バレンは…
取り乱しているリズを横目に…
「サマンサ、何があったんだ?」
と尋ねると、
サマンサは嗚咽を押さえながら…
「倉庫の家賃…三カ月滞納してたでしょ…
持ち主が…銀行に…
売りに出したの…
昨日…売れちゃったんだって…
ジムの中の物も、私達の家の物も全部…
今朝がた…
外に出されちゃって…
リズと私で…お願いしたけど…駄目で…」
サマンサはそこまで言うと
バレンに抱き着いて…
泣き出してしまった。
バレンが「家主は…試合後3日間…
待ってくれると言っていたのに…」
するとオトールが横から
「ディックが身体を張って
3万ドル稼いでくれたのになぁ…」
と言って涙ぐんだ。
奥行き50m、横幅80mの土地に建っている、古い三階建ての倉庫である。
オトールとバレンが波板状になったブリキで雨漏りを直し、
やっと雨露がしのげるような…
そんな古い建物である。
でも…その場所が
自分達の夢が詰まった、城だったのだ。
1階はジムであり、
2階、3階は住居にしていた。
オトールは皆んなの顔を見回し…
「直ぐに手を打たないと、
三万ドルで何とかしなければ…」
そんな事を5人で話し合いながら
バスに乗り…
倉庫の前に着いた。
3人の男は目の前の光景が信じられず…
思わず固まってしまった。
リズとサマンサの言う通りだった。
ドアと窓は開け放たれた状態で、
薄暗い室内はガランとしている。
建物の前には、ブルーシートに包まれた荷物が見える…
その後ろ側には…シートに包めない、
リングや、サンドバックが剥き出しのままで
放置されて居た。
オトールとバレンは顔を見合わせ…
拳を握りしめた。
道路の向かい側に…見慣れない高級車が
3台停まっている…
車の周りには、
スーツ姿の男性が9人…
オトール達の方を見ながら
何かを話している。
すると、その内の、
3人の男性がオトール達の前にやって来て…
「失礼します、オトールさんですか?」
「…はい…私がオトールです…」
男性は、オトールを確認すると…
車に向かって右手を上げた。
1人の男性が…車のドアを開けると…
中から白髪の男性が現れた。
その人物は、左右前後、4人の男性に護られながら…
オトール達の方に近づいて来た、
そして…
「はじめまして、オトールさん、バレンさん。そして、ディック君…次の試合、
頑張って下さいね。
私は…ある銀行の頭取をしている
リッチエンドと言います。
本来なら土地建物の売り買いに…
私が出て来る事は無いのですが…
今回は、特別なお客様ですので……
あっ、こちらの書類に
三人のサインをお願いします」
横から弁護士らしき人物が…
微笑みながら、
書類を差し出してくれた。
オトール達は書類に目を向けた…
しかし、書類の文字は余りにも多く…
そして小さかった。
時間をかけて読みたいが…
周りの雰囲気がそれを…
許してくれそうにもなかった。
三人は分からないままにペンを持ち…
(もう荷物も全部外に出てるのに…
今さら何のサインだよ…)
そう思いながら自分の名前を書いた。
リッチエンドは書類を見ながら…
「この建物は、30階建のビルに
成るそうです、
今サインをして頂いたのは、
5階部分と、
1階部分のジムの賃貸契約書です」
「えっ?」
「ボブさんが買われたんですよ、
何でも…ビルのオーナーに成られる
そうです…
本当は昨日の段階で…
別の方が買われる予定だったのですが、
土壇場でキャンセルされたんです、
どうも採算が合わないとかで、
その時、目の前にパッと、
ボブ夫妻が現れて…
現金で買って下さいました。
その時に,
あなた方の…住まいと、ジムの契約書の作成を頼まれましてね…
実は、この間の試合…
テレビ中継を、私も観ていたんです。
神様達って本当に…
パッと現れるんですね…
ビックリしました。
オトールさん…
すごい方達とお知り合いなんですね」
「いえ…私でわなく、ディックが以前…
神様に助けて貰ったそうで…」
「そうなんですか。でもボブさんは…
皆さんの名前をあげられ…
友達だと言っておられましたよ」
そう言って、リッチエンドは5人全員と
握手を交わした。
リズとサマンサは、嬉しさのあまり抱き合って泣いている…
ディックは泣きながら地面に
しゃがみ込んでいる…
バレンは泣き顔を両手で隠している…
そしてオトールは、
涙が溢れないように…上を向いた。
すると…そこに
いきなりスカイシップが、
パッと現れた。
オトールは一瞬にして思考回路がショートしたのか、空を指さし…
「あっーー」と言う
悲鳴を上げてしまった。
間近でスカイシップを観た人は…
空軍の関係者くらいで、
その他の人達は…テレビでチラッと
映った映像を観た程度で、
ほとんど知られていなかった。
なので…リッチエンドなどは、
見上げたまま後ろに倒れる所を…
部下に支えられると言う有様だった。
たまたま、その場に居た人達や、
近くを通りかかった人達は、
ただ呆然と…
スカイシップを見上げることしか
出来なかった。
すると突然、
スカイシップの下の部分から、
数え切れないほどの光るアームが、
ニョロニョロニョロと出てきた。
(何あれ…?)
誰もがそう言いたかったが、
驚きで声が出ない。
やがてアームは倉庫を包み込むと、ウニョ、ウニョ、ウニョと動き出し…
15秒ほどするとアームが
ブルーシートに包まれた荷物や、
外に置かれたままのリングや、
サンドバッグなども
ウニョ、ウニョの中に取り込んで行った。
オトールは思わず…
「なにが起こっているんだろう…
ウニョウニョが凄い勢いで
動いているけど…」
そう呟いた時である、
後ろから…
「大丈夫ですよ、今30階建てのビルを造っているところです」
オトールが「えっ?」と言いながら
振り返ると…
「もうすぐ完成しますよ」
と言ってボブが微笑んでいる
「えっ?ボブさん…」
ボブの後ろには…9人のシークレットファミリーも立っていた。
「えっ〜!」と言うオトールの声に、
リッチエンドをはじめ、
周りにいる人達は、
歓声を上げながらシークレットファミリーの周りに走り寄って来た。
小さな子供が「神様だ〜」と叫ぶと、
ベイはすかさず…
「偽善者だよ〜」と言って、
小さく手を振った。
女将はベイの耳元で…
「前から気になっていたんですが、
なんで偽善者なんですか?」
ベイは頭をさすりながら…
「それは、海底や地中に眠っている財宝を、
勝手に売り飛ばして得た…お金ですからね…
ちょっとヤバイですよね」
「ベイ博士は生真面目ですね、
でも一言、言わせて頂きます…
ベイ博士のしている事は、
偽善者では無く、
日本で言うところの……
義賊に近いです。
これからは義賊とお名乗り下さい」
女将はその言葉を、
他の8名の耳元にも届けた。
8人は女将の顔を見つめ…
「ナイス…」と言いながら親指を立てた。
女将は更に……
「ベイ博士…もし宜しければ、
私達夫婦で、
他の利益のうみ方を考えましょうか?」
と提案してくれた。
〈 人の中に 〉
「何か良い案でも…」
「はい、いくらでも有りますよ。
例えば…ガス、電気、
水道はいかがですか?
電気などは雷を縮小し、
カプセルに詰め込んだモノが
440個も貯まってますよ。
1カプセルで地球全体の……
約1年分をまかなえます。
ガスも、火山の中から頂いたモノが
315個あります、
内容は電気と同じです…
水などは、海水を無制限に飲み水に
変える事が出来ます。
世界各国、ガス、電気、水道…
地域によって、行き届いていない所が
けっこう有るんですよ。
そこで、その国、その地域の…
半額で提供するんです……
きっと喜ばれて、儲かりますよ。
儲かったお金は、
ベイ博士が全て…自由に使って下さい…
そうすれば、
偽善者とか義賊とか、
もう気にする事はありませんよ」
「ありがとうございます…
あの…お願いしてもいいですか…」
「はい、了解しました。
直ぐに取り掛かります…」
そう言っている時に…
匠から…
「ベイ博士、ビルの建設工事が
終了しました…」
たくさん出ていた全てのアームが
スカイシップの中に消えて行った。
その後に現れたのは…
30階建のビルである。
ベイは…
「匠さん,ご苦労様でした。
いつも通り、鮮やかな仕事ぶりですね」
周りに集まって居た人達は…
「えっ…?さっきまで、何だか倉庫みたいな建物…だったけど…」
あまりの驚きで、
その後の言葉が出てこない。
ボブはオトール達に向かい…
「本当は、ジムの方に遊びに行くだけ…
そう思っていたんですけど、
女将さんから
「ジムが大変です」と聞いたものですから、ビルのオーナーになりました」
オトールは頭を深々と下げ…
「ありがとうございます、
空港からこの場所に来るまで、
妻には「何とかするから」と言いながら、
実は…不安でたまりませんでした」
するとリンダが、リズとサマンサに向かい
「もう、安心してもらえましたか?」
と尋ねた、
するとリズは、サマンサの手を握りながら…
「すみません、実は…私達は今も不安な気持ちでいっぱいなんです…」
リンダは、ボブの顔を一回見た後に
「もし私達に出来る事が有れば、
遠慮なく言って下さいね…」
と言うと…
今度はサマンサが…
「私の主人も、オトールさんも…
数字に弱いんです…
経営者に向いてないんです…」
そう言って涙ぐんでいる。
リンダは(…あっ、本当の悩みだ…)
と思いながら、ボブの顔をもう一度見た。
数字に弱いと言われたオトールとバレンは、恥ずかしさのあまり
下を向いてしまった。
…ボブは2人に向かい…
「もし宜しければ…
私達夫婦が、ジムの経営をしましょうか?
