ウチん家の幽霊さん。

@MisfortuneLady

ウチん家の幽霊さん。

最近、5歳のウチの息子が家で幽霊を見たというのです。


「ママ!僕ユウレイさんを見たの!」

「え?」


息子はもう8歳だったので、1人でお留守番させても平気だろうと、その時は私1人で買い物に行っていたんです。しかし、帰ってきて息子は興奮した表情で私に"ユウレイさん"の話をしてくるのです。


「健ちゃん、その"ユウレイさん"って、どんな人なの?」

「ユウレイさんはユウレイなんだ!いきなり現れて、僕と遊んでくれた!楽しかった!」

「怖くはなかったの?」

「うん!優しかったから全然怖くない!」

「そっかー。お母さんは、幽霊は怖いなーって思っちゃう。健ちゃんは勇敢なんだね。」

「そう!スーパーマンみたいに強くて勇敢だよ!」

「それは良かったわ!じゃあ、お母さんが困っていたら、その時はスーパー健ちゃんになって私を助けてね。」

「うん!」


"ユウレイさん"。それはきっと息子の空想の友だちだろうと思いました。5歳の時もそんな話をしていましたから、あまり心配はしていませんでした。特にウチの息子は自分から話しかけるのが苦手で引っ込み思案だったので、そういう架空の友だちの方が楽しかったのかもしれません。


ある日、元旦那から電話が来ました。内容は毎回同じでした。借金をしたから助けてくれと言ってくるのです。離婚したのだから、もう関係の無いことなのですが、向こうは執拗に私に金を借りようとしてくるんです。私が怒って電話を切っても、四六時中電話がかかってきました。


「ちょっと松本さん。最近この辺で不審者が出たんですって!」


パートから帰っていた時、私の住んでいるマンションの隣人さんの浦田さんに声をかけられた。


「え?そうなんですか?」

「そうよ!180cmくらいで細身の黒っぽい服着た男だったみたいなのよ。」

「そ、そうなんですか…。」

「あなたもまだ若いんだから、気をつけなさいよ!あと、まだ子供も小さいでしょ。本当に気をつけてね。」

「はい。ありがとうございます。」


不審者の情報を聞いて、私は元旦那を疑いました。180cmの細身だし、あの電話の件もあったので凄く心配になっていました。


息子に、誰か怪しい人を見なかったか聞きました。


「僕が知ってるのは"ユウレイさん"だけ。」


そう言った息子に、違和感を感じました。


「ユウレイさんは、背がとっても高くて細かった?」

「え?お母さんもユウレイさんを見たの?」

「…。いいえ。何でもないわ。さあ、お部屋に行って遊んでらっしゃい。」

「はーい。」


息子の言葉にゾッとしました。やはり、元旦那が私の家に侵入していたのだと。息子が物心つく前に旦那とは別れていて、息子は旦那の顔を知らなかったので、"ユウレイさん"は旦那なのだと確信しました。

しかし、お金を取られた形跡は一つもなかったのです。警察に届けを出そうか迷いました。けれど、それではマンションの管理人さんに迷惑を掛けてしまうと思い、管理人の江崎さんに相談しました。


「はい、もしかしたら元旦那が最近出ている不審者なのかも知れなくて…。」

「うーん…。それは困りましたね。実際に被害に遭ったわけではないので、警察に届け出ても対応してはくれないでしょう。」

「そうですよね…。」

「部屋に監視カメラでもつけられたらベストでしょうけどね。あまり良い答えでなくてすみませんね…。くれぐれも気をつけて下さい。」

「ありがとうございました。」

「あの、松本さん?」

「…?何でしょう?」

「旦那さん、残念でしたね。」

「…?」

「犯人かも知れないのでしょう?」

「…あぁ、はい…。」

「本当に、残念ですね。」

「…。」


江崎さんはそう言うと、マンションの管理室に戻っていきました。


後日、不審者がまた現れたという情報が入りました。その不審者は管理人に近づくな、と威嚇したそうです。けれど、それ以降不審者は出なくなったんです。元旦那からの電話も毎晩のように来ていましたが、その日を境に一切来なくなったのです。


それから3日も経った時でした。速報が入ってきました。男が無惨に殺されたという内容で、その男は多額の借金を抱えていたようでした。死後3日は経っているようだと報道していました。


やはり、不審者は、元旦那だったみたいです。



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