余談
猛烈な肩の痛みと共に目を覚ました。
ここは何処だろうかと思案するが、昨晩は終電が運転を見合わせた為、ネットカフェに泊まった事を思い出す。
携帯の時計を見ると、まだ出社には余裕のある時間だ。
私は早朝サービスのパンと無料のコーヒーを取り、自室に戻って朝食をとる。その後トイレで歯を磨き、顔を洗って身支度を整えた。
その間に、私以外の利用者や従業員と顔を合わせることはなかった。
自粛の影響で利用者も減っているのだろうか。昨晩、寝しなに誰かから声をかけられた気がするが、どのような話をしたかまでは覚えていない。
出社の時間が近づいたので、忘れ物がないか確認をしてから、無人の精算機で金を払った。
ネットカフェから出ると、むっとした熱気が私を襲う。猛暑日という言葉がこれ以上ないほど適切な暑さだった。
アスファルトが熱せられたためか、繁華街の道の先が陽炎の様に揺らめいて見える。まだ朝だというのにこの暑さでは、昼にはどれほどの灼熱地獄と化すのだろうか。
暑さに気後れしていても仕方がない。私はそのまま会社へ向かう道を歩き始める。以前ならば朝帰りの人々でにぎわっている繁華街も、妙な病の影響か人通りは殆ど無かった。
会社への道すがら、駅前のロータリーを横切る。ちょうど電車が到着したタイミングだったのか、駅構内から出勤通勤に勤しむ人々が熱気の世界へとなだれ込んできた。
その様子を見た私は、妙なものが視界に映り込んだように思い、目をこする。
ああ、やはり変だ。
私は近場で脳外科を見てくれる病院を検索し、近くに止っていたタクシーへと乗り込む。
「
行先を告げられた運転手が車を発進させる。その後ろで私は、会社とクライアントへ連絡を入れ、体調不良で今日は大事を取らせてもらう事を告げる。
とうとう私もオーバーワークで頭をやられてしまったのだろうか。脳に腫瘍ができると幻覚を見ることがあるのだという。
私は駅構内から湧き出る真っ黒な影法師の大群という奇妙な幻覚を横目に、自身の体調ばかりが心配だった。
九頭祈禱 秋村 和霞 @nodoka_akimura
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