実は…妻のリンダは、
数字が大好きなんです、
カロリー計算の数字から、
会社を発展させる為の、
数字の計算に至るまで
本当に…頭の回転が早い女性です!」
すると、オトールとバレンは
満面の笑みを浮かべ…
「宜しくお願いします!」
2人は…声を揃えて頭を下げた。
すると、リズとサマンサは、
まるで子供のように…
飛び跳ねてい喜んでいる。
その様子を観ながら、
手を叩いて喜んでいるディックの肩を…
ポンポンとたたく人が居た…
ディックは「えっ?」と言いながら…
振り返った…
「ディック、試合、頑張っていたね、
身体は大丈夫…?」
「母さん?」
「うん、2時間ほど前に…
あちらの方が、
私達の荷物を全部まとめて下さり、
ここまで送って下さったの…」
ディックは、母親がしめす方に…
視線を向けた、
匠と女将である。
ディックは2人に駆け寄り、
何度も頭を下げながら、御礼を言った…
すると女将が…
「もう頭を上げて下さい、
下げたままだと、
大事なモノが見えませんよ…」
そう言って…
女将と匠は、左右に別れた…
2人の後ろに立って居たのは…
ディックの婚約者…ロゼである。
「ロゼ…」
駆け寄り…抱きしめ合う2人…
どれだけ会いたかったか。
ボブは、抱きしめ合う2人の耳元で
ソッと呟いた
「…これはディックの部屋の鍵だよ、
五階の503号室。
ママの寝室と、2人の寝室の間には、
キッチンとお風呂があってさ、
なおかつ…
2人の寝室は防音室になっているからね」
そう言ってウィンクをした。
ディックとロゼは真っ赤な顔で…
「…ありがとうこざいます!」
と言って微笑んだ。
すると今度は、しきりに手を上げ…
「すみませ〜ん、すみませ〜ん」
と呼び掛けるホタル達の声が…
10人のシークレットファミリーは
ホタル達に目を向けた。
ホタル達は、誰の視線が自分に向いている
のか…ちゃんと分かっている…
「〈男〉グレイさん、こちらの青年は腰の
ヘルニアで苦しんでます、
〈女〉助けてあげてください」と言い。
また別のホタルは「〈女〉アンジーさん、
こちらのご婦人は乳ガンなんです、
〈男〉治してあげてください」と言った。
ホタル達の、手を上げている数は…
全部で128。
10名は、親指を立てながら…
一斉に動いた。
その時間…わずか97秒。
全員を、アッと言う間に治してくれた。
誰もが10名に対して…
「あぁ神様…ありがとうございます…」
と言う感謝の気持ちを伝えると、
10名は、そのつど
「…お気になさらず、おせっかいな
義賊のする事ですから」
そう言って微笑んだ。
治して貰った人の中には、
リッチエンドを護衛をしている
男性も入っていた。
それも3人…
腎不全、癌、白血病である。
リッチエンドは
自分が働かせ過ぎたのかと、
深く反省していた。
ベイは…
「匠さん、建物も完成しましたし、
病気の方達も治しましたし、
ボチボチ帰りましょうか?」
「了解しました」
そう匠がこたえると…
フリー達は、自分の主人の耳元に行き…
「スカイシップに戻る時間に成りました」
と伝えた。
ボブとリンダは、
オトールと、バレンと、ディックに向かい
「3日後にまた来ますので、
その時に色々な取り決めごとを
話し合いましょう…」
そう言って握手を交わした。
10名は…ホタル達に向かって手を振り…
「何時もありがとう…何かあった時は、
直ぐに飛んで来るからね…」
その場に居合わせた人達は当然
自分達の事だと思って…
全員が泣き崩れてしまった。
10名が皆んなの前から…
パッと消えた。
周りに居る人達は一斉に、
スカイシップを見上げた。
スカイシップは一度、
青い色にファっと光ると…音も無く、
その姿を、天空の彼方に
消し去って行った。
見送る人達の間から…
(握手をしてもらった)
(病気を治して貰った)
(怪我を治して貰った)
(お喋りが出来た…)
(会うことが出来た…)
そんな思いのこもった
「オォッ〜…」と言う歓声が、
空高く舞い上がった。
デッキに戻った8人は、
次の行動予定が出るのだろうと…
女将と匠の顔をジッと見つめたていた。
しかし…2人はピクリとも動かない。
7人は(おや…?)と思いながら
一斉にベイの顔を見た…
「大丈夫だよ、
いま2人で何かを相談してるんだよ…
たぶん僕の予想だけど…
この間…
ボクシングの試合会場で、
僕達8人の存在を世界中に
知らさせたでしょう…
きっと現場のホタル達から
色々な意見や要望が
入って来ているんだと思うよ…」
そう言い終わるのと同時に…
2人が動き出した。
まず女将が…
「皆さんスミマセン、
70億を超えるホタル達から…
いっせいに報告が入って来まして、
今まで匠と2人で、分析をしていました」
すると匠が…難しそうな顔で…
「皆さん一度椅子に座って頂き…
少し、ご相談したい事があるのですが…」
ボブは思わず…
「凄い…ベイ博士の言う通りだ…」
と呟くと、ベイは笑顔で頷きながら…
「さぁ皆んな、御二人からの相談だよ、
深呼吸をしてから椅子に座ろう。
大変な事かも知れないから」
と言った。
7人がドキドキしながら椅子に座ると、
女将は小さく微笑んだ後に
「集まった報告をまとめました。
結論から申しますと…
イジメの原因が…ほぼ同じようなんです、
あくまでも、
ほぼ…ですよ。
例えば…1人の女の子が、
イジメられている対象だとします、
女の子は少しだけ…
皆んなと違った意見を
言っただけです…
そこから複数の友達に目をつけられ、
イジメのスタートです。
イジメている子供達には
共通点が有ります。
家庭で親からイジメられているパターンと、親が子供に期待をかけ過ぎ、
精神的に押さえ付けられている
パターンです。
なぜ親が、子供を抑圧するのか…
仕事場でのストレスです。
思うように結果を出せないと、
上から叱責をされます…
なぜ上司が部下を叱責するのか?…
経営者(社長)から叱責を
受けるからです…」
リンダは頷きながら
「業績が悪化すると会社の存続が
大変ですからね、
経営者も必死なんでしょうね」
すると匠が…
「そうですね〜、でも…
怒らない社長も居るんですよ。
例えば部長に対して
「君のお陰で何時も社内が明るい、
活気がある…ありがとう」
と褒める、部長は嬉しくて、
課長に「君が課をキチッとおさめてくれて
居るから、会社の業績が
伸びてるんだね、ありがとう」
と言って褒める…
すると課長は、部下を褒めて可愛がる。
お父さん達は嬉しくて、
家に帰ったら妻子を可愛がる…
平穏な気持ちの子供達は、
ほぼ、イジメには、加担しません…」
そう言って8人の顔を見つめた。
ベイは2人に向かい…
「具体的に…私達はどうすれば…?」
すると匠が…
「イジメられて居る現場に、
直接行って頂き…
泣きそうな子を、泣いて居る子を…
抱きしめて…
「大丈夫、私達がついてるから」
と言うような…
優しい声をかけて下さい、
それだけでいいです…
その光景を見た周りのイジメっ子達は
心の中で…
「ヤベェ〜世界を救ったヒーローを
敵に回しちまった、
前にテレビ中継で言ってたよなぁ…
イジメは許さないって…」
そう思いながら反省します。
ただ…イジメられている人数が、
少し多いいのですが…」
ボブはリンダの肩を抱き寄せながら…
「俺達なら大丈夫ですよ」
そう言って親指を立ててくれた。
匠は嬉しそうな顔で
「…世界中で、七億九千四百万人ちょっと
の人達が対象です、
よろしくお願いします…」
一瞬誰もが息を飲んだが…
ボブが
「よっしゃ!全力で励ますぞー!」
そう力強く叫んでくれたので、
他のメンバーもその勢いに乗って
「オォッ〜」と叫びながら
右手を高々と上げた。
3分後…
8人は、匠による瞬間移動で…
世界中に…
その姿を現わす事に成る。
○ 。
学校に向かう1人の女の子が居た…
その7mほど後ろに、
11名の男女が付いて歩いている、
彼らはわざと、
女の子に、
小石や木切れを
笑いながら
投げつけて居る…
女の子は自分の頭をかばい…
泣きながら、トボトボと歩いていた。
その時、
女の子の目の前に
ベイとメリーが、パッと現れた。
メリーは両手で女の子の頬を包み込むと
「何歳ですか?」と尋ねた。
女の子は涙を流しながら…
「8歳です…」と答えた。
メリーは女の子をギュッと抱きしめ…
「もう大丈夫よ」
そう言って頬にキスをした。
ベイは11名の子供達を睨みながら
「フリー・ベー、ストップモード、
子供達を3分間止めて!」
「了解しました」
動けない子供達のあせり顔…
其れらを無視して…
ベイとメリーは女の子を連れて、
学校の教室に瞬間移動をした。
教室の中には先生と13名の生徒達が…
突然現れた3人を見て、
固まってしまった。
ベイとメリーの事を…
テレビで見て、知っていたからである。
メリーは教師に向かい…
「先生、この子がイジメられて居る事を
知っているわよね…
ガッカリさせないでね…」
そう言った後に
女の子をソッと下に降ろし
「私達は、貴女の味方だから」
そう言って
