お前が、世界を救ってくれ!【最終話】

「過去のオレよ。心して聞いてくれ」

 未来のカズヤの声のトーンは落ち着きを払っている。

「お前が、世界を救ってくれ!」

「!?」

「このミサイル発射を皮切りに報復合戦が始まるだろう。もう、誰も止めることはできない。しかし、一つだけ方法がある。お前だ。事実を知っているお前だけが止めることができる」

「高校生のオレがか?」

「十五年後は三十二歳の立派な大人だ。何でもできる」

「……」


「明日は学校を休め。母親に『お休みします』と電話をしてもらえ」

「何の意味があるんだよ」

「一日、ゆっくり考えろ。戦略を練れ。どうすれば戦争を止められるのか。自分が何者にならなければならないか。死ぬほど考えろ。そして、翌日から突っ走れ」

「イエスと答えるしかなそうだな、センパイ」


「世界を動かすという厳しいミッションだ。やり甲斐があるぞ」

「荷が重いな」

「でないと、世界が滅ぶ」

 未来の自分の声には、最期が迫っている覚悟を感じた。


「もう1つお願いがある。アンナを幸せにしてやってくれないか」

「!?」

「お前が片思いなのは知ってる。三日後、お前はアンナに告白される」

「本当か?」

 アンナは仲の良いクラスメイト。カズヤはずっと片思いをしていた。


「未来でも付き合っているのか?」

「……いや、オレは断った」

「何でだよ?」

「Xデーを突き止めるためだ。それ以外は全て捨てた。恋愛も仕事も。お前はオレみたいなクソみたいな人生を生きるな」

「あんたの人生をクソだというヤツがいたらオレが許さない」

 いつか分からないその日を十五年間、探し続ける。どんなに辛く長い道のりだったのだろう。


「もう、Xデーを探す必要はない。彼女と付き合え。ヒロインがいた方が戦いが盛り上がる」

「……分かった、オレが全て引き受ける」

「その言葉、聞きたかった」

 未来の自分の声が震えていた。

「グッドラック、ヒーロー!」

 期待に満ちた声。

 その直後、耳が割れるほどの爆発音。そして、交信が途絶えた。


 カズヤは耳から缶をそっと離した。しばらくベンチから立ち上がれなかった。


 空を見上げると、真っ青な空に夏特有の巨大な入道雲がそびえ立っていた。

「世界を救う……か」

 カズヤは自分に言い聞かせた。


 今、どこにでもいる普通の少年が世界を救う覚悟を決めたのだった。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

普通の高校生がヒーローになるとき 松本タケル @matu3980454

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