ビキナー
あの後、俺は彼女を安全な場所にまで連れて行った。
場所は木の洞(うろ)。
かなりでかい木に空いた穴で、子供二人分は余裕で入れる。
しかも木の上の方で穴も枝や木に隠されている。発見するには木に登って直接見るしかない。隠れるには絶好の場だ。
「よかったアルコ! ケガ、無いんだね!」
「ああ、アティも大丈夫のようだな!」
先ずはお互いの無事を喜び合う。
俺の方は怪我がひどいのだが無視だ。
もう二度と、彼女の前で痛みで転がりまわるなんて無様は晒さない。
「アティ、あの後何があったんだ? 君の両親は?」
「……うん、あのオーガはアルコを倒した後、急に逃げちゃったんだよ」
「………逃げた?」
気になった俺はアティレスの話を続けて聞いた。
どうやらあのオーガは俺が右手を掲げた途端、急に驚いて逃げたらしい。
本当に訳が分からない。あれだけ実力差があったというのに何故逃げることが……あ。
「(この右手のせいか?)」
あの異形の指。
もしかして、アレの正体をオーガは知っているのか?
そう考えたらあのオーガが俺たちを見逃したのも納得がいく。
じゃあ、コイツは何なんだ?
「グルおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「!!?」」
声が響いた。
オーガの咆哮だ。
おそらく彼女―――獲物を探しているんだ。
「……行く」
「!? 駄目よアルコ!殺されちゃう!」
俺の手を引いて彼女は止めた。
「放してくれアティ。これじゃ戦えない」
「ダメ! 今度行ったら殺されちゃう!」
「………アティ」
俺は、青い花をアティの髪に簪のように刺した。
彼女の為に取っておいた最後の花。
アティの好きなものを選んだつもりだ。
「大丈夫だアティ。今度は必ず勝つよ」
「……アルコ!」
「ん?……!?」
振り向くと、口に柔らかな感触がした。
それが彼女の唇だと気づくのはその数秒後だった。
「アルコがそこまで言うなら、私はアルコを信じる!」
「だから約束して! 絶対生きてまた会ってくれるって!」
「大丈夫! アルコはすごいんだから!」
「………」
ああ、俺ってこんな単純な人間だったのか。
女の子に褒められた程度で沸々とやる気が出てくる。
我ながら現金な奴。呆れて物も言えなくなってしまいそうになる。
けど、それでも……。
「(裏切るわけには、いかないな!)」
初めて誰かに期待された。
相手はまだ七歳の女子だというのに、これ以上なく嬉しい。
これだけで、俺はまた試練《オーガ》に挑める!
「……行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる」
「グルルル…」
一体の
彼は獲物を探している。
今朝、食い損ねたエルフの雌の子供である。
女子供の肉は種族問わず旨い。
動物だろうが、魔物だろうが、人間だろうが。
特に、魔力の多い種の肉は格別だ。生きたまま食うこと尚いい。
魔力の摂取は鮮度が命。死ぬとすぐに魔力の元である魔素が空気中に抜けて吸収出来なくなる。だから、魔力の多い種は踊り食いにするとこのオーガは決めていた。
「グルゥ…」
早くいかねば。
あれだけ質のいい獲物だ。ほかの魔物も狙っているに違いない。
最近はこの土地の魔力が満ちるようになって魔物が活性化している。他の魔物に横取りされる前に食わねば。
「グル…!」
ふと、他の魔物を考え、あの子供のことを思い出した。
忌々しい魔力を醸し出すあの右手。アレを見た途端に反射的な恐怖を感じたが、今思えばソレほどでもない。
所詮は子供。たとえあの右手が本当にアレだったとしても、まだ成長しきってないのなら倒せる。
いや、もしかすると食らうことでより多くの魔力を取り込めるかもしれない。
そうなら残念なことをしてしまった。あのまま止めを差しておけば極上の肉が味わえたかもしれないのに。
「見つけたぞ、オーガ!」
「?」
声がした方向を振り向く。
そこには、いつしか逃げたあの子供がいた。
「グルルル…!」
獲物が向こうから来てくれた。そのことに感激したオーガは涎を垂らしながら獲物―――アルコに向かった。
ソレがもう獲物ではなく自身と対等の敵であるということに。
彼は知らない。
ソレは子供でもやはり彼の恐れるものだということに。
彼は知らない。
「アティはお前にやらない!」
眼前の敵が強いということに。
悪徳王と毒龍の女王~踏み台に転生した俺は邪龍使いとなる~ @banana333
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