頭を撫ぜた後に、教室の中から
パッと消えた。
その後の話…11人の子供達は、
泣きながら家に帰ると、
両親と警察官3人を連れて学校に
乗り込んで来た…
親達は教員と校長に向かい…
「うちの子が何をしたと言うの、
突然変な男女が現れて、子供達が
酷い目に有ったのよ、
だから警察の方にも来て頂いたの…
学校はどのような
対処をしてくれるのかしら?」
すると校長は穏やかな口調で…
「あなた方の子供さんは…
1人の女の子をイジメて居ました。
なので学校は、
あなた方の申し出に対して、
なんの対処もしません…」
「そんなバカな、うちの子に限って
イジメなんて…そんな事はしてません!」
そう言って校長と教員達を睨み付けた。
すると校長は
「…先程この学校に、神様が来られたと、
担任から聞いております…
私達は神様にケンカを売るような事は
出来ません…
もうあなた方の…身勝手な理屈は
聴きたくもありません、
なんなら、転校されたら如何ですか…」
イジメっ子と親達は騒ぎ出した。
するとその場に…
ベイ達8人がパッと現れた。
悲鳴を上げて腰を抜かす
33人の親子達…
敬礼をする警察官。
ベイは親子に向かって…
「お前達の顔…覚えたからな…
反省も出来ない人間は…助け無いから…」
そう言い残して…
スッと消えた。
その後、33名の親子は…
起き上がれ無いくらいに
落ち込んだと、
ホタル達からその様な報告が入った。
○ 。
ある高校の…教室の後ろで、
2人の男子が
6人の男子から暴行を受け、
お金を取られて居た。
そこに…ボブとリンダがパッと現れた。
教室の中はパニックである、
テレビに出て居た神様が、
今…目の前に居るのだ。
しかし、全員がストップモードにかけられ、動く事が出来ない。
リンダは黙って2人のケガを治した。
ボブは、6人以外の生徒達の顔を見回し…
「傍観と言う名のイジメも…
タチが悪いよね…でも、まだ間に合うよ…」
そして2人に向かい…
「偉いね、こんな目にあっても学校に
来ている…僕達は君の味方だから…」
そう言って、
リンダと共にパッと消えた。
その後の話…動き出した6人は、
再び2人に殴り掛かろうとした、
すると…クラス中の男女が2人の前に立ち
「させねえよ…」と言った。
「どけよお前ら、どかねえと、
今度は…お前達から金を取るぜ」
「お前達もう終わりなんだよ…
神様のボブさんと、リンダさんに、
ケンカを売ったんだぜ、
もうお前達の言う事なんて…
誰も聞かないぜ…」と言った。
その時、
学校で一番強くて、
一番大きなグループのリーダーが…
クラスの中に入って来た、
「何の騒ぎだよ…」
彼の登場でクラスの中は凍り付いた。
誰もがこの男を恐れているのだ。
6人の中の1人が怯えながら…
「いや…あの…こいつら全員生意気でさ…
絞めてやろうかと思って…」
すると殴られていた男子が…
「さっき…神様のボブさんとリンダさんが
来てくれて、
僕達…お金を取られて居て…
6人がボブさんに睨まれて…」
すると…全てを理解したリーダーは
6人に向かい…
「お前ら、まだカツアゲ何てしてるの、
金が必要ならバイトすれば…
でなに、神様にケンカ売ったの?
…バカなの?」
「…なんだよ、アンタはこっち側の
人間だろ…」
6人は5秒で…
床に叩き付けられた…
「一緒にするな!
俺は、真面目な奴には手を出さない!
あのな…
信じて貰えないと思ったから…
今まで黙っていたけど…
俺の親父…死んだんだ。
でもな、
8人の神様が現れて、
親父を生き返らせてくれたんだ。
…俺は、オレ達のグループは…
お前らみたいな奴をぶちのめして…
何もない時は勉強して…
言っとくけどお前ら、
さっさとバイトにつけよ、
毎月給料の7割を俺の所に持ってこい、
…取り上げた金は、
被害者に返さないとな…
いいか命令だ…お前らの家、
知ってるからな…」
そう言って6人を睨むと…
教室の中に歓声が上がった。
と…ホタル達から報告が入った。
○ 。
73人の子供達が、
友人と喋りながら、
楽しそうに昼食をとっている…
その部屋の…後ろの隅で…
今日も彼は
一人でパンのヘタを食べて居た。
家が貧しく、
ちゃんとした昼食を持ってこれない彼は
「アイツの家、貧乏なんだぜ、
ランチボックスの中に
パンの端っこが2枚
入っているだけなんだぜ」
そう皆んなに陰口を叩かれ、
そして、笑われて居た。
でも、今日の彼は少し
微笑んでいる。
いつも通りの…パンのヘタが2枚だが…
母親の機嫌が良かったのか?
パンの間に細かく刻んだキャベツと、
マヨネーズ…
そしてハムが1枚入っているのだ…
(えへへ…きょ、今日は、サンドイッチだ…)そう思いながら…
パンを口にほおばった。
昨日の夜9時に与えられた、
スープとパンのヘタ3枚から、
15時間ぶりの食べ物である。
彼は嬉しそうに半分まで食べた
(美味しいなぁ…)
そう思って
目をつむった瞬間、
イジメっ子3人に囲まれ…
パンを取られ…
床に叩きつけられ…
グチャグチャに踏みつけられた。
こんな事は初めてではない…
だから彼は…
(あ、味わって食べるんじゃ、
な、無かった…
急いで食べたら…
も、もう少し食べれたのに…)
と思った。
3人は、汚い言葉を使いながら
彼の頭をペチペチと叩いた…
その時、
グレイとルーシーがパッと現れた。
ルーシーは3人のイジメっ子を睨み付け…
「離れて…」と言った。
3人の身体はフリーによって、
滑るように3m引き離された。
部屋の中に居る73人の生徒達と、
3人の教師は絶句した…
(…テレビで見た…神様って
本当に居るんだ…)
そう思ったからである。
ルーシーは男の子に…
「貴方の年齢はいくつかしら」
と尋ねた…
「あの、ぼ、僕は、14歳です…」
そう言って…
屈託の無い顔で微笑んで居る。
彼からすれば…
(テ、テレビに出ていた、か、神様だ〜)
と心の中で喜んでいた。
しかし、グレイは男の子の体つきを見て…
(とても14歳には見えない…
10歳くらいの体型じゃないか…)
と思った。
すると彼の肩に居るホタルが…
「〈女〉グレイさん、
この子は家庭内暴力を
受けています
〈男〉食べ物は
1日二食です、主にパンのヘタです」
そう、グレイの耳元で
話してくれた。
すると更に…部屋中のホタル達が、
グレイとルーシーの元に飛んで来て、
匠から色々な機能を追加してもらい、
イジメっ子達の夢枕に立ち、
さんざん驚かせたが、
自分達は未成年だから、
人をイジメても、
神様にケンカを売って居る事に
ならないと言う
勝手な理屈をつけている…
と打ち明けられた。
グレイはホタル達の報告に頷きながら、
彼を立たせると、
上半身の服を脱がせた。
痩せ細った身体には、
殴られて出来たアザが無数にある。
切り傷の跡もある…
火傷の跡もある。
グレイは、彼が両親から受けている暴力を、
部屋の中に居る全員に聞かせた。
「痛かったね…熱かったね…
苦しかったね…
でも、頑張っているんだね…」
グレイの言葉に
彼は照れながら…
「い、今は…嫌な事が、お、多いいけど…
お、大人に成ったら、た、楽しい事が
有るかも…知れないから…」
そう言って微笑んだ。
ルーシーは身体の傷を治して行った…
その時…彼のお腹が「グゥ〜…」と鳴った。
グレイが指をパチンっと鳴らすと、
彼の目の前に…
ハンバーガーとポテトとスイーツと
ジュースが現れた…
「このハンバーガーは僕が作ったんだ」
するとルーシーが横から…
「これは…私が作った自慢のスイーツよ、
なかなか評判がいいの、しっかり食べてね」
そう言った後に、
部屋中を見回しながら…
「本当は皆んな…良い子達なのにね…」
と言うと…
グレイが男の子に服を着せながら…
「僕達2人は…君の味方だよ」
そう言って、握手を交わした。
その後に2人はパッと消えて、
3人の教師の前に現れると、
グレイは低い声で…
「何時も観ているからね…」と言い、
ルーシーは…
「この先、私達の助けが必要無ければ…
今のまま…傍観していれば…」
そう言って、2人は教室の中から、
パッと消えて行った。
日ごろ見て見ぬ振りの3人の教師は…
震えながら…
イスから転げ落ちた。
この後の話…
彼が一生懸命にハンバーガーを
食べていると…
3人のイジメっ子が彼の前に来て…
「ゴメン…そんな…辛い目に合っているなんて…オレ達ぜんぜん知らなくて…
本当にゴメン…」
と謝った。
彼は屈託の無い顔で…
「も…もういいよ…」と言った、
3人は、こんなに弱い彼をイジメていた
自分の馬鹿さ加減が情けなくて…
テーブルに思い切り頭を打ちつけて、
もう一度…
「ごめんなさい…」と謝った。
その後の3人は、
彼に寄り添う…心友になったと…
ホタル達は嬉しそうに
報告を入れてくれた。
○ 。
何の心当たりもない…
もう何年も前から、
先生以外の人と…
お喋りをした事がない…
施設の中でも、高校の中でも…
誰に話し掛けても
無視をされる…
はて?私の姿は…見えて無いのだろうか…
私って透明人間なのかしら?
