幕間 アフターナンバーズ

「都合のいい現在だけをつなげていったら、自分にとって都合のいい未来ができると思う?」

 ストローからちびちびとジュースを飲む少女は、隣に座る不思議な格好の青年に語りかける。

「不可能だね。都合のいい未来を見ている時点で、都合のいい未来にしようという努力が無くなる。楽園にいる自分とここにいる自分を無理やりつなげたとしても、間の「楽園に向かう」という過程がない。それでは辿り着くことはできない」

 青年は冷たく言い放つ。少女は嬉しいとも悲しいとも取れない表情で頷く。

「私たちが求めている「結果」に辿り着くための「過程」…」

「我々はいつまで「彼ら」の観測を続ければいいんだ? エクサ」

「もちろん、「彼ら」が私たちの「都合のいい未来」に辿り着くまでよ」

 座っていた椅子からぴょんと飛び降り、空になったコップに新しいジュースを注ぐために冷蔵庫に向かう。

「どれだけ観測を続けても、私たちが観測を行っている間は不可能じゃないのか?」

 答えが分かっているが聞かずにはいられないというような笑顔を沿えて、エクサと呼んだ少女に問いかける。

「サウザット、あなた分かって聞いているでしょう? それとも説明が欲しいの? 運命観測者フォーチュンシーカーのあなたが」

 いたずらっぽく笑うエクサに、サウザットは「はいはい」といいながら、再び「観測」に入る。

「でもまあ、そんなに遠い将来ってわけでもないと思うよ。この調子だと」

「見えたの!? いつ? どこに行けばいいの? 誰が? やっぱり私? それともサウザット?」

 サウザットはゆっくりと「観測」を終了させて、テーブルの冷めたコーヒーを一口で飲み干す。

「いや、「気づかれた」かもしれないって意味さ。観測している側だと思っていたのに、いつの間にか観測「されてる」ことに気がつかなかった」

 焦りからか、驚きからか、サウザットの額には汗がじっとりとにじんでいた。

「……なんですって」

 エクサは驚いた。自分以外にも「それ」ができるものがいることに。数あるバックアップの中のひとつからサウザットを「観測」することができることに。

「パスフィーパーがいたの? それとも」

 そこまで言って、サウザットがさえぎった。

「わからない。けど、「あの」感覚があった。彼らかもしれないし、違うかもしれない。だけど、大事をとって当分は「観測」を中断したほうがいいかもしれない」

 額の汗をぬぐいながら、それでも最善の行動を「観測」しようとして、すぐに自分の愚考に気づく。

「…まずいな。これは」

 普段から運命観測のうりょくを使っているからこそ、使わずに最善の行動を取れなくなっていることに気がつく。

「どうやら、私たちも「過程」を積まなければならない時期に来たということか」

 サウザットは、今まで黙って座っていたフードの女性に目配せする。フードの女性は、黙ったままゆっくりと立ち上がり、両手の平を空に向ける。

 少しずつ、3人の姿がかすんでいく。同時に、人の気配そのものも徐々に消えていく。

 「……とばりは下りた。私たちを「観測」するものはいない」

 すっかり気配が無くなったその場所から、女性の声だけが静かに響きわたった。

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平行世界の観測から見る、青き世界の向こう側 国見 紀行 @nori_kunimi

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