第20話 「なるほどな。俺を照らすのには一つじゃ足りないと思って、太陽の数を二つに増やしたのか」
ヤりてぇ。
住所不定無職である俺の頭の中にあったのはそれだけだったが、いつもとは違い今回はそれを妄想だけじゃ終わらせない。
そう、今の俺には金がある。
ダンジョンとかいう変なところで拾ったダイアモンド。
これを売り飛ばせば、当然金ができる。
そして金があれば、風俗にいける。
風俗に行ければボッキリスッキリすることができるってわけだ。
さてさて、早速金を手に入れようか。
ご機嫌な俺は、口笛を吹きながらダイアモンドをポケットから取り出そうとする。
「……あ」
だが手はなぜか空を切り、空っぽのポケットを目の当たりにして俺はやっと気づく。
ヤベェ。
マクナルモドキにダイアモンド忘れたわ。
超絶天才児の俺にしては珍しいミスをしてしまった。
器物破損猥褻物陳列罪容疑の重犯罪者マドカと知り合いだと思われるのが嫌で、急いで外に出ちまったせいで、大事なブツを受付に置きっぱなしだ。
ちっ、仕方ねぇ。取りに戻るか。
ただ問題は一切ない。
ノープロブレムだ。
この俺に問題が発生することなんてこの世界で未来永劫起こりえない。
あれは俺の物だ。
俺に惚れてる受付嬢にもきちんとそう説明した。
問題なく取り置きがされてることだろう。
てかそろそろマドカの野郎通報されたかな。
早く捕まえて欲しい。
クソポリ公が。
職務怠慢してんじゃねぇぞ。
あいつらドーナツと手錠の区別がついてねぇんじゃねぇか。
「……お?」
そんな風に役に立たない公僕に不満を溜めていると、ふと乾いた道端の隅に鈍く輝くものを見つける。
いや間違いねぇ。
あれは金だ。
今日の俺は絶好調だ。
そこら辺を歩いているだけで宝石やら金を拾える。
まあそりゃそうだな。
俺っつうのはそこにいるだけで給料を世界から支払われるべき存在だ。
当たり前っちゃあ当たり前か。
「……なんだこりゃ」
しかし、俺の想像以上にこの世界は間抜けで空気を読めないらしい。
俺の拾った常識的に考えて五百円玉、最悪でも百円玉と思われた硬貨は完全なパチもんで、ろくに数字も刻まれちゃいない。
ふざけんなカス。
この俺がわざわざ腰を屈めるという労力を割いてやったにも関わらず、正当な対価が支払われないだと?
舐めてんな。
この世界はマジで俺を舐めてる。
「ファッキンブッダ。てめぇの創った世界はマジで無能のポンコツだな。もうちっとマシに世界を創れってんだよ」
なんとなく見覚えがあるような気がしないでもない硬貨を思い切り指で空に向かって弾く。
この才能に満ち溢れた俺という存在に対して、なんてこの世界のちっせぇことか。
はっきり言って収まり切ってないね。
器が足んねぇよ。器が。
コインはどこまでも空高く飛んでいく。
まるで俺の未来を暗示するように、二つの分の太陽まで届かんとばかりに飛んでいきやがる。
そういや、つい最近まで、今思えば太陽は一つしかなかったような気がする。
知らない間に増えたのか。増えたとしたら、その理由はなんだ?
「……なるほどな。俺を照らすのには一つじゃ足りないと思って、太陽の数を二つに増やしたのか。やっとわかってきたじゃねぇか」
俺というマジ神な存在のために、太陽を二つに増やした。
仕事が遅い気がしないでもないが、心の広い俺はとりあえず許しておいてやる。
コインはまだ落ちてこない。
どうも無限に上昇を続ける俺に憧れているらしい。
世界がやっと俺に追いつき始めてきていることを感じ、機嫌が良くなってきた俺は特別にそのコインを手で受け止めてやることにする。
二つ分の日光を浴びながら、俺はコインを受け止めるために手を掲げる。
今の俺、超カッコいいだろうな。
そんなことを思いながら、俺は手を挙げ続ける。
「……って、いつ落ちてくんだよ」
だが、コインはいつまで経っても落ちてこない。
せっかくこの俺が受け止めようとしてやっているのに、どっかに消えちまったらしい。
本当にこの世界は空気が読めない。
「まあ、どうでもいいか」
しかし何の価値もないコインの一つや二つ、実際はどうでもいいので俺はキャッチを諦め再び歩き出す。
なんとなく空を見上げてみれば、太陽が一つになっていた。
おそらくもう一つは雲にでも隠れたんだろう。
太陽が雲に隠れようと隠れまいと、俺には関係ない。
それこそマジでどうでもいいことだった。
最近のマク〇ナルドは、注文する前に冒険者になる必要があるらしい 谷川人鳥 @penguindaisuki
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