でも…学校のロッカーの前では何度も…
「どけよ気持ち悪い女だなぁ…」
そう言って突き飛ばされた。
「良かった…見えて居るのね…」
小さな声でそう呟きながら、
床に散らばった自分の教科書を…
カバンに押し込んだ。
そして、
誰とも口を聞いて貰えぬまま…
今日、高校の卒業の日を迎えた。
誰もがパーティーがあると言って、
足早に教室から出て行った。
教室に一人残った彼女は…
両手で自分の胸を押さえ
(…映画のように…
誰かに誘って貰える…
そんなキセキは起きないの…
《誘って貰いたかったなぁ…》
私は強い子…
《強くないよ…》
一人でも生きていける…
《一生…一人ぼっちなのかなぁ…》
大丈夫…きっと大丈夫…)
そう自分自身に言い聞かせた。
誰もいない廊下…
何気なく鏡に映る自分に向かって…
小さな声で呟いた
「私って、そんなに気持ち悪いのかなぁ…
確かに…左眼は半分しか開かないし、
顔が少し…歪んでいるわね…
昔…母親が連れ込んだ男に、
ビール瓶で殴られたって…
施設の寮母さんが教えてくれたけど…
赤ちゃんの時の事なんて…
覚えてないわ…
私…もう18歳なのよね…
施設に居れるのは、あと1か月……
住込みの就職先が…
見つかるといいなぁ…」
その時…
誰も居ないと思っていた隣の教室の
ドアがいきなり開き…
「アンタの事なんか
誰も雇うはずがないでしょ、
バカじゃないの!」
そう言って、いきなり突き飛ばされ、
床に、ベチャッと倒れた瞬間…
バケツの水を頭から掛けられた。
帰ったはずのクラスメート全員が、
そこに居たのである。
3月のまだ寒い昼さがりである、
彼女は震えながら一刻も早く
この場を去りたかった、
悔しくもあり、
恥ずかしくもあり、
何よりも、自分自身が、
惨めに思えた。
しかし皆んなに囲まれて
動く事が出来ず…
さんざん悪口を言われ、
挙げ句の果てに…
「ねぇ、アンタに夢なんてあるの…?」
と聞かれた。
彼女は涙をぬぐいながら…
「……あるわ…」
と答えた。
「アンタが夢なんて見ちゃダメよ、
なるべく早く死んだ方がイイわよ…
ところで夢ってなに?」
「……なるの…」
「…えっ、なに、聞こえないけど」
「ラジオのDJになりたいの…
ジョニー&アンジーさんみたいな…」
すると全員から…
「バカな夢」「なれる訳ないじゃん」
「今やあの人達は、神様だぜ」
そう言って笑われた。
そこに、ジョニーとアンジーが
パッと現れた。
…絶句して動けない生徒達…
ジョニーが微笑みながら
「…遅く成ってゴメンね、少し忙しくてね…
お嬢さん、御名前は」
彼女は震えながら…
「ピ、ピーチです…」と答えた。
アンジーはしゃがんでピーチの手を握り…
「可愛い名前ね…ピーチは
DJに成りたいの」
ピーチは涙をこぼしながら
「…はい…」と答えた。
ジョニーはピーチに…
「僕達のアシスタントに成ってくれる…
色々な勉強が必要だけど、頑張れるかい」
するとアンジーが
ピーチを抱き起こしながら…
「頑張れるわよねピーチ!
私達2人が教えてあげる。
今日、高校を卒業したのよね、
おめでとう。
御祝いをさせて…」
そう言ってマシンを起動させ…
眼と、顔のゆがみを治した。
「フリー・アー、鏡をお願い…
ピーチ見て…ほら…可愛いわよ…」
ピーチは鏡を見た後に、
アンジーにしがみついて
泣き出した。
ジョニーはピーチに…
「住込みが希望だよね…
ボブとリンダがビルのオーナーに
成って居るんで、
住む所は大丈夫だよ。
今から施設に行って…
荷造りをして…
部屋の方に送って行くよ。
それと今夜…
少し遅く成るかも知れないけど、
僕達10人で、
ピーチの…卒業パーティーをするからね」
と言う言葉を残して、
3人は廊下から、
パッと消えた。
ジョニーとアンジーは、
周りの生徒達の顔を一度も観なかった。
ピーチを抱きしめているアンジーは…
ジョニーの耳元で…
「ねぇ、学生達をワザと無視したの?」
「そうだよアンジー…
彼らは残念ながら…
不測の事態の時に…
生き返る特典を失った人達だよ」
そう言って淋しげに微笑んだ。
その後の話し…
今まで、ホタル夫妻が見せた夢など
気にもしなかった子供達であったが、
ジョニーとアンジーを目の当たりにして…
(やっベー…)と思ったのか
「少しずつ良い子になってます…」
ホタル夫妻は女将に報告を入れた。
「今世で間に合いそうかしら」
そう女将が尋ねると…
「《女》う〜ん…本当に性格が
悪いんですよ…」
「《男》…死ぬまでに、間に合わない
かもです…」
「そうなの、残念ね、その時は来世で
頑張ってもらいましょう」
そう言って微笑んだ。
8人はこういった、瞬間移動作戦を、
4ヶ月間続ける事に成る…
その為、8人をたとえ、
チラッとでも見る人の数が、
50億人を超え…彼等の存在感は、
かなり身近なものになった。
〈…エピローグ…〉
そして…それから6年が、
あっと言う間に過ぎた。
ギンバレー氏は、
声が掛かれば
テレビでもラジオでも、
何にでも出て行った。
自由気ままに好きな事を言うのだが、
奥さんと子供を大事にしている
優しい所が視聴者からウケるのか、
常に色々な所からお呼びが掛かった。
彼は今も、
テレビ出演やコマーシャルなどで
稼いだお金を、
あいも変わらず…
自身が住む地域の活性化と、
青少年育成の為に使っている。
こういった事も
人気の1つなのかもしれない。
とにかく1週間の内に4回くらいは
テレビに出ている。
そして自身の楽しみとして、3週間に1回、ギンバレー夫妻は、ボブ夫妻と一緒に
オトールのジムに行く、
ボクシングがしたいのだ。
ギンバレーとボブ…
2人がヘッドギアを着けてリングに上がる…
するとジムの中は
ネットで調べたのか?…
600人以上の人でいっぱいに成る。
試合は6ラウンドまで…
「いくら好きでも無理はやめて」
と言う2人の奥様の意見を尊重しての
事である。
レフリーはバレンコーチが行う、
内心はドキドキである…
オトールがゴングを鳴らす…
試合は、現役の時より激しい
打ち合いが続く…
ファンの人達はとにかく理屈抜きで、
2人の事が大好きなので
声も出さず…
拳を握りしめながら
試合を見つめる…
そして
6ラウンド終了のゴングが鳴った。
ボロボロの2人は…
お互いを讃えて抱きしめ合う。
ファンの歓声と拍手がなかなか
鳴り止まない。
満身創痍の2人にむけて
リンダがマシンを当てる…
3秒で復活する。
その後はサイン会、
写真撮影会と…
2人はとにかくファンを大事にする…
そしてジムの中にはもう1人の人気者が…
ディックである…
3年前にチャンピオンになり、
タイトルを2回防衛した後に、
チャンピオンのまま…
あっさりと引退した。
今はオトール会長の元、
バレンコーチの右腕としてジムを
支えて居る…
そんな活気のあるジムの中で…
嬉しそうに、カウンターの中に立って居る
リズとサマンサ、
その2人の間には
ディックの妻、ロゼが、生後5カ月の男の子を抱っこして微笑んでいる。
ギンバレー夫妻も、ボブ夫妻も、
この何とも言えない家庭的なジムが
大好きである。
リチャードスミス氏は5年前に空軍を
退役した。
現在は軍の評論家としてテレビやラジオなどで活躍し…
また、講演会などでも沢山の所から
お呼びがかかって居る。
けっして空軍が嫌になって辞めた
訳ではない。
世論がマスコミを通じて
リチャードスミスという人間を、
メディアに招集したのだ。
早い話が、人気があったのである。
外見は…少し怖そうな顔、
がっしりとした体格、
なのに礼儀正しい話し方と、
たまに見せる優しい笑顔…
視聴者はこのギャップがいいらしい。
当初、軍の上層部は困惑した、
しかし…
「軍の外側から、如何に軍が、
地域社会の治安維持の為に
活躍しているのか、
有事の際にはどれだけ世の中に
貢献するのか、
その事を、外から語ってくれる人が居ると、
軍のイメージアップにつながる…
彼に…こちらからお願いしよう」
と言う事になり、
リチャードは軍を退役し…
軍の評論家と言う、
第二の人生をスタートさせる事に成った。
リチャードは家に帰るとさっそく
妻に相談した。
「…マーガレット、僕のマネージャーに成って欲しいんだけど…
ずっと君と一緒に居たいんだ…」
「リチャード、私の心の中には
「はい!」
と言う答えしかないわ、
もしも貴方が言ってくれなかったら…
自分から立候補するつもりだったのよ」
そう言ってキスをしてくれた。
一度死んでいる者同士…
離れる事が怖いのである。
マーガレットはマネージャーとしての
腕をふるった…
夫の身体に無理の無いように、
スケジュールは常に
余裕のあるものにした。
テレビ局の控え室に案内される2人、
打ち合わせが終わり2人だけになると…
マーガレットはスケジュール帳と
時計を見る、
そしてドアの鍵をかけると…
一直線にリチャードの膝の上に股がり、
お呼びがかかるまで…
ズッとキスをしている。
リチャードは心の中で…
(パイロットの後輩達ごめん…
俺は君達に
