おい、何で、小説投稿サイトに実話を投稿してやがるッ!!??

@HasumiChouji

おい、何で、小説投稿サイトに実話を投稿してやがるッ!!??

 結局、小説投稿サイトのホラー小説新人賞に間に合わなかった。

 鬱が治んないまま、自分でもマトモな判断が出来てる自信が無い状態で会社を辞め、書類上は「自己都合」の退職だったので失業保険の給付期間も短かく……企業年金の前払い分と退職金は尽きかけており……そんな生活から抜けられるかもと甘い期待を抱いてはいたが……駄目なモノは駄目だった。

 多分、俺には才能は無いのだろう……。

 それ以上に、プロットを練る根気も……。

 更にそれ以上に、何かの文章を書く意欲も……。

 根気も意欲も無いのは、元からなのか、鬱のせいなのか、自分にも判らない。

 3〜4年前に買った時点で中古だったPCの画面のすみに表示されている日付と時刻を見ると、応募期間最終日の翌日の午前1時近くになっていた。

 その時点で、何とかオチは付き、最後まで書き終える事は出来た。

 そもそも、間に合わなかっただけじゃなく、応募規定の文字数には3万字以上足りない第一稿だが。

 まぁ、いいや、と思いつつ、ロクに読み返さないまま、第一稿を小説投稿サイトにUPした。

 多分、誤字脱字だらけで、それ以前に読めたモノじゃないだろうが……。

 もちろん、新人賞応募のタグは付けなかった。


 もう小説家になるのは諦めて、ギリギリ生活出来る程度の給料いいんで、今の俺でも出来る仕事を探すか……もう、恥も外聞も捨てて、実家に帰って、この齢で親に養ってもらうか……そう思って万年床から出た時には夕方になっていた。

 職を探すにしても、実家に帰る準備をするにしても、明日からか……そう思って、PCを立ち上げ、スマホを確認し……。

 あれ?

 何故か、小説投稿サイトから通知のメールが山程来ていた。

 どうやら、投稿したホラー小説にコメントが山のように付いているらしい。

 そのコメントを読んでみて……ああ、鬱が酷くなりそうだ。

 大半のコメントが罵倒だった。

 ああ、やっぱり、俺には小説家の才能なんて無い……。


 しかし……何だろう、このコメントは?

「ここは、小説投稿サイトだぞ」

「何、実話を投稿してんだ、ボケ」

 どう云う事だろう?

 そう言えば、辞めた会社の上司や先輩は、俺がここに小説を投稿してる事を薄々知ってた。

 なるほど……このコメントを付けたのは、辞めた会社の奴で、この小説に出て来る「亡霊」のモデルは俺自身だとバレた訳か……。


 読み返してみたが、我ながら酷い小説だ。……いや、投稿する前に読み返して推敲しろと言われれば、それまでだが。

 もう新人賞を取れる見込みが完全に0になってから、多少は客観的な目で読み直してみると……九〇年代前半のあの伝説のホラー小説のパクリにしか思えない。……そう、新人賞では最終選考まで残ったものの、受賞は出来なかったが……出版された後に、映画化された事で有名になった、あの作品の……。

 ホラー小説家を目指して挫折して死んだ男が書き残して小説投稿サイトにUPした小説……それを最後まで読むと、その小説家志望の男の亡霊に憑り殺される。そして、オチは、劇中劇だと思われていた「呪われた小説」の正体が、読者が今まで読んでいた、この小説そのものだった、と云うモノ。

 いや、巧い作家が書けば何とかなるだろうが、俺の力量では、そのややこしいプロットを活かしきれているとは言えず……ああ、やっぱり、俺には小説家の才能なんて無い。

 自分の書いた小説を最後まで読み終えて……溜息が……あれ……? 俺の肩に手を置いてるのは誰だ?


 誰だ、お前?

 いつ、俺の部屋に入ってきた……。

 そのデブの中年男は……図体こそデカいが……まるで自殺する直前のような暗く哀しげで疲れ切った表情をしていた。

 脂ぎった髪、何日も剃ってない無精髭。

 だが……誰だ……? 何故、こいつに見覚えが……?

 そいつは、俺のPCを勝手に操作し……あるファイルを開いた。

 ……そしては、哀しげな表情のまま俺の目を見ると、俺の首に手をかけ……冷たい……人間の体温じゃない……助けて……そんな……馬鹿な……。

 そいつの哀しげな表情……それは、自分自身の人生に絶望したせいなのか……それとも、俺への憐れみなのか……。

 ヤツは……指にゆっくりと力を込め……俺は、どんどん体中から力が抜け……。

 目も段々と霞んでいき……でも、こいつの顔に見覚えが有る理由だけは判った。

 こいつが開いたファイルは、俺が再就職用に作った履歴書で、その写真の顔は……。

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