士官学校

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一コルセ=一センチメートル

一コルセントメルド(一メルド)=一メートル

一コンドレットメルド(一コンド)=一キロメートル

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グレースト歴1816年二月二十九日

「幼年学校における課程を修了したことをここに証明する」

 厳格な空気のもと執り行われているパリス幼年学校の卒業式は涙を流すものも何を考えているかわからないほどに無表情なものも、たくさんの人がそこにはいた。

 レイア―ドはパリス幼年学校の百二十人の内三十名が入校を許されたパリス士官学校への進学が許されていた。そもそも一校で三十名つまり一クラス分も入学者が出ることが異常ではある。しかし、エリートの道を進みはじめたことは事実だった。

 ちなみに、アルバートはレイア―ドとは違う場所にあるヴァルス王立士官学校へ、ヴェルドは官僚の育成を行うパリス王立大学に進学した。

 レイア―ドとアルバートの進学した陸軍士官学校はルイジアート13世によって設立された学校で陸軍幼年学校の成績優秀者を集めてさらに優秀な指揮官へと教育するために設立された。

 その士官学校の外見は王や貴族たちの権力をこれでもかと見せつけている作りだった。幼年学校と同じように銅像が両脇に等間隔に設置されえている大きな道を前進すればフランシアらしいレンガ造りの大建造物が見えてきた。校舎を真ん中として周りには図書館や実技訓練場など充実した施設が大量に設置されていた。さらに校舎の方へ近づくときっちりと整備された花壇が見えてきた。よく見てみると様々な花がどれも個性を持っているように見えた。

 幼年学校もまた見事な作りだったがここまできらびやかなものではなかった。幼年学校が持つ少しばかりの幼さともいえるような雰囲気はこの士官学校には全くといっていいほどになく。そこにあるのは貴族らしい上品さだった。それが醸し出す雰囲気は学校ではなく宮殿のようだった。

 だが、入学してみればそこまで幼年学校とも大差はないように思えた。一日五つの講義を聞いていればいいだけの話でそれは幼年学校の時も同じだった。士官学校は七時から九時までの第一講義、十時から十二時までの第二講義、十四時から十六時までの第三講義、十五時から十七時までの第四講義、十八時から二十時までの第五講義、がある。第一講義と第二講義は実技が行われて、そのほかの講義では座学を中心に学ぶ。これは、幼年学校から変わらない授業構成だ。

 士官学校の卒業資格は試験で好成績を収めることだ。卒業資格は試験で合格することであり教わることではないので理論上は一年生でも合格することができる。だが、勿論その試験は一年生で習わないことも範囲に含まれているため一年生で卒業する生徒はほとんどいない。だが、いけなくはないのだ。そこが重要だった。


「レジャド!!」

 二年生の怒声が広いグラウンドに響き渡る。電のような声だった。

 それは、一年生のレジャド・マートをしかりつける二年生の声だった。レジャドの行進が周りに比べて遅かったようだ。それに、気付いた担当の上級生がしかりつけたということだろう。

 この学校では一年生一人につき二年生一人が教育担当として割り振られていた。その教育担当は一年生に、主に実技の科目においてしかりつけて注意することが可能なのだ。

「罰だ。腕立て伏せ三十回やれ」

 教育担当の怒声が再び聞こえる。レジャドは何も文句など言わずに淡々と腕立て伏せを始める。逆らうことなど許されるはずがなかった。教育担当は当たってもいないのに腹が地面についているといってさらに三十回やるように命令した。権限で言えば教授たちも同じような権限を持っているが彼らは自分が教授という職業についているために公平、平等に接しなければいけない。接せなくとも接することができるようにしなければいけない。それが教える立場にある人の義務だった。そして、教育担当は教師ではなかった。

「おい。お前、何ボケっと見てんだ。まだ終わってないぞ訓練は」

 レイア―ドに向けても怒声が浴びせられた。そして、その次の瞬間には手の方へ少しの痛みが走った。怒声を浴びせた教育担当の上級生ジョセフ・フォッド・メーションが銃剣の先を彼の指にさして攻撃したのだ。ちなみに、名と名字の間にフォッドが入る人間は伯爵以上の上級貴族の跡取り息子だ。その貴族の家長、つまり当主はフォッドではなくフォンをつける。ジョセフ・フォッド・メーションはメーション伯爵家の長男で出世したいのならば敵に回してはいけない相手だった。彼の父は陸軍の人事の方とかなり深く関わっているからだ。彼を敵に回せば出世はなくなる。レイア―ドはしょせん底辺貴族に過ぎないのでそこまで敵に回しても恐怖に陥ることはないが。

 古くからの伝統を意識する歩兵科と騎兵科はナイトから男爵が尉官、子爵から伯爵が佐官、伯爵の中でも上位に位置するものや公爵、王族などが将軍から元帥に任命されていた。騎兵科で一般市民にして大佐まで上り詰めたレオナルドのすごさがうかがえる。

「やめろ。僕の未来をつぶすな」

 レイア―ドは怒鳴り返した。士官学校では校則などには載っていないが上級生を上官のように扱わなければいけないという暗黙の了解がある。レイア―ドはそれを破ったということになる。

「何が将来だ。お前なんかに将来なんてねぇよ」

「なんだと。今からあると証明してやろうか」

 頭に血が上った両者が殴り合いのけんかを始めようとした。

「まぁ、まぁ。二人とも落ち着いて」

 今にも殴り掛かりそうな二人を止めたのは歩兵科の二年生レイン・ウェンスタットだった。ウェンスタットに抑えられて何とか二人は和解することになった。


 その果ては何万コンドにも続いているように見えた。

 ここはパリス王立士官学校の図書館だ。その本の貯蔵量はフランシアでもトップクラスだ。正確には二番目で一番目はパリス王立大図書館だ。

 その図書館でレイア―ドは勉学に勤しんで。一年間の最後にある任官試験のための勉強だ。

「やぁ。君も勉強かい」

 騒音にうるさい司書にばれないように小声でレインが話しかけてきた。

「えぇ。そうです」

 レイア―ドはそう答えた。事実だった。彼は勉強をしにここに来ていた。

「でも、それはあまりいいことではないんじゃないかな」

 レインはそう指摘した。それはレイア―ドも分かっていることだった。今は試験の一カ月前の十一月だ。それも終盤に差し掛かったころだ。上級生は皆死に物狂いで勉強して合格することを目標にしているのだ。任官試験はこの国でもトップクラスに難しい。その中でも最上位のトップ三十名は中尉からスタートできるのだ。それは大きなアドバンテージになる。ちなみに、上位五十名は少尉から、成績上位はここまでの人間をさし、合格者定員は二百人だった。そんな試験を受けるのだから、どの生徒も合格や成績上位での任官を目指して勉学に勤しんでいるのだ。

「えぇ。分かっていますよ。でも、僕も合格する気でいますので、成績最上位でね」

「なんだと、本当にできるのか。そんなことが」

 その言葉を聞いたレインは驚きと困惑を顔に表した。

「確実にできないことはしません。僕がするのは可能性があることです。僕は古代の大英雄ではありませんので」

「本気のようだな。だが、まぁそれもいいんじゃないのかな」


 残りの一カ月は思ったよりも早く進んで試験はいつの間にか過ぎ去っていた。


 戦火と革命は刻一刻とフランシアの大地に迫っていた。

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