「ジェット機に乗っている時が一番幸せだ」と言ってきたけど…
今は、妻を膝の上に乗せて居る時が、
一番の幸せだ…本当にゴメン…)
と思いながら…
マーガレットを抱きしめる…
そんな毎日をおくっている。
そして…ボブとリンダの間には、
5歳の女の子と、3歳の男の子がいる。
女の子はママに似て数字が
大好きである。
毎日ニーナに数学の勉強を見てもらい
ニコニコしている。
男の子は絵を描くのが好きなようで…
「これ…パパとママの絵だよ、
キスしてるの。
こっちは、お姉ちゃんと僕…
パパとママがお仕事してるの…
見てるんだよ」
と言ってボブに見せる、
ボブは目を潤ませながら
「とっても上手く描けているよ…
将来は画家になるのかな?」
そう言って抱きしめながら…
頬ズリをする。
しかし血筋とはすごいモノで、
ボブとリンダがジムのオーナーの
仕事をしている時…
息子はジムの中に入って行き…
気が付けばいつの間にか
バレンコーチからボクシングの
指導を受けていた。
リンダは微笑みながら…
「ボブ…画家とボクサー…
どっちかいいと思う…」
ボブはリンダの腰に手を回すと…
「画家がいい」
「なんで?」
「綺麗なママの絵を描いて貰うんだ」
「もぅ〜ボブったら…」
そう言いながらキスをするリンダ。
あいも変わらず、ボブはリンダが
大好きである。
ジョニーとアンジーの間には、5歳の男の子と、4歳の女の子がいる。
両親の影響をしっかり受けている2人は、
音楽鑑賞と映画鑑賞が大好きである。
この2人のアドバイスが
とても的を得ているのだ…
「パパとママの…こんな話し方大好き…
でも、あんな話し方は嫌い…」
アンジーとジョニーの良き
アドバイザーである。
ジョニーとアンジーは
6年前から週に2回…
世界各国に向けて
ラジオ番組を流している。
スタジオは、
ボブとリンダのビルの27階。
ちなみに、このビルの20階には
アシスタントのピーチも住んでいる。
2人が世界中の言語を話せる訳ではない、
しかし2人には、世界最高峰の同時通訳者がいる…その名は女将。
いま世界中で、
ラジオを買えない人の家にも
必ずラジオがある、
それは何故か?
適当な理由をつけて…
[抽選の結果ラジオが当たりました]
と言う事にして…
どの家にもラジオを置くように…
匠と女将が〈そうした〉のである。
さて、ジョニーとアンジーの
ラジオ番組の中に
[子育て何でも質問、相談コーナー]
と言うモノをある。
リスナーからの質問に答える、
と言うモノではなく、
ジョニーとアンジーが子育ての疑問点を
提示して…
リスナーが答えてくれると言う
コーナーである。
『お姉ちゃん、逆じゃないの…」と言ったのはグレイである…
「きっとお姉さんには考えがあるのよ」
そう言ってグレイはルーシーに叱られた。
するとジョニーが…
「今ね…子育てが苦手だとか、
中には子育てをしたくない、
何て言う人が結構いるんだよ…
だから、僕とアンジーも
苦戦してますよ、
って言う感じにしておけば
「えっ〜あの人達も苦戦してるんだ、
じゃあ私も頑張ってみるか」
なんて思ってくれたら
いいなぁって思ってさ…」
「…すみません、そこまで深く考えて居られたんですね…」
「いやグレイ、これは君の姉さんの考えた事だよ」と言うと、
グレイは姉に向かい…
「分かりもしないクセに、口を挟んで、
本当にごめんなさい」
そう言って頭を下げると、
アンジーは微笑みながら…
「いいのよ、気にしないで…
私とジョニーも、周りの人達から
本当に沢山の事を教えて貰って
居るんだから…グレイと一緒よ」
と言ってくれた。
ジョニーとアンジーの番組の中にはリスナーに向けてのプレゼントコーナーがある。
このコーナーの為に、
ラジオを世界中の家庭に設置したと言っても過言ではない。
クイズに答えてもらうと抽選で、
毎番組10名の方に
1000ドルをプレゼント…
みたいな感じである。
この企画は、ベイが10人のファミリー会議の席で提案した事である。
世界中に居るホタル達からの報告で、
経済的に大変な人達が
どれだけ居るのか、
当然把握している…
その方達が、喜んで受け取ってくれる
方法が、
プレゼントコーナーと成ったのだ。
しかし、このコーナーには嘘がある、
当選者の数は10名ではなく、
毎回1000万名である…
「お金はいくらでも有ります。
ドンドン使って下さい。
湯水の如く使って下さい。
金は天下の回り物です」
これは女将と匠の、口癖である。
番組の中には毎回ゲストを招いてる、
今回のゲストは、
テレビで人気ナンバーワンの
女性アナウンサー…グロリアである。
「グロリアさんスミマセン…
あと5分で、スタジオの方にお願いします」
そう言って頭を下げるアシスタント…
「はーい了解です。
あっ…ピーチちゃん、アンジーさんに
聞いたわよ、
来週から1つの番組を担当するのよね、
いよいよデビューね、
おめでとうピーチちゃん」
「ありがとうございます…」
涙ぐむピーチを抱きしめる
グロリアは、
今回で36回目ラジオ出演である。
グレイとルーシーは、インターネットで料理教室のサイトを立ち上げた。
値段の高い材料で無くても、スーパーで売っている食材で、
こんなに美味しい料理の数々が…
と言うモノである。
コレがかなりの人気を集め、
沢山の人達が観てくれている。
ある時、ホタル達の報告が、
女将経由で2人の耳元に届いた。
学生達が文化祭で食べ物を売り、
その売り上げ金で本を買い…
世界中で本が買えない地域の学校に…
プレゼントしよう、
と言う計画である。
グレイとルーシーは感動した。
しかしホタル達からの報告では、
どうも学生同士の話し合いが
上手くまとまっていないようである…
当日…クラスの代表として
選ばれた学生達は、
不安を抱きながら、
思い思いの食材を持って学校に
集まって来た…
すると校庭に大きなテントが…
「…変だなぁ…先生と生徒会の
打ち合わせでは…体育館の
はずなんだけど…?」
男女合わせて127人の実行委員達は
首を傾げながら、
テントの中に入って来た。
「えっ〜、テーブルもイスも
並べてある…
グランドなのに?床がタイル張りだし…
誰がしたの…?」
そこに校長と教員達が入って来た。
校長は嬉しそうな顔で…
「皆んな、おはよう…どう、
びっくりしたかい…
テントもテーブルもイスも…」
生徒達は小刻みに頷いた…
校長は更に…
「皆んなの優しい発想に…
今日は、スペシャルゲストが来てくれます…
もう…たぶん来られます…」
その時…
テントの中央部がキラキラと輝き、
立派な厨房と、
そして、グレイとルーシーがパッと現れた。
127人の絶叫と地団駄の音…。
グレイは皆んなに向かい…
「今日、僕とワイフで、皆さんを
サポートさせて貰います…
よろしくお願いします…」
そう言いながら…
グレイは手をパンッと鳴らした。
すると127名の洋服が、
一瞬にして変わった…
男子は白のスーツ姿…
女子は真っ白なワンピース姿に…
誰もが…
(…やっぱり噂どおり…神様なんだ…)
と思った。
グレイとルーシーは
学生が持って来た食材プラス、
スカイシップから持って来た食材を加え……一流レストランばりの料理を
惜しむ事なく…
父兄や、外から来てくれた観客に提供した。
お客様達は料理の美味しさにも
当然驚いたが、
グレイとルーシーが、文化祭に来てくれて
居る事に驚いた。
当然のように…誰かがネットに上げ…
それを見た人達が押し寄せ…
その結果…学生達が目標とする金額の
100倍の売り上げが上がった。
グレイとルーシーはこう言ったボランティア活動を、女将と匠と相談しながら
積極的に参加して行った。
そして、グレイとルーシーの間にも、3歳と2歳の女の子がいる、
2人ともパパとママに良く似ているせいか、
お人形遊びよりも…ママの隣で、
生クリームやチョコレートを
混ぜる方が楽しいようである。
「パパ見て…私達2人の手形ケーキ、
可愛いでしょ…」
ルーシーがせっかく作ったケーキの上に
2人の手形が4つ…
だがグレイは怒らない
『ワォ…こいつはスゴイぜ、
世界に1つしかないケーキの誕生だ〜」
するとルーシーは、
横からサッと入って来て…
2人の手形の周りに
生クリームをササっとあしらい
「ほら観て、3人の合作よ」
そう言って2人の頬にキスをした。
2人の娘は嬉しそうに
「やったー…」と言って飛び跳ねて居る…
この3人の天使は、
グレイにとっての…
唯一無二の…宝物である。
ある時…女将が独り言を呟いた…
「可哀想に…急に休むなんて…学生さん
達にも都合が有るのに…」
ベイはメリーと顔を見合わせて…
「どうしたんですか女将さん…」
と尋ねた、
すると「…大学の教授が自分の都合で
講義を休み、3日後に来てくれって
学生達にラインを送ったんです…
皆んな苦学生で
アルバイトをしているのに…
皆んなの都合が…つけばいいのですが…」
「…其れは大変ですね…
僕とメリーが講義をしましょうか?」
メリーは(えっ!)
