Xデー
二日後、カズヤは予定通りに公園にいた。いよいよXデーが分かると思うと緊張した。
「よし」
来る途中で買った缶コーヒーを飲み干したあと、声に出して気合を入れた。
カバンから赤い缶を出して耳に当てた。
「よお。過去のオレ」
声が聴こえた。自分の声だが、少し違う声にも聞こえた。
「分かったのか? Xデーがいつなのか」
「ああ。残念だが、オレに残された時間はあと十分しかない」
そういう状況は覚悟をしていたが、いざ現実になると現在のカズヤの鼓動は高まった。
「紙とペンは持ってきているな。オレの言葉を漏れなくメモをとれ。一言一句、漏れなくな」
「分かってる」
「まずは日付だ。今日は8月4日。お前のいる時間から十五年後の八月四日だ」
―十五年後
想像よりも遠い。
そう思った瞬間、未来の自分の苦労が頭をよぎった。
「十五年もご苦労だったな。いや、だいぶ年上なので敬語で言ったほうがいいか」
「気遣いは無用だよ。まあ、苦労したの事実だがな。おかげで定職にもつけずだ」
「は、働いてないのか?」
「毎日、昼間に公園に来るんだぞ。定職にはつけない。三十歳を超えた今もアルバイト生活さ」
未来の自分の声のトーンが少し曇った気がした。
「本当に時間がないので、手短に話す。落下するのは隕石じゃない。隣国から発射されたミサイルだ」
「ミサイル!」
「日本中にめがけて発射されている。逃げ場所はない」
「……」
現在のカズヤが言葉に詰まった。
「まあ、そう落ち込むな。オレはミッションが達成できて満足なんだぞ。十五年の集大成だからな」
「すまない」
現在のカズヤはそう言うのが精いっぱいだった。
「十五年後、世界の冷戦は悪化の一途だ。一触即発なところまできている。そこでオレは、隕石だけでなくミサイルの線も警戒していた」
未来のカズヤは一呼吸おいて続けた。
「しかし、これほど突然なのは想定外だった……今朝、隣国が戦線布告をした。アメリカとの中間地点の日本が最初のターゲットになった」
「……」
「日本政府は交渉を申し入れたが聞く耳なしだ。そして、ミサイルを発射する旨の公式な発表がされた……それが、ほんの数時間前だ」
「携帯電話のアラートが鳴りっぱなしだ。うるさくて仕方ない。鳴っても逃げようはないのにな。あと三分で到達するようだ」
「三分って……」
カズヤは言葉を失った。
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