俺の方が一枚上手……

@HasumiChouji

俺の方が一枚上手……

「……お前の言う『粘着野郎』も全部自白ゲロしたよ」

 現行犯で逮捕されてから、唯一の「良い報せ」だった。

「じゃあ……情状酌量とか……」

「ねえよ。絶対に」

 刑事は、やれやれと言った感じで、そう告げた。

がやった事は、確かに大人気ねえタチの悪いイタズラだったが……あいつらを罰する法律なんて無いんだよ」

「え……いや……だって……」

「無関係な女に変な因縁を付けたクソ野郎。それが今のお前の立場なんだよ……」

「そ……そんな……ま……待って……一体、どうなって……?」


 以前から、SNSで、明らかに1人で複数のアカウントを使って、俺に粘着していた奴らが居た。

 ブロックするのが一番、簡単だろうが……何とか、この自分を頭が良いと思ってる馬鹿どもをギャフンを言わせる方法は無いか?……そう考えて放置していた。

『複アカで粘着してるヤツが、また、発狂しましたwwwww』

『はぁ、証拠有るんですか?』

『逆にあんたを擁護してるヤツこそ、あんたの複アカだったりしてなwwww』

 時には、俺もいい齢して大人気ない真似をしてると思う事も有ったが……何度も何度も、売り言葉に買い言葉で罵倒合戦はエスカレートし、最後には、どっちかが飽きて……また数日後には似たような事が起きるの繰り返しだった。


 ある連休の初日……メールで何年も見ていない通知が来ていた。

 それも何件も……。

 何年も更新していないblogのコメント欄にコメントが付いたと云う通知だった……。

 見てみると……。

「馬鹿が……」

 SNSで俺に粘着してる「『奴ら』を装っている奴」が何件も俺を馬鹿にするコメントを書き込んでいた。

 何故、奴らが、blogのコメント欄にまで書き込みをやったかは不明だ。しかし、これが運の尽きだ。

 このblogには、コメントを書いた時に使っていたIPアドレスやOS・ブラウザの情報を記録する機能が有る。

 もちろん、それらの情報は、blogの主である俺しか見る事が出来ない。

 奴も丸っ切りの馬鹿では無いようで、片方の名前を使ってる時はスマホから、もう片方の名前を使っている時はPC……多分、ノートPC……から書き込んでいるようだ。

 しかし、投稿しているIPアドレスは同じだ。

 でも……おい、何だ、こりゃ?

 俺の家から2〜3駅先のイベント会場のWi−Fiのようだ……調べてみると、そこでは、今日と明日、SF大会とか云うオタク向けのイベントが開催されているようだ。


 2人を装っている1人は、その後も、次々と俺のblogに俺を馬鹿にするコメントを書き続けた。

 やっぱり、奴は、自分を頭が良いと思い込んでいるマヌケだ。

 2つの名前で、ほぼ同じ時間に書き込んでいる。

 だが、書き込みに使ったIPアドレスは同じ。

 夕方にはイベント会場の近くに有るらしい喫茶店チェーンの支店のWi−Fi。

 夜から朝にかけては、イベント会場の近くのホテルのWi−Fi。

 翌日の昼は、また、イベント会場のWi−Fi。

 その夜も同じくイベント会場の近くのホテルのWi−Fi。


 連休最終日になっても、奴の書き込みは続いていた。

 見るに耐えない悪口だが、尻尾を掴んだ以上、奴らは、自分が哀れなピエロだと気付いていない……待て……。

 俺は、今、自分が居るターミナル駅の近くの喫茶店の中を見渡した……。

 今、blogに書き込まれたコメントが投稿されたIPアドレスからして……奴は……ここに居る……。


 休日と言っても、朝7時台なので、客は、まばらだ。

 奴は、俺のblogを標的にし始めた時と同じパターンで、名前によってPCとスマホを使い分けているが……。

 俺と同じぐらいの年齢の男2人連れ。片方はノートPCを、片方はスマホを操作しているが……違う。

 新聞を読んでる爺ィ……当然、違う……。

 何かを話している婆ァ2人連れ。……これも違う……。

 残り1人は……しまった……その可能性に気付かなかった……。

 そのは……スマホを見ながら、ノートPCを開いていた。


「よう……」

「誰?」

「ネット上で……ってハンドルを使ってる者だよ……」

「はぁ?」

「下手な芝居だな。……と……ってハンドルを使って俺に粘着してただろ」

「いや、だから、何、言ってんの?」

「とぼけるな。まさか、女だったとはな。女のクセによくも散々、俺を馬鹿にしてくれたな」

「何言ってるの? 警察呼ぶよ」

「はぁ、呼んでみろよ。お前だって……」

「おい、やめろ」

 その時、男の2人連れの片方が席を立って、俺にそう言った。

「俺と、この女の間の問題だ。他人は口を出すな」

「だから、あんた、誰なんだよ?」

 正体がバレたのに、女は、まだすっとぼけ続けている。

「うるせえ。ネタは割れてんだ」

 俺がそう言った次の瞬間、頬に衝撃と痛み。

「話は聞こえてた。俺が……で、俺の連れが……だ」

 音だけは聞こえていた。しかし、俺の脳は……そのセリフの意味を理解する事が出来なかった。


 喫茶店内での脅迫と喧嘩、その容疑で、俺は現行犯逮捕された。

「あのな……お前が1人の人間が2つのアカウントを使ってSNSで粘着してた、と思ってたヤツは、本当に2人だったんだよ……。ただし、その2人は、かなり前からの知り合いだったけどな」

「えっ?」

「で、お前が、あの2人を1人の複アカだと思い込んでるのを面白がって……お前が、そのをより強く信じ込んでしまうようなイタズラを仕掛けたんだよ。お前のblogに……その……IPアドレスだか何だかを記録する機能が有るってのを知った上で、たまたま、同じイベントに行く事になったのを利用して、同じホテルまで予約して、ずっと一緒に行動し、ずっと同じWi−Fiを使いながら、お前のblogにコメントを書き続けてな……」

「そ……そんな……馬鹿な……じゃあ……あの女は……?」

「無関係な女だよ。で、あいつらは……自分のイタズラのせいで、見ず知らずの誰かが迷惑を被ってる場に偶然居合せて……トチ狂ったお前を、殴り付けてでも止めようとしたんだよ」

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