と言うような顔で目をむいたが、
ベイが「いいよねメリー…」と言うと…
「…い…いいに決まっているじゃない、
ベイと一緒なら…何だってするわ」
と言った。
ベイは人前で、
とっさに何かを喋るのは苦手だが、
ちゃんとテーマのある講義をするのは、
得意中の得意である。
女将と匠は微笑み…
(…メリーさんは偉いな〜、照れ屋さんだから、本当は人前で喋るの
苦手なはずなのに…
顔がすでに、赤く成ってるじゃん…
メリーさんファイト…)
そう思いながら二人でエールをおくった。
女将が大学側に連絡をすると…
二つ返事で快諾してくれた。
次の日、
学生達は臨時講師が来ると
大学側から聞いているが、
名前は聞いてない…だから誰もが…
「なぁ…おかしくないか?」
「私もそう思う…臨時講師って、誰…?…
ちゃんと単位を貰えるのかしら?」
「いや、それよりも…
理事長も学園長も…
講義のない教授達全員が来てるわよ…」
「…其れもココ…大講堂だし…」
そう言っている時に、
授業開始の鐘が鳴った。
誰も教壇に立って居ない…
ざわつく生徒達…
鐘が鳴り終わるのと同時に、
教壇がキラキラと光り…
ベイとメリーがパッと現れた…
一瞬の沈黙…
その後の、拍手と、歓声と、悲鳴…
泣いている生徒達も居る…
ベイとメリーは45分ずつ講義をした…
そして30分間ほどの質問を受けて…
2時間の講義は終了した。
生徒達は皆んな…
「本当に分かりやすい講義だった…
とっても楽しくて理解できた…
神様夫婦って凄い…
担当の教授が休んでくれて
本当に良かったぁ〜」
「でも、あっという間に終わっちゃった」
そう言って寂しがった。
ベイとメリーは、女将が独り言を言うたびに、色々な高校や大学…時には中学校を回る事に成った。
そして、ベイとメリーの間にも5歳と4歳の息子が居る。
皆んなと楽しく遊ぶのも大好きだが…
本を読むのはもっと大好きな様である。
ベイとメリーがソファーに
並んで座っていると…
必ず息子達が膝の上に乗ってくる、
1人はパパで…
もう1人はママの膝の上…
2人は一生懸命に本を読んで
聞かせてくれる…
ベイとメリーは微笑みながら
息子の頭を撫ぜる…
可愛くて撫ぜる…
ひたすら嬉しくて撫ぜる。
そんな8人の子供達を…見守り、
遊び、躾け…そして
教育してくれているのが、
トムとニーナである。
2人は、今年の1月1日…結婚式を挙げた。
19歳のトムと17歳のニーナ…
赤ちゃんの時に、親同士が結婚を望み…
物心がついてからは、
お互いが大好きどうしになり…
17年間の時を経て、
やっと結ばれたのである。
ベイは匠に頼んで、スカイシップの中に2人の部屋を用意してもらい…
女将に頼んで、夫婦の夜の営みの
講習会をコッソリと開いて貰った。
やらしい話ではない、
大人として知らないと
いけない事なのである。
スカイシップの中で結婚式が終わった後、
2人は7日間の新婚旅行に行った…
護衛役にはフリー・ベーとフリー・メー、
そしてブレス達が着いて行った。
ヨーロッパの新婚旅行から帰って来た
2人のもとに、
8人の子供達が嬉しそうに
駆け寄った。
「ニーナ先生、トム先生、おかえりなさい」
そう言って…男の子達が二人を見上げた…
すると首を傾げながら
「ニーナ先生…お首…虫にいっぱい、
かまれているよ」
ニーナはとっさに…
(しまった…)と思った。
すると…女の子達が腰に両手を当てて…
「大丈夫よ、あれはトム先生が吸ったの、
キスマークって言うのよ…
愛し合った証なのよ。
ねっ、そうなんでしょ…
トム先生、ニーナ先生…」
2人の顔は真っ赤に染まった。
するとレイチェルが、
2人の間に入るように肩を抱き寄せ…
「あらあら、因果は巡るのね、
昔…あなた達2人に
「パパとママは、裸で抱きしめ
合って居ます」
そう皆さんの前で言われたの…
トム、ニーナ、人前で言われると、
けっこう恥ずかしいでしょ…」
ニーナは真っ赤な顔で
「ママ、あの時は…ごめんなさい」
そう言ってトムの胸の中に顔を埋めた。
するとブラウンが…
「恥ずかしがらなくていいんだよ、
大人なんだし、
愛し合っているんだし、
新婚なんだから…」
そう言って2人の頭を撫ぜた。
女将はその言葉を受けると…
「そうですよ、この場に居る大人達は、
愛し合っていると言う一点で、
もう新婚でもないくせに、
所かまわず、
ズッ〜と、ベタベタしてるんですから…
でも、夫婦は…それでいいんですよ」
そう言って微笑んだ。
大人も子供達も……
皆んな素直に納得した。
〈 今日も空に 〉
匠と女将は5年前から
ガス、電気、水道の会社を立ち上げ、
巨万の富を得ている。
其れもそのはずである、
世界各国、約20億の家庭に
供給しているのに、
配管、配線の工事は一切要らず、
全て瞬間移動で、各家庭に届けるのだ。
更に、月末になるとホタル達が
ホログラムを使って人間に成りすまし…
「すみません、電気代の集金に
まいりました…」
匠が作り出した実在型ホログラムは、
お金を受け取り、
領収書を手渡すと言う
集金業務までしてくれるのだから…
もう笑いが止まらない状態である。
其れで得た巨万の富は、
10人で話し合い、
色々な形で、世界中にまわす事に
成っている。
AIである女将と匠には、
物欲、金銭欲と言うモノは
一切ない。
だから口癖のように何回も言うのだろう…
「皆さん、お金は世の中を回ってこそ
価値のある物です、
どんどん活用して下さい。
いくらでも…私達2人が用意します!
金は天下の回り物です」
本当に頼もしい2人である。
さて…ブラウンとレイチェルは、
毎日、自分達を含め、
22名の食事の用意を、
楽しみながら、こなしてくれている。
5年程前からブラウン一家は、
スカイシップの中で暮らしている、
皆んなで一緒に暮らしたいと言う
思いがつのり、
満場一致で可決した事である。
なので、地上のホワイトホテルは、
現在…別荘として使われている。
メリーが、
デッキ後方のソファーで
コーヒーを飲んでいる
ブラウン夫妻に…
「レイチェルさん、ブラウンさん、
毎日22名もの食事の用意、
疲れて居ませんか」と尋ねると、
レイチェルは…
「スカイシップのキッチンは、
超ハイテクじゃないですか…
疲れるどころか毎日が楽しくて!」
するとブラウンも…
「毎日が夢のようです。
下ごしらえが終わると、
レイチェルと2人で
こうやってコーヒーを飲みながら、
窓辺のソファーに座って
外の景色を眺めるんです。
「あっ、今日はロッキー山脈が見える、
今日は、太平洋の大海原だ、
あっ、北極に来ている、
グランドキャニオンが見える…」
…もう毎日が嬉しくて、楽しくて…」
そう言って、レイチェルを見つめている。
「主人の言う通りです…
私は子供のころ、遊園地に憧れていて…
魔法の国のように思っていたんです、
でも、一回も行った事が無くて…
だけど、スカイシップの中は、
本物の魔法の国じゃないですか…
キッチンの中の
ティーカップ、フォーク、スプーン、フライパン、そして火も水も全部、
私達の指示通りに飛び回ってくれて、
もう毎日が楽しくて…」
メリーは頷きながら…
「確かに…スカイシップは魔法の国
ですよね、私も大好きです…」
そんな3人の話が弾んでいる後ろ側では…
ニーナの明るい声が聞こえる…
「はーい皆んな、一列に並んで〜、
今から、トム先生が跳び箱のお手本を見せてくれます、
よく観ていてね〜」
8人の子供達が元気な声で返事をすると、
トムは少し照れ臭そうに走り出し…
跳び箱を綺麗に飛び越えた。
デッキの前の方では…
ベイと、匠と、女将の3人が、
新しいマシンの打ち合せをしている。
その横ではボブとリンダが…
嬉しそうな顔で、ジムの経営が順調に進んでいる事を話し合っている。
更にその隣では、
ジョニーとアンジーが番組の打ち合わせで…次回のゲストにはギンバレー夫妻を、
その次はリチャード・スミス夫妻を、
と話し合っている。
下のキッチンではグレイとルーシーが、
創作料理の試作品を作り終え、
お互いに「あーん…」
と言いながら…食べさせ合っている。
スカイシップの中は、何時も賑やかである。
2匹の夫婦のホタルがいる、
人の肩の上に住んでいる。
匠から透明シールドを張って貰っているので、その存在を、知っているのは…
世界中で…たった10人と、
8人のフリー達だけである。
今日も世界中から、
ホタル夫妻の実況生中継の声が
女将の耳元に届く…
良い事も、悪い事も…全てである。
女将は全ての情報を分析し終わると、
涼しげな顔で…
「皆さん、お出かけの時間です、
準備の方はよろしいでしょうか?」
すると8人は
「はーい、いつでも飛べまーす」
そう言って
親指を立ててくれる。
スカイシップの
何時もの日常である。
男性陣は自分の子供達に…
「ママとパパ、なるべく早く帰って来るからね、お勉強しながら待っててね」
と言い。
女性陣は…
「パパとママ、頑張って来るからね、
トム先生と、ニーナ先生を困らせちゃ
ダメよ」と言うと、
子供達は元気な声で
「パパ、ママ、私達は、
先生の言う事をちゃんと聞いているから、
困っている人のために、
頑張って来てね」
そう言って、
満面の笑みで手を振ってくれる。
すると匠もニッコリと微笑み…
「皆さん、ただ今スカイシップは、
日本の上空
1万mの位置に待機して居ます。
ホタル達からの依頼は1829件です、
まずは瞬間移動で、
皆さんを4箇所の上空に送ります。
その後は、フリー&ブレスと、ホタル達が…
優先順位を決めて、
皆さんを誘導してくれます。
でわ…瞬間移動を開始します」
手を振るベイ達8人の姿が…
デッキの中からパッと消えた。
ボブとリンダは、北海道から東北地方にかけて進んで行く。
ジョニーとアンジーは、沖縄から九州地方に上がって行く。
グレイとルーシーは、四国から中国地方にかけて旋回して行った。
そしてベイとメリーは、関東、中部、近畿地方の順に、フリー達の誘導通りに、
片っ端から…お節介な人助けをしながら、
飛び回って行った。
突然の事故や病気に遭遇した人は
パニック状態になる、
そういった人達の元に、
壁を通り抜け、あるいは天井を通り抜け…
時には、空から現れたりしながら、
困っている人の目の前にパッと現れ…
「大丈夫ですからね、直ぐに治しますよ」
「奥さんと、子供達の命は大丈夫ですよ、
生き返りますから…」
「もう、病気は治しましたよ…」
「…ご主人の膵臓癌を治しましたよ…」
「このお金は、返さなくイイですから、
これで会社(お店)を立て直して下さい」
もうここまで来ると、
おせっかいの極地である。
子供は親の全てを見て育つ…
匠と女将は常々そう思って
いるので、
8人の働き方を
いつもデッキのスクリーンに
映し出している。
子供達に対しての情操教育であり、
後継者育成の為の…
女将と匠の粋なはからいである。
子供達は両親を誇りに思っている、
それと同時に…
(女将さんと、匠さんのサポートって…
本当に凄いな〜)
と思っている…
子供ながらに
感謝と尊敬の思いで、
2人の横顔を見つめていた。
全ての仕事をやり終えて…
1番早くスカイシップに帰って来たのは
グレイとルーシーである。
3分後にはボブとリンダ。
そして更に5分後に
ジョニーとアンジーが帰って来た。
子供達は自分の親に、
もの凄い勢いで抱き付きに行く。
その時女将が…
「今…ベイ博士から伝言が入りました。
田澤さんが新作を書き上げたので、
もらいに行って来ます…との事です」
ベイの2人の息子を筆頭に、
子供達は大喜びである。
「やった〜新しい話しが出来たんだ〜」
女将は微笑みながら…
「今夜から…パパとママが読んでくれるわよ、楽しみね〜」
そう言っている時に…
ベイとメリーは、美容室の上空に
着いていた。
ベイは電話をかけ、
店内に誰も居ない事を確認すると、
メリーと2人で店内に入った。
ベイは開口一番…
「新作が出来上がったんですね、
おめでとうございます」
そう言って手を差し出した。
作家はベイの手を両手で握り…
「ありがとうございます」
頭を下げながら
(…この方達だけなんだよね、
私の小説を読んで下さるのは、
ありがたいなぁ…)
と思っていた。
メリーが満面の笑みを浮かべ
「先生、新作のタイトルは…
以前お聞きした…」
「はい、あの…山国、と言います」
メリーはベイと顔を見合わせ…
「素敵な題名ですね、
今夜から子供達に読んであげます、
きっと喜ぶと思います」
作家は目を潤ませながら…
「ありがとうございます、
そのお言葉で…子供さんよりも
一足先に…
私自身がもう…かなり喜んでおります。
世界中で活躍されている御二人が、
こんな所で時間をとって居てはいけません、
どうぞ、スカイシップにお帰り下さい」
そう言って…また頭を下げた。
ベイは微笑み…
「先生、どこか身体の不調は
ありませんか?」
と尋ねてくれた。
作家は…
「ありがとうございます、
どこも悪くありません…」
すると作家の肩に乗っているホタルが…
「〈女〉ベイ博士、私の主人は
腎臓結石です。
〈男〉きっと痛いのを我慢していると
思います」
ベイは小さな声で…
「ホタル御夫妻、教えてくれて
ありがとうございます」
そう言った後に、
作家の腰に光を当てた…
「…言って下されば直ぐに治せますから、
遠慮など…しないで下さい…」
作家は申し訳なさそうな顔で…
「すみません、本当にすみません…」
そう言って、また頭を下げた。
ベイは作家の目を見つめ…
「でわ、新作、山国を頂きましたので
帰りますね…
また来週あたりに…
髪の毛を切りに来ます、
ちゃんと予約をしてから来ますので」
作家は微笑みながら
「お待ちしております」
2人に向かって、
また頭を下げた。
田澤が顔を上げた…
ベイとメリーと目が合った…
次の瞬間、
2人は…作家の目の前から、
パッと消えた。
作家は微笑みながら…
静かに…5回目の御辞儀をした。
「ただいま帰りました」
と言うメリーの声に、
2人の息子が満面の笑みで飛んで来た。
「パパ、ママ、お帰りなさい、本は!」
ベイは息子の頭を撫ぜながら…
「ほら、これだよ…でも少しだけ待ってね、匠さんに頼んで、皆んなの手元に
置けるように、
まず22冊の本にしてもらうからね。
そして、その次は…
女将さんと匠さんにお願いして…
映画にでも、してもらおうか?」
そう言って微笑んだ。
誰もが「えっ!」と言う声を上げると…
ジョニーが皆んなを
代表するようなかたちで
「ベイ博士…そんな事が出来るんですか?」
ベイは小さく笑いながら
匠に目を向けた…
すると匠は涼しげな顔で
「出来ますよジョニーさん。
まず、小説の中の…登場人物の数だけ俳優さんを揃えて、
効果音とCGと音楽も入れて…
監督、編集は私と女将がします。
ただ有名な俳優さんは起用しませんよ…」
「何故ですか…?」
すると横から女将が…
「有名な方達は、既に、地位も名声も、
財産も沢山お持ちじゃないですか、
ならば…一生懸命に頑張っているのに、
今一つ売れない…
何回もオーディションを落ちている…
そんな方達に、チャンスと、
出演料を差し上げた方が良いかと
思いまして…」
「なるほど…指名された
俳優さん達は、さぞかし喜ぶでしょうね」
「はい、その事ですが…実は、
いずれ小説を、映画化するつもり
でしたので、
配役の人選等は…
既に出来上がっております」
するとベイが…
「なるほど、ホタル達からの報告で、
小説の内容は…御二人は知ってますもんね」
「スミマセン、皆さんよりも
先に読んでしまっています」
「全然かまいませんよ、
むしろそのお陰で、物事がスピーディに
進んでいます。
じゃあ後は…その方達に、
私達8人が、お願いに行けば
いいのですね…」
女将は匠の顔を一回見た後に…
「はい、その通りです!
主人と話し合ったのですが、
皆さんが直接行かれた方が、
出演者の方達が喜ばれると思います」
「了解しました…明日から回りましょう」
そんな大人達のやり取りを聞いて、
子供達は嬉しいのか…
ピョンピョンと飛び跳ねながら…
「女将さん、楽しみです…」
「匠さん、CGをいっぱい入れて下さい、
お願いします」
「女将さん、音楽もいっぱい
入れて下さいね」
子供達は…口々に自分達の希望を伝えた。
匠は微笑みながら…
「分かりました、任せてください。
とりあえず、先ほど預かりました本は…
もう出来ていますよ、どうぞ…」
そう言って、22冊の本を皆んなの前に
差し出した…
(…もう出来たんだ…って言うか、
いつの間に…手に持って居たんだろう…?
イリュージョン…)と思いながら、
目をむいて驚いてしまった。
しかし、決してイリュージョンでわない、
先程も言った様に、
ホタル達を通じて、
本の内容を、先に知っていたので、
大まかに作り上げた物を、
先ほど…ほんの少し、
手直しをしただけの話である。
メリーが横から…
「あの…女将さん…前のブラザービーチも、映画化にして貰うなんて…
出来ますか?」
女将はサラッと…
「もちろん出来ますよ、
こちらの小説の方は、もっと前から配役を決めていますよ」
尋ねたメリーよりも、
横に立っているベイの方が嬉しそうである。
女将は小さく笑いながら…
「じゃあ…まずはブラザービーチから手掛けましょう…
2ヶ月くらいで出来上がります、
ただ、原作が長いので、6回に分けて
テレビドラマのようにしますね。
そして其の後、2ヶ月後に山国(ヤマグニ)を完成させると言う方向で
頑張りますので…
ただ、これも原作が長いので、
6回に分けたモノにします…
楽しみにしていて下さいね」
そう言って微笑むと、
大人も子供達も歓声を上げて喜んだ。
夜…トムとニーナは
山国の本を、50ページほど読んでから
ベットに入った。
トムはニーナに…
「昔、初めてベイ博士から…田澤さんの本を勧められた時…
正直に言って興味が無かったんだ…
でも今…夢中になって読んでいる
自分が居るんだ…不思議なんだけど…」
ニーナは頷きながら…
「私だって同じよ…なんて言えば良いのか…
こんな風に話が進んでくれたらいいなぁ…
と思って読んでいると、
そんな風に成っているの…
必ずハッピーエンドに成るの…
単純と言うと…語弊があるけど…
でも…私は好きよ。
あと、話の中に出て来る夫婦が…
皆んな、常に、愛し合っているの…」
そう言ってトムにキスをすると…
トムはジッとニーナの顔を見つめ…
「僕は…ニーナと結婚することが出来て
…本当に幸せだよ…」
「トム…私も…」
そう言って、ニーナはトムの胸の中に
顔を埋めた。
ボブとリンダは
子供達をベットに寝かせると、
子供達の足元で…
夫婦で感情を込めて交互に本を
読んで上げた…
ちょっとした朗読劇風にである。
子供達の目はランランと輝いている、
しかし1時間ほど読んだ時、
子供達の目が半分ほど閉じて来た。
リンダは優しい声で…
「続きは…また明日の
お楽しみにしましょう…」
そう言って、子供達のオデコにキスをした…
「…パパ、ママ…おやすみなさい…」
そう言う子供達に小さく手を振りながら…
夫婦の寝室に戻った。
ボブは本を片手に…
「いや〜おもしろい内容だね、
読んでいてドキドキしちゃったよ…」
そう言って本をテーブルの上に
ソッと置いた。
するとリンダはボブの背中に…
ギュッと抱き着き…
「そうね、でも少しエッチな所も
あったわね…」
「そうだね、子供達の手前、少しドキドキしちゃったね」
「今から…私もドキドキしたいなぁ…
ダメかしら…」
ボブは鼻の下を伸ばし…
「リンダ…い、いいに…決まってるじゃないか…こちらこそ、
宜しくお願いします、だよ…」
ボブはクルリと振り返ると、
リンダを優しく抱き上げ…
ベットの上にソッと下ろした…
「世界一綺麗なリンダを抱けるなんて…
僕は…世界の…まるで…
王様にでも成ったような気分だよ…」
…と言う様なセリフを…
ベイ夫妻も、
ジョニー夫妻も、
グレイ夫妻も、
ブラウン夫妻も、
新婚のトム夫妻も、
匠夫妻も…
フリー達夫妻までも…
照れながら、自分の…妻の耳元で囁いた。
そのあと…誰もが同じ様に
鼻の下を伸ばし…
あんな事や…こんな事や…
もう…とにかく、色んな事を…
やり出した。
しかし…大人であり、夫婦であり、
愛し合っているので…ヤラシイ事ではなく、
当然の事だと、理解して頂きたいのである。
次の日の朝…スカイシップは、
ロサンゼルス市の上空…
高度8000mの場所に待機して居た。
ハリウッドの空は、快晴である。
朝食を終えたベイは、
子供の頭越しにメリーにキスをすると…
服の襟をキュッと直し、
凛とした声で…
「さぁ皆んな、朝食も終わった事だし…
今日は、映画の出演者の方達に…
挨拶に行きましょう。
女将さん、
何人くらいの方達が出演するのですか?」
すると女将は
珈琲カップをテーブルに置きながら…
「ブラザービーチは286名です…」
「えっ?登場人物…もう少し
多くないですか?」
「はい、物語に出てこられる方達はもう少し多く居られますが…
セリフが少ない人達もいますので、
その方達に何役か…
こなして頂きます。
特に、殺人者役の方達…
また、殺される役の方達には、
別のシーンで…
優しい人の役を、
また…幸せになる役を演じて頂きます」
ベイは頷きながら…
「なるほど…
そうですよね…悪役の方達にも、
家族や親戚や友人がいるんですもんね…
本音を言えば…
「私も、良い役をしてみたいなぁ」
って思っておられますよね…
きっと喜ばれると思いますよ…」
ベイの賛同に…女将は微笑みながら…
「ありがとうございます。
…さて…皆さん、出発される前に1つだけ…
恒例の行事である…遠足の日が
近づいてまいりました。
今回は…何処に行きたいですか?」
大人達は、子供達に遠慮をしながら、
黙って…微笑んでいる。
すると子供達から「…えっ〜と…温泉!」
「うん温泉がいい」「そうだね、
世界トップ5の、温泉に行きたい」
「そうだね、5カ所の温泉を巡るって、
なんか良いよね」
と言う声が上がった。
大人達は内心…
(…なぜ4、5歳の子供達が…温泉…)
(…いゃ〜個人的には、嬉しいわ〜)
(…5箇所の温泉って、身体に良いかも…)
そう思っていると…
匠が子供達に向かい…
「若いのに、渋いね!」
そう言って親指を立てたので、
デッキの中は大爆笑と成ってしまった。
ベイは、笑い声が収まると…
皆んなに向かい……
「今度の遠足には、何時ものメンバーと…
グロリアさんと、
ピーチちゃん…
そしてボブとリンダが経営している
ジムの、オトール夫妻、
バレン夫妻、ディック一家も…
そして、田澤さん一家も、招待しようよ…」
と言った。
全員が満面の笑みで親指を立てた。
ベイは頷きながら…
「じゃあ…ボチボチ出発するよ、
子供達…トム先生と、ニーナ先生の言う事を
ちゃんと聞くんだよ!」
ロサンゼルス…
空から見下ろす街並みの綺麗な事…
上から見る分には…
誰もが幸せそうに感じる…
きっと、ほとんどの人が…
楽しく過ごしていると思う…
ベイ達は、その「 ほとんど 」
の中に入れなかった人達の元に行く…
「突然現れてスミマセン…
メリー、出だしの挨拶は、こんな感じで
良いかな?」
「良いと思うわよ、ベイ」
周りで皆んなが微笑んでいる…
「でわ、行ってきます!」
誰にも頼まれていないのに…
お節介で、自己満足な8人の義賊が、
たった今…
スカイシップを飛び出した!
。完 。
義賊は空に住んでいる @WTTT
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